第18話 おっさん家を借りるってよ
ウガルダンジョン都市についたおっさんら一行はまずは宿を目指す。
「やっと着きましたね。宿を探しましょう」
「そうだな、宿は大通り沿いにあるのではなかろうか」
大通り沿いを進むと、宿屋と思われる建物がある。
帯同している従者が建物の近くに馬車を止めて、宿泊できるか交渉をしに行くようだ。
全員宿泊できるということなので、宿屋の案内係に馬車を任せて建物に入る。
「もう遅いので、先に食事にしましょうか、そのあと1室に集まって明日以降の打ち合わせをしましょう」
宿屋1階で、皆で食事をとるのだ。
おっさんの発案でこのダンジョンの攻略中は、3人の従者も2人の侍女もなるべく一緒に食事をとる。
一部どうしてもあまり聞かれたくないタブレット関係の話については今回のように1室に攻略する4人で集まって話をする。
ただ、馬車で移動中も馭者を配下の従者に任せているので、なんかよく分からない会話しているな、程度の話が耳には入っているのである。
任務中に知った内容は公言しないよう言い含めてあるのだ。
イリーナに仕えている3人の従者と2人の侍女は、今後おっさんに仕えることが決まっているので、フェステルの街を出てから給金もおっさんが支払うことになる。
従者は1人当たり月に金貨5枚である。
侍女は1人当たり月に金貨3枚である。
男爵家の従者や侍女より給金が良いという話だ。
食事も終え、4人はおっさんの部屋に集まる。
「今日も1人で寝るつもりか」
「はい、夜1人で神への報告準備などがあるのです」
おっさんはフェステルの街からここまでこのような理由を述べている。
基本1人でいるときはタブレットをいじっているため、嘘はついていないのである。
旅先でも10日間のうち同じ部屋だったのは2回のみであった。
コルネが赤い顔をして2人の会話を聞いている。
「そ、そのなんだ。そんなに毎晩報告準備をしないといけないものなのか?」
食い下がるイリーナである。
「毎晩というわけではありませんが、今回初めてウガルダンジョン都市に着きましたので、そういった新しいことが起きた場合は時に報告の整理に時間がかかるのです」
「今街に着いたばかりであろう?あまり言えないことかもしれないが、どういうことを報告しているのだ?」
「例えばですが、ウガルダンジョン都市はどうも獣人が多いようですね。体感ですが、3割近い割合で獣人がいるようです。フェステルの街は1割程度でした。南のガルシア獣王国が近いからだと推察できます。また、下のレストランで食べた食事も独特で香辛料が多く感じました。これはウガル伯爵領都で取れる香辛料が原因なのか、またこれも獣王国からの輸入が多いのか分析が必要なのです。他には建築材の石が乳白色が多いのも気になるところですね」
「そのようなことを報告しているのか?」
「はい」
「そ、そうなのか…」
おっさんの話を聞いて、国王から300年前にいたチフルという検索神の使徒が、情報収集が好きだったという話を思い出すイリーナである。
それでも納得できないのだ。
納得できないイリーナに理解を試みるおっさんである。
「う~んとそうですね。例えば、聖教会にお布施をしますよね?」
「まあそうだな」
広く浸透している聖教会へのお布施は貴族にとって当然のことなのだ。
月当たりで決めてお布施する熱心な貴族も多いのである。
「なぜですか?」
「え?神に対する感謝の気持ちとか祈りのためではないのか?」
「なぜ神は人のお金をもらって感謝をするのですか?万物を創造した神なら銀貨や金貨など創造できそうなものなのですよね。もしかして神にとって、その辺の石ころと金貨の区別がつかないかもしれませんよ。でも、人はお布施をし、神に祈りを捧げますよね」
「そ、そうだな。でも金貨は高価なものではないのか?」
「そうです、人にとって高価な金貨を捧げているのです。捧げているのは金貨ではなく、頑張って稼いだ大事なお金を捧げるという、神に対する思いであると私は思っています。今回の私の情報も大切な情報だと思っているから捧げているのです」
「なんか、分かるような、分からないような感じだな」
ロキとコルネも人ならざる力を持ったおっさんの話を難しそうな顔をして聞いている。
熱く語るおっさんがいつの日か、イリーナに姫騎士についてのブログネタがばれないことを祈るばかりである。
「えっと、まあそういうわけなのです。明日以降の話をしましょう」
「はい」
イリーナが考え込んでいるのでロキが返事をする。
「明日はまず拠点を探しに行きましょう。不動産屋ですかね?大通りにあるでしょうからそこで、家を借りましょう」
(旅行に着て宿泊先探す前に観光する旅行客はいないな。まずは家だな)
おっさんらはこの道中にある程度の予定をダンジョンに行く4人で話し合っているのだ。
街にいるのは、今回は長くて1年近くもあり、既に9人の大所帯だ。
これからも所帯は大きくなると思われる。
できれば、家を借りたいという話でおっさんがほかの皆にとおしたわけである。
もちろんブログネタが欲しいというおっさんの強い思いであるのだ。
「はい、そうですね」
「そのときできれば、街に何があるのか、不動産屋に聞きたいですね。終わったら冒険者ギルドにいって、イリーナの冒険者登録とクラン(Clan)を結成させましょう。あとは冒険者ギルドに仲間になれる人がいるかも探してみましょう」
「了解です。朝は2の刻でいいのですか?」
「そうですね、それまでに皆さんは朝食を済ませておいてください」
皆がおっさんの部屋から出ていく。
おっさんはベッドに寝転がり、今日起きたブログネタの整理しだすのだ。
(うはっ、やはり新しい街はブログネタの宝庫だ。来てよかった。おっさん涙出ちゃうんだから)
【ブログネタメモ帳】
・ウガルダンジョン都市とは
・ウガルダンジョン都市の人口動態 ~神秘の獣人再び~
・ウガルダンジョン都市の食生活
ブログネタに飢えていたおっさんにとって笑いが止まらない状態である。
(ふむふむ、まだ街に入って少しなんで情報が足りないな。街に詳しい不動産屋で話を聞くしかないな。あとはここまでたまった分を現実世界で記事に上げるかな)
一晩中明日確認する内容を整理して眠りにつくのであった。
そして、朝9時に4人は集合をする。
従者達にはあとで、購入する予定の生活用品等を街で確認しておくよう言い伝えて、不動産屋に出発するのである。
「不動産屋は、たしか1軒家のような看板を掲げていましたよね」
「うむ、そうだな」
大通りを4人で歩きながら看板を探すのだ。
伯爵領都ということもあり、人通りは子爵領の倍以上だ。
大通り沿いの不動産屋は街の中央付近ですぐに見つかるのであった。
不動産屋に入るおっさんら一行である。
「すいませ~ん」
「はい、いらっしゃい」
「家を借りたいのですが?」
【ブログネタメモ帳】
・ダンジョン都市で一軒家借りてみた
カウンターには恰幅のいい店長が座っている。
おっさんは正面に座り要件を伝える。
「ほうほう、場所や大きさとかは決めているのかい?」
「大きさは20人くらい住めるくらいです。大通りに近く、ダンジョンにも通いやすいほうがいいですね。私達は街に着いたばかりなのですが、これから1年ほど借りられるところを考えています。馬車が2台あるので、停められるほどの広い庭があるといいです。できれば今日か明日には住めるところでお願いします」
簡潔に目的の賃貸物件を伝える。
ロキ達はおっさんが自分で交渉したいというので黙って見ているようだ。
店長はおっさんの簡潔に伝えた物件情報のメモを取っている。
「少し条件が多いね。ちょっとその条件だと割高の物件しかないですよ。えっと、これからダンジョンに通う冒険者ってことだね。ちなみにランクを聞いてもいいかい?」
(ネットの賃貸物件サイトで条件入れすぎてヒットしない状態になっているのかな?ランクでおすすめが変わるのか)
「Bです」
冒険者証を見せるおっさんである。
「おお!りっぱな冒険者ですね。では、これなんてお勧めですよ」
店長は冒険者のランクで予算を考えたようだ。
たくさんある物件情報の中からおっさんの要望に合うものを探しているようだ。
資料を見るおっさんである。
金額以外は良く分からないようだ。
「これは、物件の下見とかできますか?」
「ええ、構わないですよ」
案内されるおっさんである。
店長自ら案内してくれるようだ。
お手伝いさんが店番をするんだなと思いながら、店長についていく。
「大通り沿いに近いので場所はすぐそこです。歩きながら街についてご説明しますよ」
物件や街について説明を受けるおっさんである。
すぐそこと言われたが30分ほど歩いて目的地に着く。
「この家です?」
確かに大通りの1本裏手にある3階建ての大きな建物だった。
乳白色の無機質な建物であるが、作りはしっかりしているようだ。
庭も広く、馬車2台余裕で停めることができそうである。
「大通りに近いということもあり、少々値が張ります。ここは商業地区なのですが、歓楽街からも離れているので住むには最適かと思いますよ。井戸水も下水も完備されています」
道中に不動屋さんの店長から聞いた話だと。
ウガルダンジョン都市はおっさんが入ってきた北門のほかに南門と西門がある。
東門がなく、そこにダンジョンがあるのだ。
四角形の街で、北東のエリアが商業地区、南東エリアが歓楽地区、北西地区が一般人の居住地区、南西が貴族の居住地区で、さらに南西角にウガル伯爵家があるのだ。
(ふむふむ、ダンジョンが東端の中央にあるから、商業地区か歓楽地区になると。歓楽地区は住むには適さないからここを勧めてきたと。というかさすが貴族はダンジョンと真反対のエリアに住んでるんだな)
街の構造をあらかた理解したおっさんであった。
「中も見てもいいですか?」
「どうぞどうぞ、この物件でしたら今日にでも住めますよ」
中に入るおっさんらである。
(中も広いな、1階は打ち合わせする20人集まってもゆったりできる場所があるな。ここは打ち合わせ室と食事場所にするか。さすがにお風呂はないか。お風呂環境は何とかしたいな。金もあるしな27億円ほど。お、下につながる階段があるぞ)
「下には地下もありますね」
「はい、ですので冒険者様でしたら装備品や素材の貯蔵にも最適かと思います」
ぐいぐい店長も勧めてくる。
「これで月金貨30枚ですか?」
「はい!」
3階まで見て回るおっさんらである。
特に断る理由はないようだ。
(金貨30枚ってことは月の家賃300万か。都内の1等地のマンションに住む売れっ子芸人レベルか。一軒屋で部屋数も多く、大通りに近いならこんなものか)
お笑い芸人の生活レベルで例えるおっさんである。
「いかがですか?ヤマダ男爵様」
ロキが唐突におっさんに声をかける。
「だ、男爵」
店長も貴族の爵位に反応を示す。
「ん?いいんじゃないのかな。あっちこっち見て回ってもしょうがないし」
「畏まりました。不動産屋の店主、何か説明が漏れているものはあるか?」
(ロキ、いきなりどうした?後で聞くか)
「は、はい、特に説明に漏れはありません」
「ヤマダ男爵様、それでは、手続きの詳細はこちらで行います。あとは宿屋で待機している配下とともに、こちらの宿泊地に本日中に移動しますので。大通りで食事とられるなり、ごゆっくりされてください」
朝から不動産ギルドに来たので、まだお昼前である。
「あ、じゃあお願いします。それで、これは1年分の家賃です。それと、何か必要なものがあればこれから使ってください」
白金貨1枚を渡す。
「確かにお預かりしました。こちらで判断して必要なものがあれば、このお金から出させていただきます」
そういって、不動産ギルドの店長とともにロキが細かい契約はしてくれるようだ。
ロキがいなくなったので、おっさん、コルネ、イリーナが1年契約の賃貸物件に残る。
「ふむ、恐らくだが、ロキのさっきの対応だが、貴族に虚偽の契約を交わしたりすると罰せられるからな。貴族であるが問題はないかといった意味が含まれていたのであろうな」
イリーナがロキの対応について説明をしてくれるようだ。
「なるほど、そういうことだったんですね」
おっさんら3人は何もないこの家にいてもしょうがないので大通りで食事を済ませることにしたようだ。