【3】野望
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(「これ…を…キール」
「馬鹿、お前…しっかりしろ!喋んなくていいから!」
「よくない…わ…、これは…あたし…なの…よ?これが…あなたを……キールを…守って…」
「おい!おい!…」)
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「おいッ!!!!!!
………夢?」
思い切り叫んで、目が覚めた。
「夢…か。久し振りだな、あの時の夢は…」
キールは大量の汗を拭って身仕度を整え、少将の元へ向かう準備を始めた…が。
まだ約束の時間まで3時間もある。
少将の執務室も、キールの寄宿舎がある『イージス』の中にあるため、行くのにそう時間はかからない。
「少し…調べてみるか。あの女…絶対何かある。」
書庫へ行き、ラフマイール帝国の歴史書を開いてみた。
『…メアリ・ウィンストン、ルシファーの反乱当時の階級は大佐。
国王夫妻を殺害したルシファー王子を、たった1人で捕らえる。後にこの働きが評価され、准将に昇進。
宇宙暦1970年の、ベルベットの内乱時は作戦指揮官でありながらも自ら出陣。
しかし陣形を乱すこともなく、内乱の早期鎮圧に貢献した。
この働きにより階級は少将となり、現在に至る。
数多くの内乱や紛争で活躍し、我が国の危機を幾度となく救ってきた。つけられた異名は
「灼熱の天使」…』
「…ベルベット!?あの事件に!?この女も関わっている…これは…利用しない手はないな。それにしても…『灼熱の天使』…か。まさに、だな。」
ちょうど時刻は約束の時間まであと15分、といったところであった。
キールは歴史書を閉じ、少将の執務室へと急いだ。
時を同じくして執務室。
「あのボウズ…本当に来るんでしょうか…?」
「来るわ。絶対にね。きっと…私のことも調べて来るでしょう…ま、情報統制がなされているから、肝心なことは何も分からなかったでしょうけど。」
「やはり…あいつが聞きたいのは、少将のそのサーベルのこと…ですかね?」
「それだけでは…ないんじゃない?きっと。直接は聞いてこないと思うけど、あの子、何か、誰にも言えない何かを抱えてる…そんな気がする。」
「何か…でありますか?」
「そう。あの目が気になるのよ……例えば…『レイン』関係のこととか?」
「!?…まさか…あいつも!?」「いえ、まだ推測の域を出ない話よ……ほら、本人も来たみたいだし、この話は追々…ね?」
「…はい。」
………コンコン
「キール・シュナイザーであります。」
「どうぞ。」
「失礼致します。」
キールは柄にもなく緊張していた。
メアリがまず口を開いた。
「あら、緊張しているの?昨日とは随分態度が違うみたいだけど?」
クスクス笑いながらも、すぐに本題に入った。
「何はともあれ、キール・シュナイザー君。今日は来てくれてありがとう。まずは私があなたを呼んだ理由を話さなきゃね。…ストレートに言うけど、あなた、私達の仲間にならない?」
「!?」
キールは驚いた。
まず、自分はまだ士官候補生であり、ただのヒヨッコで…もちろん、実戦経験なんかない。
しかも、まだこの女と知り合って1日しか経ってない。自分が本当は何を考えているかなど、この女が知るはずもないのだ。
「了承しかねます。俺…私には、少将のおっしゃっていることが…理解できません。」
「あら、そう?私は至って真面目に、あなたをスカウトしたいと思っただけなのに。
学生だからってことを心配してるのかもしれないけど…将軍クラスの人間からの推薦があれば、すぐにでも卒業できるのよ?必要なことはもうすべて学んだだろうし。」
「俺が聞きたいのはそれだけじゃないってことくらい、あなたならわかってるはずだ。」
(やっぱりこの子…頭もキレるわね。さて、どうしようか。…率直に言うべきよね。)
メアリは少し考えて、答えた。
「あなたは何か…『野望』みたいなものを持ってるんじゃないかしら。それも、人には絶対に言えないような『野望』を。」
またも、キールは驚き、
「!?…なんで…そう思うんですか?」
「う〜ん…強いて言えば、あなたの『目』かしら。どことなく昔の私に似ていて…もしかして、私と同じ『野望』を持ってるんじゃないのかな、と思ったのよ。そのためには…やはり、あなたの力は欲しいの。」
私と同じ『野望』、という言葉を発した瞬間の、一瞬の瞳に映る炎の揺らめきを、キールは見逃さなかった。
「少将、まさかあなたも…!?」
「うふふ…さぁ、どうかしらね。」
いつもの様子に戻った少将は言った。
(この女もまさか…いや、そう簡単には信じられない、が…このチャンスを逃すわけにもいかない。ここは…)
「わかりました。少将直々のご指名を…断る理由は、もうございませんので…その命、謹んで、お受け致します。
ですが…その前に、私からどうしても少将に聞きたいことがございます…。」
キールは、そう、あの『宝石』について、ぶつけてみることにした。