森の中で2
「よしっ!」
切り替えるようにユリアが手を叩く。
「じゃあ今日は薬草採取の仕方を教えるわ。これの専門はリルだからリルに頼んでもいいかしら?」
「ん。任せて」
「専門……ですか?」
リードが不思議そうに聞いた。
「そう。私は——」
リルがゆっくりと被っていたローブのフードを脱ぐ。
それによって徐々に露わとなるリルの素顔。
その素顔はまるで人形のように整っていて、思わず見惚れてしまうくらい美しい。
だが、それよりも特徴的だったのは、人族ではありえないほど尖った特徴的な耳。
リルが答えるよりも先に、リードが驚きを孕んだ声を上げた。
そう、彼女の種族は——
「——エルフッッ⁉」
想像よりも、ウェルトから聞いていた話の何倍も美しい、憧れていた種族。
唐突な出会いに言葉が出なくなり口をパクパクさせることしかできない。
だが、リルは急に大声を出したリードを訝しげに見た。
そして不愉快さを隠さずに睨みつけながら一言。
「……何か、文句ある?」
リードは喧嘩を売ったつもりも売るつもりもない。
むしろ初めて出会えた嫌われでもしたらリードのメンタルの方が先に死ぬ。
慌ててリルに謝罪するリード。
「き、気に障ったならごめんなさい! 僕、エルフと初めて会って、いえ師匠から話は聞いたことがあったんですけど、聞いてたよりもずっと綺麗で美しくて! なんというかびっくりしちゃって!」
「……そう」
そっぽを向いてぶっきらぼうにリルは返す。
薄暗い森の中だったからか、リルの頬にうっすらと赤みが差していたことにもリードは気がつかなかった。
『マスターは言葉選びに気を付けるようにした方が良いかもしれませんね』
(どういうこと⁉)
ウェラリーから呆れたような言葉をかけられたが、残念ながらその手のことに関して非常に疎いリードがその意味を理解することは無かった。
娯楽小説など読んだことのないリードは、良くも悪くも好意丸出しの言葉を繰り出し無自覚に大ダメージを与えるのだ。
例えば、今のリルのように。
「ふふっ。リルったら照れちゃって。私たちは元々王都の方で冒険者をしていたんだけど、あっちは亜人に対しての差別が多くてね。だからリードくんからこんなに好印象に接して貰って驚いてるのよ」
「差別……ですか?」
ユリアが続ける。
「そっ。獣人を獣交じりと呼んだりエルフをその特性と高潔さから気取ってるって言ったりね。ラビは図太いから気にしてなかったんだけど、リルはこう見えて傷つきやすい性格してるから溜め込んで思い詰めてしまったのよ。パーティ自体女のみの構成で舐められることも多かったし、充分実力もついてきたってことでヴァーグに来たのよ」
「ユリア、うるさい」
「えぇっ⁉ 自分、そんなに図太いっすか⁉」
ユリアの説明にそれぞれ反応する二人。
差別があるなどということ自体リードは今初めて聞いた。
確かにラビは図太そうだ、なんて考えながら亜人について知っていることを思い出す。
『もちろん獣人と獣は全くの別種ですし、エルフが潔癖なのは、その種族上の特性であり仕方のないことです』
ウェラリーの言う通り、どちらも全くの言いがかりだし、変えようのないこと。
ヴァーグは良くも悪くも実力主義だから差別が比較的少ないが、実際問題、差別が根強く残っている地域もある。
そのような説明をユリアから受けたリードだったが、森で育った彼には対岸の火事にしか感じられず、差別などどこ吹く風だ。
リルかわいい




