失態
「もう一度、理解、いや、納得出来るように説明して下さい。アーベン教授」
ここは、エンドラ王国の生物学研究所にある研究室の一つ。そこにシュウ、アマカ、そして正座させられているアーベン教授がいた。
アマカはシュウの後ろでソファーに横になり、目を回して、グッタリしていた。
ドドドドドッ
大きな足音をたてて、慌てた様子のアルシュエル所長が入ってきた。
「アマカちゃんが倒れたのは本当かね」
アマカが横になっているの見て唖然とした。
「アーベン君。キチンと説明してもらおうか、まさかとは思うが、場合によっては査問会にたってもらうよ」
ゴゴゴゴゴッと効果音が幻視出来そうな雰囲気でアーベン教授を見下している。
「まっ、待って下さい。今からシュウさんにもお話するところですから…」
アーベン教授はことのあらましを話した。
要約するとこうだ。
勉強から逃げてシュウの所に行こうとするアマカに、何とか興味を持ってもらえるように、まず甘い蜜を出す植物について講義を始めたらしい。
その際、サンプルとして、数種類の植物とそれらの蜜を用いて行った。結果、試みは成功し、実体験を伴った講習にアマカは順調に覚えていった。
ここまでは良かった。
その後、他の教材を取りに、一時的にアーベン教授は席を外した。
研究室には、それこそ多種多様なサンプルや研究対象が置かれていた。安全、危険関わらず…
教材を持ってアーベン教授が戻ると、倒れたアマカを発見したらしい。
直ぐにシュウ、アルシュエル所長への連絡、及び救護班への要請を行った。
すぐさま救護班は到着し、アマカの容態の確認と現場の検分が始まった。
その結果、どうやらアマカは、目に付く物を片っ端から舐めていった様なのだ。
その最中にシュウが到着し、容態が目を回しているだけと分かり、無理に移動させず、現状に至るとのことだ。
アーベン教授は目を離した事、他に助手を付けなかった事に深く謝罪した。
また、サンプルに出した物以外に手をつけると思っていなかった事。本当の意味で危険な物は、この部屋には置いていない事など弁明した。
理解し納得できはするものの、呆れるシュウであったが、一人アルシュエル所長だけは冷たく更に問いただした。
「アーベン君。念の為の確認なのだが、あえて危険の少ない物を放置したっと言うことは無いよね?」
「勿論です。その様な事は決して。これまでの人生全てに賭けて、していません」
「分かった。シュウ君、本当に申し訳ない。完全にこちらの落ち度だ。」
アルシュエル所長も深く謝罪した。
「承知しました。アマカの不注意でもありますし、大事にも至ってません。今後の事もありますから、お互い気をつける事で良しとしましょう。」
「「ありがとう」」
「ところで教授、アマカが何を口にしたか判りますか?」
するとアーベン教授はやや離れたテーブルを指差すと
「あのテーブルにある物だ。主に痺れや麻痺の成分を持つ植物だ。アマカちゃんの故郷に自生している植物の近類種と思われる物でね」
「ああ、以前から医療用に依頼されてたヤツか」
それを聞き、シュウは不思議に思った。
「医療用?治癒魔法か類似の使い手がいれば大丈夫なのでは?」
「治癒が行える者がいれば良いが、居ない場合や居ても魔力が足りず、治癒が行えない場合。または手の施しようが無い場合など、色々な状況がある。そういった場合に患者を一時的にでも楽にさせ、周りの負担を減らす必要があるのだよ。」
「今ある薬は、効果が強すぎるのだ。逆に患者を弱らせてしまうんだよ。それでも有ればマシなんだが、中々高価でね」
前世の世界でも痛み止めの経口薬や経皮薬は、需要高かったしなっと思いだし、改めて魔法も万能では無いことを実感するシュウであった。
しばらくして、アマカは元気に目をさまし、開口一番、大声で叫ぶのだった。
「アマカ、お腹すいたー」