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冒険者登録1

 深呼吸をして、人族の女性の前に立ちリードは言った。


「ぼ、ぼぼ冒険者登録お願いしましゅ!」


 噛んだ。

 これは終わった。

 本に書いてあった。

 最初に隙を見せた冒険者は先輩冒険者にいびられて洗礼を受け、もう冒険者として過ごすことはできなくなると。

 怖い先輩冒険者に見つかる前に早く登録を終わらせなければ。


「はーい! 僕、一人で来たのかな? 冒険者登録は十五歳からだけど大丈夫かな?」

「は、はははいっ! ちゃんと成人してますぅ!」

「ふふふっ。では、登録を進めますね。代筆は必要ですか?」

「だだ、大丈夫ですっ!」


 行ける、これは間に合う。


 冒険者ギルドにやってきたリードは、はっきり言って滅茶苦茶緊張していた。

 冒険者になると心に決めて街にきたものの、余りにも人に慣れなさ過ぎていたのだ。

 生まれは知らないが、リードが育ったのは森の中。

 思い返してみれば、村人はおろか、ウェルト以外の人と会話をしたという記憶が存在しない。

 街に来るまでにウェラリーと平然と会話できたから大丈夫だと高を括っていたわけだが、いざ話をしてみたら緊張で受付嬢と目を合わせることすらできない。


 そもそも考えてみれば分かるが、ウェラリーはリードの異能で作り出された存在。

 いくら姿が可愛かろうとその存在(自分の異能)相手に緊張などするはずがなかった。

 緊張でガチガチだったせいか、受付嬢は微笑ましいものを見るように対応し、ギルド内にいる冒険者は心なしか優しい目をしている。


 その瞬間ハッと気がつく。


 おかしい。

 どうして優しい目をしているのか。

 リードの情報通りならば既にボロ雑巾になっていてもいい頃合い。

 最低でも、そろそろ武器を奪われて強制的に決闘をさせられていてもいいはずなのだ。


 街に来るまでの間に予習(・・)もしたが、その情報と余りにも違いすぎる。

 リードの読んだ本には、リードのように弱そうな人が冒険者ギルドに行くと、ギルドに入った直後にガラの悪い人たちに絡まれると書かれていたし、受付中に横割されることなんてざらだと書かれていたし、こんな簡単に冒険者登録をできるとは書かれていなかった。


 筋肉隆々で強そうな見た目の人ならまだしも、リードは受付嬢に子ども扱いされる程度には弱弱しい。

 とはいえ、絡まれないならばそれに越したことはない。

 色々な疑問を残しながらもリードは必要事項を記入していく。

 出身地は分からないため村という場所に丸を付けて、異能を書く部分は存在しなかった。


 無事に記入し終わり、ほっと一息吐く。

 すると、視界の端でウェラリーが姿勢を正した。


『申し訳ありません。お渡しした本は三百年前のものでした』

「だからかよっ!」


 ウェラリーから言われて反射的に叫ぶ。

 とはいえ、それも仕方がないこと。

 リードが予習として何日間も読み込んでいた本は今の冒険者ギルドの状況とは全く当てはまらない古い本だったのだ。

 叫びたくもなる。


 だが、リードは失念していた。

 ウェラリーはリードの異能が創り出した存在だということを。

 リード以外の人間にはウェラリーを見ることも声を聞くこともできない。

 つまり、今のリードは端から見れば突然叫んだ変な人。

 そのせいでリードは受付嬢にぎょっとした目で見られてしまった。


「僕、急に叫んでどうしたのかな?」


 優しかった視線が更に優しい物になってしまった気がするが、きっと気のせいだろう。


「あっ、いえっ! 何でもありません! あ、書けました! 登録お願いします!」


 話を逸らすように登録用紙を渡す。


「あらっ、はーい。では登録させていただきますね」

「お願いします!」


 受付嬢は機械のようなものに紙を読み込ませていく。

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