第五夜 鬼狩り
ーー楓は占いの館を後にした。
(あのジジィがなんのあやかしかはわかんねぇがまー、大したことはねぇだろ、魂を喰うか。)
階段を降りながらそう思う。
【妖】の歴史は古く。
災いと禍いを起こす者だと言い伝えられ長く人間を苦しめてきた。
時代は流れ……やがて妖も生きる場所を奪われ廃れていったのは、確かな事であった。
だが、絶滅した訳ではない。人の世に紛れ込みその身を隠して棲んできたのだ。
人間の姿に化けられる者達は人間として生きてきた。それ以外の者達は、細々と人里離れ暮らしている。
昔の様に表立って活動する事も無くなったが……生きにくい世で、彷徨い歩くあやかしたちは蔓延っている。
人の世に隠れ棲んでいるのだ。
✣
螢火商店街は、全長600メートル。そこに凡そ130からの商業施設が建ち並んでいる。
楓は占いの館を後にすると、通りをぶらぶらと彷徨いていた。
フード被って角は隠しているから、周りの人間も、然程、こちらを見る気配は無い。
【肉の花匠】というお店に目がいった。
周りの店は古めかしい建物だが、この一軒だけは真新しいまるで新店だ。
だが、楓が視線を向けたのはそれが理由では無い。
(あれは……。)
店先で話す白い割烹着を着た女性。その前にはふくよかな女性がいる。元気そうな笑顔を見せながら笑う割烹着姿の女性の背後に、浮かぶ女のコが見えたのだ。
日本人形の様な女のコだ。黒い着物姿におかっぱ頭。青白い顔をした無表情のちょっと病弱そうな女のコだ。
楓はその女のコを見て立ち止まったのだ。
にこ。
と、女のコは楓の方を見ると微笑んだ。
微笑ましい笑顔では無い。ちょっと不気味さが漂うのは目元が変わらないからだろうか口角だけ上げた笑みだからだろうか。
(今度は座敷童子か? ホントに多いな、この街。)
楓も笑顔を返した。
笑っているが引き攣った顔をしていた。
あやかし遭遇頻度の多さに楓は驚いていた。
(ある意味、あやかし商店街だ。)
「?」
楓はフードを被ったままだったがチラッと後ろに目線を向けた。
(憑けられてんな。)
その気配は、後ろの方からした。
ひたひた……と、憑いて来る気配だ。
楓はその足音を聞きながら歩く。
(この世の者じゃねぇな、地面にべったり張り付く様な足音だ。)
薄気味悪い足音であった。
何よりも気配が禍々しい。
楓は通りを曲がった。
裏通りに入ったのだ。
すると、目の前にバサッ……。
黒いコートを着た男が立ち塞がったのだ。
トレンチコートを着た細面で細身の男だった。オールバックのてかてかとした頭髪。白い手袋を両手に付けていた。
何よりもその眼は紫色に光る。
細い眼だった。
「何の用だ?」
裏通りは古い民家も建っている。
人通りが余り無い。
楓はそう聴いた。
チリンチリン……
男性の後ろから自転車のベルを鳴らし女性が漕いでくる。男性は避けると女性は自転車で通り過ぎた。
「はじめまして“新参者”の貴女を、招待したくお声を掛けたまでです。」
「声を掛けられた覚えはねぇな。」
楓はフードを少しだけ上げた。前髪から覗く蒼い眼は鋭く男を見据えている。
ニイッ……
両の口端を上げて歯を見せて笑うその顔は不気味としか言い様が無い。
「今夜……十二の刻、この商店街にお出で下さい、お迎えにあがります。」
男は右手を胸元に翳すとお辞儀をした。
丁寧な社交の挨拶の様に。
「因みにお断り無き様に、玖硫一族に、災難が降り掛かります。」
頭を上げることなく男はそう言うとたんっ。その場から飛び上がった。
正にコートを羽の様に広げ舞う。
その姿は鴉になった。
ばさっばさっと、羽を羽ばたかせ鴉は飛んで行った。空高く、舞う様に。
ひら……。
楓の手元に漆黒の羽根が落ちてくる。
舞う様に。
ばしっ。
楓は羽根を掴む。
指で摘み眺めた。美しい漆黒の羽根だ。
宝玉の様に煌めいていた。
(クソ……何なんだ? 葉霧の家は狙われてんのか? それともオレが居るからか?)
【玖硫の家は鎮音で終わったんだ。】
さっき会った占いの館の老人の声が浮かぶ。
(鎮音で終わりつっても、あのババァがそう簡単に死ぬとは、思えねぇけどな。)
楓は羽根をパーカーのポケットに突っ込んだ。
ーー裏通りから出た所だった。
商店街に戻ったのだ。そこでまさかの出来事に見舞われた。
「楓!」
ゴンッ!
頭を思いっきり殴りつけられたのだ。それも横から。とても思いっきり。
「イデっ!!!!」
よろけてしまう程の衝撃だった。
拳骨での殴打だ。
ぐわんぐわんした。
頭が。
目の前には葉霧だ。しかも右手をブラつかせている。
(この石頭!)
殴ったはいいが、右手は痛かった様子。
楓の頭は硬い事が、判明した。
「バカ犬かっ?」
葉霧の一言だ。
「バカ犬?? 犬ってなんだ?? しかもいきなり殴ることねーだろ!」
楓は頭を擦っている。
涙目にすらなっていた。
「大人しく待ってろと、そう言ったよな? 何で同じ事を繰り返すんだ? 謝ったよな? 楓。」
葉霧の眼は怒りで満ちている。その表情も呆れと憤怒で恐ろしいほど歪んでいる。
「ちょっと気になる事があったんだ、直ぐ帰るつもりだったんだ。」
「ベランダから脱走ってするか? フツー!?」
「だから! 見つかるとキレるだろ!? 葉霧!」
「当たり前だ! 昼飯の時の謝罪は何だったんだ?」
商店街の怒鳴り合いだ。
行き交う人達もその状況に遠巻きに眺めていた。
「あー……ごめん。」
「謝ればいいと思うな!」
「じゃーどうすりゃいいんだよっ!?」
「反省しろ! 猛省だ!」
葉霧の怒りは鎮まりそうも無かった。
楓は困った様な顔をしながら葉霧を見上げると
「人間っぽい格好で来たじゃん! ほら!
裸足じゃねーし!」
足元のサンダルを見せたのだ。
足をあげて。
「俺は『待ってろ』と、言ったんだ。」
「いやそれはさー……。」
「楓!」
最早、葉霧からの怒鳴り声は雷の様であった。
(うわ! おっかねぇまじ、優しい人がキレるとおっかねぇんだな、ボコボコにされそうだ。)
ビクビクしてしまう楓は。もう、ご主人様に叱られた犬である。顔を俯かせて情けない程、シュン。としている。
ふぅ……。
葉霧は息を吐く。
溜息である。
「楓、とりあえず……商店街にいるしついでに、買い物をして行こうか。」
楓はその優しい声に葉霧を見上げる。
「え? 買い物??」
葉霧は優しい微笑みを浮かべながら楓を見ている。その眼差しもとても暖かい。
「そうだ、楓の服とか何も無いだろう?」
楓は自分の今、着てる服を見つめパーカーを掴む。裾を引っ張る。
「ん? コレでいいよ別に。」
「毎日それを着るのか? “汚い”。」
葉霧は何処か蔑む様な眼を楓に向けていた。
「え? 汚い??」
(なんだ? なんかすげー呆れられてる。)
葉霧の眼はどうやら口程に物を言う。らしい。
「行くよ。」
そう言うと商店街の通りを歩きだした葉霧。楓は葉霧を追いかける。
(葉霧って……“二重人格”なんじゃなかろうか。)
✣
カァ……
ーーカラスの鳴声がする。
夕暮れである。
葉霧と楓は蒼月寺の蔵にいた。買い物を済ませて、帰宅した後。この蔵に来たのだ。
葉霧は蔵の中にある木箱を開けていた。
正方形の段ボール箱ぐらいの大きさだ。書籍で言うと、漫画本が20冊程度入るぐらいの大きさであろうか。
「ここにあんのか?」
「前に、見た時はここにあったんだ。」
葉霧は木箱の中に入っている巻物や書。それに、古くすっかり草臥れてしまっている文献を取り出しては、床に置いた。
楓は葉霧の横で覗きこんでいる。
何冊か書を、取り出した後で手にしたのは一冊のやはり“古文書”であった。
浅葱色の古文書だ。
「ああこれだ、“玖硫一族の文献”」
葉霧は古文書の表紙を軽く手で叩く。
埃を被っている。はたく事で埃が舞う。
「なんかわかりやすいタイトルだな。」
「気難しい祖先では無かったのかもしれない。」
葉霧は古文書を開く。
表紙こそは、薄ら汚れていたが中の文書は色褪せている程度で然程、汚れてはいない。
そこまで、時代の古さを感じさせない。
「なぁ? 昔の文書ってもっとこう……読みづらい字の様な気がすんだけど……。」
「これは“昭和初期”に、書かれたものだ。」
楓の言う“文字”とは、達筆な綴ら文字の事であろうか。
「この文献は、昭和初期に玖硫の祖先である“玖硫薙ノ丞”が、記したものだ、中に書いてあるのは、玖硫一族の事だ。」
葉霧はペラペラとページを捲りながら説明した。楓はそれを横から眺めている。
「楓、ここだ。」
葉霧はページを開き隣でしゃがみこみ眺めている楓に見開きで向ける。
「螢火の皇子って書いてあるな。」
「ああ、語り継がれてきたんだろう。」
楓はそれを読んだ。
葉霧は文書を指で辿る。
一文で止めると
「『最強と云われた退魔師……螢火の皇子。
鬼狩りを目前にして病に臥し亡くなる。』」
と、読んだのだ。
「あ、そうだ、思い出した……鬼狩りだ。」
楓は葉霧の読んだ一文に反応した。
顔をあげて、ハッ!とした様にしたのだ。
「鬼狩りとは?」
「ああ、都近くの山に鬼の棲み家があったんだ、都の役人が武士を雇い退治に乗り出したんだ、山に火を放ち……鬼を狩る、そこに皇子も参戦する筈だった、退魔師だから。」
葉霧に楓は説明した。
夕暮れの灯りが、蔵の開けっ放しの入口から射し込んでいる。
オレンジの灯りが、二人を包む。
「その日を目前にして、螢火の皇子は亡くなったのか」
「ん? てことは……オレを封印して直ぐってことだな。」
「どうゆう事だ?」
少し考えこんでいる様な楓を葉霧が見ると、その顔をあげた。
葉霧の持つ文書に視線を向ける。
鬼狩りの文字を指で指す。
「オレはこれを聞いて……皇子の所に行ったんだ。この山は、オレの“仲間の棲み家”だった。だから、ハナシを聴きに行ったんだ。」
「楓も棲んでいたのか?」
葉霧の声に楓は首を横に振った。古文書から指を離すと膝の上で、腕を組む。
「オレは放浪してただけだ、拠点を持たない、だから……縄張り争いとかでよく喧嘩になった。」
葉霧はそれを聞くと
(なるほど、放浪癖は昔からなのか。)
と、妙に納得した様子であった。
「でも仲間は出来る。あの頃はーー、貴族が豪華な暮らしをしてる裏で、民は苦しい生活を強いられてたんだ。病で死ぬ人間も多かった……。」
楓は、思い出しながらそう話始めた。
その表情は少し哀しそうに見えた。葉霧はそんな楓を見つめる。優しい眼差しで。
「オレ達は、元々“ヒト喰い”だ。貴族を襲って喰う。その時に“仲間”が出来たりするんだ。目的は同じだからさ。」
と、楓は葉霧に視線を向けた。
葉霧は、優しい眼差しをしている。
(ん? あれ? コイツって……“本当に気にしねぇ”んだな。ヒト喰うって言ってんのに……)
と、少しは驚いているかと思ったのだろうか。楓は、頭を掻いた。
その顔を下に向けながら。
「近くの村とかを、助けたりするのもワリとあったからなー。逆賊、盗賊なんてのも多かったんだ。民は……“いつも怯えてた”」
と、そう言った。
楓は、そこまで言うと顔をあげた。
「“鬼が村人を襲ってる”。そう聞いたから、おかしい。と思って“皇子”のところに行ったんだ。」
と、葉霧を強く見つめた。
すると、葉霧は柔らかな表情を向けていた。
「その時か? 楓が封印されたのは。」
楓は葉霧を真っ直ぐと見つめた。
縦に首を振った。
「ああ、そうだ。」
力強くそう答えた。
「そうなると……鬼狩りをしようとしていた皇子は止めに来た……楓が、邪魔で封印した、そう考えられるな。」
葉霧は次のページを捲る。
楓は葉霧の横顔を見ながら眉間に皺を寄せていた。
「お前……もーちょっと“優しい言い方”できねぇの?」
「え?」
葉霧は楓に視線を向けた。
その表情は、とてもとても傷ついた様な顔をしている。
「あ……、傷ついたのか?」
「言うなよ!! ハッキリと! わかんだろっ!」
全く悪気の無さそうな涼し気な表情でそう言われて楓はムッとした様な表情をしていた。唇まで尖っている。
「ああ、ごめん。」
葉霧はくすくすと笑う。
「お前、オンナいねぇだろ?」
「は?? 何? 突然。」
だが、きょとん。とさせられてしまう。
不貞腐れた楓からの逆襲だ。
「そーゆうとこだよ! 優しくねぇ!」
「どうゆうとこだかわからないな。」
葉霧の涼し気な表情を崩す事はままならない。楓は、益々。不貞腐れた。
葉霧の目は、文書を追っていた。
「鬼狩りは決行され多くの血が流れた、山は燃え……鬼達は棲み家を焼かれ都を追われた。」
そう読み進める。
「この中に螢火の皇子が、目を掛けていた鬼の姿は、無かったとされている、この鬼狩りこそが“最大の謎”であり……陰謀だったのではないかと、後に言われたのは理由がある。」
葉霧がそこまで読むと楓が目を見開く。
「あ? どーゆうことだ? 陰謀??」
「先を読むから、少し黙っててくれるか?」
葉霧の言葉に楓はこくこく。と、首を縦に振った。横槍を入れられると話が先に進まない。
「螢火の皇子には……妻、蒼月の姫と、紫紋の姫がいたとされている、だが……紫紋の姫は男子を産み病で亡くなった。だが、その男子も姫が他界すると……直ぐに病で亡くなったとされている。」
葉霧は、文を辿りながら読み進めていたが、やはり何処か悲しそうな顔をしていた。
覗きこむ楓も聞きながら、目を見開く。
「それって……母子ともに亡くなってるってことだよな?」
「言わなくてもわかるだろ。」
楓の余りの天然っぷりな一言に、さすがの葉霧の表情も、険しさを滲ませていた。
「その後、蒼月の姫のみを妻とし、生涯、妻はこの方だけだったと言う。」
葉霧はページを移り、読み進める。
口読する葉霧の隣で楓は、黙っていた。
「蒼月の姫との中には、男子二人、女子一人、子を授かったとされている、だが……この時代の男性は一夫多妻制だ、他に女性の影が見えない螢火の皇子に、妻である姫は、猜疑を持っていたとされている。」
葉霧はそこまで読むと、止まった。
「ん? どうかしたのか?」
楓は先を読もうとしない葉霧にそう聴いた。
「ああ……。」
葉霧は文書を見つめながら口を開く。
「それが、螢火の皇子が目を掛けていたとされる“鬼の娘”の存在だ。蒼月の姫は、この鬼との仲を疑っていた。」
「んなワケねーだろ!」
と、早々に突っ込んだのは楓だ。
葉霧は楓を見ると
「そうなのか?」
と、聴いた。
真剣に。
「どーゆう意味だよ! オレは鬼! 皇子は人間、しかも退魔師。」
楓はそう強く言い切ったのだ。
(もしそうだとしたら、悲劇の恋みたいだな、シェークスピアの様だ。)
葉霧は文書に視線を移した。
「鬼狩りは、この蒼月の姫が貴族に頼み……行ったのでは無いか? との見方もされている。」
と、そう読んでから楓を見ると
「俺達の血はこの蒼月の姫との間に出来た子供。」
そう言った。
「すげー綺麗な姫様だったぞ、月みたいな人だ。光輝く、でも……皇子は屋敷で一緒に住まなかったんだ、聞いてはみたんだけどな、いっつも笑って誤魔化す、そーゆうとこあったよな。」
楓は懐かしいのか嬉しそうにそう話をした。
葉霧は文書を綴る。
「真相はわからないが……楓が、封印された理由はわかった。」
葉霧は文書を膝の上に置くと木箱から出した巻物や書を箱の中にしまう。
「そんなの出鱈目だ。封印された理由はわかるけど……姫がそんな事するハズねーよ。」
楓は立ち上がるとパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
(いや、俺はこの説は強ち……否定も出来ないと考える、楓の“勾玉”だ。鬼の力を活かす物を与えたと言う事実。)
葉霧は丁寧に片付けると木箱の蓋を閉めた。
(退魔師としての行動とは思えない、憶測でしか無いが。)
「楓……。それともう一つ……」
「ん?」
葉霧は文書を手に立ち上がった。
「楓の話が事実だとすると……封印の地は、京の都の周辺だと言う事になる。」
葉霧は、古文書を持ちながら首を傾げた。
「んあ? それがどーかしたか?」
楓はきょとんとしている。
「“物理的に考えて不可能”だ。都は……京都。楓が封印されていた……ここは、東京だ。場所が違う。」
葉霧は真っ直ぐと楓を見つめた。
「とーきょう?? ここはとーきょうなのか。場所が違う。って言われてもわかんねぇし。住んでたとこと違いすぎる。」
と、不安そうな顔をした。
「へ……?? それってどーゆうこと?? オレ……ホントはどこにいたんだ?」
楓はようやく理解したのか……直ぐにそう言ったのだ。
葉霧は……少し考え込むと
「さぁ?」
と、やはり首を傾げた。
「さぁ? ってなんだよ! さぁ? って!」
楓はムッとするが
「この文献には“螢火の皇子”について、書かれているのはこれだけだ。他にも文献はあるが、俺は読めない。」
葉霧はそう答えた。
難しい字と言うよりも、達筆過ぎて何が書いてあるのかわらないのだ。
その為、長年放置されて埃だらけなのだ。
「……そっか。あんまり良く覚えてねぇんだよな……。オレも。」
楓もまたう〜ん……と、考え込んだ。
葉霧は文書を眺めた。
(楓にとっては……“大事なこと”だよな。何故、封印されたのか。それも……“京都”ではなく、この“玖硫の地”に。)
葉霧は、隣で考え込む様であった。
蔵の中に、重い空気が流れ込む。
暫しーー、考え込む二人だったが、蔵の入口に足を進めた。夕暮れの光が、眩く照らす。
楓と一緒に蔵を出る葉霧。
戸を閉める。
隣ではやはり不安そうに考え込む楓がいる。時折……ぶつぶつと何かを呟く。
葉霧は、楓の頭にぽんっと軽く手を乗せた。
「え?」
楓が見上げると……優しい瞳をした葉霧が微笑んでいた。
「一緒に……謎を解いていこう。」
そう言った。
「……葉霧……」
楓は……てへへと少し照れ臭そうに笑った。