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勇者の師匠  作者: 新嶋紀陽
第一章
12/74

11

 目覚めた時は、既に日は昇っていた。

 それを確認したのは、見回りに行ったベルセルクであった。

 シナンはもうすっかり元気になっており、体ももう大丈夫なようだ。一応様子見でもう一日休むか? とベルセルクが冗談半分で聞いたが、


「師匠の意地悪っ!」


 と怒られてしまった。

 まぁそれだけ元気になったという事なのだが。

 二人は洞窟を進んでいた。ベルセルクが昨日こっそり調べて分かったのだが、この森にはここ以外の洞窟がない。故に、ここが例の洞窟だというベルセルクの勘は正しかった。

 二人は焚き火から作った松明を片手に洞窟の奥へと進んでいく。

 正確に言えば、シナンが前でその後ろにベルセルクが付いていくような形だった。別にこの形に意味はないのだが、あえて言えばシナンが未だに昨日の事を気にしている、というのが原因といえば原因だ。しかし、ベルセルクにとってはそれほど大した事ではないのだが。

 奥へ奥へと進んでいくと同時に、暗さもまた増していくような気がする。実際はそんなわけがないのだが、何故だかそういう気がしてならないのだ。今は松明があるため大丈夫なのだが、それでも数メートルがせいぜいだ。いつ魔物が目の前に現れてもおかしくはない。そのため、シナンはかなり緊張した様子で足を運んでいた。

 一方のベルセルクはいつもと変わらない……と思っていると、そうでもなかった。どうも先ほどから眉間に皺を寄せ、難しい顔をしている。何かが気になる、と言わんばかりな表情だ。

 ベルセルクにとって、洞窟というのはそれほど珍しいものではない。魔物退治や盗賊退治などで何度も見ている。

 しかし、どうもこの洞窟はおかしいとしかいえない雰囲気だった。

 二人はもうかなりの距離を歩いているが、未だに魔物に出くわさない。昨日の森ではあれだけ多くのゴブリンが現れたというのに。普通、森の中に魔物がいれば、洞窟の中にもいるのがセオリーだ。だが、魔物どころか、洞窟で定番の蝙蝠すら、その姿を現さない。

 何かおかしい、とベルセルクが思っていると。

 突然、何かにぶつかったような衝撃に襲われた。


「っ!?」


 ベルセルクは何だ? と思いながらその足を止めた。

 松明を前に掲げ、前方を確かめる。しかし、そこには何もなかった。


「? どうしたんですか、師匠」


 足を止めたベルセルクを不思議に思ったシナンは振り返り、ベルセルクの方へ戻ろうとする。

 が、その途中でシナンが壁にぶつかったような現象が起こった。


「なっ!?」

 

 シナンは片目を瞑り、驚きを露にした。

 シナンとベルセルクの間には、何もない。しかし、確かにそこには壁のようなものが二人の間を遮っていた。

 一体何が起こったのだろうか。


「これは……」

「見えない壁……結界か?」

「まさか……結界は魔法の一種ですよ? 魔法がなくなったこの世界で使える人なんていませんよ」


 魔法。

 それは、失われた力の一つだ。

 かつて、この世界は魔法で潤っていた。世界中の人々が魔法を使い、魔法で利益を得て、生活をしていたらしい。

 らしい、と言う事から分かるように、もうこの世界には魔法が存在しない。

 何百年も前の話。とある魔法使いが世界を破壊しようと企んだ。何故そのような事をしたのか、その動機は誰にも分からなかったが、その魔法使いを倒すために世界中の人間が魔力を集い、魔法をこの世からなくすという代償と共にその魔法使いを倒すことが出来たのだ。

 それから誰も魔法を使う事はできなくなった。しかし、例外が存在する。魔装と呼ばれる、魔法の武器だ。それには未だに魔力が残っており、才能があるものが手に取れば、魔法を使う事が出来る。

 ただ、その魔装はかなり貴重なもので、数は世界でも百もないだろう。さらに、その殆どが王宮にあったりするはずなので、ただの一般人が持っている事はほとんどあり得ない。

 ベルセルクが考えにふけていると、シナンがこんな事を言い出した。


「何か、臭いません?」

「臭い?」


 言われてベルセルクも臭いを嗅いでみた。確かに変な臭いがする。しかし、ベルセルクはそれを嗅いだ事があるような気がした。

 まさか、これは……とベルセルクがつぶやいた時。

 ガチャ……ガチャ……。

 突然と、妙な金属音がした。

 奥のほうから、何かがやってくる。

 そう感じ取ったシナンは恐る恐る松明を前に掲げ、その正体を見ようとした。

 それは、騎士の姿をしていた。銀色の鎧に、それ同じ色の甲冑。右手には鋭い剣を、そして左手には大きな盾を携えていた。

 騎士は、シナンから十メートル離れたところで、足を止めた。


「……汝は、勇者か?」


 低く、すこしどもった男の声だった。

 シナンは騎士の問いに答える。


「そう……ですけど」


 言いながらも警戒は解かない。ゆっくりと右手を剣の柄に持っていき、いつでも抜ける状態になった。

 少し間を置いて、騎士が口を開く。


「ならば、それを証明してみよ」


 瞬間、ボワッと炎が走った。と思うと先程まで暗くて見えなかった周りの松明に次々と火が灯る。いきなり明るくなったせいか、二人は一瞬目を閉じてから、序々に目を慣らしていく。

 そして見えてくる、周りの状況。

 そこにあったのは、人間の死体だった。


「ひっ……!?」


 シナンは思わず、声を漏らす。

 数はおよそ、五、六程度。誰も彼もが片手に剣を持っている。完全に骨になっているものから、未だに肉を残し、残酷な姿になっている者までいた。先程から何か変な匂いがすると感じていたのは、彼らの匂いだったのか。

 


「これは……」

「言うまでもないだろ。ここにコンパスを取りに来た勇者だ」

「えっ……!?」


 と驚くシナンだが、ベルセルクにとっては、これは予想の範囲内だった。

 誰も彼もが帰ってこない。この場合、考えられるのは逃げたか殺されたかのどちらかだ。そして、彼らは勇者だ。仮にも勇者なら、逃げるという判断はしないだろう。まぁ、全員が全員そうだとは断言できないが、恐らく逃げる事はできなかったのではないかとベルセルクは思う。

 その理由が、この結界だ。どうやらこれは勇者だけが入れるようになっているようだ。さらには勇者も入ることは出来るが、勝手に出る事はできないという仕組みになっている。いやはや何とも面倒なものを作ってくれたものだ。


「抜け。小さき勇者よ。でなければ、そこに倒れている奴らの仲間になるぞ」


 剣を構える騎士。どうやら話し合いという平和的解決は望めないようだ。

 シナンは未だに戸惑っている様子だ。まぁ突然にもほどがある展開だが、勇者であるならば、いや、剣士であるならば、いかなる状況にも対応できなければならないのは常識だ。

 見かねたベルセルクが、見えない壁越しからシナンを一喝する。


「おいっ、ぼさっとするな、お前も早く剣を抜けっ!」

「で、でも僕達は戦いに来た訳じゃ……」

「馬鹿かっ! 向こうはもう戦う気だ。どう考えたって、戦わない道はないだろうが」

「で、でも……」

「っ!? 来るぞ!!」


 ベルセルクが言うが早いか、騎士はシナンに向かって斬りかかってきた。それに対して、シナンはとっさに剣を抜き、一撃を受け止める。

 キィィイインッと甲高い音が洞窟中に響き渡る。

 重い。シナンは正直にそう思った。自分の一撃よりもはるかに思いものだ。受けている剣を伝って、衝撃がシナンの右手に伝わっていた。

 シナンは何とか騎士を押し返した。騎士は軽々と後ろへ飛びながら、距離を取る。

 シナンは自分の右手が痺れている事に気がついた。それほど、相手の一撃が大きいと言う事だ。それは、見ているベルセルクにも分かるほどの。 


「この人、強いです」

「ああ。少なくとも、お前よりは格段に上だ」


 これは、皮肉の類ではなく事実だ。あの一撃をまともに食らえば、ベルセルクとて、ただでは済まないだろう。

 今までの雑魚魔物よりも、はるか上をいっている。

 恐らくこの腕なら、魔物の五十や百など余裕で殺せるはずだ。それだけの実力を、あの騎士からは感じられた。

 このままでは、シナンは確実にやられる。

 そう思ったベルセルクは、ふとこんな事を思った。

 ここで、こいつが死ねば自分は解放されるんじゃないだろうか?

 事実、今この場でシナンが死ねば、ベルセルクはシナンの師匠をしなくてすむようになる。そして、前のように、ひたすら戦場に何かを求める戦いを繰り返す日々が始められる。

 どちらが自分にとって良いのかは、すぐに分かる事だ。

 面倒臭い日々だった。ベルセルク自身もそう言っていたし、そう思っていた。何で俺がこんな事をと思ったのはもう何度もあった。

 同じ人間を三回も助けるという似合わない事までして。

 そんな事からようやく開放される。

 そう思えば、そう考えれば、ベルセルクがやるべき事は明白だ。

 シナンを置いて、自分はこの場から去る。それさえすれば、何もかも、元通りになる。

 だが……ベルセルクはそれをあえて蹴る。

 誰かを置いて逃げ去る。そんな事をベルセルクは許さない。それは、逃げの道だ。そんなものは自分にはもっと似合わないし、やりたくもない。

 確かに逃げる時が最良の場合はある。しかし、それはまた別の話だ。ベルセルクが今、この場から去る事はただの負け犬のやり方だ。

 そして、ベルセルクは負け犬が大嫌いなのだ。


「シナン」


 ベルセルクは面倒臭そうにシナンを呼ぶ。

 それは、ベルセルクが初めてシナンの名前を呼んだ瞬間であった。

 突然自分の名前を呼ばれて動揺したシナンだったが、すぐさまベルセルクの方へ目を向かせる。


「お前は、あいつに勝ちたいか?」

「え……?」

「お前はあいつに勝って、生き残りたいのかって聞いてんだよ」


 何度も言わせるな、と言わんばかりな表情だった。


「いいか、ここから出るにはあいつを倒すしか方法はない。もしお前が今すぐ死にたいのなら別に構わない。自分の好きなようにしろ。俺は困らないからな。だが、勝って生き残りたいのなら、本当の勇者になりたいのなら、俺の言うとおりにしろ」


 いつもなら、やる気のなさそうな師匠が今日は断然と真剣な眼差しになっている事に、シナンは気づいていた。そして、それが本気である事の証明だとも理解した。

 数拍の間を空けてからシナンは、


「お願いします」


 と答えた。


「ハッ、いい返事だ」


 ベルセルクはシニカルな笑みを見せた。それは、いつものような人を見下すようなものではなく、上等だと言いたげな、そんなものだった。

 ベルセルクは真剣な表情に戻り、シナンに指示する。

  

「とにかく今は奴の動きを探るのが先決だ。とりあえず、適当に斬りあってみろ」

「て、適当にってそんな……」


 などとベルセルク達が話しあっている間にも、騎士は攻撃をしかけてきた。

 

「っ!?」


 シナンは反射的にそれを受ける。

 しかし、先程と同じように、衝撃が剣を通して伝わってくる。


「馬鹿、さっきと同じ事してどうするっ!」

「す、すみませんっ!?」


 シナンは謝りながらも、騎士の剣をどうに弾き返した。騎士は連撃に入るかと思いきや、また後ろへと下がる。どうやら様子見の一撃だったらしい。

 シナンは息を吐き、呼吸を整える。

 そして、鋭い目つきで騎士を見る。

 その瞬間、騎士の動きが一瞬止まった。まるで、シナンの雰囲気が変わったのを受け取ったかのように。

 シナンは剣を構え、そして斬り込む。

 相変わらずの速さだったが、騎士はその一撃を左手の盾で軽々と受け止める。そしてそのまま盾を使ってシナンを押し返し、体勢が崩れた所を右手の剣で斬る。しかし、シナン崩れた体勢のまま一歩後ろへと退き、避ける。そして、体勢を整えるために、もう一歩後ろへと下がり、間合いを取る。

 今ので騎士の大体の攻撃パターンが読めた。あの騎士は基本に忠実だ。相手の攻撃を左手の盾で防ぎ、その隙に右手の剣で攻撃する。ありきたりなパターンだが、この騎士には無駄がない。故に効率よく攻撃が入るのだろう。

 シナンはもう一度斬りかかって行く。今度は連撃だ。なるほど、防御ばかりをさせ、攻撃に手が回らないようにする作戦なのだろう。その思惑通りか、騎士はシナンの攻撃を盾で防いでばかりいる。これは効果があったかもしれない。しかし、そう甘くはなかった。連撃の攻撃と攻撃の一瞬の間に、騎士は盾を前へと突き出す。そのせいで、距離感が取れなくなり連撃が崩れる。その隙をまたもや右手の剣で突く。

 危うく諸に食らう所だったシナンだが、とっさに剣で守ったおかげで、剣の軌道が反れ何とかしのげた。そして、先程と同じように、距離を取った。

 どうやらあの騎士は盾をただの守りにだけ使うのではなく、敵の攻撃を崩すのにも使うらしい。確かにそうする事によって、防戦一方になる確率は減り、戦いを有利にもっていく事が出来る。

 盾と剣。その両方をちゃんとした「武器」として扱っている騎士はまるで二刀流だ。シナンがまともにやって、敵う相手ではない。

 ならば、とベルセルクは、


「おい、シナン、ちょっと耳貸せ」


 とシナンにある事を吹き込んだ。

 すると、シナンは目を丸くした。


「出来るか?」

「多分、出来るとは思いますけど……それで通用するでしょうか?」

「ものは試しだ、とにかくやれ」


 またそんな事言って……と無責任な師匠の台詞に、しかしシナンは従う。何せ、それが自分が唯一助かる方法なのだから。

 シナンは腰を低くし、構える。いかにも斬り込むぞ、と言わんばかりな気配を漂わせて。

 そして、その通りにシナンは三度目の斬り込みに入った。

 騎士はまたかと思いながらも、盾を前に突き出す。

 だが、それは罠だった。

 突然と、シナンの姿がなくなったのだ。

 正確に言うなら、シナンの姿はなくなったのではない。騎士の視界から外れたのだ。騎士が盾を前に突き出す瞬間に、跳躍と利用し騎士の真上を跳ぶと言う行動によって。

 騎士がその事に気づいた時には、すでにシナンは騎士の後ろをとっていた。

 そう。シナンが最初に斬り込んだのはわざとだ。そうする事によって、騎士が盾を前に突き出すとベルセルクは説明した。一度目と二度目の両方とも、騎士は剣で応戦することなく、まずは盾で防いでから隙を作り、攻撃を与えるというものだった。ベルセルクはそこを突いた。その盾を防ぐ時は、攻撃態勢に入っておらず、前に対しては完璧な防御が出来る。が、逆に言えば、後ろはがら空きなのだ。何せ前に集中しているため、後ろまでには気が配れないのは当然だ。

 騎士は振り返って防御に入ろうとするが、もう遅い。


「はぁっ!!」


 シナンの渾身の一撃が、騎士の背中を捕らえる。

 ガギィンッ!! という物凄い金属音。剣と鎧がぶつかりあった音なのだろうが、ダメージはどちらにあったのかは言うまでもない。

 騎士はそのまま前のめりになり倒れていく。

 ……はずだった。

 

 ガシャン。


 騎士はあと一歩という所で足を前に出し、体を保った。


「なっ!?」

「ちっ……、」


 決まったと思った一撃を受けられて尚立っている騎士にシナンは驚き、ベルセルクは舌打ちをする。シナンはおろか、ベルセルクでさえ今の一撃は確実に入ったと思っていた。

 騎士はゆっくりとシナンの方を向いた。

 シナンは剣を構え、次の攻撃に備える。

 しかし、それは杞憂に終わる。


「……良い一撃であった。よもや、このような小さき者に一撃を食らうとは」


 突然と、騎士が口を開いた。


「汝は……女子だな?」


 言い当てられ、シナンは驚く。


「どうして……」

「太刀筋と身のこなしで大体分かった。男が使う剣術とは少し違ったような気がしたのでな」


 言いながら、騎士は武器を手放す。

 何の真似だ、とシナンが問う前に騎士が答える。


「もう我と汝が戦う必要はなくなった。我に一撃を与えた事により、汝が勇者である事が認められたのだから」

「僕が……勇者と認められた?」

「左様。我はコンパスの番人。真の勇者にそのコンパスを授ける者なり。ここを訪ねて来たものが勇者に足る人物かどうかを見極めるのが、我の使命だ」

「見極めるって……じゃあ、この周りの人たちは……」

「……残念ながら、勇者に足る実力がなかった者達だ」


 騎士は周りの骸を見て、言う。

 それに対してシナンは不機嫌な口調で反論する。


「……いくら使命のためとはいえ、人の命を奪うのは良くないと思います」

「うむ。そうだな。我もそう思う。だが、それがここのしきたりであり、決め事だ。それに反する事は我自身にも出来ない……しかし、汝のおかげでその必要もなくなった」


 騎士はシナンに近づき、右手を差し出す。そこには、丸い形をした黒いものがあった。

 コンパスだ。


「これでようやく、深い眠りにつけるようだ。感謝する、小さき勇者よ」


 コンパスをシナンに渡すと、騎士はベルセルクの方を向いた。


「……汝は何者だ? 勇者の従士か?」

「はぁ? 俺がこいつの従士? ハッ、笑える冗談だ」

「では、何だ?」

「俺は……」


 言いかけて、ベルセルクの口が一瞬止まった。ちらりとシナンがこちらを見ていたのに気がついたのだ。

 数拍の時が流れ、ベルセルクはいつものように面倒臭そうに答えた。


「俺は、ただの師匠だ」


 言った。確かに言った。

 その言葉を聞いたシナンは満面の笑みを浮かべており、ベルセルクはなんとも言えない顔つきになっていた。

 騎士は「ふむ、そうか」と一言言うと、片手を上げた。


「では、小さき勇者とその師よ。汝らの旅に神の加護があらん事を」


 言うが早いか、騎士の体は光に包まれていった。

 二人とも、一瞬目をつぶった。そのたった一瞬で騎士の姿は消え、後には何も残っていなかった。


「……消えちゃいましたね」

「そうだな」


 あまりにもさっぱりした退場だった。

 ベルセルクは手を前に出す。もうそこには見えない壁はなくなっていた。どうやらあの騎士がいなくなった事で消滅したらしいが、原因は分からずじまいだった。

 シナンは手にしたコンパスを見つめた。別段変わったところはない……と思っていると、何やら妙な事を発見した。


「あれ……?」

「ん? どうした?」

「このコンパス、北を指してないんです」


 そう。中の磁石の部分が北や南ではない、全く別の 場所を指していたのだ。

 そんなシナンの疑問にベルセルクは適当に返す。


「長らく洞窟の中にあったせいで、いかれちまったんじゃねぇのか?」

「そんな……」

「まぁ、何にせよ、コンパスを手に入れるっていう依頼は果たした。さっさと街に戻るぞ」


 と、ベルセルクは言い出口へと歩き出す。


「あ、待ってくださいよ、師匠っ!」


 その後ろをシナンは追いかける。

 こうして、騎士との激しい戦いを終えた二人は街へと戻る事にした。

 その街で、何が待っているのかを知らずに。

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