05 次の日の土曜日
「あ、おはようさんです。ああ奥さんも、トモコちゃんも来てくれはったね。
ほんだらわての車で行きますさかいにな、乗ってくれますか」
4人の乗った白いバンが、乾いたエンジン音を響かせながら走っていた。
しばらくして、
「もうすぐ着きますさかいにな」
「もうすぐっておじいさん……ここらって高級住宅街やないですの」
「いやいや、そないたいそうな物やないですから。昔は野中の一軒家やったんですけどな、いつの間にやらあっちこっちに立派な家やらマンションが建ちましてなあ、おかげでうちの家が場違いみたいになってしもてね……
見えてきましたで、あれですわ」
と、おじいさんが指差したその家は、2階建ての一軒家だった。
少し古ぼけた感じはするが、一部屋のマンションに3人で生活している彼らにとって、ざっと見積もって30坪はあるその家は、あまりに立派に見えた。
車を降り、門扉を開けたおじいさんのあとに、3人が続いた。
「ん……この表札……神孝徳! おじいさん、えらいごっつい名前ですね!」
「え、あ、あははっ。いやちゃいますって。これで神孝徳って言いますねん。うちの先祖がたいそうな苗字つけましてね、もう名前負けして困ってるんですわ。みんなわてのこと『神さん』『神さん』って言うんでっけどね……まあ、入ってくださいな」
前庭には大きな松の木が、そして玄関の周りには、小さな盆栽が並んでいる。どの鉢も、きれいに手入れが行き届いていた。
「立派なお宅ですね……神さん、お一人で住んではるんですか」
「ええ、女房も先に逝ってしまいよったし、子供も一人おったんですけど、事故にあって死んでしまいましてね……さ、どうぞ」
玄関を開けて中に入ると、正面に廊下、右手には2階に通じる階段があった。すぐ左手にある開き戸を開けると、6畳ほどの和室になっていた。
カーテン越しにあたたかい光が差し込んでいるその部屋には、正面に古びた箪笥と本棚が置いてあった。
「ここやったら日当たりもええし、トモコちゃんが少々ほたえても大丈夫ですから。ここでよかったらトモコちゃん、預からしてもらいますよ」
「こんなええ家! 私も主人とよく話すんですよ、こんな立派な一戸建ての家に住みたいなぁって。うらやましいですわ、こんな家。
……ところで神さん、もし神さんに何かあったらこの家、どないしますの? えっ、引き取り手がない! もったいないですわ、そんなん」
「こらお前、なんちゅう失礼なこと」
「はっはっは、まぁよろしよろし。ほんだらどないします? トモコちゃん、預かりましょか?いえいえほんま、お金はいりませんて。そんなんやらしいし」
「そうですかぁ……ほんだら、お願いしようかしらね、あんた」
「そうしはりますか、分かりました。ほんだらトモコちゃん、あさってからな、ここでおっちゃんと遊ぼな」
「うん!」
「そんで、これだけはお願いしたいんでっけどな、トモコちゃんのお昼のお弁当とおやつは持たせてもらえますか? こないちっこい子の食べる物、よぉ分からんよってね。
それと飲んだり塗らなあかん薬とかあったら……特にない、そうでっか、ならよろし。ほんだらそう言うことで、あさってから」
「そうですか……それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。朝会社行くついでに連れてきますから。帰りはそうですね、まぁ6時か7時ぐらいには来れると思いますんで」
「助かりますわぁ神さん、これで私もパートに行けますわ」