西へ
「シュウ君、魔結晶は知っているかい?」
何だかんだと検査をされ、魔力糸を用いた実験を手伝わされたシュウとアマカは、アルシュエルに呼び出されていた。
正直面倒と思いながらも、滞在中の寝床と食事を無償で提供され、実験の手伝いをした際には正当な報酬が支払われていた為、強く言えなかった。特に各宗派からの面倒事を一手に対応してくれていた事が一番の理由かもしれない。
そんな状況の為、また新たな実験や検証の手伝いかと思っていた。
「シュウ、魔結晶って何?」
「魔結晶っていうのはね、アマカ。洞窟や鉱山等て濃い魔力溜まりがある場所で取れる魔力を帯びた結晶の事だよ。見たこと無いけど、話ではとても綺麗らしい。ただ、とても扱いが難しい物なんだって。自分が知ってるのはそれくらいですね。アルシュエル所長」
「うんうん、概ね正解だね。もっと詳細にいうとだね……」
この世界には、魔石、魔鉱石、魔結晶等がある。
魔石は、魔獣等の体内から取れる魔力を帯びた石状の物であり、生物との親和性が高く、魔法の発導体や増強する為の道具に使われている。
魔鉱石は鉄等の鉱物に通常以上に魔力を内包している鉱石。武具や魔道具にしようされている。魔石程の親和性は高くないが、魔力を良く通す為、導線としても使用されてる。
魔結晶は魔石や魔鉱石の数十倍の魔力を内包している鉱石。鉱石なのに結晶と呼ばれる由縁は、その見た目が結晶の様に美しく透き通っている為。しかし、魔結晶は鉱山から外に出すと、内包した魔力が散ってしまい、普通の魔鉱石になってしまうのだ。その為、その魔力の維持する研究が行われている。
「そこでだ。シュウ君。ここから西に馬車で10日程行った先に、我が国保有の鉱山があるんだ。そこで魔結晶が取れるのだが、そこに行って、君の魔力糸で取り出せるか試してほしいんだ」
シュウは正直渋っていたが、依頼を受けることにした。何時までもこの街にいるつもりは無い。今後の事を考えれば、良い予行練習になると思えた。
「シュウ君。勿論、我が研究所からも護衛を出すよ。それに街を出るとなれば、嫌でも護衛に立候補する奴らが出てくるだろう。だから道中の安全は……」
「いえ、現地へは自分たちだけで向かいます。ですので、先触れの連絡だけお願いします。」
アルシュエルの言葉を遮り、シュウは自分の考えを述べた。
シュウの表情から何か考えがあると察したアルシュエルは、それを承諾した。
翌日、シュウとアマカは旅路の準備の為に、買い物にでかけた。
「本当にお二人だけで向かわれるのですか?」
心配そうに案内のパラムは、シュウ達を見ていた。
「大丈夫ですよ。まぁ、考えがありますから」
「その考えって、教えてもらえたりとかは……」
ニッコリ微笑むだけで、答えないシュウであった。
更にその翌日の早朝、シュウは西の鉱山に向かうため、西側の門に向かっていた。
しかし、その姿はシュウただ一人であった。
何時もの様に荷物を魔力糸で作った亜空間に格納していた為、手ぶらで散歩している様にしか見えなかった。
見送りに来ていたアルシュエルとパラムは、驚いてアマカの所在を聞いたが、シュウは答えず出発するのだった。
陰から出発を見ていた各宗派の者達は、アマカを亜空間に閉じ込めたのでは?等、予想したり、部屋を捜索したりとしたが、街中ではとうとう発見できなかった。
シュウは馬車を使わず、自前の身体強化を使用した高速移動を用いて、現地に向かって行った。
「ウフフ、ばれなかったね、シュウ」
「そうだね。思ってた以上に上手くいったね」
アマカはずっとシュウのそばにいた。
「おい、くすぐったいから、あまり動くな」
「えー、ちょっとくらいいいじゃーん」
小さな蛇の姿に変身したアマカは、高速移動中のシュウの服の中を、シュウにに巻き付きながら動き回りイタズラをしていた。
アマカは、二つ目のスキル、身体変化レベル2によって、その姿を細い蛇の姿に変えていた。
身体変化は人によって、その変化具合が異なっていた。アマカは半人半蛇のラミア族。その変化は蛇化する形で現れた。本人はシュウと同じになるように下半身を人に似せようと頑張っていたが、成功していない。
誰にも気がつかれず、仲良く移動する二人であった。