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彼女の予言2

読んでくださりありがとうございます。

——ウェルト・プロッシモ


 それが彼女の名前。

 怒ったところなど一度も見せたことがない優しい彼女は、幼い頃に捨てられたリードを拾いここまで育ててくれた。

 無数のモンスターですら片手で捻る最強の彼女は、最弱のリードを弟子とまで呼び家名を名乗ることすら許す。

 返り血すら装飾にしてしまう美しい彼女は、リードが出会ったときから一切姿が変わらない。

 ウェルトは虚空からぼんやりと光る瓶を取り出し、中身をリードに振りかける。


 知っている。

 何度味わっても慣れてくれない、身体が再生する気持ち悪い感覚。

 これは、ウェルトが作ったポーションだ。


 トロールは疑問に思う。

 どうしてリードが潰れていないのかを、どうして彼女がここにいるのかを。

 その疑問を解消すべく、ゆっくりと辺りを見渡し、そして気がつく。

 他にモンスターがいないことに。


 そう。

 自分以外のモンスターが既に殺されているということに。


「来なよデカブツ。君で最後だ。私の可愛い弟子を傷つけた——その報いを受けてもらうよ?」

「ッッ⁉ ——グガァアアアアアア!」


 トロールは怒りの咆哮をあげる。

 ビリビリとリードの肌が震えるほどの声量。

 回復したての意識が一瞬で飛ばされそうなほどの迫力。

 リードはようやく動くようになった歯をガタガタと震わせる事しかできない。

 そんなリードの頰に手を置いてウェルトはただ一言。


——大丈夫だよ。


 その声を聞いただけでリードの震えは不思議と治まった。


 リードを撫でた。——その代わりにウェルトが背中を晒した。

 その隙をトロールが見逃すはずもなく、その巨腕を無防備な背中に向かって放つ。


 ウェルトは避けない。

 ウェルトは避けられない。

 リードがいるから。

 リードがいるせいで。


 でも、


 ウェルトは避ける必要がなかった。


「そう来るって()()()()よ」


 いとも簡単に巨腕を受け止め、それどころかウェルトはトロールの腕を半ばから切り落とした。

 トロールは痛みに声を漏らし一歩下がる。


——次は右足だね。


 その声を聞いたトロールは、既に右足で攻撃を繰り出す直前。

 止まらぬ蹴り。予言通り振るわれるウェルトの剣。

 すっぱりと右足を斬り飛ばされたトロールは、バランスを崩しそのまま後ろに倒れた。


 ああ、彼女はやはり最強だ。

 彼女はなんでも知っている。

 過去にあった事象も、これから起こる未来の出来事も何だって知っている。

 勿論リードが捨てられた理由も知っている。

 当然、今日ここにモンスターが攻めてくるということも知っていた。

 そして、トロールが次に何をするのかも知っている。


——【未来視眼(ヒューチャーアイ)


 それが彼女の持つ第一の異能。その力はこれから起こると確定している事象を全て映し出す。

 だから、トロールという鈍足なモンスターが彼女に攻撃を当てるのは不可能なのだ。


——これでおしまい。


 ウェルトは数瞬先の未来をそう予言し、予言通りにトロールは命を落としその身を灰色のローブに変えた。

 最弱のリードが為す術もなく(なぶ)られた脅威は、最強のウェルトによっていとも簡単に葬られた。

 また彼女に守られた。

 また、守られることしかできなかった。

 物心ついた時から、いや、モンスターが跋扈(ばっこ)するこの森に捨てられた時から彼女に守られてきた。


 剣もダメ、魔法もからっきし。リードにできるのは家事だけ。

 唯一と言っていいほど持っているのは彼女を凌駕するほどの多大な魔力。

 それだけ聞くと長所のように聞こえるが、魔法を使うことができないリードがどれだけ魔力を持っていたところで意味がない。


 それどころか、リードの魔力は多すぎた。

 モンスターは魔力を求める。

 つまり、リードはモンスターにとって格好のエサだった。


 リード(エサ)を求めてモンスター(捕食者)が襲いかかってくる。その度に、彼女が守ってくれた。


 誘魔香のような存在のリードは彼女に守られることしかできない。

 彼女がいなければ、リードはもうとっくに、それこそ捨てられた直後にはモンスターの腹の中だっただろう。


 彼女がゆっくりとこちらを振り返る。


「ウェルト、さん」

「お疲れ様。今日も、がんばったね」


 満面の笑みで彼女が言う。

 一日が終わるたび、彼女がリードに向かって言う言葉。

 彼女はリードの方に一歩踏み出して——そのまま倒れた。


「——ッ⁉ ウェルトさん⁉」

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