04 次の金曜日
「よっしゃ、今日も朝から気合を入れて、と……あれ? トモコちゃんのお父さんやおまへんか」
「あ、どうもおはようございます」
「あんた、いつも朝から来はるんは土曜と日曜だけでっしゃろ。今日は金曜でっせ。どないしはったん。
まあ、ええですけどね、たまには違う日に頑張るんもよろしやろ。今日は一発、気合入れましょか」
「おぅおぅおぅ、来たがな来たがな。今日はとことん運がええみたいやなぁ……どないでっか、お父さんの方は。
あかんの、また。
お父さんほんま、下手でんなぁ。んなことでどないしまんの。なんぼ突っ込みましたん? 2万!そら大火傷でんがな。
……ところで奥さんは? はぁ……なるほどなるほど、今日はパート先を探しに……大変でんなぁ。
トモコちゃんも連れて? ああ、また駐車場ね……
……そろそろ昼でんな、どうです、お父さん。今日はほれ、わてがこない儲かってますからな、お昼、出させてもらいますさかいに、一緒にどないです?
いやいや、そない遠慮してもらうような、たいそうな物はご馳走出来ませんけどな、ま、軽い物で。ラーメンでもどないです?
ああ、トモコちゃんも来たがな来たがな。こんにちは、トモコちゃん。
トモコちゃん、もうお昼やさかいな、お腹すいたやろ。今から一緒に、何か食べに行こ。何食べたい?」
「チョコレートパフェ」
「お昼やっちゅうに。あのな、トモコちゃんお昼やからな、ごはん食べに行こ。な」
「ああ、こぼしなやトモコちゃん。ゆっくりな、熱いさかいに、ふぅふぅしてな。
……けど、さっきも聞きましたけど、なんで今日は朝から来てはるんでっか。会社でなんぞ、おましたんか」
「いやね、うちの工場、しばらくの間金曜も稼動せえへんようになったんですわ。景気悪いとは聞いてましたけどね、さすがに週休3日はきついですわ。
ただでさえ残業なしの安月給やったのに、また賃金カットで……嫁にはぼやかれるわ、家でゴロゴロしててもイライラするだけなんでね。ほんで結局、気がついたらパチンコしてるって訳ですわ」
「なるほどねえ……ああ、ほんで奥さん、今日はパート探しに」
「ええ。あいつが働いてくれたら、ちょっとは生活も楽になると思うんですけどね……まあ無駄足になると思いますけど」
「なんで?」
「この子いてますから。まぁ景気悪いこの時期に、子供預かってくれるパート先なんてないですからね。
……あと2年もしたら小学校にも入れなあかんし、そうなったらまた金もかかるし、ほんま、八方塞ですわ」
「これこれ、子供前にしてそないなこと、言うもんやおまへんで。
そうでっか……不景気やとは聞いてましたけど、そこまで大変なんですなぁ……わてらは年金でどうにかこうにか暮らせてますからなぁ、今の人がどんだけ大変なんかも分かりませんからなぁ……
……そや、お父さん、もし何やったら、わてがトモコちゃん、預かってあげましょか? まんざら知らん仲でもないし、この子にしたかて、わてのことおじいちゃん、おじいちゃん言うて懐いてくれてるし。
いや、わての方は全然構いませんねんで。別に金よこせなんて言わへんし。わてもな、この年になって毎日パチンコってのも、そろそろどないかせんとあかんって思てたとこやし。たまにはそう言うのも、ええかと思うんですわ。
どないです? まあ、心配やったら今日奥さんと相談して、よかったら明日にでもわての家、見てもうたらええんとちゃいますか?」
「は、はぁ。そうですか、いやでもなぁ……他人さんにそこまでお世話になるってのも……あつかましいと言うか何と言うか……ん~……」
「……てなことを今日、あのじいさんに言われたんやけどな、お前、どない思う?」
「まんざら悪い話でもないんとちゃうん。若い子やったら、いたずらされたりする心配もあるやろうけど、あのおじいさんやったらそんな心配もないやろうし。家も見せてくれるって言うてはるんやろ、それやったら安心出来るんちゃう? お金もええって言うてくれてはるんやし、ありがたい話やんか。
今日ええパート先見つけたんやけど、子供はやっぱりあかんって言われてるんよ。でも人手が足らんから、来れるなら来てほしいって言われてるし。そう考えてみたら、渡りに船、みたいな話なんとちゃう?」
「そやなぁ……よし、ほんだら明日、いっぺんじいさんの家、行ってみるか」
「ほんであんた、あのおじいさん、名前なんて言うの」
「……そういや、いつも会うてるけど、名前聞いたことはなかったな」
「名前も知らん人に子供預けるやなんて、脳天気にもほどがあるで、あんた。
まあええわ、ほんだら明日、うちもおじいさんの家に行くから。それでどうするか決めよやないの」




