07 夏のある日
「今日はお父さんが来てくれるんかな、お母さんが来てくれるんかな。トモコちゃんはどっちやと思う?」
「お父ちゃん」
「そっかぁ……ああ、来はった来はった。トモコちゃんの言う通り、お父さんやったなあ。
ああ、お父さん、どうもお仕事お疲れさんでした。ほんだらトモコちゃん、また明日な。ん……ああそうか、これ持って帰るんか。そうやな、持って帰り。おじいちゃん家にこないにようさん、ふうせんあってもしゃあないからな。ん?そうか、それが一番お気に入りやもんな。
ほんだらまたな、ばいばい」
「……」
「お父ちゃんお父ちゃん、これ見てこれ見て」
「……」
「お父ちゃん見てって。これ見てほら、ふうせん」
「……」
「おじいちゃんと一緒にいっぱいふうせん作ったんよ。お部屋の中、ふうせんでいっぱいになってん。この赤いふうせんは、トモが作ったんよ。ねえ、見て見て」
「……」
「ねえお父ちゃん」
「……トモコ、お父さんは仕事で疲れてるんや。頼むからちょっと、静かにしててくれへんか」
「これって! お父ちゃんこれ、トモが作ったんやって!」
「……やかましいっ! 静かにしてなさいっ!」
「……さあ、着いたぞ。降りなさい」
「お父ちゃんこれ、ふうせん」
「ええ加減にっ!」
「あっ……お父ちゃん、トモの作ったふうせんが飛んでく! お父ちゃん取って! お父ちゃん、トモのふうせんっ!」
「うるさいっ! ふうせんぐらい、後でなんぼでも買うてやるやないかっ!」
「でも……あの赤いふうせん、トモが作ったふうせんやのに……お父ちゃんのせいやんか、取ってよ!」
「……ったく、これやから子供は……しょうもないことでグダグダグダグダぬかしやがって、こっちはそれどころやないんやぞ。お父さんがどんだけしんどい思いして働いてると思ってるんや!」
「お父ちゃん、ふうせん、トモのふうせん」
「……やかましいっ!」
バシッ……
「えええええええん」
「ちょっと、どないしたんよ」
「どないもこないもあるかい、神さん所で作ったふうせんが、どやとかこうとかぬかしやがって。大体今日は、お前が迎えに行く番やったやろがっ」
「あんた、何あたしにあたってるんよ。なんぼ仕事でえらいんか知らんけどね、あたしかて働いてるんやからね。それもこれも、あんたの給料が安いからやないの」
「えええええええん」
「何やとっ!」
「何よ!」
「えええええええん……トモの……トモのふうせん……」