表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の師匠  作者: 新嶋紀陽
第一章
2/74

 数年後。

 とある荒地に二人の男が立っていた。

 眼前に広がる光景は、魔物によって埋め尽くされていた。


「ひゅ~。こりゃまたかなりの数だ」


 歳の若い男が軽い口調で言う。茶色の短髪で、身体には髪と同じ、ボロっちぃ茶色のマントを羽織っている。


「どうしやす?ダンナ」


 ダンナ、と呼ばれた赤髪の男――――ベルセルクは黒のコートに身を包んでいた。長身で顔はとなりの男より老けているようなのだが、それなりには整っている。


「愚問だな、リッドウェイ……って格好よく言いたいところだが、どうだかな。これだけの数は初めてだ」

「おやおや流石のダンナでも弱気になることもあるんですかい? まっ、あれだけの数ですからね。そう思うのも無理はない。ってかここで余裕なら、それこそバケモンだ」


 冗談げに言うが、実際そうなのだろう。眼前に存在する魔物の数はそれだけ壮大だと言う事だ。

 だが、そんな光景を前にしても、二人の男は逃げようとはしていなかった。


「やれやれ。最近、魔物の数が増えているとは聞いちゃいましたが、まさかここまでとは……」

「今更愚痴を零しても仕方ねぇだろ。んな事言ったところで、俺たちのやることは変わらねぇし」

「うわー。なんすかそのリアクション。テンション下がるわー」

「テメェ、振っておいてそりゃないだろ?」

「こういう時に、『ふん、こんなもの俺の敵じゃないぜ!』的な台詞が出てこないって時点で、ダンナは主人公失格ですね」

「なんの話だ。つーかいつの間にそんな話になった」


 ベルセルクはわけが分からない口ぶりで言う。

 その間にも、魔物の大群は二人に迫ってきていた。


「さて……そろそろ行くか」


 ベルセルクは剣を担いだ。およそ一二〇センチほどの銀色の剣だ。名前を『デストラクト』といい、ベルセルクの愛剣だ。


「んじゃ、あっしは隅から見てますんで」


 と、リッドウェイは言うが早いか、すぐさま近くの岩陰に隠れていった。


「ったく、お前なぁ……」

「ほらほら~。早くしないと、魔物が来ちゃいますよ~?」


 ムカツクその口調に、ベルセルクはため息をついた。

 そして、魔物の大群に視線を変えた。魔物の呻き声がいくつも交じり合いながら、ベルセルクの耳に届いていた。

 ふぅ、と息を吐く。

 そして、吐き終わると同時に、跳んだ。

 ベルセルクの体は、空中に飛びながら、魔物の大群の頭上へと向かっていた。重力によりベルセルクの体は地面へと向きを変え、ドンッという着地音を出しながら地に足をつけた。

 その一瞬、魔物達の動きが止まった。

 そしてギョロリ、とベルセルクのほうへと一斉に視線を寄せた。


「さぁ。かかって来い」


 静かな一言。その一言と共に魔物達は、わらわらと動き始めた。

 魔物達の爪が、腕が、脚が、尾が、ベルセルクを襲う。

 その全てを、ベルセルクは叩き斬っていく。斬り倒したモノには目もくれず、次へ次へと行動を移す。そうでもしなければ、こんな数を相手にすることなどできない。

 剣を振るう。腕に重みがかかる。

 次、次、次、次。

 魔物達はあっさりと倒されていく。あっさりと、と聞くと魔物たちが弱いように聞こえるかもしれないが、それは大きな間違いだ。そもそも通常なら、魔物は腕のある大人十人でも倒せないようなもので、こうも簡単には斬り殺せるはずがないのだ。

 すなわち、それほどにベルセルクの実力は測り知れないということだった。


(相変わらず、すげぇな……)


 遠く離れたところから、リッドウェイはその変わらずの力量に感服していた。

 彼はベルセルクとかれこれ四年組んでいるが、その実力には驚かされるばかりである。魔物をこうも簡単にあしらえる人間など、そうはいない。故にリッドウェイにとって、ベルセルクとの出会いは幸いだったと言えるだろう。

 そうこうしている内にも、およそ三分の一程度の魔物が倒れ伏していた。

 それでも屈することなく魔物達はベルセルクに襲い掛かる。その行動はもはや拍手ものだ。どうしてこんなにも実力差を見せ付けられても退かないのか、不思議なくらいに。

 ベルセルクが横に剣を一閃する。およそ三体の魔物が切り伏せられる。その三体を踏み台にしながら、次の四体が牙をたてる。が、その牙ごとベルセルクは斬る。鮮血が飛ぶ。ベルセルクは気にせず、次の魔物を斬る。

 魔物達は数を使って、ベルセルクの周りを囲む。ベルセルクはその囲みの中でも、あえて多いところへと突き進んでいく。四方八方から魔物が襲い掛かってくる。それを回転するかのように身を動かし、斬り捨てた。さらに回転の勢いを使って、正面にいた魔物を斬る。

 斬る。斬る。斬る。斬る!

 もう何体倒したのだろうか。おそらくは半分は倒したと思うが、数などいちいち覚えていない。そんなものに興味はない。それよりも、生きている魔物だ。後どれくらいいるのだろうか。そろそろ疲労が溜まってきている。今はまだその兆候が見られないが、このままいけば危うくなるかもしれない。そう思いながらもベルセルクは剣を振るう。それしか出来ない。休む暇など、魔物達は与えてくれるつもりはないのだろう。

 面白い、とベルセルクは思う。そっちがその気なら、こっちもそのつもりでやってやる、と。自分の体力か、それともお前達の数か、どちらが勝るか勝負としよう。

 剣の振りが、さらに速くなる。それだけでなく、鋭さも増している。疲労などはもうどうでもいい。ベルセルクの頭の中には、魔物を殺すことしか考えていなかった。


「ッアアアア!」


 雄叫びが響く。魔物のものではない。ベルセルクのものだ。その雄叫びは、魔物達を一瞬びくつかせた。その一瞬をベルセルクは突く。停止した魔物の何体かに剣で斬り込み、行動に出ようとする魔物を斬り伏せた。

 その時、頭上から「ガアアアアッ!」と異形の鳴き声がした。魔物だ。口のデカい大きな魔物がその口を大きく開き、牙をたて、上から降ってきている。

 ちらり、とベルセルクはそれを見て、剣を携える。まるでその大きな口に入りに行くかのように、頭上へと飛んだ。その後に何体かの魔物がついてくる。ベルセルクはそれを気にする事は無かった。

 飛んだ勢いを使って、頭上の魔物を真っ二つに叩き斬った。二つに分かれた魔物の体は、ベルセルクを横切り、ズドンッと地面へとダイブした。

 ベルセルクはまだ空中だ。そんなベルセルクに数体の魔物が飛び掛る。脚に、手に、胴体に、飛び掛ってくるが、その全てを薙ぎ払う。空中で身動きが取れなくとも、剣は振れるのだ。ベルセルクにとって剣が振れるのならどんな場所でも相手をねじ伏せることが出来る。

 ベルセルクが地上に足を付けると同時に、空中で斬られた数体の魔物の死体が落ちてくる。それを待っていましたかというように、地上にいた魔物達が再びベルセルクに牙を向ける。

 ベルセルクは剣先を魔物に向け、そのまま突っ込む。

 虚しい、とベルセルクは思う。どれだけ斬っても、どれだけ殺しても、何も満たされない。剣に手応えはある。しかし、それはベルセルクを満足させてくれるものではなかった。

 斬って、殺して、薙ぎ払っても。

 何も無い。何も満たされない。

 先程、面白いとは思った。しかし、それも何かを満たしてくれることはなかった。いつもそうだ。戦って戦って戦って、何か求めているのに、敵は何もくれない。あるのは斬った、殺した、薙ぎ払ったという感触だけ。

 その何か、というのは厳密にはベルセルクにも分かっていない。それが何なのか、具体的には表現ができなかった。何かが足りない。それだけがベルセルクの心の中を揺さぶるのだ。

 毎日毎日、それを追い求め、戦場へと向かう。

 血飛沫が飛び、ベルセルクの体に降りかかかる。それをどうこうするつもりはなく、次の獲物へと視線を向ける。血飛沫に濡れたのはそれ一度ではなく、もう何十回、何百回もかぶっている。故に、彼の体は魔物の血で染まりきっていた。

 その姿を見れば、誰もが恐れ、異形を見るような目を彼に向けるだろう。だが、そんなことはベルセルクにとってあまり重要なことではない。魔物だって生きている。生きているものを斬れば血は自然と出てくる。ましてや、ベルセルクのような傭兵くずれをしている者はそういった機会が多い。血が顔に付いた、体に付いた程度でいちいち反応していては、その内魔物に喰われるか、殺される。だから気にしない。

 またもや魔物が倒れ、ベルセルクは剣を一振りし、剣についていた血を払う。

 さて、あと何体だろうか。半分といっていたころから随分と経ち、今では視野に入る程度しかいない。そろそろ終盤だ。ベルセルクは静かに息を吐く。それぐらいの余裕も出来た。そして、剣を掴んでいる右手に力を入れ、駆ける。

 ベルセルクの剣が太陽の光で反射し、ギラリと輝く。その輝く剣で魔物を斬る。いや、もう襲うと言った方がいいのかもしれない。

 人間を襲う魔物と魔物を襲う人間。

 果たしてこの状況を見た人はどちらをバケモノと言うだろうか。

 ずっしりとした感触がベルセルクの手に伝わる。そして、最後の魔物の断末魔が周り一面に轟いた。断末魔を叫び終えると、魔物はその場に倒れこんだ。

 ベルセルクは倒れた魔物から視線を逸らし、周りを見る。その光景は地獄といっても過言ではないだろう。そして、それを作り出したのは、まぎれもなくベルセルクだった。


「ようやく、終わりましたかい?」


 いつの間にかベルセルクの隣であくびをしながらくつろいでいたリッドウェイが尋ねる。と同時に、ベルセルクがその頭をグーで殴った。


「あだっ!何するんですかい」

「あぁ?何って、ムカついたから殴っただけだ」

「うわ~、きたよこの理不尽な理由。そうやって、俺をいたぶって楽しいんですか」

「気晴らしにはなるな」

「……そうですかい」


 やるせないというげな顔で、リッドウェイはうつむきながら答えた。


「にしても、すごい数でしたねぇ。軽く五百は超えてたんじゃないすか?」

「さぁな。そんなもん、いちいち数えてねぇし」

「あ~。そりゃそうっすよね。そんなもん数えてたら隙つかれちまいやすもんねぇ」


 言いながら、リッドウェイは近くの魔物の死体に近寄った。


「しっかし、さすがにこれは異常ですね。数もそうですが、魔物の種類が違いすぎる」

「やはり、そう思うか」

「ええ」


 魔物にも、いろいろと種類がある。山に住むもの、海に住むもの。空を飛んだり、水のなかを泳いだり、地方によっては様々だ。

 しかし、先程の魔物の大群には、この地方にはいないはずの魔物が見受けられた。それもかなり多く。

 例えば、リッドウェイの目の前に倒れている狼のような魔物。名前ウルフィンといい、北の地方に生息する魔物だ。しかし、そのとなりにいるガルーダスという大きな鳥の魔物は、南の地方に生息する。どちらもここより遠くに生息しているはずだ。本来なら、こんなところにはいるはずがない。


「住処を失ったか、あるいは何かの前兆か……」


 意味深いリッドウェイの言葉。

 しかし、ベルセルクは興味なさそうに。


「なんにしろ、俺には関係ない。さっさと依頼主のとこ行って、金貰うぞ」

「うーわ、何ですかその発言。ちょっと問題ですぜ、ダンナ」

「別にいいだろ。そのために仕事してんだから」

「いや、もっとこう、考えにふけるとか、なんかしたりとかしないんですか?」

「考えてどうなることでもないだろうが。んなもんで、何かを解決できるとも思えねぇし」


 ベルセルクの物言いに、リッドウェイはため息をつく。


「全く……そういう発想しかしてないから、女が寄り付かないんすよ」


 ボソリと呟いたつもりだったが、ベルセルクの耳には聞こえていたらしく、即座に剣を首まで突きつけた。


「何か、言ったか?」

「いえいえ何でもありませんのことですよ! いやぁ、今日もいい天気ですなぁ!」


 あっはっはっはっは、と作り笑いしながら誤魔化された。

 フン、とベルセルクは鼻を鳴らしながら剣を収めた。

 その時だった。

 ゴゴゴゴ、と地鳴りが突然と起こり、二人の体を揺らした。

 大地に亀裂が入り、崩れていく。それを察知した二人は即座に地面を蹴って、その場から離れた。

 先程二人が居たところにも、同じように亀裂が入った。他の亀裂が入ったところと違うのは、手が出てきたのだ。ゴツゴツした巨大な岩の塊のような手。その大きさは、先程の魔物達の中で、一番大きかったあの口のデカかった魔物をはるかに超えていた。

 巨大な手が出現したところから数メートル離れたところでも、同じような巨大な手が出てきた。おそらく、この二つは「両手」なのだろう、と考えていると、まるで地獄から這い上がってくるかのように、頭が、胴体が、その姿を地面から現した。

 全長およそ十メートルのその巨大な岩の怪物は、ベルセルクとリッドウェイの前に立ちはだかった。


「ロックビーストだと?」


 怪訝な顔しながらリッドウェイは呟いた。

 ロックビースト。魔物の中でも上位に来る魔物だ。その皮膚は頑丈な岩で固められており、防御力では世界屈指の魔物である。普段は人が寄り付かない山の奥深くに生息している。故に、人がその姿を目にするのは滅多にない。


「何でこんなやつがここに……」

「さあな」


 リッドウェイの疑問に適当に答える。


「グオオオオオッ!」


 ロックビーストの雄叫びが天にも届くほど轟く。それはまるで暴れることを宣言しているようにも見える。しかし、どうやらこちらにはまだ気づいてはないようだった。

 ベルセルクはフッと鼻で笑った。まるでバカバカしいように。

 いや、実際バカバカしいのだろう。あれほどの大群の後にこんなものが出てくるとは、ベルセルクの今日の運勢は最悪といっても過言ではない。


「全く。今日は厄日だな」


 しかし、その余裕が崩れることは無かった。

 ベルセルクが空中に跳ぶ。ベルセルクが目指すはロックビーストの頭部であり、正確に言うならば首元だ。いくら頑丈な魔物とはいえ弱点というものは存在する。ロックビーストに関して言うならばそれは首元。頑丈な皮膚が他のところより薄く、そこに大きな一撃を加えれば、かなりの大ダメージが与えられ、上手くいけば首と胴体を切り離すことが出来る。

 ギョロリ、と大きな瞳がベルセルクを捕らえた。どうやら気づかれたらしい。

 巨大な右拳が空中を飛んでいるベルセルクを襲う。とっさに剣を前に構えるが、遅い。ガギン、と剣と岩の拳がぶつかると共に、ベルセルクの体は拳と一緒に地面へと叩きつけられる。

 しかし、その手にある剣は巨大な岩の拳にしっかりと突き刺さっていた。

 ロックビーストがゆっくりと拳をあげると同時に、片手で岩を掴み、もう片方で剣を抜く。岩を掴んでいる手を使い、ロックビーストの拳の上に立つ。こうしてみると、その巨大さが直に感じることが出来る。

 ベルセルクは拳から腕へと駆ける。そしてその先にある頭部の首元を目指していく。

 と、その時だった。急にロックビーストの動きがおかしくなった。体全体をねじらせ、何かにもがき苦しむように暴れだす。その動きのせいでベルセルクは体勢を崩し、仕方なくロックビーストから飛び降りた。

 ロックビーストは暴れ続ける。何も無い空中に腕を振り回す。


「何だ?」


 怪訝そうな顔でベルセルクは呟く。ロックビーストはこれまでにも何回か相手をしたことはあるが、こういった現象は初めてだ。

 暴れまわるロックビーストは周りのものを壊しまくっていく。ここは荒野なのでいくら被害が出ても問題は無いのだが、このままでは埒が明かない。

 しかし、妙だ。一体何がこいつをこんなにしているのだろうか。荒野の太陽光が苦しめているとは思えないし、住処が違うからといってこんなことにはならないだろう。

 考えられるのは、ロックビーストの体の中で、何かが起こっているということだ。


(何か悪いものでも食べたか? ……まさか)


 ベルセルクの頭に一つの推測が浮かび上がった。しかし、ならば急がなければならないかもしれない。

 元々、ロックビーストは岩を食べて成長していく魔物だ。それ以外の物は滅多に食べないと言われている。食べた場合は、消化が悪くなるらしい。

 今暴れている原因がそれならば、納得がいく。良く見てみれば確かに食中りにあったような苦しさをしているようにも見える。

 だが、ここで問題なのは何を食べたか、だ。岩と間違えて鉄鋼やら家やらを食べたのならまだいいだろう。しかし、この巨大なロックビーストはどう見ても大人だ。それならば、間違えて食べる、ということはまずないはず。

 考えられるのは、何かの生き物がロックビーストの体内にいるという事。

 そう、例えばロックビーストを討伐しに行った人間が誤って食べられた、とか。

 何とも間抜けな話だが、実際にそうなったと言うのを聞いたことがある。

 しかし、食べられているのが人だという確証はない。

 だが、もしそうならば、後味が悪くなる。

 何だか考えることそのものが面倒臭くなってきた。

 ベルセルクは剣を再び担ぐ。こうなったら、その(はらわた)を切り裂いて、中を確認してやる。それが一番手っ取り早い。

 ベルセルクは首を狙うという作戦をやめた。狙うはロックビーストの腹。正確には、胃の部分だ。

 恐らくロックビーストの硬い部分で一、二を争うほどの硬さだろう。しかし、そんなことはお構いなしだ。ベルセルクは駆ける。

 別に、助けたい訳ではない。そんな事を考えるほど、ベルセルクはお人好しではない。ただ自分が助けなかったせいで誰かが死ぬというのは、目覚めが悪い。


「一撃で貫く」


 ベルセルクは常人では信じられないほどの速さでロックビーストの腹に突っ込んでいく。それはまさに迷いなき突進だった。

 ドガン、と物凄い音が響く。それと共にロックビーストの腹に風穴が開く。その穴からベルセルクはロックビーストの体内へと侵入した。

 中は見た目と同じで、ゴツゴツした岩でできていた。ただ、外の表面と比べると少々柔らかいようにも感じる。

 だが、そんな事を気にしている時間はない。ここはロックビーストの体の中だ。こうしている間にも、ベルセルクが気づかないだけで、消化されているかもしれない。

 とにかくもし人がいるのならさっさと見つけなければ、と思っていた時、ベルセルクはそれを見つけた。

 奥の方に転がっていたボロのマント。それに包まれている、一人の少年。歳は大体十四、五ぐらいだろうか? ちょっと青みがかかった黒くて短い髪。顔の形はかなり良い。世間一般的にはこれは美形と言うやつだ。左手にはとても美しい青のネックレスを握ってある。気絶しているのにも関わらず、それを離そうとはしなかった。それほど大事なものなのか?

まぁ、そんなことはどうでもいいとして、まずは生存確認が優先だ。

脈はある。生きてはいるらしい。しかし、起きる気配がない。このまま放っておけば、ロックビーストの胃の中で消化されてしまう。

 とりあえず、ベルセルクは少年を担ぎ上げた。男にしてはかなり軽かった。

 さて、と周りを見る。先程破壊した壁を見てみると、既に塞がっていた。再生能力というやつだ。魔物は再生速度が異常に早い奴もいるのだが、ここまでのはベルセルクも初めてだ。しかたなく、ベルセルクは奥へ歩くことにした。ゴツゴツした壁が並んでいる。全部硬そうだが、必ずしも全てという訳ではない。どこか一ヶ所か二ヶ所くらいには脆い所があるはずだ。

 ベルセルクは奥へ奥へと足を運ばせる。足元は気味が悪いくらい柔らかい。壁もこれくらいなら、すぐに壊せるのに、とベルセルクは思う。

 そんな時、見つけた。他よりも脆そうな壁だ。色が変色し、いかにも腐っているというのが分かる。

 ベルセルクは少年を担いだまま、剣を片手で構える。人を担いだまま技を放つのは初めてだが、恐らく問題はないはずだ。

 ベルセルクは剣を振り上げると、迷いのない一撃を放つ。

裂破(れっぱ)

 何もかもを一撃で破壊するベルセルクの数少ない技の一つ。ベルセルクは技などを覚えるという行為を面倒臭がって、あまりしない。故にめずらしいことでもある。

 裂破を放ち、壁を粉砕する。たった一撃で破壊された壁は跡形もなく消え、外と繋がった。ぐらり、と揺れが起こる。ロックビーストが今のを受けて苦しんでいるのだろう。

 ベルセルクは破壊された壁の穴から、外へと出る。

 地面に着地すると、ベルセルクは肩に担いでいた少年を降ろした。このままだと邪魔になると判断したのだ。

 そして、ロックビーストの方へと体を向ける。

 体に穴を空けられたことに腹を立てているのか、その目には先ほどよりも若干怒りが増しているように見えた。まぁ、誰でも腹に穴を開けられれば、怒るものだ。

 怒りが天に達してるロックビーストを見て、ベルセルクは笑う。

「いいだろう。そうこなくちゃな」

 もう、何も躊躇することはない。邪魔するものもない。

 全力で、()れる。

 ベルセルクの目が獲物を狩る目に変わる。

 ロックビーストが吠える。それに呼応するかのようにベルセルクも叫ぶ。

 先に動き出したのは、ベルセルクの方だった。剣を担ぎ、そのまま走り出す。ロックビーストも拳を振るう。激しい轟音の中を、ベルセルクは駆け抜ける。

 ロックビーストの拳が地面を殴り、地割れを起こす。と同時にベルセルクは跳んだ。着地したのはロックビーストの腕の上。足場がかなり悪いロックビーストの腕の上をベルセルクはお構いなしに駆ける。

 まるでデジャヴだ。先程と全く同じ行為。同じ作戦。同じ狙い。まぁ、今度は確実に決める。

 もう片方の腕でロックビーストがベルセルクを落とそうとする。が、ベルセルクは跳び、もう片方の腕から逃れる。

 着いた。ロックビーストの首元だ。これで一撃を入れれば終わる。

 そうして、ベルセルクは『裂破』を放つ。

 断末魔すらなかった。ベルセルクが首元を粉砕し、ロックビーストの頭と胴体二つに分けると、ロックビーストの体が崩れ始める。腕、足、胴体、全てが崩れただの岩の塊へと化していく。

 その光景を眺め終えると、ベルセルクは少年の下に行った。

 相変わらず、気絶していて起きる気配はない。


「ったく、あれだけの轟音の中、よく起きねぇな」


 と、少し呆れつつも、ベルセルクは少年を担いだ。

 向こうからは、リッドウェイがこちらに向かって走ってきている。どうせどこかで観戦してたのだろう。

 まぁ、いつもの事だ。気にはしていない。

 しかし、今日はいろいろと疲れた。とりあえず、宿に戻って体を休ませる事にしよう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ