寄り道
「ねぇ、シュウ?」
ニコニコしながら、楽しそうな表情をするアマカ。
「途中か街道を外れて、方角がだいぶ南寄りだね。寄り道先ってまだ遠い?」
「うん、もう少しかな」
シュウは、変わる景色を楽しめる速度まで移動速度を落とし、魔結晶の採れる鉱山とは大きく離れた方角に向かって移動していた。
シュウが出発したのは、アルシュエルの依頼を受けた日から二日後。、先触れとして使いの者が移動したのは、依頼を受けた日の当日である。
目的地までは馬車で10日ほどかかる距離であり、使いの者が現地に到着するまで、急いでも8日。
シュウは、自前の高速移動や、飛行をすれば1日で到着できてしまう。急いで行く必要があればそうするが、依頼は急ぐ必要は無い。
そこで、久しぶりに人目を気にすることなく自由に行動できる今を楽しむ為、寄り道することにしていた。もちろん、アルシュエル達には内緒である。
しばらく進むと、その標高は高くなり、涼しいと言うより、やや肌寒い高原に到着した。そこは深い針葉樹の森に囲まれた大きな湖のほとりであった。
その美しく大きな湖は静かに湖面をたたえている。
「大きな湖だねー」
元と大きさに戻ったアマカと一緒に、シュウは湖岸を散策していると
キュオオオウオウオォー、ウォオウォウォウォー
湖の中央付近が、盛り上がり、咆哮をあげながら、首の長い竜が姿を現した。竜は、すこし、頭を出して湖面を泳ぐと静かに潜って行った。
「シュ、シュウ、シュウー。竜だよ。竜」
「そうだねー、竜だねー、竜がいたねー」
アマカは慌てて、シュウの手を引っ張りながら、右に左に動き回りながら、興奮して慌てているのに対し、シュウは落ち着いる。
「かの竜は、健在ですよ。今でもこうして、静かに見守ってくれていま。お久しぶりですね。シュウ。それと初めまして、可愛いラミアの子」
湖面を静かに、優しく見ていたシュウの後ろから、一人の女性が声をかける。
「お久しぶりです。レイ・フォンド様」
シュウは静かに振り返ると、レイと呼ばれた者に対し、頭を下げ挨拶をした。
竜に驚き、突然現れた女性に驚き、更に頭を下げたシュウに驚き、3重で驚いたアマカは完全にフリーズ。
そしてフリーズしたまま、レイの案内する小屋に移動した。
レイ・フォンド。貴族であり、竜の巫女として、この湖岸に住み、竜を見守り余生を過ごす褐色のエルフの女性。その姿は20代に見える若々しさがあるが、既に数百年の刻を生きていた。
竜の巫女は、国より任命される形で務めてた。
そう言ったスキルがある訳ではない。決して竜と意志疎通できる訳でもなく、竜に仕えている訳でもない。
自ら望んでこの仕事に就いてるが、決して異常な程のドラゴン愛があるわけではない。
では何故、彼女がここにいるのか?
それは彼女のスキルが関係していた。
暗黒魔法 レベル5
それが、彼女のスキルだった。
このスキルがあるだけなら、ただの一般人であれば問題無かった。そのスキルレベルから、良い待遇で迎えられたかもしれない。
暗黒魔法はまさに闇の魔法。影、死、静寂、無。そういったイメージを誘発させ、事実それを行使できていた。
しかし、彼女の立場がそれを許しはしなかった。
王位継承権を持つ者だったのだ。しかも正妻ではなく側室の子。
当時の国王は、そのスキルから彼女を失うことを躊躇った。しかし、宗教が絡めば暗黒魔法は余りにも外聞が悪かった。
そこで、湖に住む竜を監視するという職に就かせる事で、他者からの目を遠ざけたのだ。
この世界でも竜、ドラゴンは最強の種。その存在が確認されれば討伐ではなく、逃げる事、いかに被害を押さえるかが戦いの肝となる存在。
そんな存在を監視する立場に、王位継承権を持つ者が行えば外聞が良く、またその竜の存在が、無礼な者を遠ざけたのだった。
そんな竜の巫女とシュウがであったのは、4年程前。
シュウが修業として、各地に飛び回っていた頃だった。