カカシ
コンッ!コンッ!コンッ!
アルシュエルはノックをすると、応接室に入った。目の前には審問官の法衣を着たジェルムス・ドライラーが椅子に座っていた。
ジェルムスは立ち上がるり、聖職者としての作法にのっとった挨拶をした。
「ご無沙汰しております。アルシュエル所長。本日は急な訪問に時間を割いていただき、ありがとうございます。」
「ご無沙汰しております。ジェルムス審問官殿。こちらもお会い出来て嬉しく思います。さぁ、どうぞお座り下さい」
両者が席に座ると、カードリが入室し、お茶を出すと、直ぐに退出した。ジェルムスは、出されたお茶をまるで汚物を見る様に目を向けると、端に寄せそれ以降、視界にも入れようともしなかった。
「相変わらず、アルシュエル所長は物好きでいらっしゃる。あの様な者をそばに仕えさせるとは」
スキル至上主義の彼にとっては、カードリは「近くに置いておきたくない物」といった認識しかなかった。
「宜しければ、より優秀な者をご紹介出来ますが、どうですかな?きっと今以上にお役にたてる事でしょう」
カードリが現在の位置に就くために、どれ程の努力と工夫、そして結果を残してきたかを知っているアルシュエルにとって、彼女以外の秘書は考えられなかった。
「お気遣い痛み入ります。ですが、ああ見えて彼女は優秀なのですよ。なので、変える気も、要員を追加するつもりもありませんよ」
「そうですか、フフフ」
「ハハハ」
この後もしばし雑談を続けるた後、本題に入った。
ジェルムスは姿勢を正すと、語気を強めた。
「率直に申し上げます。そちらにいるシュウとアマカなる二人を、こちらに引き渡して頂きたい」
どこまで情報を得ているか不明の為、アルシュエルはそれを聞き出す事にした。
「お断り致します。彼等は私の客人ですよ。理由をお伺いしたい」
「隠すおつもりかな?」
「何の事でしょうか?」
ジェルムスは睨みつけ、アルシュエルは飄々と受け流す。
「その二人、先日、デーモンと接触したと情報が入っております。であるなら、その真偽を確かめる為、教会に引き渡すのは当然では?」
「ほう」
「それに、そのシュウとか言う男。なんでもスキルを1つも持たない者だとか。『神に嫌われし者がデーモンと接触した』となれば、警戒するのは当たり前だ」
「ジェルムス殿。どうやら貴殿は勘違いをしているようだ」
「勘違いだと」
「どの聖典にも、どの神話にも『神は嫌いな者にスキルを授けない』と言った様な一文はありませんよ。確かにシュウはスキルを持っていませんが、狩人としては、スキル持ちより優秀です。色々とお調べになったのなら、ご存知でしょう」
「詭弁を…」
「詭弁なものですか。事実ですよ。研究者である私は、先入観なく事実と実績とこの目で見た事を基準に判断しております」
「どうあっても、渡さないつもりか」
「デーモンの件については、こちらでも危惧しております。ですので、まずは史実に基づき光魔法の使い手を集めております。ジェルムス殿もご存知でしょう。ゲルンデル伝記にある一節を」
ゲルンデル伝記。200年前に起きたデーモンとの戦いについて記録された伝記。その中でデーモンに与した者を見つける為に、弱い光魔法を浴びせ、全身から黒煙をあげるかを見て確認したとされる一節が記されている。
その為、デーモンとの接触が疑われた際は、まず光魔法を浴びせる事から始まる。
しかし、光魔法はレアスキルの為、一般にはあまりいない。教会が聖職者として囲ってしまうのだ。その為、アルシュエルは人を集めるのに苦労していた。
それを聞いたジェルムスは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「それでしたら我が教会から、人員を提供いたしましょう。勿論、場所はそちらの敷地内で結構です」
アルシュエルは、ジェルムスが人員の貸し出しを申し出てくると予想していた。
「それはありがたい。光魔法保持者は中々見つからなかったので助かります。では、場所は当研究所の魔法実験場で行いましょう。そこでなら万が一があっても、街に被害がでませんから」
「承知いたしました。では、近日中に。それまで二人を逃がす事の無いようお願いします」
そう言うとジェルムスは、研究所を後にした。
自室に戻ったアルシュエルは、自分の愛用の椅子におもいっきり体重をかけて腰を落とした。そしてシュウ達への説明と今後についてどうするか考えていると…
ガシャーン、ガシャシャーン!
外で何かを叩き付ける音がした。
窓から外を覗くと、カードリが庭先に置いてある訓練用に置いてあるカカシに木刀を振るっていた。しばらく続けた後、肩で空を切りながら室内に戻るところが見えた。
「あのカカシ、カードリ専用になってるなぁ」
気晴らししたいと思うアルシュエルであった。




