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出会いと別れ6

「つまり、これは【管理人(ライブラリアン)】の機能の一つで司書モードっていうやつなんだね?」


 リードはウェルトに確認する。


『正確には【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】の中に統合された機能である【管理人(ライブラリアン)】の機能の一つです、マスター。そのため、対外的に見るとマスターの異能は【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】一つです。そして、司書モードは【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】の発動を簡潔に円滑に進めるための機能であると共に、セーフティ装置です』

「なるほど。分かって来たかもしれない」


 つまり元々あった異能である【管理者(アナウンス)】はもうリードの中には存在しない。

 だが、その代わりに発現した【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】の中に、【管理者(アナウンス)】の上位互換である【管理人(ライブラリアン)】ことウェラリーが存在していると。

 おっと、徐々に混乱してきた。


「あ、セーフティ装置って何? というか、【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】の効果すらよく分かってないんだけど、もしかしてその説明もして貰えたりする?」

『お任せください』

「おおっ!」


 そう言うと、どこからか眼鏡を取りだし装着した。

 ……気にしたら負けだ。


『では、まず【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】の効果から説明します』

「お、お願いします!」

『【世界図書館(ワールド・ライブラリ)】とは、現存紛失関わらず、この世界に一度でも存在した事実がある本を全て収めた図書館を利用する能力です。本はある程度分類が決められており、「自由な職業選択ガイド」や「ぼっちから始める友達作り! 人付き合いに必要な百のこと!」はその中の普通図書に当たります。ここまではよろしいですか?』


 普通図書。

 ウェラリーは今、確かにそう言った。

 その意味を考えて、一つの可能性が頭をよぎる。

 もしも、もしもリードが考える通りの能力がこの異能にあるのだとしたら、この能力は想像もつかないくらい凄いものだ。

 生唾を飲み込み、息を整える。

 そして、リードは自分の予想を確かめるべく、ウェラリーに問う。


「……その、分類は他にはどのようなものが存在するの?」

『良い質問です。本の種類は主に三種であり、申請するだけで閲覧可能な普通図書と専門図書、そして申請理由が正当だと判断されると許諾が降りて閲覧可能となる魔導書が存在します』


「魔導書……!」


 リードの予想は当たっていた。

 この能力は凄まじい。


——魔導書


 それは、魔力を流すことでそこに記された魔法を必ず使うことができるというまさに魔法の書物。そして、魔導書に記された魔法を繰り返し使うことでやがて魔導書無しでも使えるようになる古代遺物(アーティファクト)

 魔導書の数は魔法の数だけ存在したと言われているが、その作り方は大昔の大戦により失伝してしまっており、今は残されたものや古い遺跡で発掘されたものを求めあう状況だ。

 魔法というものは、魔力と才能さえあればだれでも使用することができる武器だが、逆に言えば才能が無ければ使うことができない。


 だが、魔導書には才能という壁は存在しない。


 多すぎる魔力を持て余し、だが魔法の才能が皆無なリードが唯一魔法を使うことができるようになる方法、それが魔導書を使用することなのだ。


 余談だが、ウェルトは魔導書の作り方を知っていたが手順がかなり複雑で面倒らしく数冊試しに作って辞めたらしい。

 ウェルト曰く、あれは魔法バカが後世に自分の成果を自慢するためだけの物だと。

 そんな話は置いておいて、今はウェラリーだ。ウェラリーはリードの反応を見てか一つの提案をする。


『試しに、魔導書を一冊インストールしてみますか?』

「良いの⁉」


 リードは食い気味に返事を返す。


『大丈夫です。使ってみたい魔法などはありますか?』

「じゃ、じゃあ一応森だから火じゃなくて……【水球(ウォーターボール)】で!」


 森では無暗に火を使ってはいけない。

 それは、まだ一度も使ったことのない魔法なら尚更言えること。その点、水なら利はあっても害はない。


『マスターによる魔導書【水球(ウォーターボール)】に対する申請確認。申請理由をお願いします』


 突然理由を聞かれて狼狽えるリード。


「え? え、えっと、水が飲みたいから?」


 ただ魔法を使いたいだけだったが、さすがにそう答えるのも気が引けたので、それらしい理由を上げる。

 思い返してみればリードは昨日からずっと水を飲んでいなかったため、喉がかなり乾いているという状況は嘘ではなかった。

 こんな適当な理由じゃさすがにダメかもしれないと思ったが、何の危険もない【水球(ウォーターボール)】だったからなのかは分からないが……。

『申請許可。魔導書【水球(ウォーターボール)】をインストールします』

「おおおっ!」


 申請は無事に通ったようだった。

 先ほどと同じように、リードの前に光が集まりはじめる。

 先ほどと違うところを上げるなら、集まっている光が紅いことくらいだろう。

 だが、やはりその光は先ほどと同じように本の形へと変化していき、やがて紅色に淡く光る本が現れた。


『インストール完了』


 前に浮かぶのは、シンプルでデザインも装飾もタイトルすらも一切存在しない無骨な本。

 だが、その本を手に取った瞬間に中身を見ずとも理解した。——これは【水球(ウォーターボール)】の魔導書だと。

 リードは、無我夢中でその本に魔力を流した。


「ッッ⁉ これは……!」


 分かる。

 リードには分かった。

水球(ウォーターボール)】の使い方が。

 魔力変換、必要魔力量、浮かべるべきイメージまで全てを飛ばして理解した。

 興奮のまま、全能感が溢れるままリードは叫んだ。


「【水球(ウォーターボール)】!」


 直後、虚空に現れた水が飛んで行き木に当たり弾けた。


「ははっ、すごい……。やった……! 魔法だ、僕の初めての魔法だ!」


 見る人が見たら殺傷能力どころか攻撃性も皆無なだけの魔法だろう。

 だが、リードにとっては憧れていた初めての魔法。

 あの人の憧憬が一瞬見えるような、そんな出来事。

 胸の中を感動が、高揚感が、全能感が埋め尽くしていた。それは、リードの手から落ちた魔導書が光となって消えたことに気がつかないほどに。


『おめでとうございます、マスター。魔導書はマスターの管理下を離れたため自然崩壊しました。正規の手続きでインストールした魔導書は次からは申請無しで呼び出すことが可能です』

「これが、僕の異能」

『まだ、自分がどうすればいいのか、分からないままですか?』


 ウェラリーが呆然としたままのリードに言う。

 この言葉を聞いてハッとする。


——君は私を超える。

 思い出すのは昨日の光景。

 彼女の声が鼓膜を打つ。


——そうだ、僕は誓ったんだ

 己に、彼女に、世界に。

 どうすればいいのかではない。

 ならなければいけないのだ。最強に、英雄に。

 今一度、打ち立てた誓いを口に出す。


——僕はどうすればいい?


「僕は最強になる!」


——それはなぜ?


「彼女の、ウェルト・プロッシモの弟子だから!」


——ならば具体的にはどうすればいい?


「衛兵でも商人でもない。自由と名声を求める職業、冒険者になる! そして、英雄になる!」


 これがリードの進む()

 今はまだ、彼女の背中すら見えない。

 今はまだ最弱(リード)かもしれない。だが、最強(リード・プロッシモ)になるための武器は、仲間は手に入れた。

 まずは街を目指そう。

 一から始めよう。

 彼女が言っていた通り慢心はしない。

 自分のペースで進み続けよう。

 そう誓い、胸に手を当て——


『冒険者になるに対して、"冒険者の心得! 規則編!"がオススメです。インストールしますか?』

「……」

『インストールしますか?』


 コテンと首をかしげながらウェラリーが聞いてくる。すごく可愛い。可愛いのだが。


「あーもう色々台無しだよ! インストールするけど!」

区切りが良いため今日は一話ですごめんなさい。

面白そう、続きが気になると思ったらブックマーク、評価などしていただけるとして頂けるとめちゃくちゃ喜びます。

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