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出会いと別れ5

 辺り一面が焼け焦げた森の中。

 その中心地近くにある、唯一緑が残っている場所でリードは寝そべっていた。

 理由は言わずもがな、【管理人(ライブラリアン)】の容姿と性格の設定に気力を使い果たしてしまっていたのだ。


『お疲れ様です。マスター』

「うん。ありがとう、ウェラリー(・・・・・)。でも、誰のせいだろうね」


 リードの視界に映る少女、ウェラリーに皮肉を言うが。


『設定が甘かったマスターに非があると思われます』

「そうかもしれないね……。ははっ。しばらく休ませて」


 知能を得たばかりの異能に皮肉は通じなかった。

 自嘲気味な笑みを浮かべて、リードは再び寝そべる。


『大丈夫でしょうか?』


 心配した様子で首を傾げ、白銀のショートカットの髪がはらりと揺れる。


「ああ、さっきまでの僕を殴りたい」

『過去を変えることは不可能です。未来を描きましょう』

「あー。そう、だね」


 リードは曖昧に返事をすることができない。

 それもそのはず。

 リードが気落ちする原因は目の前に浮かぶウェラリーの容姿にあるのだ。


 自身の異能なら常に自分と共にあるのだと考え、どうせなら自分の理想の少女にしてしまおうという少年心が顔を出し、完成したのはまるでウェルトを若干幼くし、羽根を生やした天使のような少女。

 ショートカットかロングヘアかの小さな違いはあるが、パッと見はウェルトにしか見えない。

 ありえない話だが、もし彼女に見られでもしたらと考えたら冷や汗が止まらなかった。


「どうしてこうなったんだ……」


 愕然としながらも、これは別人だと主張するために、しっかり者で敬語というウェルトとはほぼ真逆の性格を設定した。

 だが、リードは無意識にウェルトと【管理人(ライブラリアン)】から名前を取りウェラリーにするという行動を取っている。

 そのことに名前を設定し終え、変更不可になってから気がつき、今に至るというわけだ。

 余談だが、最初の候補は「ワラ子」で、こちらはウェラリー自身が強く否定した。

 ウェラリーに確かな人格が存在している事実を実感した。


 しかし、いつまでも落ち込んではいられない。

 気持ちを切り替えてリードは身体を起こす。


「ねぇ、ウェラリー。僕はどうすればいいんだろうね」


 結局手に入れたのはウェラリーという仲間だけで、最強に、英雄に、ウェルトとの約束を果たすための道なんて見えてこない。

 遠い背中。果てしない背中。

 その鱗片すら見えていない。

 そんな気持ちで呟いた言葉に、ウェラリーは聞きなれない返答をした。


『どうすればいいかという質問に対して、こちらの「自由な職業選択ガイド」がオススメです。インストールしますか?』

「……インストール?」


 思わず起き上がって聞き返す。

管理者(アナウンス)】の時には一度も聞かなかったその言葉。


『その通りです、マスター。インストールすることによってマスターはその本を手にすることが可能です』

「えっと、どういうことかいまいち分からないんだけど、これをしたことで何か危険だったり後遺症とかはあるの?」

『インストールによる弊害は魔力を消費することのみです。一度試してみますか?』


 魔力を消費する。

 時間が経てば回復するとはいえ、魔力は戦闘の切り札になるほど大切なものである。無駄遣いをしていいものではない。

 そう、ウェルトに教わった。

 だが、リードに限っては別である。

 リードが持つのは、ウェルトでさえ驚かせた膨大な魔力。多少使ったところで問題はない。


 更に言ってしまえばリードは魔法を一切使えない。

 つまり魔力の使い道が一切存在しないのだ。

 インストールにどれだけ魔力が必要かは分からないが、魔力の使い道がないリードの返事は実質一択だった。 


「よし! 試してみる!」

『要請を承認。「自由な職業選択ガイド」のインストールを開始します』


 直後、リードの目の前に白い光が集まりはじめる。

 その光は、徐々に紙の形を作っていき、やがて、一冊の本へと変化する。


『インストール完了』


 ウェラリーから出された完了の合図とともに光が消え、本だけがその場に残された。

 目の前に浮かぶのは、固い魔物皮で作られた表紙に「自由な職業選択ガイド」というタイトルが書かれた本。

 リードはそれを手に取り、中身を確認した。


「ッッ! これは……」


 確かに、本だった。

 どのような原理なのかは不明だが、たった今インストールされたこの本は、表紙だけのはりぼてではない本物の「自由な職業選択ガイド」という一冊の本。

 これがウェルトの言っていた覚醒した異能の効果なのだろうか。

 信じられないという気持ちで中身をパラパラと読んでみる。

 リードはウェルトにすぐに必要になると言われて文字を教わっていた。

 確かにすぐに必要になったな、などと考えながら見た本の中身は——


「——なになに? ブラックギルドに気を付けよう! 実は重要! 陰で支える裏方職業! なるほどなるほど……。確かにこれは、自由な職業ガイドだけど僕の質問と何の関連性もないよね⁉」


 バシンッ! という良い音と共に本が地面に叩きつけられる。

 その直後、本は光に包まれてパッと消えた。

 なるほど。この能力はお金の代わりに魔力を支払って本を借りるようなものらしい。

……じゃなくて。


『お気に召さなかったでしょうか?』


 ウェラリーが不安そうに言う。

 違う、そうじゃない。


「いやこの能力はすごいと思うよ? だけどさ? この森の中で独りぼっちになってこれからどうしようか迷ってる時に読む本じゃないよね⁉ これは街で仕事を探してる人が読むような本だよね! 僕は街じゃなく森で独りぼっちなの! というか街に行くどころかウェルトさん以外の人とも会ったことないの!」


 はぁはぁ、と息を切らしながら言いたいことを言い切り肩で息をする。


 その様子を見たウェラリーは、虚空を見上げ少し考えるような素振りを見せてからリードの方を向いて言った。


『独りぼっちということに対して、こちらの「ぼっちから始める友達作り! 人付き合いに必要な百のこと!」がオススメです。インストールしますか?』


「そういうことじゃなあああい!」


 リードの叫びが再び森の中に木霊した。

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