1. 「魔王の卵」
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「ぐへへへ、コレで俺の貯金増えるぜ。」
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こんにちは、俺の名はタケシ。名家の息子として産まれた俺は、最弱冒険者ながら親のコネで勇者のパーティに加入させて貰いました。
俺は戦いません。だって怖いし。
だから、戦闘はいつも勇者たちに任せて、俺はパーティの資金の管理をしていました。
そんな俺は、パーティのお金をよくこっそりと盗んでいました。
「ぐへへへ、コレで俺の貯金増えるぜ。」
盗んだ理由は特にありません、強いていえばお金が好きだからです。
そんなある日、いつものようにお金をネコババしていると……
「ヒャッホー! たーのしー!」
――ガサガサ……ガサガサ……
何やら足音が聞こえる。少しずつ大きくなっていく。
「……おい、タケシ。お前そこで何してるんだ?」
勇者であった。
「べ、別にー? ジャンケンしてただけだけどー?」
「1人で、か?」
「お、俺の趣味はジャンケンなんだ! バカにするな!」
「まぁ良い。しかし、その手に握っている金はなんだ?」
「………………。」
「なぁ、タケシ。何故だか分からないが、ウチのパーティの資金が少なすぎるんだよね。魔王もこの前倒したばかりで、莫大な報酬を貰ったはずなんだけどな……。お前、何か知らないか?」
「………………。」
「……タケシ。俺は、お前が戦うのが怖いというから、サポート役にもさせずにお金の管理だけを任せていたんだ。」
「………………。」
「実は知っていたんだ、お前がパーティの資金をネコババしていたのは。お前と俺たちの取り分は、9:1なんだってな。」
「………………。」
「今日をもってお前をパーティから追放する、タケシ。お前のお金を全て取り上げる気は無い。ちゃんと人数分で資金を割って、お前の分を持って行ってくれ。」
「………………。」
「……今までありがとう、タケシ。」
勇者が去る。タケシの元を去る勇者の背中には、何処か寂しさが垣間見えた。
――数刻後。
「くそー! なんで俺が追放なんだよォ……ネコババくらい許してくれよォ……」
俺は家でステーキを食べながら号泣する。
すると、親父が何やら神妙な顔で近づいて来た。
「おい、タケシ。お前はもう大人だ。勇者様のパーティにも推薦してやったというのに、パーティの資金を横領していたとは……恥を知れ!」
――パチィん!
高い音が鳴る。
親父に平手打ちをされたのだ。
「タケシ。お前とは親子の縁を切らせてもらう。これからは自分の力で生きていくんだ。」
涙ながらに親父が話す。
「これは、餞別だ。我が家に代々伝わる、魔王さえも断ち切ると言われる家宝の剣だ。持って行ってくれ。あ、あとお金もいっぱい持って行って――」
涙ながらに寂しそうに話す親父の言葉を遮り、俺は叫ぶ。
「もういいよ、こんな家出て行ってやる!」
そう言い、家を飛び出した。
餞別の剣だけはちゃっかり手に取って。
「た、タケシぃ! 待ってくれー!」
親父はガクッと腰を落とし、号泣した。
そうして家を飛び出した俺は、道も分からず魔物がウジャウジャいる森の中で体育座りをしていた。
「うぅ……なんで俺がこんな目に……。
パーティのお金をネコババしたり、美人なパーティメンバーをエロい目で舐め回すように見てたり、モテまくる勇者に嫉妬し、勇者のズボンのお尻部分をこっそり破ったりしてただけなのに……」
これ程までに落ち込み、怒り、人を恨んだ事は無い。
負の感情が、まるで目視出来るのではないかと思うくらいに出ていた。
最早何も物事を考えれない程、俺の頭の中は真っ白になっていた。
――その時だった。「ピコーン」と音が鳴り、俺の目の前に冒険者ステータスカードが表示された。
「Fランク冒険者 タケシ
ユニークスキル『魔王の卵』を獲得。」
「……ま、魔王の卵ォ!?」
かくして俺は、負の感情からユニークスキル「魔王の卵」を獲得してしまった。