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勇者の師匠  作者: 新嶋紀陽
第一章
16/74

 フェンリルの戦闘後は、いろいろと厄介な事があった。

 フェンリルとの戦闘にかけつけた街の警備隊が来て、ベルセルク達が犯人だと勘違いし一戦やりそうになったり、誤解が解けた後も事情聴取を受けたり、はたまたベリアルが雇った傭兵達の中に指名手配犯がいてそいつを取り押さえるのに使われたりと、まぁいろいろである。

 しかし、本当に大変だったのはベルセルク達ではなく、ベリアルの方だった。

 彼は今までフェンリルに操られ、いろいろと悪事を重ねてきた。それはベリアル自身がやろうと思っていたわけではないが、しかしながら、世間はそんな事は聞きもしない。

 今すぐベリアルを領主の地位から降ろせという声が殺到して、まさに一揆が起こるかどうかの騒動にまで発展した。

 これには誰もがベリアルは反対すると思いきや、彼は二つ返事で領主の地位から降りた。

 どうやら彼自身も自分のしでかしたことに罪悪感を抱いて、それに伴った罪を購う為に出頭したそうだが、魔人に操られていたという異例の事態に警備隊はどうしたらいいのかと頭を悩ましたらしい。

 結局、ベリアル自身の願いにより、彼を街から追放する事になった。

 そして、ベリアルが街から出て行く当日、ベルセルク達はベリアルの所に来ていた。


 *


 そこは、来た時よりもかなり質素になっていた。

 あれだけ豪華な品物が一切としておかれていない。どうやら、ベリアル自身がすべて売ってしまったようで、もうひとつも残っていないんだとか。

 そんな中、ベルセルク達は、椅子に座ってベリアルと顔を合わせていた。


「……君らには、本当にすまない事をしてしまった」


 開口一番がそれだった。

 見ると、ベリアルは初めて会ったときよりもかなりやせていた。さらに性格もかなり穏やかというか、静かになったというか、あの悪そうな雰囲気がまったく見えなかった。


「別にいいですよ。ベリアルさんは操られていただけなんですし」

「いや、奴に操られてのは、私に隙があったからだ。闇に心を預けてしまうような隙が」


 嘆息し、ベリアルは俯きながら語る。


「知っての通り、私は勇者の仲間にここへ置いていかれた。しかし、それは仕方のない事だ。旅ができない仲間を持ちながら魔王を倒そうなんて事は絶対に無理だ。だから彼らの行為は正しいものだった。それを私は理解していたし、私をおいていてくれと言い出したのは、私自身だった」


 仲間がこれ以上自分のせいで、旅をできなくなるのが嫌だった。

 だから、ベリアルは自分から言い出したのだ。


「仲間はその後、旅に出た。私はそれからここの領主となり、なるべく勇者の役にたつような情報を集めだした。仲間が失敗し、新しい勇者が輩出されても次の世代に自分たちができなかった事をやって欲しいと思い、情報収集は続けていきました」


 そんな時だったという。

 フェンリルが、ベリアルの前に現れたのは。


「奴は、私の心につけ込んできた。本当は勇者達が憎いのだろう? 恨んでいるのだろう? そういった言葉をかけて、私の心を操った」


 そして、それからフェンリルはベリアルを使って、悪事を働いていったという。


「あのコンパスは元々初代勇者の仲間が作ったものらしい。それが、誰の手でどうやってあそこに置かれたのかは私も知らないが、フェンリルは最初からその存在を知っていたようだ。だが、取り出そうにも勇者以外はあの洞窟の奥には入れなかった」

「だから勇者を集め、わざわざ取ってこさせようとした」


 ベルセルクの呟きにベリアルは静かに頷いた。


「だが、分からねぇな。何で魔王の部下である魔人が、あんなものを手に入れたがってたんだ?」

「それは私にもよく分からない。もしかすると、あれを手に入れ勇者の邪魔をするつもりだったのかもしれない」


 確かに、その可能性は大いにある。魔王のために、勇者の邪魔をするという考えは否定できなくもない。

 だが、フェンリルはこう言った『これは余興だ。念願のコンパスを手に入れるな』と。勇者の邪魔をするのが目的ならば、それを余興だと言うだろうか?

 つまり、奴の目的はコンパスそのものだったと言う事になる。

 しかし、その理由はわからない。

 ベルセルクは、そこで考えるのをやめる。

 今更そんな事を考えても仕方がない。もうフェンリルはいないのだ。ベルセルクがここで何をどう考えようが、それがあっているかどうかは、永遠に分からないのだから。


「……さて、そろそろ時間だ。私は行くとする」


 唐突にベリアルがそんな事を言い出した。


「行くって……どこか当てはあるんですか?」

「何、これでも昔は勇者と共に旅をしていた身だ。旅の心得くらいは知っている」

「でも、体は……」

「体など当の昔に治っている。心配されることはない」

「でも……」


 と、まだ何か言いたげなシナンだったが、それ以上言葉が見つからず、黙ってしまった。

 そんなシナンを見て、ベリアルは微笑む。


「似ている」

「え?」

「似ているのだよ。君と私の友であった勇者は。彼は私が怪我をした時も、私が自分を置いていけと言った時もそんな顔をして駄々を捏ねていたよ」


 その表情はまるで、楽しかった昔の日々を思い出すような、そんな顔だった。


「……私には、君が何故勇者に選ばれたのか、分かるような気がする」

「え、それは、どういう……」


 と戸惑うシナンをよそに、ベリアルはベルセルクの方を向いた。


「……勇者の師匠、か。大変な役目をしょってしまったな」

「全くだ。今にでもやめたい気分だ」


 半分本気でいったベルセルクだが、それを聞いて「ええっ!?」とうろたえるシナンを見て、苦笑する。


「が、やってやると言っちまったからな。面倒だが、やるしかないだろう」

「ハハハッ、何ともやる気のない師匠殿だ」

「勝手にほざいてろ、クソジジイ」


 皮肉気に言ったベルセルクの言葉を、ベリアルは苦笑で返した。


「最後に君たちに会えてよかった。君らの旅に幸運を祈るよ」

「はい。ベリアルさんもお気をつけて」


 シナンのその真っ直ぐな言葉にベリアルは


「ありがとう」


 そう言った。

 そして、ベリアル・グロッサンはこの街から出て行った。


 *


 カランカラン。

 鈴の音と共に、酒場のドアが開かれる。


「いらっしゃ……ああ、何だ、ベルか」

「何だとは何だ。客だぞこっちは」

「細かいこといちいち言いなさんな。男が廃るよ?」


 へいへい、とベルセルクは適当に応えると、空いている席に座る。


「で? 今日は何がいるんだい?」

「美味い酒を。高くても良い」

「あら? どうしたんだい、珍しい。アンタが高い酒を頼むなんて」

「まぁな。今日でこの街ともお別れだからな。思い出作りってやつだ」


 瞬間、マティは目を見開いたが、すぐに元に戻った。


「……もう行くのかい」

「ああ。目的のもんが手に入ったからな。この街にいる理由がねぇ」

「そうかい……」


 その言葉には、どこか寂しげなものが含まれていたような気がした。

 しかし、ベルセルクはあえて、それを知らん振りをする。それを追求する気はないし、したとしてもあまり気は乗らないと思ったからだ。

 少しの沈黙の後、最初に口を開いたのはマティの方だった。


「ねぇ。あの子はどうなった?」

「あの子?……ああ、シナンか。まだ俺のトコにいる」

「へぇ。じゃあ、真面目にあの子の師匠になる気になったわけだ」

「まぁな。あれほどしつこくやってきたら、相手してやるほうが楽だって気づいただけだ」

「ふ~ん……」


 マティは意味深いような声を出す。


「……なんだよ、その気色悪い笑みと声は」

「いんや、べっつに~。ただ、アンタ何だかちょっと変わったような気がしてね」

「変わった? どこが?」

「何か、楽しそう」


 言われて、一瞬はっ? となった。

 楽しそう? この俺が、戦い以外の事で楽しそうだと?

 ベルセルクはまさか、と思う。傍若無人、我侭で愚か者。戦いのなかでしか生きていけない様な人間であるベルセルクが、他人の事で楽しくなるは、確かに変わったと言えよう。

 それは、ベルセルクらしくないものであった。

 しかし、それがまんざら嫌でもないと思う気持ちがどこかにあるのを感じた。


「確かに、変わったのかもな」


 ベルセルクは、出された酒を一気に飲む。喉が熱くなるが、しかし、口の中には満たされた感じがした。

 やはり、高い酒は美味い。

 もう一杯、と頼もうとしたとき、

 バタン、と酒場のドアが一気に開かれた。


「見つけましたよ、師匠!!」


 デジャヴ、という言葉は今このときに使うのが最もだとベルセルクは思った。

 ベルセルクは、ため息をつきながら、そちらの方を向く。


「なんだよ、シナン。人がせっかく良い酒を飲んでるって言うのに」

「なんだよじゃありません!! もう出発の時間なのに、何のん気にお酒飲んでるですか、まだ朝だって言うのに」

「朝酒は、気付けにいいんだ」

「聞いたことありませんよ、そんな話。とにかく、今すぐ行きますよ」

「待て、もう一杯飲んでからでも遅くはないだろ?」


 とベルセルクは言うが、


「ダメです、師匠は日ごろからお酒を飲みすぎます。ですから、本日よりお酒の制限をさせてもらいます」

「なっ!? おまな……」

「前にも言いましたが、アルコールは飲みすぎると体に悪いんです。師匠は明らかに飲みすぎなんですから、制限するのは当たり前です」


 堂々と胸(小さい)を張って、言うシナンにベルセルクは何も言い返せなかった。

 それを見たマティは


「それじゃあ、もう飲んじゃだめって事だね」


 と言って、ベルセルクが持っていたコップを取り上げる。

 なっ、と思ったベルセルクだが、数秒後にはぁ、とため息をついた。


「ったく、本当に面倒な奴をかかえこんじまった」


 などと言いながら、ベルセルクは懐から金を出し、勘定を机の上に置いた。


「じゃあな、マティ」


 そう言って、ベルセルクは酒場を出ようとする。


「ベル」


 ドアから出ようとした時、マティがベルセルクを呼び止めた。

 ベルセルクは振り返り、マティの顔を見た。

 そこには、いつものように、活気のある笑顔があった。


「この街に来たら、また寄ってきなよ」


 その言葉に、ベルセルクは、


「ああ」


 同じく、いつものようなシニカルな笑みで、返したのだった。


 *


「さて、と」


 ベルセルクとシナン、そしてリッドウェイはすでに街の外に出ていた。

 三人は街道を歩きながらも、今後の事を話し合っていた。


「コンパスの指す方向はこっちであってんのか?」

「はい。確かに、こっちの方角を指してます」


 シナンは懐からコンパスを出し、確認する。


「にしても、魔王の居場所が分かるコンパスですかぁ。何か、めっちゃ便利なように聞こえますね」

「はい、もうこれで、道を迷う事はないですしね」

「後は、魔王を倒すだけ、ですね」


 楽観的に言うリッドウェイに対し、ベルセルクは呆れたような口ぶりで言う。


「何が後は魔王を倒すだけだよ。この馬鹿が魔王を倒せるわけねぇだろ。天変地異が起こっても、そんな事は起こらねぇよ」

「天変地異って、またそれは言いすぎじゃないですか? 師匠」

「それを自覚できてない時点で、お前の勝ち目はねぇよ、馬鹿弟子」

「ば、馬鹿って、何か、最近師匠は僕にそればっか言ってますけど、僕は馬鹿じゃありません!」

「それすらも自覚できてないお前は、救いようがねぇよ」


 と、ベルセルクは切って捨てた。

 それに対してシナンは横から何やら抗議してくるが、ベルセルクはそれを相手にしようとはしない。

 ベルセルクが、またもやため息を出すと、


「でも、強くするんでしょう? ダンナ」


 唐突に、リッドウェイがそんな事を言い出した。

 すると、ベルセルクは難しい顔になった。

 確かに言った。フェンリルとの戦いの中、どうしてだか自分はそんな馬鹿げた事を言ってしまった。時と場合、そしノリで言ってしまった。全くもって、面倒な事で、普通ならこんな事などしはしない。本当はするつもりはなかった。

 分かっている。本来なら、もっとマシな奴がするべき事などくらいは。渋くてしかし、どことなくカッコイイ奴とか、楽観的でしかしてどこか人の事を分かってやれるような奴がするべきものだというくらいは。

 しかし、生憎とシナンはそういう人間ではなく、ベルセルクという男を選んでしまった。

 愚か者で、まともな人間とはいえない、ベルセルクを。

 その事に関して、何かを感じたからこそ、ベルセルクはあのような言葉を言ってしまったのかもしれない。

 だが、何故だか後悔はしていない。

 嫌だ嫌だと言いながらも、どうしてだか、本当にやりたくはないと心からは思えない。

 これが、何かはベルセルクには分からない。分からないが、別段嫌悪感を感じるものではないのは確かだった。

 だから、


「当たり前だ」


 面倒臭そうにも、そう応える事ができたのかもしれない。

どうも、新嶋です。


今回、この「勇者の師匠」を読んで頂いて誠にありがとうございます。


本作品は、自分が電撃文庫に送ろうかな、と考えた作品です。どうして送らなかったのかと言うと、不安があったからです。

この作品の、どこが悪いのか、あるいは、どこが良いのか、書いている自分には分かる所もあれば、分からない所もあると思ったからです。そんな事を言ってしまっては作品なんて出せないじゃないか、と思われるかもしれませんが、全くもって、その通りです。

この、自信のないダメダメ作者のためとは言いませんが、もしよければ、良い点、悪い点を感想やメールで書いてくだされば、幸いだと思います。


ここで、終わるのも何なので、この小説を書こうと思ったきっかけを話したいと思います。

そもそも、自分は勇者ものがあまり好きではありませんでした。特に、主人公がハーレムを作って女子に囲まれるのが、どうもむぅ? と感じてなりません。そういうキャラも別にいいのですけど、どうせなら、別のキャラを書きたかったんです。逆に、主人公ではないけれど、主人公を支えるサブキャラの存在が大好きなんです。特に、主人公の師匠的な存在がとても大きく見えていました。だから、そういうキャラの物語を書きたいとずっと思っていました。その思いから、この作品は生まれたと言っても過言ではありません。


こんな、我侭作者ですが、今後ともお付き合い願えたら良いと思っております。


一応、一章は完結としておりますが、続きます。しかし、受験生ともあって、更新はかなり遅れると思いますので、もし、「この小説は○○ヶ月更新されてません」と出ても、放っている訳ではありませんので、あしからず(ついでに、二次の方も同じく放ってはおりません)


長々と書いてしまいましたが、ここら辺で終わらせてもらいます。


それでは!!

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