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夏色の夢  作者: すずしろ
2/2

後編 (八春悠)

パソコンの調子が悪かったので初投稿です

その日の夜、おばあちゃんの作ってくれた晩ごはんに舌鼓を打った後、案内された部屋でゴロゴロしながら明日からのことを考えていた。



(明日は……とりあえず色々なところを散策してみましょうかな。今は少しでもヒントが欲しいしからね……)



ざっくりと明日の行動を頭の中でぼんやり考えながら、布団の柔らかさと畳の匂いに包まれていると次第に眠気が襲ってきた。壁に掛けられている時計をちらっと見ると、短針は10と11の間の辺りを指していた。



(今日はずっと移動だったから疲れが出てるんだろうなぁ……。いつも寝る時間より2,3時間は早いけど……たまにはこういうのもいいかな……)



そして意識は徐々に遠のいていき……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





会いに来てくれて嬉しいよ



私は……いや、それじゃあ面白くないよね



せっかくだから私を見つけてもらおうかな



散々待たせてくれたんだから……



これくらいは許してよねっ!



それじゃ、頑張ってね!





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





花音の目覚めは最悪であった



「…………」



過去最悪と言っても過言ではないだろう



「……」



普段なら布団が変わったせいでよく眠れなかったと言えるのだが



「…」



今回の場合は眠れなかった理由が



「ふざけた夢見せてくれちゃってさぁ……。なーにが頑張ってねだよホント」



むしろそんな事をされると逆に



「いや考えろ。これから先ずっと夢にまで出てきてこんな事が続くということを考えると……」



眠れない日々……増える自主休講……単位……留年……



「しょうがない……探そうか」



帰るのは明後日の昼前だから……タイムリミットは明日いっぱいか。



「その前に朝ごはん食べてからにしよう!」



決して、普段食べてない朝ごはんを食べられるんだから食べられるときに食べておこうだなんてそんなことはこれっぽっちも考えていない。


のんびりしてていいのかな?なんて声が聞こえてきそうだけど私には私のペースがあるから気にしない気にしない。



「おはよう……ってあれ?」



居間には誰もおらず、机の上にはおにぎりと置き手紙があった。



「えっと……?『天気もいいんだからいつまでも寝てばっかりいないでお散歩にでも行ってきなさい。朝ごはんは冷蔵庫の中に入ってるからね。おばあちゃんは畑仕事に行ってきます』……ふむ」



冷蔵庫の中を確認したら、昨日の晩御飯の残り物があった。どうやらこれが朝ごはんらしい。


というわけでさっさと朝ごはんを済ませ、家の中にあった手提げかばんの中におにぎりと水筒を入れて準備完了。スマホはポケットの中にあるのでついでに風景写真でも撮ってこようと考えながら家を出る。その前に……


おばあちゃんの書き置きの下の方に、出かけてくる旨と帰宅予定時間を書いておく。田舎暮らしのおばあちゃんにスマホどころか携帯電話を持ち歩く習慣は無いのである。



「これで良し。それじゃあ行ってきます」



家の中には誰もいないが、これは出かける前の儀式みたいなものだ。というか出かける時にこれを言わないと私が落ち着かないだけなのだが……





行ってらっしゃい。待ってるからね





そんな、まるで長年一緒にいるみたいな……そんな声が聞こえた気がした。



「ほんと、何なんだろうね」



だが不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ心地よさすら感じていた。



「いいよ。見つけてあげるから待ってな」



その言葉を残して家を後にする。目指すは彼女のいる場所へ……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「とは言ったものの……」



すでに日は暮れてカラスが鳴く時間になっている。



「一体どこだって言うのよもう……」



子供の頃に遊んだ小さい川も、悪ガキ共と虫取りをした森の中も、その他ありとあらゆる思い当たるところを探したのだが……



「声も聞こえないし、何よりピンと来ないんだよなぁ」



しばらく考え込んでいたが、赤みがかった空が次第に暗くなっているのを見て、おばあちゃんが心配する顔が浮かんできたので今回の探索はここで打ち切ることにした。



「リミットは明日一日……本当に見つけられるのかな」



そんな不安を抱えつつおばあちゃんの家への帰路を急ぐ。でないとそろそろ心配されそうだ。



「悩んでいても仕方ない。全ては明日の私に託した!」



もう開き直ってしまおう。明日の悩みは明日の私がなんとかしてくれるさ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





案の定帰ったらおばあちゃんにこれでもかってくらい心配された。普段なら外で遊ぶどころかバイトで家にいないくらいの時間なのに大げさだなって思うけど、心配してくれてるんだなと思うと悪い気はしない。


昨日と同じように田舎の幸をふんだんに使った晩御飯を食べていると、おばあちゃんが



「花音ちゃん、明日は早起きして爺さんのお墓参りに行こうね」


「分かったよおばあちゃん。何時頃に起きればいい?」


「そうだねぇ、5時頃には起こしてあげるから」


「はーい」



……5時って休みの日に私が寝る時間じゃん


まあいっか。偶には早起きもしないとね。



「ごちそうさま。お風呂沸いてる?」


「ああ、沸いてるから先入ってしまいなさい。明日は早いからね」


「はいはーい」



一回部屋に戻ってから着替えを取って浴場へ。服を脱いで体を洗い湯船に浸かる。



「ふぇ~……」



思わず声が漏れてしまったが仕方ないことだろう。



「そう言えば湯船に浸かるのっていつぶりだろう。一人で暮らしてたらシャワーで済ませることが多いからなぁ……」



考えることは多々あるが、今考えることは明日のことだ。



「明日はおじいちゃんのお墓参りに行って、それから……」



それから?夢の中に出てくる彼女を探す以外に何がある?



「あれ?」



そこまで考えて頭の中に何かが引っかかる。



何か……



「何かとてつもなく大事なことを忘れていないか……?」



普段なら忘れるくらいのことなら大したことでもないだろうと一蹴していたが、どうしてもこの忘れている何かはそうできなかった。



「なんでだろう。どうして思い出せないんだろう」



考えても考えても答えは出るはずもなく、ただただ時間だけが過ぎていくだけだった。


考えていたら次第に意識が遠くなって……だんだん意識が遠く……



「花音ちゃん大丈夫かい?いつまでも出てこないから何かあったかと心配したよ」



不意に扉が叩かれてその音で意識が覚醒した。



「え……あぁ、ごめんごめん。すぐ上がるよ」



体を拭いて寝間着に着替えて居間に行くと、おばあちゃんが心配そうにこちらを見ていた。



「本当に大丈夫かい?あんまり無理しなくてもいいんだよ?」


「大丈夫大丈夫!久しぶりに歩き回ったからちょっと疲れちゃっただけだよ」


「なら……良いんだけどねぇ」


「そうそう。だから大丈夫だって。あ、明日5時だったよね!私もう寝るね!」



そう言い残して逃げるように居間を後にし、布団に包まりぼんやりと先程のことを思い出す。



(いつもならすぐに忘れられるのに……)



どうしても風呂場で思い出したことが頭に引っかかって眠れそうにない。


同時にこれが今私の持つ、彼女につながる唯一の手がかりということだと何故か確信が持てる。


思い出さないといけないのに。忘れちゃいけない彼女との思い出なのに……





思い出……?彼女との?


私は今何を思い出した?


なんで思い出せた?


考えろ……!何か思い出したきっかけがあるはずなんだ……!


確かそう。確かおじいちゃんのお墓参り……





「……あっ」




思い出した……忘れちゃいけないことなのに


今までずっと忘れていた……



それを思い出した瞬間私は飛び起き、寝間着を脱ぎ捨てて枕元においてあった服に着替えて何も持たずに玄関へと駆ける。


それを見たおばあちゃんは心臓が飛び出たみたいな驚いた表情をしていた。



「ちょっと花音ちゃん。今何時だと思ってるんだい!?」


「ごめん!どうしても行かなきゃいけない場所があるから!」



おばあちゃんの眼をじっと見つめてしばしの沈黙が流れる。



「はぁ……ほれ」



そう言って何かを投げ渡してきた。



「懐中電灯。暗いから気をつけてね」


「……!ありがとう!」



懐中電灯を受け取って玄関を飛び出した。



「ハァ……ハァ……!」



ただひたすら走り続ける


目的地は思い出の場所


それは彼女との約束の場所


そして着いた場所はお墓の裏手にある林の奥


その場所に……ずっと置きざりにしていた忘れ物がある



どれだけ走り続けただろうか。息はすでに絶え絶えで全身から吹き出した汗が服に張り付いて気持ち悪い。


それでも足を止めるわけにはいかなかった。だって



「ずっと待たせちゃってゴメン……」


あの場所で待ってくれてる人がいるから


やがてその歩みは次第にゆっくりと……そしてピタリと止まる


「会いに来たよ……美咲……!」


林を抜けた先……そこに広がっていたのは様々な花が咲き乱れる花畑。


満月に照らされたその場所に……





彼女はいた





「待ってたよ。花音」





そこに立っていたのは夢の中に出てきた彼女……いや、夢の中の彼女よりは成長した姿でそこに立っていた。



「待っていたんだよ、ずっと。もう思い出してもらえないかと思っちゃった」



そう呟くように言う美咲の瞳から一筋の涙がこぼれた。



「ごめんね……。本当に……ごめんね……!」



忘れていたことを懺悔するように花音は両膝から崩れ落ち、両眼からは涙が溢れる。


そして美咲は、涙を流す花音にゆっくりと近づいて、その体を両手で包み込んだ。



「いいんだよ。花音はこうして思い出して、ここに来てくれた。私にはそれで十分だよ」



いつまでそうしていただろうか。やがて花音は立ち上がってスッと立ち上がった。その顔は若干赤くなっていた。



「ありがと。落ち着いた」


「もういいの?ほらほら、美咲ちゃんの胸に飛び込んできなよ」


「大丈夫だから。いい加減にしないとシメるよ?」


「花音ちゃん過激~~~」



美咲は屈託のない笑みで……旧友との再開を喜んでいた。が、その顔は徐々に曇っていき……



「さてと。思い出話に浸るのもいいけどあんまり時間もなさそうだね」



そう言う美咲の体は徐々に透明になっていた。



「最後に言い残すことは……ある?」



美咲が花音に問いかける。



「逆じゃん……それ私のセリフだよ」



その言葉に苦笑いを浮かべる花音。その眼には先程までは止まっていた涙がまた溢れ出していた。



「泣き虫なのは昔から変わってないね」


「しょうがないじゃん……!だって……これが最後なんだよ……?」


「じゃあそんな花音ちゃんに私から最後の言葉」



花音に背を向けて、花畑の中央に向けて歩きだす美咲


そして振り返った美咲は、涙でくしゃくしゃになった顔で無理やり笑顔を作っていた。



「花音が忘れなかったら、私は花音の中で生き続けるよ。だから……またね!」



そう言い残して彼女の姿は見えなくなり、花畑を一陣の風が吹いた。



「美咲……うん。また会おうね」



その言葉を最後に、花音は花畑を後にした。


彼女の帰りに通った道はいくつもの涙の跡があったが、それを知るのは彼女と、彼女の中に生き続ける美咲だけであった……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





その後、家に帰ったらおばあちゃんにすごく心配されちゃった。それもそうだよね。いきなり飛び出したと思ったら泣きはらして帰ってくるんだもん。


そこでおばあちゃんに何があったかを話したら昔を懐かしむように美咲ちゃんのことを話してくれた。


その話を聞いて、高校生に上がろうかって位のときに事故に遭って亡くなってからそんなに経つのかって思っちゃった。


おばあちゃんは私がその事を忘れてたことが不思議だったみたいだけど、私もなんで忘れてたのかが不思議でしょうがないんだよね。


あ、そうそう。忘れてたと言えば美咲との約束なんだけど、全文をやっと思い出したんだよね。


小さい頃に一緒に遊んでた私と美咲との約束……



大きくなったら、夜中にあのお花畑で一緒に遊ぼうっていう約束だったんだよね。ひょっとしたらあの時間に駆け出さないかったら約束は果たされなかったのかなって思うけれど……


約束は果たされ、美咲は今も私の中で生きている。


これからたくさんの思い出を作って、その全てを美咲と共有することになるだろう。


それでもまあ……




たまには帰ってきてほしいな。私達の約束の場所に





そんな声が聞こえた気がした。





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