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ハンナとリード3

 リードとハンナはこの数刻の間にかなり打ち解けていた。

 リードがまだ森で暮らしていた頃、料理などの家事を除いてウェルトに唯一認められていたと言ってもいいものは勉強だ。それこそ、ウェルトが教えたことを次から次へと吸収し、ウェルトを驚かせたほどに。

 そんなリードをハンナはすごいと褒める。

 だが、リードは素直に喜ぶことができずにいた。


「僕は、剣も人並み程度で魔法も使えない——いえ、今は少しだけ使えるようになったんですけど、剣も魔法も才能が無くて、こうやって努力することしかできないんです」


 それは、自分の力というものを嫌という程理解しているからこその言葉。

 未だ誓いには程遠い自分の実力に、つい本音が零れてしまう。

 ハンナは片づけをしていた手を止めて、リードの方を向き合う。


「リードくん、それは違うよ。努力することしかできないんじゃない。努力は立派な才能だよ」

「努力が才能……?」


 ハンナが真面目な顔で言う。

 だが、リードは努力が才能だなんて言われたこともなかったし考えたこともなかった。


「確かに剣とか魔法の才能があると凄いかもしれない。だけど、いくら剣とか魔法の才能があってもそれに驕ってしまって努力しなければ決して大成することはできないんだよ」

「でも、物語に出てくる有名な英雄はみんな才能に溢れてますよね?」


 少なくとも、小さいころのリードがウェルトに読んでもらった英雄譚に平凡な人は存在しなかった。

 だが、ハンナは違うと言う。


「勘違いしてはいけないよ。彼らは才能があるのに努力もした人たち。決して才能に頼り切っているわけじゃないの。物語の中に映されていないだけで彼らは凄く努力を重ねてたはずなんだよ」

「努力した人たち……」

「だからね、努力をできるっていう才能があるリードくんみたいな子はきっと大成するよ!」


——リードくん、この世に無駄なものなんて存在しないんだよ。努力は全て君の力になる。だから夜ご飯作って!

——いやなんか良い事言ったみたいな雰囲気だしてるけどめんどくさいだけだよね⁉


 懐かしい記憶が脳裏を駆けた。

 彼女の言葉はいつも余計な一言で台無しだったなと思い出して、笑みが零れる。


「この世に無駄なものはない……。努力は力になる……」


 懐かしむように、リードはその言葉を呟いた。

 その言葉をハンナが拾う。


「良い言葉だね。誰の言葉?」

「僕の育ての親——いえ、師匠の言葉です」


 特に深い理由は無かったが、育ての親ではなく師匠に言い直す。

 その事には触れずに、ハンナは満面の笑みでリードに言う。


「そっか! その師匠はきっとすごい人だったんだね」

「はい! 師匠は、僕の憬れなんです! 師匠の名前は——」

「——あれ? もしかして私たち遅れた?」

「ん、時間通りなはず。あれは多分ハンナ会をしているだけ」


 ハンナとの会話に意識が向いていたリードは、ギルドに人が入ってきていたことに気がついていなかった。

 突然聞こえてきた声にビクッとなったが、会話から察するに、多分この人たちが指導を担当してくれる先輩冒険者なのだろう。

 そして多分ハンナ会と呼ばれているのはこの勉強会のことなのだろう。


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