第十一話 契約 1
穏やかな午後の昼下がり、陽だまりの中は暖かく、窓を開ければ時折入ってくる風に当たるとちょっと肌寒い。
春の訪れを告げるように桜の木々にはところどころに蕾を膨らませ、花開くその時を待っている。
目を開くと、はじめに目に入ったのは天井。
かすかにアルコールのような匂いが鼻に入り、ふと左手を見ると点滴の針が刺さっている。
ここはおそらく病院の中だろうか?
他に人の姿はなく、うっすらとした影の無い全身が黒い猫が自分のそばにいた。
「目が覚めたか、気分はどうだ?」
どこか聞き覚えのある声はこの黒猫からだろうか?
全身にだるさがあり、足に力が入らず立つことも出来ない。
「まぁ無理もないか、お前はあの化物に襲われて死にかけた所だったからな、お前の魂だけをなんとか引っ張って、虚ろになってたちょうどいい器があったから詰め込んだのさ」
死にかけた?そう言われて自分の体を見るが、目立った外傷はどこにも見当たらない。
虚ろになっていたちょうどいい器というのは何の事だろう?と考えていると黒猫がこちらに問いかける。
「意識を失う前の事、覚えてるか?」
そう言われてなんとか思い出そうと目を閉じて記憶を思い出そうと試みる…
何かよくわからないが、人とも獣とも違う何かに食べられそうになったのを思い出すと、恐怖で身体中の震えがが止まらなくなった。
「大丈夫だ、とりあえずヤツはここにはいない、あと、お前にいくつか聞きたいことがある。」
何?と言おうとした所で喉に違和感を感じた、声が出なかったのだ。
「お前、自分の名前は分かるか?」
自分の名前と聞いて答えようとする…が、自分の名前を思い出す事が出来ない。
それ以前に自分がどうして今この病院にいるのか?声が出ないのか?
血の気が引いていくのを感じながら黒猫の方を見つめると
「やっぱりそうか、お前はあの化物に魂の一部を持ってかれたみたいだな、そのせいで記憶の一部を持ってかれている、名前が分からないのは多分そのせいだろう」
そう言うと黒猫は顔を洗う仕草を何度も繰り返しながら何かを考えこんでいるように見えた。
ふと病室の出入り口の扉に鏡があり、そこに映った自分の姿が目に入る、肩の下まで伸びる長い黒髪、痩せ細った身体、細い目つきをした不健康そうな少女が鏡の向こうに見えた。
ストーリーパートです。
主人公を助けた人魂=黒猫の話がメインです。
ややこしくなってますが、主人公がゲーム内で操作していたキャラの肉体は鬼によって殺され、魂だけが助けられた事になっています。




