第46話 学園
ここは1k8畳の一室である。
おっさんが1人パソコンを眺めている。
「ふむ70階層までの話をブログに起こしたぞ」
ダンジョン都市編
第90記事目 ダンジョンの記録 ~51層から59層編~
第91記事目 初めてのSランクモンスター出現 ~でござる~
第92記事目 召喚術による戦術講義 ~セリムは俺が育てた~
第93記事目 ダンジョン60階ボス編
第94記事目 ダンジョンコアと番人
第95記事目 ダンジョン講習会 51階から60階編
第96記事目 ダンジョンの記録 ~61層から69層編~
第97記事目 ダンジョン70階ボス編
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AS:12645
「結局スキルレベルは5で終わりか。まだ4のスキルは5にして、それからはほかのスキルもとっていかないとな」
魔法抵抗解除を、Sランクモンスターのしゃべる鎧を倒す際にLv5にしたのだ。
その時タブレットの『スキル取得』機能でスキルレべルの限界を知ったのである。
「あとは魔力回復加速レベルを2にしても、回復時間が4時間になっただけだな。戦闘中には使えないな」
移動中に、いくつかのスキルを検証してきたようだ。
「それにしてもPVのポイントが完全に死んでしまったな。Aランクモンスターが100万前後経験値落とすからな。頑張って貯めてきたのにな。検索神様、救済してくれないかな」
Lvが上がれば、HPMPが全快するのだ。
何かあったときのために保険でPVポイントを貯めていたおっさんである。
しかし、ダンジョンでレベルが上がりすぎてPVのポイントの価値が地の底まで落ちてしまったのだ。
なお、現実世界に戻ったのは、70階層ボスを倒し拠点に戻った日である。
これも、3日の間で発生するブログネタを、71階層以降、現実世界に戻る保険にするためだ。
70階層ボスでこれまでの階層ボスに比べて苦戦したためである。
71階層以降も苦戦する恐れがあるのだ。
ブログネタがなければ、現実世界には戻れないという、戻るための条件があるのだ。
なぜ戻ることを想定しているかというと、現実世界に戻ってもHPMPが回復するからだ。
「さて異世界に帰るか」
『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』
おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がウガルダンジョン都市でおっさんが借りた賃貸の1軒屋に変わる。
時間は夜中である。
眠りに着くおっさんであった。
そして、朝食の時である。
14人全員揃っているのだ。
「では、今日は冒険者ギルドに行ってきます。今日から4日間休暇にしますが、防具が痛んでいる方は、修理または新調をしておいてください。予算は問いませんので、チェプトに申請してください」
「「「はい」」」
「あの、私はついて行かなくてよろしいでしょうか?」
ロキが問いかける。
「いいえ今日は、魔石の競りの予定も、資料室で調べることもありませんので、私1人で行きます。休まれてください」
「畏まりました」
少しでも休んでほしいと思うおっさんである。
おっさんは1人冒険者ギルドに着くのだ。
ウサギ耳の受付嬢に、言伝のとおりやってきたと伝えると、少し待ってほしいとのことである。
3階の支部長室ではなく、2階の会議室を案内されるのだ。
四角に席をつなげてあるので、その中の1席に座るおっさんである。
(ここは、ダンジョン講習会で使う部屋だな。なんだろう)
待たされること1時間。
(結構待たされるのね。せめて要件伝えてほしいな)
ウサギ耳の受付嬢は要件を聞かされていないのである。
他の貴族であれば、まず使いの者を送って要件を聞いてやってくるのだが、いつ来るかも伝えず直接やってきたおっさんである。
「こ、これはヤマダ男爵様でいらっしゃいますか?」
ネズミ耳の男の獣人が息を切らせて会議室に入ってくる。
「はい、そうです」
「おお、私は…」
「あなただけ挨拶しないでいただけませんか?我々もいるのです」
ネズミ耳の獣人が名乗ろうとすると、ぞろぞろ入ってくる人の1人から挨拶を制止される。
しぶしぶネズミ耳の獣人も席に着くようだ。
30人ほどいるようだ。
(ん?結構な人数がいるな)
席が足りず、冒険者ギルド職員が別室から椅子を人数分持ってきているようだ。
獣人であったりそうでなかったりバラバラのようだ。
身なりは割とよく、冒険者には見えない。
「申し訳ない、ちょっと呼ぶのに時間がかかったのだ。待たせてしまったな。まあ、すぐにこれなかったものはいるがな」
支部長と副支部長も待たせたことを謝りながら入ってくるのだ。
支部長と副支部長がおっさんを囲むように隣に座る。
皆が席に着くと支部長が話し出す。
「それでは、約束通りケイタを連れてきたぞ。これで、これ以上の要望書を提出しないでいただきたい。我々も魔石のみを担当しているわけではないのだ」
(ん?魔石?)
「そ、そんな!それではまるで我々が悪いようではありませんか!心外です」
「何が心外だ!毎日のようにAランクの魔石はまだかと山ほど要望書を送ってきやがって」
せっかく座ったのに、いきなり立ち上がって、支部長とネズミ耳の獣人が争い出す。
だが、どうやら、他の皆がネズミ耳の獣人側の意見に賛同しているように相槌を打っている。
「これはどういうことでしょうか?」
事情の説明を受けるおっさんである。
ここに参加しているのは、王家や領都の貴族のお抱え商人である。
話とはおっさんのAランクの魔石の競りに出すことを、ここ3か月近く止まってしまっていることだ。
いつになったら魔石の競りはまた開始されるのかという話だ。
冒険者ギルドがパンクするほどの要望書を受け入れたため、対応できないため、おっさんを呼ぶから直接話をしてほしいという形で話がまとまったのだ。
半年前に起きた国王の謁見に参列した貴族は多かったのだ。
王国の貴族の間ではおっさんがダンジョンに挑戦しているのは結構有名な話なのだ。
当然その大半はおっさんが約束した1年でウガルダンジョンを攻略するなど信じてこなかった。
しかし、2カ月前に冒険者ギルドを通して、最下層60階の更新の情報が、王家にも各領都にも駆け抜けたのである。
そして、おっさんからAランクの魔石が王家に大量に送られたという情報が入ってくるのだ。
さらに、立て続けに、ウガルダンジョン都市の競りで今までの半値近く安く購入できたという情報も入ってきたのだ。
王家や領都の貴族は、安いうちに王都や自らの領のために、1つでも多くのAランクの魔石を競り落とすよう、お抱えの商人に指示をだしたのであった。
しかし、商人の中にはウガルダンジョン都市に着いて1月以上待っているのに競りが開始されないのだ。
また、ウガル伯爵領がガルシア獣王国にも隣接しているため、南の獣王国からも魔石を購入しようと、商人がどんどん集まっている状態なのだ。
「事情は分かりました。しかし、申し訳ございません。私はダンジョンの攻略に来ているのであって、決してお金を稼ぎに来ているのではありません」
あくまでもダンジョン踏破のためです。
決して魔石のためでも金稼ぎのためでもないですよというおっさんである。
「そ、そんな…、そこを何となりませんか!このままでは私の代で、わが商人家がガルシア王家のお抱え商人ではなくなってしまいます!この通りです」
ガンッ
ネズミ耳の男の頭が席に打ち付ける音が、会議室に響くのである。
「何を言っている。そんなものは我々も同じことを言われておる。魔石を持って帰らなければ、敷居を越えることは許さぬとな」
という別の商人。
皆うなずいている。
お家をかけてやってきているのは、他の商人同じようだ。
白金貨100枚かかるものが50枚で済むなら、白金貨50枚もお金が浮くのだ。
白金貨50枚とは、小規模な男爵領の王家への年間の納税額に匹敵するのだ。
そして、1つでも多く、予算がある限り買いたいのだ。
なお、王国で年間に競りに出るAランクモンスターの魔石は100個前後である。
「では、攻略に差し支えない程度に魔石を回収し競りに出したいと思います」
「「「ありがとうございます」」」」
商人一同が立ち上がり、お礼を言われるおっさんである。
なお、前回の18日間に70階層まで到達しただけでもAランクモンスターを300体以上倒しているのだ。
「私達は攻略のためにダンジョンに入ってます。これから報告予定ですが、現在70階に到達しました。何階まであるダンジョンか分かりませんが、ダンジョンに潜っている間は、魔石を競りに出したいと思います」
魔石を回収するのはダンジョン行っている間だけですと念押しするおっさんである。
しかし、そことは別の部分で驚いて固まって動かない商人達。
「70階層か。そ、それは本当か?王国の建国以来の記録すら塗り替えてしまったのか…」
支部長からやっと返事がでるのであった。
そして、話し合いがついた晩のことである。
「というわけです。明日はダンジョン講習会もしますが、今ある魔石も全部競りに出しましょう」
「な!?も、申し訳ございません。そのような会議に1人で行かせてしまって!」
ロキが立ち上がって、90度に頭を下げて謝罪する。
「いえ、そんなに謝るようなことではないですよ。ロキ」
「いえ、今後は冒険者ギルドに行く際は皆で行きましょう」
「そうだな、そもそもケイタ殿は貴族であるのだ。そのような会議の対応を1人でさせるべきではないのだ」
全員で行くべきという話がロキとパメラから出たのだ。
おっさんが荷物持ちや料理をしている従者と侍女は休ませるべきと言ってきかないため、講習会も含めて、従者侍女以外のクランメンバー全員で冒険者ギルドに行くことになったのだ。
「それにしても、そんなに稼ぐ必要がないのですが、何に使いましょうかね?チェプト」
「は、はい」
「この街に孤児院とかそういうの無いか調べておいてください」
「畏まりました」
「配られるのですか?」
「まあそうですね。白金貨がたくさんあってもしょうがないでしょうですからね。皆さんの家元にもまた送付しましょう。もちろん皆様にもです」
「あ、ありがとうございます。ですがよろしいでしょうか?」
「え?何でしょうか?」
ロキは説くのである。
おっさんは必ず封土を国王からいただける大貴族になる。
その際、領土を管理運営するにはたくさんの金がかかる。
そのために、せっかく稼いでいるのだから貯めておいてほしいとのことだ。
パン屋の娘ヘマは、当然この話についていけないのだ。
お金が要らないってどういうことって顔をしているのだ。
自分の彼氏が仕える貴族の力を知りつつあるのだ。
「たしかにそうだな。これだけ、富を王国にもたらせた者に対して、封土も役職もない男爵どまりだと、獣王国では、獣王の名が泣くな」
パメラも賛同する。
なお、主席王宮魔術師の役職を蹴ってダンジョンを攻略しているおっさんである。
あまりパメラがおっさんを褒めるのでイリーナが警戒を始める。
「そうですか。でもさすがに白金貨数千枚も入ってきたら使い道ないですよ。例えば学校とかにも寄付できませんかね?できるだけ有効な場所に還元したいですね」
(金持ちは学校に寄付するもんだな)
「騎士院とかに寄付するのか?」
王都の騎士院出身のイリーナが返事する。
「まあ、そうですね。私は魔導士なので、できれば魔法院とか魔術院とかに寄付したいですね」
(ついでにブログネタのために見学もしたいでござる。寄付したんだから当然の権利だ!)
「ん?そんなものないぞ」
「え?魔法使いの学校ってないのですか?どうやって魔法使いになるのですか?」
「ん?魔法を教えてくれる先生がたまにいて、その者にお願いするな。だから、お金もかかるし貴族くらいしか、先生を雇うことができないな」
「え?」
(家庭教師しかいないのか?だからこんなに魔法使い少ないのか?)
「あれ?たしかオーガの大群の時に回復魔法や攻撃魔法使える騎士がいましたよ?確か剣は持ってませんでしたが、同じ騎士の服着てましたよ」
「それは、魔法騎士隊や回復騎士隊であろう。騎士院も別に剣と槍だけではないからな。弓や馬も教えるし、小さいが回復魔法や攻撃魔法の学部もあるぞ」
(ふむふむ、家庭教師だけでなく学校もある。ただし、専門校ではなく、学校の中の小さな一部の学部でしかないと)
お金がかかるので、従者で魔法を使えるものがほとんどおらず騎士が魔法を使っていると補足するイリーナである。
「獣王国も似たようなものだな」
「そうなんですね。せっかくなので寄付したかったのですが」
「ん?なんだよ?じゃあケイタが作ったらいいんじゃないのか?魔法使いの学校。ケイタなら魔導士学校だから魔導院だな」
今まで黙っていたセリムが会話に参加する。
「え?私がですか?」
「だって、こんなに魔法にも詳しくて、戦い方にも詳しいじゃないか」
「そうであるな。これほどの知識と手腕だ。教え子を持たないなんて王国の損失であるな」
今まで黙っていたソドンも会話に参加する。
夕食の席にいるみんなが頷くのである。
(なんか、どういう流れだ?俺が先生やるのか?異世界ものって普通、生徒じゃないのか?俺も入学試験で大暴れしたいぞ。そして首席で入学して生徒代表で挨拶をするんだ)
「まあ、そうですね。ダンジョン攻略したら一言国王に相談してみますね。じゃあ召喚士学部も作って、私が学長ならセリムは副学長ですね」
「は?なんで俺も何だよ!」
魔石の売り上げの一部を使い、魔導院を作るかは国王への相談という話になったのであった。