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流行りのクロスボウのせいでダンジョン攻略パーティから追い出された弓使い、それでも弓使いとして世界に名を残す

作者: 一宮 千歳

「クロスボウって武器はすげえんだ」

「強い弓ってのはバカ力がいるって相場が決まってるが、からくりで動いて飛ばす矢は並の弓使いより早くて飛ぶと聞いちゃ、並以下の弓使いなんていらねえよなあ!」

「……ってわけで、へろへろの弓しか使ってねえお前は用済みだ」

「弓使いのくせに敵に近寄らないといけないとか、危なっかしくてしょうがねえんだよ!」


昨日言われたのはそんなセリフだったか。

それで長く所属していたダンジョン攻略パーティを追い出された。


確かにクロスボウは優れた武器だ。

非力な子供だろうが、屈強な男だろうが、「決められた場所に矢をセットして、引き金を引く」という2工程で同じ威力を出す。

「ダンジョン冒険者なら念のためクロスボウ持っとけ」みたいな風潮もこのところ出てきている。


が、実のところクロスボウは「撃った後の再装填」が面倒だ。

クロスボウをまた撃てるようにするには強く張った弦をまた引く必要がある。

だがクロスボウは非力でも使える武器であるが故に、持ち手自身のSTRのみで弦を元に戻すということが難しい。

であればクロスボウに備えられた機構で弦を引き直す必要があり、それは両手が塞がる上に十数秒はかかる。前衛後衛なんて言っていられない乱戦になろうものならそんな機会は絶対に巡ってこないわけで。


また金属部品を使う都合上本体はそれなりに重くなり、運搬しやすく・取り回しをよくするために大きさを犠牲にすると、こんどは撃ち出す矢が大きくできない。

親交のあるパーティー曰く、ロックゴーレムあたりはクロスボウで撃ってももう貫通できず、役立たずとなるそうだ。なんならそのパーティは早くもクロスボウを持つのをやめたと言っていた。


要はクロスボウはダンジョンではほぼ一戦闘一回きりの使い捨て、しかも威力上限に泣かされるのは目に見えているし、さらに嵩張る。

使い捨ての武器といえば投げ物、あとはマジックスクロールになる。クロスボウはマジックスクロールほど高値では無いが、乱戦になってしまえば二射目はほとんど期待できないという点でマジックスクロールに劣る。


また、クロスボウは最近発明されたという点も痛い。

弓はまだ魔法がエンチャントされたものが見つかるので、慣れた弓使いならダンジョンで魔法の弓を得られれば戦力増強ができる。

だが「魔法のクロスボウ」なんてものは見つかっていないし、おそらくこれから見つかる可能性も無いに等しい。クロスボウ使いになろうものならお先真っ暗ではないだろうか。


総評すると、クロスボウという武器はお貴族様が道楽でダンジョンに潜り、自分で獲物を借りたいというなら便利だろう。しかし、長く続ければより強力なモンスターを相手にすることになるダンジョン冒険者にとっては、わざわざ使う価値は限りなく低い得物だと言える。


「へろへろの弓は……悪いことしたのかなあ」


元パーティメンバーの彼らは、私の弓はへろへろだと言った。

だがそれは物盗りに狙われた時のためのダミーの弓に過ぎない。わざわざ本来の私の得物とよく似た物を探したので、こちらはこちらで愛着が湧いてしまい買い替えなかったのが仇になった。

一応それなりの力がないと引けない、それなりの弓ではあるが、レベルが上がって近接職として一人前になってしまったらもう弱い部類に入ってしまう。


本当の私の得物はダンジョン攻略中以外は秘蔵の【アイテムボックス】の中に仕舞い込んでいるし、

【アイテムボックス】からの交換はこれまた秘匿している【武器チェンジ】スキルで一瞬。

「冒険者たるもの真の力は秘めておけ」、というのが師匠の言葉だったが、よくなかったかもしれない。



さて、ここまでは言われたことに反論を考えていたわけだが、弓という得物がどうにもダンジョン向きではなかったのも事実である。

最大の理由は狭さ、特に全体的な天井の低さである。

大型モンスターの出るようなダンジョンならまだしも、入りやすいダンジョンはちょっと気合を入れて飛び跳ねれば天井にぶつかりかねない高さしかないものがほとんどだ。

弓という武器は、高所から打ち下ろしたり、打ち上げたあとの自由落下で威力をかさ増しするという運用をするほうがその武器特性……つまり射程を活かせる。解決策は何か。知れたことではあった。


「屋外専門の冒険者になるしかないよね…」


未知の財宝が数多く産出されるダンジョン探索に未練はある。しかし、「得物は弓がいい」という希望を貫くには、ダンジョンは少々狭すぎるという現実を、私はようやく受け入れることにしたのだった。



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ーー後に歴史に名を残し、様々な二つ名と共に広く名を知られる弓使い、「ディアドロ・サジタリウス」。

彼女を古くから知るものたちは、彼女が世に名を知られた理由として、彼女が得意とした武器ではなく、なぜか「とある時代遅れの武器」を褒め称えたと言う。


彼ら曰く「まあ、クロスボウ様様だよ」、と。

お読みいただきありがとうございました。

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