再会
シュウ達は、洞窟の奥へと進んで行った。
「何も出てこないねぇ」
アマカはシュウの横で、あたりをキョロキョロと見回してる。
「アマカちゃん。そんなに頭を回していると、目が回っちゃうよ」
「うん、ちょっと酔ったかも…、エヘヘ」
エリナとアマカのやり取りに、和む一行。
しばらく進むと、進行方向が少し明るくなっている。その光には微かな揺らぎが見える。どうやら誰かが松明か何かで明かりを燈している様だった。
警戒を強める一行。
すると、洞窟は急に拓け、大きなホールの様な場所に出た。
そのホールは、これまでの洞窟の中と同様にデコボコととした床に天井であったが、壁の一部は人の手がかかり、やや平らになっており、そこには壁画が描かれていた。
「これは…」
「おお、なんだかスゲーな」
全員がその壁画に目を奪われている時だった。
「おや?誰かお客さんかな?」
奥の方から、一人の男性が歩いて来る。
その声に全員が武器を取った。
「う…うそ、そん…そんな…」
ケネスは涙を流す。
「…お兄ちゃん」
そこに現れたのはケネスの兄であり、第一調査団に参加した考古学者のデニスであった。
デニスはシュウ達から距離をおいた位置で立ち止まる。
「ああ、みんなの警戒は理解できているよ。勿論自分も、他のと同様にパラサイト・ナーブに寄生されている状態だ。既に自分が死んでいる事も理解している。これ以上は近づかないから、安心してくれ」
デニスの言葉に、全員が驚愕していた。これまで会ったパラサイト・ナーブに寄生された者達は、自分が死んでいる事に気がついておらず、引き裂かれたり、潰れた身体を引きづりながら動いていた。
しかし、目の前にいるデニスはぱっと見は完全な状態に見える。
しかし、本人から、自分は既に死んでおり、寄生された状態だという。
「本当なの?お兄ちゃん?」
「ああ、本当だとも」
そう言うと、デニスは着ているジャケットの前を開き中を見せる。そこには大きく切り裂かれた痕が、彼の今の状態を示していた。
それを見て泣き崩れるケネス。
ジンは、一歩前にでると、デニスに声をかける。
「貴方はケネスの兄であり、王立歴史文化管理局所属の第一級研究員のデニス・ストレイス殿で間違いありませんか?」
「ああ、私はデニス・ストレイスだ」
少し持ち直したケネスは、立ち上がると、デニスがこの場所にいるのか聞いた。
デニスは壁画に目を向ける。
「私が何故他の者たちと違い、自らの死を認識しながらも、こうしていられるのかは分からない。だが、折角自由に動けるのだ。そして、ここにはとても興味の引かれる研究対象がある。調べずにはいられないだろう。だから、ずっと調べていた。良かったら、これまでの研究成果を説明させてもらえないかい?私を燃やすのは、その後でも遅くはないだろう?」
ジンは、了承の意を示し、説明を促した。
壁画は全部で4つ描かれていた。
「これらの壁画は、古代メルトリア文明の時代より前に描かれたものだ。具体的な年代は分からないが、更に数百年は前だと思う」
それは正に衝撃的事実だった。現在判明している歴史において、古代メルトリア文明が最も古く、それ以前となると、殆どが文明を持たず獣と同程度と考えられていたからだった。
デニスは説明を続けた。
「まず、一番左の壁画だが、これは、この時代、神と人とが平和に共存していた事を表している。右側の大きく描かれ後光の様な物がついた人型が神だと思われる。左に描かれている多くの小さな人型が人間だろう。その下に家畜や農作物が描かれている。これにより平和だったと推察される。」
デニスは右隣の壁画に目を向けた。
「これには二つの人種が描かれている。右側に描かれている人型は人間だ。で、左側の人型だが、良く見てほしい。角と蝙蝠の様な翼が描かれている。恐らく…デーモンだ。この時代から、人とデーモンは戦争をしていたらしい。そしてデーモンが優勢だ」
「…マジかよ」
「この時代からデーモンが…」
デニスは更に右側の壁画に向かう。
「これは、先の二つと比べると解釈が少し難しい。一見すると人がデーモンを退けている様に見える」
「おお、当時の人間も頑張ったんだなぁ」
「人の更に右側には神が描かれている。そしてその神の手から星型のものが人に降り注ぎ、人の中にその星型が描かれている。多分スキルか魔法だと思われるのだが、ハッキリしていない。更に注目してほしいのが、この壁画には、人の死体は描かれているが、デーモンの死体が描かれていない」
「…つまり?」
「倒すことはできず、追っ払う事が精一杯だったのではないかということだ」
一同は閉口してしまう。
「そして、こちらにある壁画で最後だ」
デニスは全員の目を最後の壁画に注目させた。
それは、今までの3つの壁画を上回る衝撃的な物だった。