第56話 命名②
91階層に突入するおっさんらである。
90階層から戻った魔石の競りをいつものように行うおっさんら一行である。
とうとう100個で競りの代金白金貨2300枚まで下がった魔石である。
90階層到達の情報は冒険者ギルドを通して、王国全土に情報は回っていったのである。
王国内の他のダンジョン都市でも当然、70階層、80階層突破情報の発布は行われているのだ。
81階層から90階層まのでの講習会は行っていない。
冒険者ギルドから待ってほしいとのことである。
今現在、領内にダンジョンを管理する冒険者ギルド副支部長の派遣がきまり、ウガルダンジョン都市に講習を受けるべく、移動中とのことである。
また、王宮のダンジョン管理部のダンジョン管理副大臣も合わせて、ウガルダンジョン都市への派遣が決定し、ウガル家に宿泊中である。
アリッサの槍については、武器屋で加工を受け付けるとのことだ。
料金は加工して少なくなったオリハルコンを渡すだけでいいとのことだ。
3分の2ほどの大きさの槍になるという話である。
3分の1のオリハルコンが加工代である。
91階層の古代遺跡は、何か動力があるのか、壁の仕掛けが時計の針のように小刻みに動いている。
通路と小部屋で構成された階層のようである。
目の前には9体のゴーレムが倒れているのだ。
「かなり倒すのに苦労したな」
イリーナが戦いの感想を言う。
「はい、今までにない硬さの敵が9体も同時に出てきました」
「これは、全身アダマンタイトであるな。こっちはミスリルか」
倒れたゴーレムの素材を確認するソドンである。
(敵はかなり硬いな。スキルレベル4に達したロキ以外苦戦してたな)
たった今起きた戦いを分析するおっさんである。
ロキだけが、敵の硬さをものともせずに槍捌きで倒すのであった。
魔石であるが、魔石は一度のダンジョン攻略で100個競りに出すことをノルマにしている。
90階層は32体ボスがでるので、行きと帰りの2回分で64個手に入るのだ。
行きに倒して、90階層ワープゲート前の広間に置いておく。
帰りに回収するのだ。
下の階層を目指す時は、倒すことのみに集中し、ダンジョンからの帰りに残りの36個の魔石を手に入れようという話である。
攻略を優先するのだ。
「それにしても、このダンジョンは何階層まであるんでしょうね」
おっさんが呟くのだ。
「そうであるな。さすがにいつまでも、ダンジョンに入るわけにはいかぬな」
「はい、国王との約束まで2カ月ほどになりました。いままでの攻略の速度を考えたら100階層までは行けそうです。100階層まで行けたら、その後どうするか考えましょう」
(まあ、ダンジョン攻略を待つ人たちが多いのは分るけど、実はこのダンジョンは1000階層までありましたとか洒落にならんな。何年ダンジョンにこもるんだよって話だよな)
「「「はい」」」
51階層の鎧の敵以上に硬いゴーレムを相手に倒しながら進んでいくおっさんである。
(これは、倒すのに攻撃の手数が増えるな。その分スキルのレベルアップが期待できるかな)
過去にないほど戦闘時間を要するのだ。
1時間近くかけて殲滅し、素材は回収しないおっさんらである。
91階層からの攻略を進めること7日が過ぎたのだ。
現在93階である。
期待どおり、イリーナの剣術が4になった。
パメラの格闘が4になったのだ。
コルネの弓術が4になる。
待望のソドンの回復魔法が3になったのである。
そして、
「おおおお!!!なった!なったぞ!!!聞こえるぞ。もう出てもいいって!」
セリムが喜びの声を上げるのだ。
「おお!セリムの召喚術が、スキルレベルが4になりましたね」
タブレットでセリムのステータスを確認するおっさんである。
「飛竜だしてもいいか?」
「どうぞどうぞ」
スキルレベルが4になったら飛竜を出すことを決めていたセリムである。
「出てこい!」
両手を上げ、飛竜を召喚するセリムである。
『グルアアアアアア』
全長15mの飛竜が1体出てくるのだ。
セリムの前で、口を上部に上げ、一声の雄たけびととともに、その場で動かない飛竜である。
赤茶色の肌。
背には翼が生えている。
広げれば十分な大きさの翼であるが、その体躯を飛ばすことが十分か心配なほどの重量感である。
「飛竜だ。出たぞ。だ、だせた…」
セリムが涙ぐんでいるように思える。
52階層攻略中に魔法書を発見して召喚士に目覚めたのだ。
93階層を超えてとうとう飛竜を召喚できたセリムである。
「飛竜を2体呼べるんだったよな。って?ん?駄目だって?」
飛竜を2体呼ぼうとして、止められたセリムである。
「え?どうしました?Aランクは1体のみの召喚でしたか?」
(まじか。Aランクから1体か)
「いや、違う。分かれたくないって言っているぞ。他のAランクの召喚獣も嫌だって。呼ぶなら1体ずつ別の召喚獣で2体呼べって言ってる」
召喚獣の考えを翻訳するセリムである。
(Aランクの召喚獣はどうも自我が強そうだな。2体同時出しは可能だけど分裂するみたいでいやだってことかな)
「では止めた方がいいですね」
「そうなのか」
「はい、81階からの召喚獣の情報だと、召喚獣はレベルが上がって強くならないが経験は積んでいくみたいですね。召喚獣は召喚士との関係は良い方が、召喚されたあとも召喚士の意思を汲んでくれたり、何かとお得なようです。召喚獣の嫌がることは極力控えたほうがいいです。無理をさせるなら、関係を良くしてからにしましょう」
「なるほど、って、良いこと言うなお前の先生はってさ」
(召喚獣に褒められたか。外の情報もしっかり入ってくるのか。いや召喚士の五感から入ってくる情報を拾ってる感じか。人間の情報を取得して進化する召喚獣か)
【ブログネタメモ帳】
召喚獣 ~自我と進化~
「ってあれ?」
「どうしました?」
「ん?何でもない。なんか胸のあたりに違和感を感じるぞ。なんかが胸に入っているような。何だこれ?」
(ん?50階層以降、100種近い魔石を吸収させたからな)
「Aランクモンスターは50階層以降、大量に吸収していますからね。Aランクを出せるようになった、違和感かもしれません」
「そうかも」
胸のあたりを触りながら答えるセリムであった。
どうやら答えはすぐに出ないようだ。
何かあれば教えてほしいと言ってこれ以上はAランクを召喚して確認するようだ。
飛竜をべたべた触ったり、頭の上に乗ってみるセリムである。
おっさんが前進の号令を放つのだ。
セリムを載せたまま前進を始める飛竜である。
「もう少し先の階層を目指しましょう」
「「「はい」」」
94階層を目指して前進するのであった。
階層攻略を進めながら悩んでいることがあるおっさん。
それはコルネの機嫌が悪いのだ。
落ち込んでいるともいえる。
それは、81階層の吹雪地帯からである。
召喚術のスキルレベルを上げ、どんどんおっさんら一行内で頭角を現すセリム。
槍や剣、格闘のスキルレベルが上げ、単騎でAランクのモンスターを倒すロキやイリーナ、パメラ。
タンクとして、敵を全身で受け止めるソドン。
コルネは、この中において、役割が薄くなったと感じているようだ。
通路と小部屋の階層で、視界が広くなく、ゴーレムなので近づけば、その重量による移動音で索敵が不要。
アダマンタイトのゴーレムの体に弓を打ち込めば、矢じりが抜けなくなるのだ。
(ゲームだと、成長が早く前半に役に立つが成長がある程度で止まる仲間、前半に役に立たないが頑張って育てれば後半に役に立つ仲間だと、どんなに前半に役に立たなくても大器晩成の仲間の方が人気あるな。前半にしか役に立たないと、馬車の中要員になるな。もしくは酒場かアジトに預けるかだな)
コルネを見るおっさんである。
飛竜の頭の上に載って歩くセリムを見るコルネである。
頬が膨れている。
コルネは求道者タイプで負けず嫌いなのだ。
当然セリムを責めているわけではない。
無力になっていく自分を責めているのだ。
セリムは飛竜を召喚してから2時間おきに再召喚して、飛竜出しっぱなしである。
(セリムよ。召喚出来てうれしいのは分るが、おぬしはコルネより1歳おにいちゃんなんだからそろそろ空気読んでくれ。ゲームと違って、現実の異世界だと全員に均等に活躍の場を設けるのって大変なんだな。ゲームで考えたことないぞ。っていうか現実な異世界ってなんだよ)
93階層を抜け、94階層前の広間に到着する一行である。
本当は93階層で1度帰ってもよかったが探しているものがあるのだ。
「100階層目指すのもいいですが、全員のオリハルコンかそれに近い武器を探しましょうか。ダンジョンコアの番人は強敵でしょうから」
「「「はい」」」
コルネの弓を探すとは決して言わないおっさんである。
まだまだ塩が足りないイリーナ特製スープを飲むおっさんであったのだ。
94階層を、ゴーレムを倒しながら進むおっさんらである。
宝箱を探すためにタブレットの『地図』機能を全力で起動中である。
「ここは遺跡ということもあってなんかよく分からない魔道具がたくさん宝箱からでますね」
「うむ、そうであるな。使い道が分からないものは魔道具屋に持っていけばよかろう。使い道がなくても解体して何かの魔道具に再利用したりするそうであるぞ」
「なるほど」
94階層の宝箱を開けていくと、1つの宝箱から1本の湾曲した棒が出てくる。
棒の中央の、内側に5cm大の魔石のようなものが埋め込められている。
「はて、これは何でしょう。弦のない弓っぽいんですね。コルネちょっと持ってみてください」
魔道具感のある弓である。
矢もなければ、弦も張っていないのだ。
コルネに渡すおっさんである。
内側の魔石の下に手を当てるコルネである。
もう片手を弦のある位置に持っていく
コルネはとりあえず、弦があるとして、引いてみるようだ。
ブンッ
「「「な!」」」
弓のような棒にはめ込められた魔石は輝きだすのだ。
そして、光る弦と光る矢がコルネの手に合うように発生したのだ。
「これは魔道具でできた弓のようですね。ちょっとその壁に打ち込んでみてください」
「はい」
壁に向かって弓を引くコルネである。
バシュッ
「「「おお!」」」
光の矢が壁に根本近くまで刺さる。
一定時間がたつと光の矢は消えるようだ。
(効果音付きか。魔道具の弓はしならないようだな。物理的に矢を飛ばすわけではないからしなる必要はないのか)
「なるほど、では今使ってる矢も壁に射ってみてください」
「はい」
バシュッ
今使っている矢では壁に半分も刺さらないようだ。
光る矢では分からなかったが、思ったより壁は固いのだ。
そして、魔道具の弓の威力は倍以上のようだ。
「これはいいですね。ちょっと使って見ておいてください。使い方がいろいろ分かるかもしれません」
「分かりました」
コルネ用の新しい武器も見つかったので、一旦帰路に着く。
戦闘を繰り返しながら、94階層から90階層のワープゲートを向かうおっさんである。
2日かけて92階に戻るおっさんら一行である。
弓に埋め込まれた魔石の光がどんどん減っていっているのだ。
今は円状の魔石の上4割が光らなくなっている。
(これはメーターか。だから射る人が得る、内側の弓使い側に魔石がはめられてるのか。ガソリンメーターが車外についてたら、運転してて困るからな)
「かなりこの弓は使えるみたいでよかったです。コルネ大活躍ですね!」
ここぞとばかりに褒めるおっさんである。
割とわざとらしかったが、コルネはにこにこしてきている。
「はい!」
「でもこれは、光が消えると、矢を射れなくなりますね。魔道具の補充って確か。魔石を交換するんでしたっけ?」
拠点や馬車の灯りを思い出すおっさんである。
おっさんは拠点の生活を快適にするためにふんだん魔道具を使っているのだ。
「はい、あとは未使用の魔石を一定時間くっつけていると、魔力が戻りますね」
従者のアヒムが答えてくれる。
加工した魔石は加工していない魔石から魔力を吸収するとのことだ。
魔石を一晩くっつけていると加工した魔石に移るという話だ。
(ふむふむ。時間がかかってもいいなら魔石同士くっつけるのか。一晩ってことは6時間か。魔力回復と同じ6時間ルールか)
コルネの弓を見ていると、コルネから声が掛かる。
「あの魔導士様」
コルネは共に行動してもう10カ月以上経つのに、おっさんのことを魔導士様と呼ぶようだ。
「はい、なんでしょう」
「この弓に名前を付けてほしいです」
(ん?)
聞くところによると召喚獣の時みたいに、この弓だけの名前がほしいとのことだ。
まあ、それならと名前を決めるおっさんである。
「魔道弓でしょうか」
(魔道具の弓だしね)
「魔導弓ですね!魔導士様から名前を取っていただいたのですね!」
魔導士の魔導からとってくれたと勘違いしたコルネである。
コルネはここに着て一番の満面の笑みである。
(え?魔導弓か。でも本人が、それがいいって言ってるしな)
「そうですね。魔導弓にしましょう」
「はい!」
「お、おい、なんかここ数日仲が良いな」
イリーナが溜まらず声をかけるのだ。
「え、はい」
「私もこの剣に名前がほしいぞ」
イリーナも剣を突き出して剣に名前を付けよといってくる。
「そ、そうですね。イリーナのつるぎでしょうか」
昔から、剣といえば、「〇〇のつるぎ」で相場が決まっているおっさんである。
「な、きさま、なぜ私には雑なのだ!!」
コルネの魔導弓も結構雑である。
どうやらお気に召さなかったようだ。
「え、すいません。また考えます」
必死にいい剣の名前を考えるおっさんである。
やり取りを見て、胸がざわざわするセリムであった。
「そっか、お前なんだな」
『………』
セリムはどうやら、胸のざわつきが何なのか分かったようだ。
セリムのつぶやきを返事するものはいないようである。