第23話 従者と侍女
ここは1k8畳の賃貸マンションの一室である。
おっさんはあの後、検証を続けながらダンジョンから家に帰ったのである。
検証結果のメモを見ながらブログにまとめていたのであるが、検証内容も多かったので結局2週間も要してしまったのであった。
ダンジョン都市編
第63記事目 ダンジョン広場の経済圏
第64記事目 ダンジョン攻略に向けて
第65記事目 ダンジョンの記録 ~1層から9層編~
第66記事目 地図機能とダンジョン攻略
第67記事目 経験値取得倍増の効果検証
第68記事目 仲間支援魔法の効果検証
第69記事目 魔力回復加速の効果検証
「結局2週間かかったな。向こうでは1泊停まって、すぐ戻ったから、検証結果の整理もできなかったしな。1日の検証でこんなにブログのネタが増えたのは過去一番じゃないのかな」
そしてダンジョンを振り返ると、
「1~9層はDランクのモンスターしか出ないようだな。この辺は冒険者ギルドの資料どおりか。ボスはCランクか。6階以降は地図がないがこのままさくさく行こうかな。1つの階層で数日かかるのはもっと下の階層のようだしな」
ダンジョンで検証したことを整理したおっさんである。
・経験値取得倍増の効果 2時間持続、取得経験値3倍
・仲間支援魔法の効果 2時間持続、効果は2倍(パッシブにも重なる)
・魔力回復加速の効果
5時間で全回復、外套とは重ならない、完全休養をしないと効果はでない
「外套と魔力回復の形態が違ったな、休んでないとMP回復しないようだな。アラームで皆や家でイリーナを起こしてしまったな」
魔力回復加速の効果を判別するのに苦労したおっさんである。
なぜなら、外套着ていても1割しかMP回復しない。
そこで外套と効果が違うことに気づいたのである。
では睡眠時間ではどうかと思って、夜番を4時間後におきることで3人にお願いしたのであるが、4時間の夜番で目覚めてもMPは回復していない。
なので、4時間から6時間の間でMPが回復すると推察できた。
なお、そのとき、アラームも仲間に聞こえることが分かったのである。
結局検証の続きとして、街の家に戻ってから、4時間とそのあとの1時間刻みでアラームをセットして5時間でMP回復の効果が、やっと効果が分かったのだ。
帰ってからも寝るときに同じ部屋で寝ようとするイリーナに対して、魔法検証するからアラーム鳴らすといったのに、そんなことは構わないと言われたおっさんである。
魔力回復加速の効果検証のおかげで、異世界は戻ったダンジョンから出た翌日の朝である。
「さて、長い検証とブログを起こした対価を得たわけだ!や、やばいよだれが出たで」
検索神サイトの画面を見ながら、よだれを垂らす30過ぎのおっさんである。
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AS:9160
「やることも全部終わったし、異世界に戻るか」
いつものように検索神サイトの『扉』アイコンをクリックして異世界に行くおっさんである。
『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』
おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がウガルダンジョン都市でおっさんが借りた賃貸の1軒屋に変わる。
「おはよう、もう起きたのか?」
横でイリーナから声が掛かる。
イリーナはどうやら自分の部屋では寝ないようだ。
「うん、イリーナもおはよう」
朝食のため1階の打ち合わせ室に集まる9人全員である。
侍女の料理はいつもうまいなと思うおっさんである。
(侍女の修行期間に教わるものなのか?侍女に修行期間とかあるのか。一子相伝の母親から教わるものなのか?)
そんなことを考えながら、飯を進めるおっさんである。
「さて、今日はどうするかな」
おっさんが話を振る。
「そうですね、ダンジョンで必要なものがあったので人力で引けるような台車を買いにいきましょうか。あとは10階目指しての食料等の買い込みでしょうか」
ロキが返事する。
「では、買い物かな」
予定が決まりそうなその時である。
「あ、あの、ヤマダ男爵様」
従者の一人チェプトから声が掛かる。
ケイタと呼んでいいといったが、呼び方は折れない従者と侍女であった。
「はい、なんでしょう」
「ご、ご相談が」
(お、初相談だな。この感じは1人で聞いた方がいいかな)
「では、食事が終わったら話を聞きますので、私の私室に来てください」
「あ、あたしもいいでしょうか!」
侍女のアリッサから声が掛かる。
「それでは、チェプトの話が終わったらアリッサですね」
「ありがとうございます!」
(アリッサはいつも元気がいいな)
「では、買い物は私たちの方でしておきましょう」
ロキがいつものごとく気を利かすのである。
朝食が終わり、おっさんの私室のソファーに座ると。
おっさんの私室はほかの部屋の倍はあり広いのだ。
コン コン
「はい、どうぞ」
「し、失礼します。ヤマダ男爵様、チェプトです」
ソファーにチェプトを座らせるおっさんである。
チェプトは20歳で、今まではイリーナの生まれのクルーガー男爵家の従者をしてきたのだ。
この度おっさんにイリーナが嫁ぐことになったので、今は仮であるがチェプトの主がおっさんということになっているのだ。
「それで、相談は何でしょうか?ダンジョンのことでしょうか?」
(やっぱりこの感じはダンジョン行きたくない系かな)
「そ、それもあるのですが、実はあの」
(ん?何だろう、何言われるんだろう。ワクワクする俺ガイル)
「はい、何でも話してください」
「私、家宰になりたいです!」
(む、セバスではないのに家宰になりたいと申すか。おぬしっていかんいかん、相談に乗らねば)
「家宰ですか、分かりました、まずは家宰見習いということですね」
「え?いいのですか?」
あっさり承諾するおっさんである。
「目標があって素晴らしいと思います。ただし、イリーナとロキにはこの話をしたのでしょうか?」
「え?していません」
「こういうことはまとめ役のロキに話をしないと、失礼だなと思うこともありますので、気を付けたほうがいいですよ。戻ってきたら私の方から伝えておきましょう。家宰になれるかは、まだわかりませんので、それでよろしいでしょうか?」
「は、はい、ロキ様にも相談せずにすいません」
「まあ、いいですよ。目標に向けて頑張ってください。前も言いましたがやりたいことを応援します。何をするか、させるかについてはこれからでよろしいでしょうか?」
「はい」
「ダンジョンはどうしますか?」
「あ、あの、戦うのは苦手と言いますか」
チェプトの話を聞くと、戦うことは昔から苦手であったとのこと。
昔から夢だった家宰に必要な勉強をしていたが、士爵家らしく従者として仕えることになったとのことである。
「ふむふむ、分かりました。もしかしたら1年ここにいますので、ダンジョンにも行っていただくこともあるかもしれませんが、家宰見習いとしようと思います。また追ってお話をします。他に相談はありますか?」
「いえ、ありません。相談に乗っていただきありがとうございます」
「いえいえ、また何かあれば相談に乗りますよ」
「ありがとうございました。失礼します」
頭を下げ、おっさんの私室から出ていくチェプトである。
(何気なくダンジョン手当の時に言ったのに、こんなに反応があるなんてびっくりだな)
ゴンッ ゴンッ
そんなことを考えていると、ちょっと強めにおっさんの私室のノックがなる。
「はい、どうぞ」
「失礼します。アリッサです!」
「はい、どうぞ、こちらにおかけください」
アリッサは侍女らしくお茶も持ってきたようだ。
アリッサもクルーガー男爵家の侍女である。
チェプトと同じようにおっさんに仕える予定であるのだ。
「それでお話とは何でしょうか?」
(ん?侍女に対しては課題だしてないけど何だろう?)
「あの!あたしもダンジョンに行きたいです!」
(ん?侍女がダンジョンに行く?なんか面白そうだけど、いかんいかん)
懲りずに脱線するおっさんの思考である。
「えっと、アリッサは確か18歳でしたよね?侍女は不満でしたか?」
「侍女に不満はありません。それではなくダンジョンに行きたいのです」
理由を説明するアリッサである。
アリッサの家元のロンド士爵家はあまり裕福ではない。
ダンジョン手当を家元に仕送りしたいとのことである。
また、昔から武芸を幼少のころから嗜んできたが、長男が家督を継ぐのとのことである。
三女の末っ子のアリッサは、当然家督は継げず、クルーガー男爵家の侍女になったとのことである。
今回、おっさんがやりたいことを言いなさいと言われたので、ダンジョン手当の仕送りとダンジョンで槍働きがしたいとのことである。
(ふむ、これだけ熱い思いを言われると、断る理由がないな。16歳のコルネを仲間にしたのに18歳を断るのはおかしいか)
「話は分かりました。ただ、ダンジョンに入れるかはロキとイリーナと相談してからでよろしいですか」
「はい、アリッサ=ロンドは、槍働きでも料理でも何でもしますのでよろしくお願いします!それでは失礼します!」
そういっておっさんの私室を出ていくアリッサであった。
(釣り目、赤髪で熱い女性だなと思っていたが、見た目を地で行くタイプだったか)
その後結局、出かけるタイミングを逃したため、スキルの検索と検証の続きをして一日が終わったおっさんであった。
夕食が終わったあと、イリーナ、ロキ、コルネの3人を私室に呼んで話をするのである。
コルネはヤマダ男爵家のことでもあるが、ダンジョン攻略のことも関わっているので同席することにしたのだ。
「事情は分かったぞ」
「ふむふむ、なるほど、朝の件はそういうことだったんですね」
イリーナとロキが返事をする。
コルネは何も言わないらしい。
「私としてはなるべく本人の希望に合うようにしたいと思ってます」
「チェプトを家宰見習いとして、アリッサをダンジョンへの荷物持ちということでしょうか」
「そうですね。夢があるということは良いことだと思ってますので。これがただダンジョンに行きたくないと言われたら話は変わっていました」
「なるほど、素晴らしいお考えだと思います。ではそのようにさせていただきます」
「ロキも何かやりたいことがあったら言ってくださいね」
「はい」
ロキは心の中で騎士団長になりたいと叫ぶのであった。
荷物をまとめ終わったが、急遽アリッサを荷物持ち担当にするため、1日準備に時間をかけ、2日後に10階目指して出発することにしたのであった。