表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/79

依頼の受諾

 その日の夜。


 シュウは、一人でグラスを傾けていた。


「ふぅ、随分と傲慢になったものだ」


 琥珀の水面に移る自身の顔を覗き込み、今日の事を思い返していた。


 自分の行った行為に、後悔も反省もしていない。多少思う事があるとすれば、アマカに嫌な思いをさせてしまった事だろうか。


 五人の男性騎士を物言わぬ骸に変えた事に、罪悪感は無い。


 前世の記憶。それが、自分の帰属意識を過去に縛り付けている。この世界は、別の場所。超リアルなVRゲーム。責任を感じる必要の無い世界。そんな感覚が十八年経った今でも抜けていない。


 魔法という存在が、魔力という存在が、魔素という存在が現実感を失わせる。


 五人の男性騎士の命を奪った行為の根底にあるのは、只の支配欲だ。自分の物を傷付けられた。汚された。奪われた。それらから来る獣じみた怒り。


 きっと対抗手段が無ければ、屈していたかもしれない。泣きながら、歯を食いしばり、一心不乱に、森でその後何が起きるかを考えない様にして、街に走ったかもしれない。


 しかし、手元には「力」があった。だから躊躇もしなかった。


 結局は、奴らと同じ。


 ならば、せめて…



 シュウは、一人でグラスを傾ける。

 水面に写る自身を覗き込みながら。




 翌日、シュウとアマカ、そしてエリナは、素材収集ギルドの会議室でギルドマスターのジェラルドと対面していた。


「あー、本当に依頼を受けるんだな?」


「あぁ」


 一昨日、即答で依頼を断っておきながら、依頼を受けると言ってきたシュウ。ジェラルドは頭を悩ませていた。


 当初からギルドを訪れ、依頼を出しに手続きに来たのは、エリナ一人だった。だから、この場に「エリナのみ」がいる事自体は問題は無い。


 しかし、ギルドの調査部の報告によれば、エリナ達一行は、彼女を含め六人の一小隊でこの街を訪れており、他の五人は昨日から戻って来ていない。


 それが何を意味するのか、考えずにはいられなかった。だが、それはギルドの管轄外の事であり、不用意に首を突っ込む事でない事も理解していた。


 ジェラルドは、エリナの顔を見た。最初に見た数日前に比べると、やや窶れはいるが、その表情は何処かスッキリしている様にも見える。


 アマカは何時ものように、この後、何を食べに行こうか考えてる感じだし、シュウもいつも通りだった。


「分かった。手続きを済ませよう。現地までの足と依頼達成までの、諸々の費用はそちらの国で面倒を見るでいいのだな?」


「はい。依頼書にも記載しました通り、現地で充分に依頼をこなせる様、細々とした事は全て、こちらで対応いたします。ご安心ください」


「承知した。それじゃぁ、シュウ。無事に帰ってきてくれよな。ただでさえ、最近納品が少なく、商人やら職人から、せっつかれていて、たまらんのだ。無理するなよ」


「ありがとうございます。ジェラルドさん。無事に戻ってきますよ」


 シュウとアマカ、エリナの三人は、出発に向けて、部屋を出て行った。




コンッコンッコンッ


「入れ」


「失礼します。報告書を持ってまいりました」


 ノックをし、職員の一人が入室すると、手に持った報告書をジェラルドに渡した。


 そして、一礼すると、退出したのだった。


「ふむ、なるほどね。まったく…」


 ジェラルドは報告書を読み終えると、火を点け処分する。





 ギルドの裏手にある目立たない場所にて…


「はい、手間賃よ」


「へへへ、ありがとうごぜいやす。へへへ」


 職員の一人は、情報屋に金を渡す。


「へへへ、姐さんも大変ですねぇ。へへへ」


「ツマラナイ事言ってると、刻むわよ」


 職員の指先の間からは、鈍くされど鋭く光る物が顔を覗かせている


「へへへ、おお怖い怖い。それでは。へへへ」


 職員はギルドの建物に戻る。


 薄暗い廊下を、まるで昼下がりの小路を歩くかの様に、スカートを翻し、バレリーナの如く回りながら、ステップを刻んでいく。


「もぉ、シュウ様ったら。相変わらずステキ。私も守ってもらいたーい。…でも、あのクソビッチ。依頼の間にシュウ様に手を出そうものなら、ウフッ、刻んであげる」


その時の彼女の表情を知る者は誰もいない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ