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勇者の師匠  作者: 新嶋紀陽
第三章
49/74

 リッドウェイがシナンやアリシアに制裁を加えられていた時、ベルセルクは一人客室で酒を飲んでいた。


「……、」


 一人酒のビンを片手に彼は外の空を見ている。空には雲が一つもなく、星が輝く夜空が広がっていた。その中で月は自らの存在を主張するかのように大きく輝いていた。

 そうして、先程の事を思い出す。

 あの宿敵にして好敵手の顔を。


「……そういえば、アイツと会ったのもこんな夜だったな」

「それはあの殺人鬼の事か?」


 振り向かなくてもそれを言ったのが誰かのかは一発で分かった。だが、振り向く事でそれをより確実にするためにも、ベルセルクは声がした方に顔を向ける。

 そこにいたのは、ギルバートだった。


「当主様ともあろう奴が盗み聴きか?」

「勝手に解釈するな。ちゃんとノックはしたぞ。聞いていなかった貴様が悪い」


 そうかい、とベルセルクは適当な返事をする。

 ギルバートはベルセルクの反対側にある革の椅子に腰を掛けた。そして、テーブルの上に置いてあった大量の酒に目を向ける。


「うちの酒の味はどうだ?」

「悪くはない」

「そこで美味いという言葉が出てこないとはな。少々自信をなくす」

「そんなやわな性格してないだろ、アンタ」

「お見通しか」


 何でもないような会話をする二人。

 だが、ベルセルクには分かっていた。このギルバートという男がそんな世間話をするために来たわけではないという事を。

 故に、ベルセルクは直球で問いただす。


「何か用か?」

「まぁな。用、というよりは聞きたいことがいくつかあるだけだ」

「聞きたいこと、ね」


 何を質問してくるのか。それは大体予想ができた。

 そして、ベルセルクが思っていた通りの考えがギルバートの口から出る。


「貴様は、あの殺人鬼とは何もなかったのか?」


 ほら来た、と言わんばかりな表情はしない。思ってはいるが、それを悟られないようにベルセルクはフッとギルバートの言葉を一蹴する。


「おいおい、アンタには俺とアイツがそんな仲に見えたのか?」

「男と女がつるむ理由など、それくらいだろう?」

「アンタどんだけ想像力がないんだよ」

「女という生き物は大概そういうモノだよ。恋だの愛だの、そんなくだらないモノにすがり、願い、そして追い求める。そのためならば、何でも努力し、何でも犠牲にする。例え大切なモノを失ってでもそれを貫こうとする。それがどれだけ愚かな行為かという事も知らずにな。全く、見ていて本当に呆れる」


 ギルバートの言葉は何かトゲがあるようだった。それだけ、恋やら愛というものに……いや、女というものを毛嫌いしているためだろうか。そもそも、何故そこまで言うのか。ベルセルクには分からないし、理解しようとは思わない。

 昔、誰かがこう言った。

 人の恋色沙汰に首を突っ込むな。

 ベルセルクもその通りだと思う。そのため、彼はギルバートの答えに簡潔に答えた。


「アイツとは本当に何もなかった。そういう奴じゃないんだよ。戦いに生き、戦いで死ぬことを選んだ愚か者。それが俺とアイツだ。確かに、普通の人間なら一年も一緒にいればそういう仲になってもおかしくはない。だが、生憎と俺達は普通じゃなく、異常だった」

「……、」

「毎日毎日、魔物や盗賊を殺して殺して殺しまくった。俺は戦いを求め、アイツは殺しを求めた。それが一致したから、奴とは手を組んでいた。そして、さっきもいったように俺達はいつしか、互いに戦いたいという欲求に飲み込まれた。俺は奴と戦いたいと願い、奴は俺を殺したいと願った。そして、袂を分かち決闘をしたわけだが……その時、超ド級の魔物に遭遇しちまってな。そいつと戦ってる最中に俺達は離れ離れになっちまって、それ以来会うことはなかった」


 ベルセルクの話しを聞いていたギルバートは真っ直ぐな瞳をしながら、ベルセルクに言い放つ。


「貴様は……異常だな。互いに殺し合いたい? 戦いたい? それで命のやり取りをするなど、愚の骨頂だぞ」

「おいおい、今更何言ってんだよ。さっきも俺は自分で言ったぞ? 俺は異常だってな」

「……、」

「それに、アンタに言われる筋合いはないと思うが」

「何?」

「あのレイクって執事。ただの執事じゃないよな? 腕の立つ傭兵どころの騒ぎじゃない。下手すりゃ世界屈指のレベルだぞ。あんな化物を飼ってるなんてのは、異常な奴のすることじゃねぇのか?」

「ほお。レイクをそこまで褒めるとはな。主としてそれはありがたいが、過大評価しすぎではないか? それとも、貴様は世界最強にでも会ったことあるのか?

「ハッ、馬鹿言うなよ。この世に最強は存在しねぇよ」


 馬鹿馬鹿しいように。

 本当に、馬鹿馬鹿しいようにベルセルクは不敵に笑う。


「この世には、最強も無敵も絶対も永遠も存在しない。そんな事を口にする奴は、三流だ。それになりたいとほざく奴はそれ以下。そして、それが自分だという奴は論外だよ」

「手厳しいな。何かその言葉に思い入れでもあるのか?」

「別に……大した話じゃないさ。ただ、『この世に最強は存在しない。最強と呼べる力を持っている者がいたとしてもその人間は自らを最強と言ってはならない』。ある男の教えだよ。それを教訓にして今日まで生きてきた。たったそれだけの話だ」


 最強はあってはならない存在だ。

 何でもできて、何でも可能で、何でも解決できる、そんな力を持っていてもその人間は自分を最強と呼んではならない。

 何故なら、最強とは自分ではなく周りが決めるモノだから。

 そして何より、最強とはつまらないものなのだ。

 最強とは、つまりはその先がないという事を意味している。先がない人生など、これ以上つまらないものは存在しないだろう。

 自分の行く道に壁があり、それを乗り越えるために努力し、そして自分を磨く。それが人生というモノだ。ベルセルクという愚か者でさえ、それくらいは理解できるし、納得できる。


「歪んでいる……とは言わないが、しかし何やら傾いた考え方だな」

「ハッ、褒め言葉だと受け取っておく」


 ギルバートの言葉に、皮肉な言葉で返すベルセルク。


「さて、そっちの質問に答えたんだ。今度はこっちの質問にも答えてもらうぞ」

「別に構わない。ただし、答えられる範囲でだが」


 一々余計な一言を入れてくるギルバート。何だか、この人をおちょくるような喋り方はベルセルクによく似ていると思われる。

 そんなギルバートにベルセルクはストレートな質問を出す。


「アンタ、奴隷を買ってるらしいな」

「噂で聞いたのか? やはり、人というのは恐ろしい生き物だ。どんなに口止めしても言葉というモノは伝染する」

「その噂で聞いた限りでは、アンタは奴隷を何十人も買い漁っていたそうだな。だが、ここにいるのは執事とメイドの二人。もし、アイツらが奴隷というのならば、人数は全く合わないんだが」


 ベルセルクは回りくどい言い方は好きではない。故にこのような直球になるのだが、この場合はもっと別の言い方はなかったものか。

 しかし、驚く事にギルバートは素直にその事実を認めた。


「まぁ、奴隷は買った事がある。それは確かだが、レイクやシャロンのために言わせてもらうと、彼らは奴隷ではない。昔からいた使用人だ」

「んじゃ、あのアリシアってガキは……」

「あれは奴隷だ」


 あっさりと。

 本当に嘘も誤魔化しもなしに、ギルバートは言い放った。まるで、それが当然と言わんばかりな口調で。

 ベルセルクは表情を変えない。

 奴隷を買っている。それを知れば、普通の人間ならば嫌な顔をしたり軽蔑な眼差しを送るかもしれない。

 だが、ベルセルクはそれをしない。

 ただ、続けて質問をしていくだけだった。


「奴隷はあいつだけか?」

「まぁな。俺は確かに奴隷を買った事があるが、一度だけ、それもアリシアだけだ。それが噂となり、尾ひれやら何やらがついて、そんな噂になったのだろう。まぁ、恐らくは他の貴族共がいろいろと根回しをしたせいもあるだろうがな」

「他の貴族が?」

「ああ。俺はこう見えて改革派という……つまりは、今の政治に反対する側の人間だからな。保守派の貴族達からしてみれば、いて欲しくない存在だ。故にそういう噂を流し、俺の信頼を失わさせようという考えでもあったのだろう」


 それは何ともまぁ回りくどいやり方だ。まぁ、それが回りくどいと理解したからこそ、先程のような暗殺者を雇い、殺そうとしたのだろうが、それにしてもどうやらその貴族たちとやらは人を見る目が全くないらしい。あんな使えない人材を投入してくるくらいだ。貴族とは名ばかりのただの金持ち集団というわけだ。


「……何で、あのガキを?」


 再三のベルセルクの質問に、ギルバートは苦笑する。


「本当に直球だな。まぁ、理由はいろいろあって言えないが……しいて言うなら、目だな」

「目?」

「そう、目だ。アレと最初に会ったのはとある案件で闇市を調べる事になってな。その調査として闇市の奴隷売り場へと足を運ばせた。様々な奴隷が自分を売り込もうと必至になっていたり、もうどうでも良いと言わんばかりな表情で絶望してたりと、見ていて耐え切れない所だった。そんなところで俺はアリシアと出会った」


 ギルバートはグラスに入った酒を一気に飲み干すと、話を続けた。


「初めて会った時、奴の目は死んでいた。まるで、この世の絶望を見たかのようにな。今でこそあんな風だが、最初は動きもしない人形のようだった」


 そう言って説明をするギルバート。

 だが、何故だろうか。話を進める彼の目が、どこか遠くを見つめているように見えるのは。


「同情……というモノがなかったとは一概には言えない。俺にそんなモノが残っていたらの話だがな」


 自嘲、とでも言うのだろうか。彼の言葉には、自分を卑下するような言葉がちらほらと含まれている。

 まるで、自分はどうしようもない人間だと言わんばかりに。


「シャロンのおかげで今のアイツは見違えるように元気になった。まぁ、元気すぎて最近ではいろいろと騒ぎを起こそうとしてるがな」

「騒ぎ、ね。ここから抜け出そうとするのもその一つか?」

「その通りだ。全く、元気になったのは喜ばしいことだが、ああも問題ばかり起こされてはこちらとしてはたまったモンじゃない。メイドとして暮らすのはアレにとってはよっぽどの屈辱だからな」

「屈辱……?」

「ああ。アリシアは元貴族でな。去年まではそれはもう国中に名声が轟く程の家の人間だったんだが、当主がヘマをやらかして一気に没落コースに直行。そして、半年前には当主とその奥方が亡くなって、残った家の者は身売りをしなければならない状況にまで落ち込んだ」

「それで、あのガキは奴隷にされた、と?」

「元貴族、なんて箔がついた奴隷は高値で売れるからな。あんな小さな子供でも、買うときはかなりの金を要求されたよ」


 苦笑しながら答えるギルバートの言葉に、ベルセルクは心の隅で納得していた。

 元貴族というのなら、あのアリシアという子供の口調がなぜああなのかが理解できた。そして、ギルバートが言う屈辱とは、元であっても貴族だった人間が今度は仕える側に立っていることだ。立場が逆転した状態になってしまっては、現実から逃げたくもなるはずだ。


「なるほどな……大体は理解したが……まだ腑に落ちないコトがある」

「腑に落ちないこと?」

「アンタ……あのガキを買った理由は別にあるんじゃないか?」


 瞬間、ギルバートはニヤリと笑った。


「言ったはずだ。答えるのは、答えられる範囲だけだと」

「それはつまり、俺の質問に対してイエスと捉える事もできるが?」

「それは勝手に想像してくれ。それをとやかくいう権利は俺にはないからな」


 何とも意味深げな一言を言い残すと、ギルバートは立ち上がった。そして、自らがかぶっている黒い帽子を整えながら、そのまま部屋を立ち去った。

 残ったベルセルク一人酒を飲み続けた。

 ギルバートが残したあの笑みの意味を考えながら。


 *


「……なるほど。アリシアちゃんにそんな秘密がねぇ」


 ベルセルクから先程の話を聞いたリッドウェイは頷きながら状況を把握していた。


「何か臭い臭いとは思っていやしたが、まさかそんな理由があったとは。いやはや、貴族というのは大変なんですねぇ」

「そういうことだな。ただ楽して豪勢に生きるのが貴族ってわけじゃない。間違っちまえば、俺達のようなどん底人生を送るかもしれねぇってこった」

「そうですねぇ……あっしも奴隷になって散々な目にあった人間を山程見てきやしたが……あんな小さい子までもそんな道を歩んでしたとは……泣ける話じゃないですか」


 オロオロと言わんばかりに涙を流すリッドウェイ。彼は彼なりに感動というか同情しているのだろう。しかし、何故だろうか。傍から見ているとそれが嘘泣きに見えてしまって仕方がない。

 と言うより、ベルセルクは気になっていたことがある。


「ところでお前……そのボロボロ状態はどういうことだ?」


 ギクリッと肩を揺らすリッドウェイ。

 今の彼は、体中がアザだらけであり、顔も何度か殴られた形跡がある。正直、見ていて痛々しい。服もボロボロに……いや、これは元からか。


「人には聞かれたくないことの一つや二つ、あるもんなんですよ、ダンナ……」


 夜空の星を眺めながらいうリッドウェイ。どこか遠くを見つける今の彼は正直気持ち悪かった。どうやらあまり聞かれたくないことらしい。それならば、ベルセルクも無理に訊く必要はないと思い、別の話題を振ることにした。


「聞くなって言うんなら聞かねぇが……ちゃんと仕事はしてんだろうな」

「へい。それはもうばっちりと」


 リッドウェイはいきなり懐からいくつもの紙を取り出した。その一つ一つに何やら文字が書いている。どうやら、彼のメモ帳のようなモノらしい。

 彼に調べて貰っていたことはほかでもない。この屋敷の事だ。


「屋敷を調べた所、怪しい場所は特にありやせんでした。まぁ、一箇所鍵がかかっていて入る事ができなかった場所がありやすが」

「鍵がかかっていた場所?」

「へい。どうやら物置のようでしてね。扉の埃や汚れから考えて、もう何年も使われていないようでした。何かあるなぁ、とは思っているんでまた明日にでも調べるつもりです」


 リッドウェイの説明に、ベルセルクはさらなる質問をぶつける。


「人間関係については?」

「当主は目つきがアレで、口調も荒っぽい感じですので、貴族受けはあまりよくありやせんね。まぁ、一部の下町の人々には好かれているらしいですけど」

「好かれている? 下町の連中は貴族を嫌ってるんじゃないのか?」

「ええまぁ、大半はそうですが、ギルバートは改革派の人間で、それも格差社会をなくそうという意義を唱えてますから」

「なるほど。市民には受けがいいというわけか」

「そういうことです」


 納得するベルセルクにリッドウェイは話を続ける。


「次はメイド二人についてですが……アリシアちゃんの方はもう聞かなくてもいいと思うので、シャロンさんの方を。彼女は十年以上も前からここに仕えていやす。ギルバートとは幼馴染のような関係で、彼にはかなり信頼されているようで。前にここの使用人のほとんどが首になった時、彼女だけは何とか残れたようです」

「使用人がほとんど首になった?」

「へい。経済難になったため、とシャロンさんは言ってやしたが……あっしの考えではそれは嘘じゃないかと」

「どうしてそう思う?」

「いや、嘘はいいすぎでした。確かに、調べてみると当時のディスカビル家は事実経済難にあってました。けれど……おかしいとは思いやせんか? いくら経済難にあっているとはいえ、辞めていくのならまだしも、首にするなんて。まるで、ここから追い出したいと言わんばかりじゃないですか」

「追い出したい……或いは、関係を断つためか……」


 そのどちらかか。または、別の理由か。それはベルセルクにはわからない。

 だが、リッドウェイの言うとおり、これは何かあるような気がしてきた。


「それに、シャロンさんの話に戻りやすけど……彼女もアリシアちゃんと同じ、元貴族なんですよ」

「何?」


 ベルセルクの眉間に皺が寄る。


「何でも、彼女の父親とこの屋敷の前当主が親友だったらしいんです。彼女の父親が急死して、後継問題で次々と兄弟姉妹同士が潰し合いを始めたんです。そんな中、当時末っ子だったシャロンさんは立場を無くして行き場を失っていたところをこの屋敷の前当主がメイドとして迎え入れたんです」


 そういう理由があったのか、といつもながらにして情報捜査だけはピカ一のリッドウェイに少々関心するベルセルク。

 だが、そんなリッドウェイが顔を曇らせた。


「それで、執事の事なんですが……」

「何も分からなかった。そうだろう?」

「なっ、何で分かるんですか!?」

「顔に書いてあんだよ、顔に」


 そんな曇らせた顔をしていれば一発で誰だって分かる。

 ハハハッ、と苦笑いしながらリッドウェイはガックシと肩を下ろした。


「自分、情報捜査に関しては絶対の自信がありやしたんですが、執事のレイクの事はな~んにもわからないんです。先代の頃からいる事は確かなんですが……どこから来た人間で、どういう人間なのか。それが全くと言っていいほど集まらないんです。ただ……」

「ただ?」

「……これは、あくまで噂なんですが、あの男外見と歳が一致していないそうなんですよ」


 外見と歳が一致しない。

 それは一体どういうことなのだろうか。


「いや、実は十年以上前から彼は二十代の外見をしているんですが……今の彼もそんな感じでしょう?」

「それはただ、あいつが歳のわりに若く見えるだけじゃねぇのか?」

「そう言われてしまうと、何とも言えないんですが……まぁ、所詮は噂。これまでも散々な目にあってきやしたからね。信じるのもどうかと思いやしたが、一応耳に入れておきたくて」


 情報というモノは、多いほうが越したことはない。故に、一応は覚えておくことにした。


「それにしても、まぁた厄介な事になりやしたね。まさか、ウルが出てくるとは。いやはや、予想外な事で……」

「……そのことだがな、リッドウェイ」


 自分の名前を呼ばれたリッドウェイは、瞬間ビクついた。

 何か、まずい事を聞かれてしまう。その前兆を感じたかのように。

 

「お前……実は知ってただろ? 今回の一連の事件の犯人がウルだって事に」

「さ、さぁ? 何のことでしょうか?」

「白ばっくれても誤魔化しは効かねぇぞ。お前言ってたよな。連続殺人鬼の犯人の容貌。一度アイツと組んでいる“俺とお前”だったら、その容貌を聞いてまず間違えるはずがない」

「……、」


 何とも気まずい顔になるリッドウェイ。

 しかし、ベルセルクは問答無用に問い続ける。


「どうなんだ?」


 威圧を掛けるベルセルク。

 その視線とプレッシャーにリッドウェイは耐え切れなかった。


「……流石はダンナ。お見通しだったようで」

「何で、黙ってた?」

「黙ってたわけじゃないですよ。ああ言えば、ダンナだってすぐにウルだって理解できたでしょう?」

「それはそうだが、わざわざ遠まわしにする意味が分からん」

「遠まわしにしなきゃいけない原因があの時にはあったでしょう?」


 遠まわしにしなければならない理由?

 何だそれは、と言いかけたベルセルクだったが、ふとある事に気がつく。

 あの時、ベルセルク達の側には何が、いや誰がいた?

 ベルセルクも気づいたようなので、リッドウェイは頷きながら言う。


「そう。シナンちゃんですよ。あの娘には正直、ウルには近づいて欲しくないんですよ」

「ウルに近づけさせたくない? そりゃあ、どう言う意味だ」

「そのままの意味ですよ。シナンちゃんにとってウルは危険すぎやす。シナンちゃんは彼女とだけは戦っちゃいけない。それはダンナも分かっているはずです。彼女は今までの敵とは違う。何せ、彼女は……」

「リッドウェイ」


 ベルセルクはリッドウェイの名を呼び、彼の言葉を止めた。

 その目つきはいつにもまして鋭かった。

 怖い、とリッドウェイが一瞬思ってしまった。それは、いつもの冗談ではなく本気の殺気を放った時のベルセルクの目だったからだ。


「……すみやせん」

「いや、別にいい。明日からも情報収集を続けてくれ」

「へい」


 そう言って、リッドウェイは自分の客室に戻っていく。

 一人になったベルセルクは考えていた。

 これから何が起こるかは分からない。ただ、確実に何かが起こることは確かだった。

 ならば、なるようにしかならない。自分はただ、斬って殺して薙ぎ払うだけだ。

 たった、それだけの事をするだけだ。

 そうして、ベルセルクは一人、酒を飲み続けた。

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