第61話 番人戦②
そこにいたのは52階層で隠し部屋で宝箱を守っていたしゃべる鎧であった。
セリムが召喚獣として召喚したのである。
重力を取り戻したかのように地面に落ちるようだ。
地響きを立てて地面に落ちる音がその質量の重さを物語るのだ。
「よっし、やったぞ」
『やったぞ、ではあるまいて。まあそんなことを今言ってもしょうがないでござるな』
しゃべる鎧は中央の瓦礫まで前進を始める。
「どうするんだ、しゃべる鎧?」
『拙者が刻を稼ぐゆえ、そこで伸びている男を起こすがよい。理を破って拙者を呼んだゆえ、好きにさせてもらうでござるよ』
「おい、またあの魔法の攻撃が来るぞ!!!」
しゃべる鎧とセリム会話の中、イリーナが敵の前進を食い止めながら、収束魔法の発射を教えてくれる。
『まだ、敵の城壁を落とせぬか。瓦礫ごと薙ぎ払え!狙うは中央だ!!』
『『『は!!!収束法撃』』』
敵の収束魔法がしゃべる鎧を召喚している間に魔力の充填が済んでいたようである。
アレクの指示により、中央の瓦礫ごと一行を吹き飛ばすため、収束魔法は放たれる。
『ふむ』
しゃべる鎧がゆっくり剣を上段に持ち上げるようだ。
オリハルコンでできた剣が輝きだす。
光る波動のようなものが刀身全体から発し始める。
耳鳴りのような振動音が大きくなっていく。
一歩踏み込むしゃべる鎧。
『はああああぁああぁぁ!!天地斬り!!!』
光り輝く剣圧が崩れたがれきを吹き飛ばすようだ。
光る衝撃破は天井まで達し、前進する。
勢いそのまま、収束魔法も呑み込み込んでいく。
そして、敵陣前方の騎士を何十体も吹き飛ばすのである。
「「「な!」」」
おっさんら一行が驚愕するのである。
その威力はおっさんの全力の魔法に負けずとも劣らないのだ。
『不完全にでてきたからか、こんなものでござるか』
「こ、こんなものなのであるか…」
しかし、しゃべる鎧は剣を持って首をかしげている。
どうやら威力に納得していないようだ。
威力以上にその言葉に驚愕するソドンである。
『何を驚いているでござるか?戦いは終わっておらぬ、まだまだこれからよ。それと拙者の名前はしゃべる鎧ではない、ガンダレフ=バルゼリンでござる』
「ガンダルフ?なんか呼びづらいな?ん?なんか聞いたことがあるぞ?」
セリムは聞き覚えのある名前のようだ。
「な!て、帝国の剣聖か!あの魔神狩りのガンダレフか!」
『魔神狩りか。懐かしい肩書よ。まあよい、我は中央から壁の外に出る故、だれかついてこい。戦い方を教えてやるでござるよ』
イリーナはしゃべる鎧のことを知っていたようだ。
騎士達と戦いながら驚愕するのである。
瓦礫を消しとばした10mほどの綺麗な門ができた城壁をスタスタと進んでいくしゃべる鎧である。
ズウン ズウン
しかし、その重量からか地響きを上げているのだ。
ソドンも使っているしゃべる鎧の盾だけで200kgを超えているのだ。
「では我は中央の穴から敵が抜けないようにするである。セリム殿はケイタ殿を何としても起こしてくれ。アヒム殿とロキ殿と変わってくれ。イグニル殿はアリッサ殿ともにイリーナ殿に加わってくれ。ロキ殿すまん、ガンダレフ殿とともに前線をお願いするでござる。コルネ殿は今一度上部から攻撃をお願いするである」
「「「はい」」」
おっさんに代わり、獣王国で親衛隊を指揮してきたソドンが皆に指示をするのだ。
セリムが召喚したしゃべる鎧による戦いの第2ラウンドが始まったのであった。
ソドンの指示に構成に変更する一行である。
それから30分が経過する。
「…………!」
「………ろ!」
「おい!………!」
「いいかげん…………!!」
「………ケイタ!」
「起きろ……ケイタ!」
「いい加減!起きろ!ケイタああ!」
「へ……」
「へぶ?」
セリムがゆっさゆさ揺らされおっさんが目覚めるのである。
「お!やっと起きたか!」
「おお!目覚めたであるか!?」
「へ?ここはどこでしょうか?えっと…」
意識を取り戻したおっさんである。
必死に記憶を手繰り寄せていく。
「皆まだ戦ってんだよ。前線で指揮取ってくれよ!」
(まだ?そ、そうだ、まだ戦ってるんだ!逃げなかったのか?なぜ??)
必死で状況を確認するおっさん。
中央の壊れた門をソドン
左にパメラ、アヒム
右にイリーナ、アリッサ、イグニル
土壁上部にコルネ
召喚獣はいないようだ。
「ロ、ロキは………?」
(ロキがいないぞ、そんな…)
「だから門の外で戦ってんだよ!早く前線に戻ってくれ!!」
「は、はい、わかりました!」
セリムに追い立てられるように、壁の上に上るおっさんである。
(敵陣は攻めてこないのか)
そこでおっさんが見たのは、修羅のように敵を薙ぎ払うしゃべる鎧であった。
『はああああ!!!』
「うおおおおお!!」
ロキも共に敵と戦っている。
敵陣後方は障壁が張られているようだ。
コルネが必死に破壊しようと弓を射っている。
アレクは、収束魔法で攻撃してもしゃべる鎧が剣激で吹き飛ばすため、後方は守りを固めるよう指示したのだ。
(しゃべる鎧だ。セリムが召喚できたのか。だから前線を守れたのか!まずは)
「グレートウォール」
「グレートウォール」
「グレートウォール」
「グレートウォール」
土魔法Lv4により土魔法により土壁を補強するおっさんである。
厚さも倍になるのだ。
ソドンのいる中央も2m近くまで幅を狭めるのだ。
(これは怠慢だな、土壁に頼りすぎた結果か。いや反省会はあとだ。敵は障壁を張ってるな。それの破壊だ)
「ソドン、あなたの魔力はまだ半分あります。私は後方を叩きます。味方の回復よろしくお願いします」
「おお!あい分かった!!」
「スパイラルサイクロン」
「スパイラルサイクロン」
「スパイラルサイクロン」
「スパイラルサイクロン」
「スパイラルサイクロン」
『敵将が復活したか。魔法障壁は破壊されたらもう一度張り直せ。重装歩兵は魔法騎士隊と回復騎士隊の壁になれ!』
『『『はい!!!』』』
アレクはおっさんが復活したと判断すると、新たな指示を出す。
『俺が前に出る。あの鎧は俺が倒す。それまで敵将の魔法は後方部隊で耐えるのだ。耐えれば我々の勝ちだぞ!!!』
『『『おおおおおぉおぉおおお!!!』』』
戦いが始まり、敵騎士は1400人ほどに減ってしまったが、士気は一切陰りがないようだ。
一気に、しゃべる鎧にいる前線に達するアレクである。
両手剣をしゃべる鎧に中段から薙ぎ払うのだ。
『うおおおおおお!!!』
『ぬ、ぐふ』
ズドオオオオオン
その重量をものともせず、吹き飛ばされるしゃべる鎧である。
おっさんが作った土壁に叩きつけられるのだ。
『次は貴様だ!!!』
アレクはロキに切りかかる。
ロキは剣戟を流すように受けるのだ。
2手3手とロキが必死に攻撃を躱している間にしゃべる鎧も戦闘に復帰する。
2人がかかりだがアレク1体の方がやや優勢のようだ。
(やばい、がっつり2人が張り付いてて回復魔法くらいしかこっちもかけれないぞ。何ができるか考えるんだ、俺)
「コルネ、後方の魔法障壁はいいです。私と共にアレク周辺の敵を倒します」
「はい!!」
アレク周辺の槍騎士や重装歩兵も隙あらばとロキとしゃべる鎧を狙うのだ。
おっさんはタブレットでロキのHPを確認しつつ、周辺の敵の殲滅をするのだ。
まだ1300体以上いる敵騎士隊である。
当然中央を3人による戦闘を除いて、左右の門を必死に抜けようとする騎士を倒す、イリーナやパメラ達である。
アレクとの闘いが始まって10分ほど過ぎる。
『ぬ!刻がすぎたか』
しゃべるよろいの体が淡い光が漏れ始め、消え始める。
Sランクモンスターであるしゃべる鎧は、スキルレベルも足りないためか、1時間も召喚できないようだ。
「そんな、消えてしまうであるか!」
「え?なんだよ!もう時間かよ!はよ倒せよ!!!」
ソドンが光る泡が出始めたしゃべる鎧に気付き、ソドンのすぐ後ろにいるセリムも嘆くのだ。
『ふふ、ここまでのようだな!コアの番人どもよ!勝つのは我々だ!!!』
腐敗したアレクの顔に笑みがこぼれるのだ。
『ふむ、ダンジョンに取り込まれおって。それはまあ、拙者も同じでござるか。ここで畳み掛けなかった、そなたの負けよ』
しゃべる鎧消え始めたところで攻撃をやめたアレク。
勝利宣言をするしゃべる鎧。
『なんだと?まだ手があるとでもいうのか?消えゆく貴様に何ができる?』
『主殿おおおおおおおおおおおおお!』
しゃべる鎧は怒号を発する。
「え?な、なんだよ?」
『拙者は魔力が尽きて消えそうでござる。主殿よ、魔力をよこすのだ』
「え?なんだよ?そんなことできないぞ?」
『契約者なのに、魔力を提供することも知らぬか。まあよい。もう一度魔力を込めて召喚するように手を前に突き出せ。あとはこっちでやるでござるよ』
(え?魔力を提供?魔力を召喚士と召喚獣は共有できるのか?まじで?)
「え?こうか。って…」
急に貧血になったかのようにふらつき倒れ込むセリムである。
倒れないように抱きかかえるソドンである。
「セ、セリム殿!?だ、大丈夫であるか!!」
(ぶ、セリムの魔力500が一気に減ったぞ)
残っていたセリムの魔力600のうち500を吸収したしゃべる鎧である。
「ソドン大丈夫です。魔力が減っただけです」
おっさんがソドンにセリムの無事を伝える。
「う、うん、ごめん。なんかすごい力抜かれた、ってなにすんだよ!!!!って、え?」
セリムも無事のようだ。
魔力をいきなり抜かれて激怒しながら、しゃべる鎧を見る。
ブブンッ
バチバチッ
「「「な!!」」」
『いきなりだが、まあぼちぼち、うまくいったようだな。全ての魔力を貰うつもりでござったがな。我が主殿は、なるほど、これほどの魔力を持っていたか』
『な、なんだと、貴様!!』
アレクも驚愕している。
Sランクの魔石のように全身が黄金色に光り輝いているのだ。
全身で破裂音と共に電撃のようなものが弾けている。
『ゆくぞ!ロキとやら、合わせよ!!』
「は!!!」
アレクも剣激で応戦する。
しゃべる鎧の動きが格段に上がる。
一気に劣勢になるアレクである。
『ぐっ』
『『『主君をお守りせよ!!回復魔法だ!!』』』
回復騎士隊が騎士から、アレクへ回復を切り替える。
何十という回復魔法がアレクにふりそそぐのだ。
攻撃した端から傷が回復していく。
剣激を繰り返すこと数分が経過する。
アレクは劣勢であるものの周りの騎士の力を借りて、そして回復魔法も借りて、重傷を負いながらも、瞬時に全快する。
『ぬ、小癪な!!』
焦りの声を発してしまう。
しゃべる鎧の光はゆっくりとだか小さくなっていくようだ。
(む、あまり時間はないようだな)
「しゃべる鎧さん!!!」
戦闘中、壁の上から声をかけるおっさん。
『またそう呼ぶか!なんであるか!?』
「必殺の一撃はありますか!?」
『ぬ?なんだ?あるに決まっておる!』
「合わせますので必殺の一撃をお願いします!」
『…分かった。合わせよ。ロキとやら、すまんが下がっておれ。剣聖と呼ばれた拙者の一撃をよく見ておくのだ』
「は、はい」
おっさんの言葉にこれ以上の言葉で返さないようだ。
しゃべる鎧の剣が金色に輝きだす。
まばゆい光が一帯を一気に照らすのだ。
剣を肩の高さまで持ち上げ、地面と水平に突き出すしゃべる鎧。
どうやら必殺の一撃は突きの一撃のようである。
『ふ、何をしようとしているのだ。何をしようと我が最強の騎士団を止めることはできぬ!』
切りかかるアレク。
しゃべる鎧も必殺の一撃を放つのだ。
『はああああ!!真・剛雷剣』
おっさんはタブレットを使いスキルを取得する。
・物理抵抗解除Lv1 1ポイント
・物理抵抗解除Lv2 10ポイント
・物理抵抗解除Lv3 100ポイント
・物理抵抗解除Lv4 1000ポイント
・物理抵抗解除Lv5 10000ポイント
(ここだ、物理抵抗解除だ!)
『な…』
アレクが全身に違和感を覚え、一瞬硬直する。
その一瞬の硬直をつくように、しゃべる鎧の雷のように速い必殺の一撃を、物理抵抗をほとんど失った状態で、まともに受けてしまうのだ。
光る突きの一撃により飛ばされるアレクである。
「「「おお!!」」」
皆、後ろで感嘆の声を漏らすのだ。
一瞬我を忘れて、吹き飛ばされるアレクを見るおっさんら一行である。
すぐにまだ騎士達がいると思い、視線を騎士達に戻す。
ガチャン
ガチャン
ガチャン
まだ1000体以上いる騎士達の動きが止まるようだ。
剣や槍を手から落とす騎士達。
急に動かなくなる。
(アレクを倒すと、これ以上の戦闘は無いのか)
『ふむ、行くぞ。アレクとやらの最後を見届けるのだ』
しゃべる鎧も全ては終わったと判断したようだ。
しゃべる鎧の一言に頷く皆である。
固まったまま動かない騎士達に警戒しながら、おっさんらはゆっくり進んでいく。
数十m進むと、そこには今にも死にそうな、人間の姿に戻った30歳くらいの一人の男が横たわっていたのだ。
起き上がろうとするが、力が出ないのか座ることもできないようだ。
『こ、ここは、どこだ?』
「ここはダンジョンの中です。アレクさん」
おっさんが優しく声をかけるのだ。
『ぬ、お、お前たちは、冒険者か?』
「はい、そうです。大丈夫ですか?回復魔法をかけますね」
回復魔法をかけるおっさんである。
しかし、効果はないようだ。
(やはり、人間に戻ってももう無理か)
『すまぬ、我はもう無理のようだ。仲間も騎士達も帰りを待つ者達がいるというのに…。我は手に入れねばならぬのだ…』
「すいません。何か誰かに伝えることはありますか?」
最後の言葉を確認するおっさんである。
一行はじっとその様子を見守るのだ。
『おお…。これは奇跡か…。ありがとう。我はウガル家の当主だ。この恩は必ずウガル家が返す!必ず…』
「そんなことはいいです。早く何かあれば聞きますので!」
焦るおっさん。
アレクから光る泡が発生しだしたのだ。
周りの動かない騎士達からも光の泡が発生しだすのである。
『ああ、そ、そうだ!こ、この剣を息子に渡してほしい。ずっと欲しがっていてな。12歳になるのだ。大人になったら渡すと言ったが、約束を果たせそうにない』
(12歳か。セリムの母親は11歳って言ってたな…)
腰から腐敗しボロボロになった短剣を取り出し、差し出すアレクである。
短剣の鞘にはめ込まれた宝石だけが輝いている。
「セリム、受け取ってあげてください」
「う、うん」
セリムに短剣を受け取らせるおっさんである。
『そして、伝えてほしい。リヒトに愛していると。そしてすまないと…』
「わ、わかった」
両手で短剣を受け取り返事をするセリムである。
光る泡が全身から発生しだす。
『ありがとう、お前は、どこか、わが息子に似ているな………』
そこまで言うと、アレクは騎士達とともに光る泡になって消えたのだ。
最後の顔はどこか安どしていたようだ。
セリムが持ったボロボロになった短剣だけが残されたのであった。