第48話 声
「おおお、なんだ?なんか召喚術のレベルが上がっていないか」
ここは、ウガルダンジョンの76階である。
土魔法の検証も終わり、拠点での休暇も終わり、71階層から80階層までの挑戦2回目であるのだ。
そろそろ、引き返し街に帰ろうとしたときにセリムが叫んだ。
皆どうしたんだという顔をするのだ。
(召喚術のスキルレベルが上がったか?なんで分かったんだ?)
タブレットでセリムのステータスを確認するおっさんである。
「召喚術のスキルレベルが3になってますね。なんで分かったんですか?」
「声がするんだ。急に声がするようになったんだ」
「声?召喚獣の声ですか?」
「うん、魔石を吸収したモンスターがなんか語り掛けてくるんだ?」
「え?何て言ってるんですか?」
「俺を出せって言ってる。ん?お前にはまだ早いって言ってくる召喚獣もいるぞ。早いってなんだ?」
「ん?」
「たぶんAランクとBランクのモンスターが話しかけてくる。え?うん?」
セリムの話ではスキルレベル3になった瞬間にモンスターが頭の中に語り掛けてくるようになったということだ。
そして、まだスキルレベルが足りず召喚できないはずのAランクのモンスターも語り掛けてくるようになったのだ。
Aランクのモンスターが出せるようになるのはスキルレベル4の予定であるのだ。
出せと言っているのはBランクのモンスターのようだ。
セリムはおっさんと会話しながら召喚獣とも会話しているようなのだ。
「なるほど、スキルレベルが上がって、AランクやBランクのモンスターの声も聞こえるようになるということですね」
「たぶんそうだ。これで俺もBランクモンスターを出せるようになったのか!何を出そうかな!ケイタは何がいいと思う?」
「そうですね。回復魔法ができる骸骨の神官でBランクのモンスターを吸収していたと思います。それを2体、壁用にワイバーンを一体でしょうか。この階層はブレスしてくるモンスター多いので、ブレスに耐性ありそうなのがいいでしょう。相手はAランクなので、やられたら、召喚し直しでお願いします。ワイバーンは後方にお願いしますね。前方はソドンがいるので」
「分かった。ちょっと他にも出せっていう召喚獣がいるんで、ワイバーンの盾役は他にたまに変えていいか?」
「もちろんです。柔軟に変えて色々経験を積んでください。ちなみに、召喚獣の回復魔法は勝手にしてくれるのですか?攻撃を受けたら指示しないとダメなのですか?」
「ちょっとまって、聞いてみる。えっと、それくらい判断できるわ!っていってるぞ」
(まじか、コミュニケーションも取れるようになるのか。スキルレベルが上がると融通の利く指示もできて、召喚獣マジ有能だな。回復できる召喚獣が勝手に回復魔法をかけてくれるのか。陣の安定感が変わってくるな)
皆もおっさんとセリムの会話を聞いて驚いているのだ。
おっさんがセリムと出会って約150日、セリムが召喚士に目覚めて約100日が経ったのだ。
ダンジョン攻略も進んだ、召喚士の本領が発揮されようとしているのであった。
おっさんら一行は召喚獣の壁と回復魔法を貰いならが進んでいくのである。
そして、階層の前の広間である。
皆休憩をとっている中、おっさんはセリムとソドンを呼んだのである。
「すいません、2人はダンジョンの中にいるとき、寝る前に魔力が尽きるまで、ソドンは回復魔法を使ってください。セリムは召喚獣の召喚を繰り返して魔力を消費してください」
寝る前に使えば、起きた時の魔力全快である。
「ん?スキルレベルとやらを上げるためか?」
「そうです。特にソドンは回復魔法のスキルレベルはレベル2のままです。セリムの召喚術が3まで上がったのに2なのは明らかに使用頻度が関わってきています。起きている間、召喚獣を出し続けているセリムと違って、戦闘中にしか回復魔法を使わないからでしょう」
「あい分かった。拠点に戻ったときも寝る前に使うことにいたそう」
「お願いします」
「ん?それだと、おれはずっと召喚獣出しているじゃないか。それだけじゃ足りないってことか」
「はい、常に出すより召喚獣の出し入れは魔力の消費が激しいです。恐らく負荷が大きい方が、スキルレベルが上がりやすいという、あくまで予想ですね。今日の召喚獣の活躍を考えても、召喚術レベル4にするとAランクが呼べて、戦場が一変します」
「そ、そうだな。黙っていても回復魔法使いまくってくれて、魔力が尽きたら、一度召喚し直せって自分から言ってくれるし。召喚し直したら魔力満タンで召喚されたしな」
(召喚獣の声はセリムにしか理解できないと。セリムの必要魔力は召喚した魔力だけで、召喚獣が回復魔法を使いまくるからな。それと、魔法使える系の召喚獣は特に賢いようだな。召喚獣の知性はINT依存か)
【ブログネタメモ帳】
召喚獣の声 ~俺を出せ~
おっさんも帰りの道中で召喚獣を分析していたのだ。
セリムの魔力はおっさんの仲間支援魔法で800を超えているのだ。
骸骨魔術師のBランクのモンスターの召喚獣の回復魔法はレベル2で単体回復魔法である。
Bランクでこれだけ有能なら、ぜひスキルレベル4にしてAランクを呼びたいのである。
スキルレベルの話もほどほどにして、ソドンとセリムが呼ばれる前の場所に戻るようだ。
「あ、セリムはもう1つ用事があるのです。セリムは、物語がずいぶん完成しましたね」
「うん、ダンジョンに入って60階くらいまでの話が物語に書けたぞ!」
おっさんがセリムの物語を書くように指示をして100日が過ぎたのだ。
貴族に生まれてから、家を追い出されて、召喚士になって、ダンジョンに入って冒険するまでの話が粗方書かれているのだ。
「やはり、私はもっと怪しい感じで書いていただけませんか?」
(なんで俺がいい人過ぎるんだよ)
「ん?なんでだよ。なんで自分をそんなに怪しくしたいのか?」
さすがに、自分の才能を信じて、召喚士にしてくれたおっさんを悪く書きたくないセリムである。
「その方が面白いからです」
「面白い?」
「家を追い出されて苦労して生活をしているときに、いい人と出会うのと、あやしいおっさんに出会うのでは、読んでいる人はどう思うでしょうか?次何が起こるか分からず続きを読みたいと思いませんか?」
「む、むぅ、そうか。確かにそうかも。物語に出てくる魔法使いって怪しい奴多かったな」
伯爵家の孫であったセリムの家にはたくさんの本があるのだ。
セリムも結構な数の本を読んできたのである。
「それに文章が全体的に箇条書きで事実を書いてるだけになっています。表現をもっと肉付けしたほうがいいですね」
「そんなことを言われても物語なんて書いたことないぞ」
「確かにそうですね。でしたら、他の人の物語を参考にしてはいかがでしょう?世の中には物語はたくさんありますからね」
「他の物語をマネするのか?」
「いえ参考にするのです。いくつか本を読んで、どんな風に表現しているのか。物語の出だしはどうなっているのか、そういったことを意識しながら読むと参考になるかもしれません。まあ、詩なども物語の表現に良かったりするので、本だけに限らず色々参考にしてみていかでしょう」
(コピペ駄目絶対!)
「ああ、そういえば、詩と言えば、街にいる吟遊詩人もいたな。分かった、その辺りも参考にするよ」
「本買うならチェプトに言ってください。本代出しますので」
「いやだよ、俺の本だし、あんまりクランのお金使いたくない」
「そうですか。まあ無理をしないてくださいね」
セリムの物語は表現を肉付けし、完成を目指すのであった。
・・・・・・・・・
今はおっさんら一行が70階層に到達してほどなくしてのことである。
ここは王城の一室である。
国王の私室であるのだ。
「お、お呼びでございますか?」
「うむ、入りたまへ」
ウガル伯爵が国王に呼び出され、国王の私室に入るのだ。
中に入ると、マデロス宰相とロヒティンス近衛騎士団長が国王と共に円卓に座っている。
「失礼します」
円卓に座らせる国王である。
一礼をして席に着くウガル伯爵である。
「よく来てくれたな」
「王命とあらば、馳せ参じます」
挨拶もそこそこに国王は話に入るようだ。
「それで、魔導士ケイタとその仲間には何もしておらぬだろうな?」
「もちろんにてございます。代官にも厳命をしております。一切何もするなと」
「それなら良いのだが。余も長いこと穏健派だの言われておるがの。もし何かあれば、ウガル家はそれまでと思うがよいぞ?」
「は、はは!」
「ロヒティンスよ、その時は、部隊は1000人もいたらウガル家の反乱の鎮圧は可能か?」
「精鋭部隊でしたら、その半分もいれば問題ないかと存じます」
おっさんとその仲間に何かあれば、どうなるか改めてウガル伯爵に示すのだ。
おっさんらに何かあれば王家への反乱と見なすとそういうことである。
ウガル伯爵は急ぎ、再度おっさんとその仲間に手を出さぬよう手紙を書こうと思うのである。
わざわざウガル伯爵に言ってあげる辺りは、国王は穏健派である。
「しかし、お主も勿体ないことをしたな。あのまま、セリムを追い出さねば、ウガル家の悲願をウガル家が叶えることができたものを」
国王にウガル家の話をすべて話したウガル伯爵である。
自白を強要させられたともいう。
当然セリムの話もすべて話したのだ。
「お、恐れながら申します。国王陛下」
「なんだ?」
「私は、セリムの廃嫡を後悔しておりません」
「ほう?」
「ウガル家の当主として、ダンジョン都市を守る貴族として、なすべきことをしたと信じております。王家ができて1000年、無能な当主によって滅んだ街は数知れず。民草を守るのは貴族の務め。貴族としての務めを果たした所存です」
ダンジョン都市の貴族の当主として、自らの責任でもって判断したことに誤りがないというウガル伯爵である。
頭を下げて国王に伝えるのである。
「ふむ、そうだな。王家も後継者については同じようなことをしてきたからな。その点については責めるとこはないのかもしれぬな。だがこれを見よ」
1枚の羊皮紙をウガル伯爵の席に滑らせる。
手に取るウガル伯爵である。
「な!?70階層到達だと!!そ、そんな…」
思わず立ち上がるウガル伯爵である。
「その顔だとまだ情報が来ておらぬか。そうだ、たった10人で王国の記録を塗り替えておったわ。もちろんその10人にセリムも入っておるわ。ウガルの街も冒険者ギルドもお祭り騒ぎらしいぞ」
「そんな、では、いや剣も魔法も出来なかったではないか。15になるまで我も我慢したのだ。なぜ、こんなことが…」
冒険者ギルドからの報告書を見るウガル伯爵である。
言い訳のような言葉が口から溢れでてくる。
「剣も魔法もできないか。まあ分からぬのも無理がないかもしれぬな。余もお主もあずかり知らぬことがこの世界にはあるのだ」
「と、いいますと」
「おそらく魔導士ケイタが今回の一件の原因なのであろうな」
「ヤマダ男爵でありますか?」
おっさんやチフル=スズキ、検索神について話をする国王である。
そのためにウガル伯爵を私室に招いたのだ。
「そういうわけだ。我らがあずかり知らぬ話だったかもしれぬな。神の御心の中の話であったとそういうわけであるな」
「そ、そんな。セリムは神の使徒によって、見いだされたということでしょうか?いや、でもなぜそのような話を私に」
私室に呼ばれた理由が分かったウガル伯爵である。
なぜ、そこまでしてそのような話をしてくれたのか国王に問うのである。
「ふむ、それは先王の行った行為をどうしていくのか、現王である余の務めであるからだ。先王のために、そなたは父を失ったのだからな。先王の行いは変えられぬが、現王として、今後どうしていくかは決めることができるからの」
「決める?」
「そうだ。そして、お主は今後どうすべきか決めることができるからの。そのために必要かと思うてな。今日は呼んだのだよ」
「………」
黙って話を聞くウガル伯爵である。
どうやら思うことがたくさんあるようだ。
そんな中、国王は続けて話をする。
「50年前のことを、ウガルの悲劇と呼ばれておるらしいの。今回のセリムの件はそれが尾を引いているともいえるのではないのか?」
「は、はい」
「お主はどうなのだ?先ほどは、判断に誤りはないと言うたな。その報告書を見ても同じことが言えるのか?ウガル家の当主として、今後どのように対応すべきか、よく考えることだな。まあ、何かしたいのであれば、早めにマデロス宰相まで伝えておくがよい。あと分かっておるかもしれぬが今日の話は他言無用ぞ」
「畏まりました」
セリムの件で何かしたいことがあれば、マデロス宰相まで連絡しろという国王である。