幕間 眠りを守る者
そこは、薄暗く静寂の支配する世界。
湖の深い水の底。
そこには誰の手によって作られたか定かではない粗末な墓標と、それを守る様に横たわる竜が眠っていた。
竜は、閉じたその目を開くと、ゆっくりと湖面に向かっていく。
竜は時折湖面に顔を出し、景色を眺める。
それは、眠る彼女に教えてあげる為。
今日は雲一つ無いとても良い天気だったよ。
…もうすぐ季節が変わりそうだよ。
…今年も君の好きな渡り鳥がやってきたよ。
…また、あの花の咲く季節がやってくるよ。
……君が眠ってから、ここは今でも静かだよ。
どのくらいの年月が流れたのだろうか。
どのくらい竜は、それを繰り返したのだろうか。
そんなある日のこと。
久しく感じたことの無い強い何か。それが接近してくるのを、竜は感じ取っていた。
小さな者達が湖に近づく事は多々あったが、それは粗末な事だった。しかし、今感じている何かは、それらとは大きく異なっている。
根源的な質。そんな物が大きく異なる何かが、空から近づいて来ていた。
敵意は感じられない。
様子を見ていると、何時も湖の近くにいる小さき者と接触したのが分かった。
彼女の眠りを妨げようとする存在では無いと感じてはいたが、気になった竜は直接確認する事にした。
湖面に顔を出し、竜は彼の者を見た。
「ああ、なるほど…」
それだけを思うと、再び彼女の元に戻っていった。
また少し眠っていると、外が騒がしくなっていった。
多くの小さき者達が近づいて来るのが分かった。
そして、何時もいる小さき者と争い始めている事も感じていた。
「ああ、小さき者達は、また争いをしているのだな」
程なくして、彼の者が再来し、事態が収束していくのを感じる。
そして、それを離れた森の中で見ている、また別の異質の者の存在も感じていた。
竜はまた、その目を閉じる。
「彼の者は、あの遺跡に行くことがあるだろうか?
行けたのなら何を思うだろうか?
そして奴らをどう感じるだろうか?」
竜は今日も静かに湖の底で、彼女の眠りを守っている。