第二王子
私はこの国の第二王子として生まれた。母は伯爵令嬢だった愛妾だ。母は王立学園で王と相思相愛になったが、王には幼いころからの婚約者として隣国の王女がいた。強大な帝国に対抗ができるようにと二国間の結びつきを強化させる政略結婚のため、婚約を白紙にはできなかった。
隣国の王女が嫁いで来て、すぐに身篭った。同時に妊娠して体調が悪いからと言う名目で王妃は離宮に移された。
そんなことができたのは同盟は無視できないが、国力に明らかに差が出てきたからだ。我が国が隣国よりも何につけても上回るようになった。王は国力を上げるために血の滲む努力をした。それもこれも母のためだと言う。
王妃との婚姻後すぐ私の母が愛妾として王宮に上がった。母は王に寵愛されて、私を長子として妹を三人産んでいる。母は王を愛しているだけで権力に興味はない。王は王妃との初夜に向かう時最後まで母を抱きしめていた。王は本当に申し訳なかったと母に謝罪し、王妃は初夜で身篭ったので、二度と褥を共にしなくていいと王は胸を撫で下ろしていたと聞く。
私達兄妹と母は王に寵愛されて、まるで私達が一つの家族のように暮らした。それが錯覚だとわかるのは、離宮の王妃と第一王子が表に出てくる国の正式な行事の時だ。王の隣に立てるのは、王妃と嫡子の第一王子だけ。私達は下がって後ろに立つしかない。正式行事の後に必ず母が泣くので、王は王妃と第一王子に声を掛けない。終わってから母を抱きしめてずっと耳許で愛をささやく。
私は嫡子の第一王子以上の王族教育をしてもらった。嫡子の第一王子の規模を上回る誕生パーティーを開いてもらってもいた。そこで私の婚約者になる公爵令嬢と会った。似合わないドレスを無理に着ている少女だった。オーガンジーを重ねると体格がいいのでもっと身体がごつく見えてしまう。高価なものを身につけているのに返って醜くしてしまっている彼女に憐憫に似た気持ちを持った。似合うドレスを選べば可愛らしくなるのにと思った。
それからまもなく王から彼女との婚約を告げられた。後見のいないそなたに後見をつけるためだ。かの公爵は令嬢を溺愛している。権力のある公爵を後見にすれば、そなたを王太子に冊立できると説得された。王太子になりたいと思った事は無いが、母の立場を良くするためならと受けた。
何度か彼女と二人でお茶会したり、舞踏会にエスコートしたりした。彼女には婚約者として、最大限敬意を持って接していた。彼女はいつも私の容姿に執着してうっとりとしていた。私が何も話さなくても私の容姿を褒めちぎってくる。
彼女のことは嫌いではなかった。慕ってくれるのだから相応な気持ちを返そうと思っていた。王のように王妃と婚姻するまで会ったことがなくて、気持ちすら合わせられないようになりたくなくて、婚約者として何度も会って気持ちを通じ合わせたかった。
だがいつまで経っても、彼女の話は私の容姿のことだけ。彼女は勉学は苦手だそうで、その方面の話もできない。常に上っ面だけの話題に飽きてきた。
王宮舞踏会のたびに、私は彼女にドレスを贈った。彼女に似合う色は寒色系なので、青、紫などの色が多かった。リボンやレースなどつけると、より大きく見えてしまうので、シンプルだが最高級の布地で仕立てたドレスだった。最初は私の瞳の色だと喜んでくれたが、次には美しいドレスが欲しいと言い出した。彼女の美しいはオーガンジーで膨らませ、レースで縁取り、大きなリボンで胸元と腰を飾るようなドレスだ。こちらの方が似合うと私が言っても、父に言うと言い出すので諦めて、彼女の好きな暖色系でゴテゴテとしたドレスを贈った。権力に頼って私個人と話し合わない彼女に失望していた。
そして私達は王立学園に入学した。彼女とはクラスは違ったが、休み時間になるとやってきて私を独占しようとする。
クラスメイトの令嬢方とのたわいない会話ですら咎めて来た。そう言うことではないと、彼女を諭すと必ずでは父に言うと言い出す。権力を振りかざす彼女が疎ましくなって来た。
そして私は運命の出会いをした。
帝国の第一王女が留学のために来訪した。この王宮から通学するために慣れるために授業が始まるより早くやってきた。歓迎式典など仰仰しいのはと辞退したので、王族のみで園遊会を開いた。
第一王女は美しい人だが、それ以上に朗らかで勉強家で話題が尽きない。妹達も彼女に懐いて帝国のことを教えて欲しいとねだった。帝国は我が国に比べると、歴史が浅く文化などはまだまだらしい。
第一王女は卑下することなく、そのために留学して来たと言う。目的もあり強大な帝国の第一王女なのに一切偉ぶらない彼女に心を惹かれた。
だが私には婚約者がいる。婚約者には誠実でいたい。しかし、休暇中一度も婚約者と会ってないことにも気がつきもせず、第一王女と妹達とのお茶会を重ねている姿を見て母に思うことがあったようだ。
母が私と彼女の三人でお茶会をしよう招待してくれた。途中母は王に呼ばれたからと席を外し二人きりにしてくれた。二人が両思いであることは、お互いすぐ確認できた。しかし私の婚約者のことがある。内密に話を進めることになった。
母が王に話をしてくれ、王が帝国に打診をしてくれた。
帝国の皇帝は第一王女を大事にしているので、彼女の希望を通してくれた。国力のついた我が国と条約を交わす事は帝国にとっても利のある事だと、我が国との条約を結べるように準備に入ることになった。
あとは婚約者の公爵家の跡取りである長兄に話をつけることだ。この長兄は父に批判的だ。若い後妻の子である婚約者だけ可愛がって、無理を通して財を傾けるからだと言う。公爵はかなりの年だ。跡取りである長兄を取り込むには越したことはない。
そして第二学年が始まる。