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勇者の師匠  作者: 新嶋紀陽
第二章
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 ん? 何だ、眠れないのかい? 全く、昼間あんだけ寝てたら、そりゃあ眠れなくなるよ。え? 寝てなんかいないって? よく言うよ。ぐーすかいびきかいてたくせに。

 ……あー分かった分かった。寝てないことにしてやるから、そう睨むな。全く、子供だねぇ。

 それじゃあ、さっさと眠ること……は? お話が聞きたいって? 

 おいおい、冗談じゃないよ。私はそういうことは得意じゃないんだ。聞いたところで、つまんなくなるに決まってる。

 それでもいいって? ……はぁ。仕方がないねぇ。

 そんじゃ、何を話そうか。

 ん~……そうだね。それじゃあちょっとした昔話でもしようか。

 昔話って言っても、それほど昔じゃない。

 アンタが生まれてくる少し前の話さ。

 とある国の、王女様の話だ。

 ある所に、一つの小さな国があった。領土はそれほど大きくなく、作物もこれといって大したものはない。山に面していたから、漁業に関しては全くもって利益は出ていなかった。

 けれどもね、一つだけ他の国より優れたことがあった。

 金さ。

 そこは、他のどこの国よりも金が採掘されるところなんだ。人々は金を掘ることで豊かであり、困ることなどないに等しい生活を送っていた。

 だが、ここでよく考えてほしい。金というのは、物だ。そして、物というのは限界が存在する。何十年、何百年と金の採掘を続ければ、取れなくなっていくのは必然のことであり、当然だ。

 そしてある年から、金の採掘が思うようにいかなくなった。

 人々は焦った。そりゃあ当たり前さ。今まで生活の基となっていた金が取れなくなったんだ。不安に駆られるのも無理はない。

 そして、不安がった人間ほど、現実逃避をしたがる。

 金が取れなくなったその年に、王宮で一人の少女が生まれた。

 これが、後に語られる『呪い王女』さ。

 王女が生まれた年から金の採掘はどんどんと低下していく一方。生活に苦しむようになった人々はそれを他人のせいにしたがった。自分たちが苦しんでいるのは、あの王女が生まれたせいだと言ってね。

 いやはや、何ともおかしな話だよ。農業や漁業と違って、採掘って言うのは、考えなしに採っていけばいくほど、その量を減らしていく。さっきも言ったように、彼らが生活苦になったのは、当然のことなんだ。

 けれどもね、これもさっき言ったが、不安を持つ人間ほど、その不安を誰かにぶつけたいものなのさ。何も、世界中の人間すべてが、とは言わないが、ほとんどの人間はそうだろう。

 ここまでの話からしたら、その王女は何とも不運な少女だ、と思われるかもしれないが……まさにその通りなんだ。え? 何だその思わせぶりの言い方はだって? 

 いや、だって事実そうなんだから、仕方ないだろ?

 さっきも言った『不安』はな、実は王宮にも影響していたんだ。王女が生まれたせいでこうなったんだ、ともろに口にする者はいなかったが、影ではほとんどの者が言っていたそうだ。王女を産んだ王妃は自分が産んだ子供のせいで国中が不幸になっていることを嘆き悲しんで一ヶ月寝込み、あげく死んでいったらしい。それもまた、王女のせいだと言いながら、な。しかも、それを当時の王様まで信じる始末。挙句の果てには、王女を東の森の塔に閉じ込めたのさ。

 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

 親なら、自分の子を思って死んでいくのが当然なのに、自分が死ぬのは子供のせいだと抜かしたり、塔に閉じ込めやがった。

 もし、私がそいつらの前にいたら、ぶん殴って更生させてやりたいよ。

 全く、王女には同情するよ。

 けれども、世界はとことん王女を不幸の道へと陥れる。

 ある時、王様が急死したんだ。

 原因は未だに不明。もしかしたら、これもまた王女の仕業じゃないのか、という根も葉もない噂が人から人へと渡ったが、それはありえない。何故なら、王女は東の塔で一人寂しく暮らしていたのだから。

 世継ぎがいないことに困った当時の重臣たちは揉めに揉めまくった。新しい王を決めるべきだ。しかし、誰がなる? 王様の血縁はすでに途絶えてしまっている。

 ある一人を除いては。

 そう、王様の血縁はすでに王女しか残っていなかったのさ。困り果てた重臣たちはやむを得ず、王女を新しい王として東の塔から呼び戻した。

 新しい王、と言っても王女はまだ二十歳もいっていない歳だった。政治は全て重臣たちが勤めてね、つまるところ、王女はただのお飾りだったってわけ。

 お飾りの王女が国民に顔を出すことは滅多になかった。何せ、不幸の象徴とまで言われてるからね。そんなことすれば、何があるかわかったもんじゃない。

 だから、王宮のパーティも、祭典にもほとんど何かしらの理由を付けられて欠席扱いされていたそうだ。全く、一国の王女を何だと思ってるんだろうね?

 まぁ、私が腹が立つ所は、それを誰もがおかしいとは思わなかったことだけど。

 重臣たちはさっさと何処ぞの王子と結婚させようとしたが、いやはや、運命ってのはどこまでも残酷なものでね。王女に最悪と言っていいほどの不運が起こったんだ。

 革命さ。

 金が完全に途絶えてしまい、作物も滞り、あげく飢饉に見舞われちまったせいで、人々の暮らしはさらに厳しくなった。そんな中、重臣たちは何をしたと思う? 何もしなかったのさ。ただ、残りの金を自分たちで取り合っていたんだ。

 そんなこんなで、今まで溜まりに溜まってきた民衆の怒りがついに噴火。我慢していた国民が一揆を起こした。再三に渡っていうが、これも当然の結果だ。

 革命は一日で決着がついた。これについては、革命軍の手際が良かった。なんたって、王女を守るべき兵士の大半を反乱軍の伏兵として忍び込ませえたんだからな。

 逃げ場がなくなった大臣たちと王女。けどね、その時重臣たちは何をしたと思う? 

 王女を差し出して、自分たちは助かろうとしたのさ。

 全ての原因は王女にあり、我々は無実だ、と訴えてね。

 ああ、自分で語っておいて、ますます腹が立ってくるよ。

 王女には何の非もないというのに。

 けれども、人々にとっちゃそんなもん関係ないのさ。ただ、自分たちの不安を消したいがために行動したんだからな。

 まぁそんな他人任せな国民だ。王女は処刑しようとしたのは、当然と言えば、当然か。

 人々は喜んだ。これでやっと自分たちは不幸から解放される。幸せになれるんだと。

 そして、ついにその時がやってきた。

 広場の中央に設置された処刑台。その頂上に、王女はやってきた。

 民衆は殺せ、殺せと騒ぎ立てる。

 王女の顔にはもう何も映っていなかった。悲しみも憎しみも、何もかも。

 やがて、処刑の合図が鳴り響き渡った。

 そして、巨大な刃が、王女の首目掛けて落とされましたとさ。

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