第二話 筋肉、城へ招かれる
「なんでこんなふざけたもん書いたんだ?」
「適当なもんが死ぬほど書きたかったんだよ本編はあまりおふざけ出来てねえやってられっか!」
「筆休めに筆を執るなんておかしな話だねぇ」
テンプレに遭遇しつつも、特段面倒も無くグローサムは王都についた。街並みはまあ異世界ものによくあるルネサンス建築の街並みと言ったところだろう。上半身が裸であるせいで視線を集めているが、彼はまったく気にしていない。ミザリーは少し頭を抱えつつ先導している。恐らく彼のことをどう言ったものかと考えているのだろう。なんせ紹介するにしても困るような男なのだから当然だ。まあ今の状態は筋肉モリモリマッチョマンの変態としか言えないだろうが。
「マッチョはともかく、変態とは失礼ですね」
「だから誰に話しかけているんだ?」
私の姿は他の人…いや、君にも見えていないんだから話しかけないでくれ。今の君は虚空に話しかける変人だぞ。
「ああ、そうでしたね」
「なにがそうなのか分からないんだが・・・とにかく、まずは服を買いに行くぞ!」
彼女には悪いが、やっぱりツッコミ役が増えると負担が減って楽だ。
・・・何故か上半身裸のまま王城についてしまった。どうして服を着ていないのか全くもって分からない。
「ミザリー様、いいんですか?こんな男を入れて」
「上に何も着ていないのは許してくれ、体格のせいで合う服が無かったんだ」
なるほど、そりゃあ何も着てないわけだ。
「それじゃあ門を開けますね」
「ちょっと待ってください、手で押して開くわけが…」
まあ当然のツッコミだが、相手がこの男では何の意味もない。彼は西部劇でウェスタンドアを開けるガンマンのように、巨大な城門を軽々と開けて行った。兵士たちは目の前の光景に唖然としたままだ。
「…今更だが、ここまでくると人間かどうかも疑わしいな」
「そんな、私は人間です。信じてください」
その言葉はドラゴンのブレスを受けて平然としていた時点で説得力は欠片ほども失われている。
その後も兵士や給仕の視線を受けつつ、やっと謁見の間に到着した。玉座には白髪でひげを蓄えた老齢の王が座っているが、グローサムを見て目を丸くしていた。王の御前でこんな格好をしたやつが入ってきたらまあそうなるだろう。
「父上、ただいま帰りました」
「・・・まずはよく戻った。騎士隊が壊滅したと聞いて気が気でならなかった」
「申し訳ありません」
「よい、こうして儂に顔を見せてくれたのだからな。して…」
王がグローサムの方を見る。三回くらい目をそらしたのは気のせいだろうか。まあ気持ちは分からんでもない。王がどう切り出したものかと思案している様子など気にも留めないかの如く、彼は自己紹介を始めた。
「ああ失礼、私はジェフ・グローサムと言います。よろしくお願いします」
「あ、ああ、そうか…ミザリー、近う寄れ」
「は、はい」
王はミザリーを自分の近くによらせてひそひそ話を始めた。
「なんじゃあの男は?何故上半身裸であんなににこやかにできる?」
「私にも分かりませんよ。プロレスラーとか何とか訳の分からないこと言ってましたし、突然虚空に向かって話しかけるしで危険な男だと思いはするんですけど…」
「そんな男、普通なら医者に診せるか投獄するかではないか?何故よりにもよって儂の前に出した?」
「竜を投げ飛ばすような男に枷や鉄格子なんて無駄に決まってるじゃないですか」
聞き取れただけでもこんな会話をしていた。気持ちは分からんでもないが失礼過ぎる。
「ほほう!そんなことを!」
「なんじゃいきなり!?」
こちらの声は本来誰にも聞こえてないんだから話しかけるんじゃない。返事もいらん。おい、ちょっと待て、どこに行く。待てコラ。
「むう…よく分からんが、とりあえず丁重にもてなそう…って居ない!?」
「えぇっ!?」
ウオォォォォォォリャアァァァァァ!!!(脱走)