第3話 ご飯を食べに行った
引っ越しの作業を終え、時間は午後8時を過ぎていた。
いくら物が少ないといえども流石に時間はかかってしまった。
程よい疲労感を感じつつソファーに腰かけていると、玄関からノックの音が聞こえた。
「おーいちょっと遅いけどご飯行くぞー」
無駄にでかい父さんの声が響く。
「インターホン使えよ。」
呆れたような視線を送ると、まあいいじゃないかと言わんばかりに肩をバシバシと叩いてくる。
引っ越しの後にご飯を作るのはしんどいだろうという父の提案で今日の夜は外食にするらしい。
「結奈呼んでくる。」
部屋で荷ほどきをしている結奈を呼びに行く。
「ご飯行くらしいよ。」
「りょーかい。ちょっと待ってて。」
ほどなくして制服から着替えた結奈が部屋から出て来る。
「そのも服似合ってるな。」
「翔ちゃんは何着ても似合ってるって言ってくれるから服選びが楽でいいよ。」
結奈はへらへらと笑いながら靴を履く。
別に適当に似合ってると言ってるわけではない。
結奈の容姿は客観的に見ても整っているので、何を着ても似合うというのは当然とも言える。
翔太も靴を履いて家を出ると、ちょうど父さんたちも廊下に出てくる。
「よしみんな揃ったな。じゃあ行くか。」
父さんがみんなの顔を見渡して確認する。
どこに行くのか聞いてなかったので、父さんに聞いてみるとしゃぶしゃぶに行くことになっていたらしい。
理由を聞いてみると、みんなで同じ鍋を突くのって家族感あるからとか言うふざけたものだった。
まあ、大人っぽいという理由だけでコーヒーを飲んでいた翔太が言えたことではないが……
まだ涼しいが季節は夏を迎えようとしている。
そんな時期にわざわざ鍋を食べるなんて少しおかしな気もしたが、きっと父さんの夢だったのだろう。
そんなことを考えているうちに店に着いた。
高級店とまでは行かないが、チェーン店では高い部類に入る店だ。
せっかくのお祝いの席なので父さんも奮発したのだろう。
さて、こういった対面式の席では誰と隣に座るかで少し揉めたりすることがある。
だがこの場に限ってはそんな心配は必要なかった。
なぜなら父さんたちが隣り同士に座ったからだ。
翔太と結奈にはそもそも選択権などなかった。
幼馴染とはいえ思春期の男女なのだから少しぐらい配慮してくれてもいいと思うが、新婚の父さんたちにはそんなことは瑣末なことだった。
それから翔太たちは食事を存分に楽しんだ。
途中出汁が父さんの目に入るというアクシデントもあったが、いろんなことを話し、これからのこともたくさん話した。
楽しい時間はあっという間だ。
こんな楽しい時間と暮らしがこれから始まるのだと思うと、少し嬉しくなってくる。
「楽しかったね〜」
「それご飯のあとの感想としておかしくない?」
思わず結奈の言葉につっこみを入れてしまう。
「かもね〜」
そう言って結奈は笑う。
こんな楽しい時間と暮らしがこれから始まる。
その事実が嬉しかった。
そんな思いを胸に、二人の新しい家に帰るのだった。