第58話 魔神戦
セルネイ宰相の中にいた魔神ヴェルギノスである。
セルネイという着ぐるみを破り捨てるかのように皮膚を破いていく。
真っ赤な血が滴るその体躯は3m近くに達するのだ。
紫色のその体は赤黒い血管が全身を這っている。
対になる両手は2本ずつあるのだ。
さっきまで戦ってきた3体の紫の巨体の縮小版にように感じるおっさんである。
しかし、劣化版に感じさせない不敵な存在感を示している。
獣王のための観覧室は20平方ほどの部屋になっており、高さも十分にある。
「モ、モンスターだ!獣王陛下お下がりください!!」
親衛隊の副隊長が叫ぶ。
しかし、獣王は下がらないようだ。
「せ、セルネイ宰相はどうした?」
呟くように魔神ヴェルギノスに言うのだ。
「ははは、食うたわ。弱き王よ」
「なぜだ?ずっと、お前が操っていたのか?セルネイがどこか怯えていたのはお前のせいなのか?」
どこか、覚えがあるような。
真っ先に味方になると手を挙げたセルネイ宰相である。
大臣職すら持っていない法衣貴族の子爵のころから獣王の側にずっといたのだ。
内乱の頃からセルネイ宰相は挙動がおかしいところがあったと思い返す獣王。
これまでの言動の答えが出るかのように、完全にセルネイを脱ぎ捨てた魔神ヴェルギノスに話しかける。
「ほう、愚かな王はそれくらいの頭は回るようだな。そうだ、戦うだけしか能のないお前のためにこやつは孤独に奮闘しておったのだ。魔神に頼ったばかりに、絶望に転げ落ちていく者を見るのはいつ見ても愉快だな。ぐははは!」
「そうか、分かった。もう、よい。黙れ」
立ち上がる獣王である。
顔は怒りに満ちている。
全身から湯気のような、蒸気のようなものが出てくる。
気力を消耗していく。
妹との間の兄妹喧嘩では、一切使わなかった気力を消費し始めたのだ。
力のみを追い求め、気力を得るまでに至った獣王である。
獣王は武器を持っていない。
そんなことは関係なく、目の前でセルネイ宰相を脱ぎ捨てた魔神ヴェルギノスに距離を詰め、拳を振るう。
「ぐふっ」
距離を詰めた獣王。
拳が魔神ヴェルギノスに触れる前に、4本ある魔神ヴェルギノスの拳の1本が獣王に迫る。
殴った先の獣王の左腕を砕き潰し、腹にまで達するかのように拳が突き進む。
それでも魔神の拳の勢いは収まらず、観覧室の出窓から闘技場の方向に吹き飛ばされる獣王である。
「兄上!!」
パメラが兄を追って外に出る。
転げ落ちてくる獣王を見て貴族達から悲鳴が聞こえてくる。
「我々も出ましょう!」
この個室は戦うには狭いのだ。
おっさんらがどんどん外に出ていく。
仲間支援魔法はまだ切れていない。
長期戦に備え、再度かけ直すおっさんである。
ソドンが殿となり魔神ヴェルギノスとおっさんらとの間に壁になる。
外に出ると、観客席の投げ出された獣王をパメラが抱きかかえている。
魔神の一撃で瀕死の状態の獣王である。
パメラが必死に叫ぶように語りかけているが意識はないようだ。
「ヒールオール」
獣王に回復魔法Lv4をかけるおっさんだ。
回復している傍から、数百キロはある大盾を持ったソドンが、観客席にボールのように転げるように落ちてくる。
魔神の一撃を受けたようだ。
Sランクの紫の巨体の時は一度も吹き飛ばされていない。
(やばい、力高すぎだな。む?タゲは俺か?)
ソドンを回復させつつさらに後退するおっさんである。
広い闘技台まで誘導するのだ。
獣王の観覧室から出てきておっさんに向かってくる魔神ヴェルギノスである。
自分が標的なら好都合と、戦いやすい場所まで誘うのだ。
「皆!『タゲ下がり』をします!!標的は私です!!」
「「「はい!!!」」」
大きく叫ぶおっさんである。
タゲ下がりとは、おっさんが皆に説明した戦法の1つである。
敵が強敵の場合、ソドンが完全に押さえ込めないこともある。
そのための戦法である。
タゲを受けた者を餌に敵を誘導する。
それを必死にソドンと重戦士系のロキとイリーナが耐えつつ、ゆっくり下がる。
陣形を作り、仲間の体力を管理しつつ、敵の体力を削りながら倒すのである。
おっさんがウガルダンジョンでとってきた作戦が言葉一つで形となっていく。
10ヶ月かけて形にしてきたおっさんである。
闘技台と観客席との間に設けられた低い塀を乗り越え、闘技台に進むおっさんである。
(くそっ、闘技台はもう誰もいないが、観客席はさっきより増えているな)
闘技場全体でいえば、半数以上の観客がいる。
紫の巨体である魔人達がいた時は避難が進み半分以下の4万人を切るほどになったのだが、討伐したことを聞いて、闘技場の外に避難していた観客達が戻ってきてしまったのだ。
獣王と王女の試合は結果どうなったのか。
紫の巨体は何だったのか。
3体の討伐に参加した英雄たち。
これから、セレモニーは行われるのか。
気になることは多いのだ。
総司会ゴスティーニと審判たちは貴族席の一角に設けられた運営担当席に待機している。
これからどうするのか、獣王家に確認するためである。
安堵感が戻ってきた状態で、吹き飛ばされた獣王。
目の前で転がり落ちてくる獣王に、大きく悲鳴を上がる貴族である。
まだ、終っていないのかと、悲鳴に強く反応する観客達。
悲鳴が貴族席から聞こえたこともあり、注目が自然と貴族席の最も高い位置に設けられた獣王の観覧室に向かう観客達である。
観客達が見たのは、漆黒の外套をきた男が叫ぶと同時に次々と、貴族席の上部に設けられた獣王室の出窓から飛び降りていく光景であった。
獣王室で何が起きたのかと、さらに視線が集まる中、アダマンタイトの輝く鎧を着たソドンがオリハルコンの大盾とハルバートを持ったまま転げ落ちてくるのだ。
重量のあるソドンが大きな音を立てて転げ落ちたため、観客の注目のほとんどを集めたのだ。
そこにヌッと出てきたのは上半身裸の魔神ヴェルギノスである。
紫の巨体で、下半身には真っ黒なタイトなズボンのようなものを履いている。
おっさんらを目指して大きな音を立てて観客席に飛び降りたのだ。
「な!?獣王様の観覧室から紫のやつがまた出てきたぞ!!」
誰かの叫びが、戦いが終わっていないことを悟るのだ。
闘技台まで完全に降りたおっさんである。
おっさんの前方には回復魔法で回復したソドン、イリーナ、ロキである。
おっさんのさらに後方にはセリムとコルネがいるのだ。
パメラだけが観客席にいる。
獣王を抱き意識が戻らない獣王に叫び続けている。
「とんでもない力であるぞ!」
一撃で吹き飛ばされたソドンが叫ぶのだ。
魔人達の攻撃に耐えてきたソドンの言葉である。
「ソドン、ハルバートではなく盾2枚持ちでお願いします。完全に耐える必要はないので、陣形を守ることを優先してください!」
おっさんが4次元収納に収めていたソドンの盾を出す。
闘技台にハルバートを投げ捨て大盾2枚持ちに変更するソドンである。
「こい!カフヴァン!!!」
セリムの叫びとともに全身オリハルコンでできたフルプレートのカフヴァンが3m上空に出現する。
体全身からは蒸気か湯気のようなものが出ている。
闘技台に蜘蛛の巣状のヒビを作り、轟音を鳴らしながら出現するのだ。
ソドンの右手に回るカフヴァンだ。
右手にはイリーナとロキがいる。
「ぐははは!やはりそうか。魔人どもを使ってよかったぞ!今回の使徒は仲間を強化し指揮をするのか。聞いていた話とこれは全然違ったな」
闘技台に降りてきた魔神ヴェルギノスである。
おっさんの指示で陣が出来上がっていく様を見て、笑いながら語るのだ。
そうかそうかと言いながら向かってくる。
(完全に敵認定だな。交渉も出来そうにないし倒すか)
「コキュートス!」
「む?」
完全に闘技台に降りてきたので攻撃魔法を使う。
氷魔法Lv4を掛けるおっさんである。
魔神ヴェルギノスを覆うように氷の結晶が覆う。
ニヤニヤしながら覆われた氷を破壊し向かってくる。
(魔力抵抗解除、物理抵抗もついでに解除だ)
「コキュートス!!」
氷魔法Lv4を掛けるおっさんである。
覆われた氷を再度破壊して向かってくる。
魔力抵抗も解除したが、それでも動きを抑えることができないようだ。
2度の氷魔法がほとんど効果なかったため、魔神の接近を許す。
凶悪なまでの2本の腕がソドンの両盾を襲うのだ。
グギャっと音がする。
オリハルコンでできた大盾は破壊できないが、支える両の腕が砕けたのだ。
「ヒーリングレイン!」
痛みをこらえ、攻撃を受けるソドンである。
その横からおっさんが物理抵抗を下げたおかげで僅かに攻撃が通るようになったロキがスキルを消費して槍技Lv1で攻撃をする。
イリーナの攻撃は通らないようだ。
剣技を取得していない力2100程度ではほとんどダメージを与えられないようだ。
コルネの弓も同様である。
弓技を取得していないコルネの矢は、魔神にはほとんどダメージを与えられない。
それでもロキとともに攻撃を続けるイリーナとコルネである。
「ぬん!」
そんな中カフヴァンが両手剣のように巨大な剣を片手で握りしめ、渾身の攻撃をする。
「ほう?何だお前は?お前の話は聞いていないな」
セルネイ宰相からカフヴァンについては一切聞いていない魔神ヴェルギノスである。
しかしどうやら魔神よりは力がないようだ。
少々のことはかまわないのだ。
塀から降りておっさんらの激戦を見る者達がいる。
ここには50人近いAランク以上の冒険者がいる。
武器が壊れた者もいるがおっさんの回復魔法で体力的には皆健在である。
塀を乗り越えて、闘技台と観客席の塀の間にある緩衝地帯のような場所に降りてくる。
Aランクの常識すら超えた戦いが繰り広げられる中、戦いの参加の機会を伺っているのだ。
総司会ゴスティーニもそうだ。
まだ戦いが終わっていないことを知り、状況を観客席に伝えるために塀から降りてくる。
再度観客に避難指示を魔道具でできたマイクを使って行う。
(やばい、わらわらと塀乗り越えてきたけど、魔神が強すぎて守り切れないぞ。つうか、さっきの紫の巨体と連戦で魔力が尽きるぞ)
今はソドン、ロキ、イリーナの体力の管理を必死にしているおっさんである。
攻撃を受けた側から回復魔法Lv3で回復しているのだ。
他の冒険者を回復させている余裕もない。
まもなく魔力がなくなる上に、同時にいくつもの対象を回復させている暇はない。
紫の巨体を1体に絞るために、氷魔法を使い魔力を多く消耗したのだ。
魔力の回復については現実世界に帰るなり、加護(大)の特典で魔力を全快にする必要があるのだ。
その時である、気力を使い素早さが3000に達した狼の獣人が闘技台に突っ込んでくる。
腕にオリハルコンを装備したヴェルムである。
「ヘルハウンズ!!」
拳技Lv1とLv2を全力で使い、戦闘に参戦したのだ。
獣王武術大会に入ってきた異物を排除するかのように、音速で疾走し魔神に迫るのだ。
ヴェルムの必殺の掛け声とともに、オリハルコンのナックルが魔神ヴェルギノスの左ほほに食い込む。
「ん?なんだ?雑魚か。ふんっ」
「がはっ!」
2本の左腕を突き上げるようにヴェルムを襲う。
ヴェルムが血反吐を吐きながら、天高く舞うのだ。
パメラ同様の戦闘スタイルで重量級ではないが、そのでかい図体を感じさせないほどの勢いで上空に吹き飛ばされていく。
「ヒールオール」
鷹の目でとらえ、100m以上上空に吹き飛ばされたヴェルムを回復させる。
闘技台外の塀との緩衝地帯に落下したヴェルムである。
ここには、戦いの機会を伺うものも多い。
おっさんとともにパメラのけじめに協力したAランク冒険者ブレインもである。
紫の巨体である魔人にも参戦したのだ。
おっさん達が必死に戦っているので、戦いに参戦しようとしていたのだ。
そのブレインの目の前に落ちてくる獣王国最強の男である。
獣王国最強の男がたった1度の攻撃で瀕死に追いやられたのだ。
落ちてきたヴェルムに意識はない。
冒険者達がヴェルムに集まってくる。
「な!ヴェルムが一撃でやられたぞ!」
「ヴェルムの拳でもびくともしていなかったぞ!」
「救護班を呼べ!意識がないぞ!!」
冒険者の騒ぎが大きくなっていく。
「ゴスティーニさん!!闘技台に冒険者が上がらないように言ってください!!!」
大声で叫ぶおっさんである。
獣王国最強の男がたった1度の攻撃で瀕死に追いやられたのだ。
ほとんど、ヴェルムの動きは見えなかったが、魔神に殴られる瞬間は良く見えた冒険者達である。
たった1撃でやられたことは理解できたようだ。
分かりましたと返事をする総司会ゴスティーニである。
マイクを持ち、状況を説明するのだ。
『み、皆さん。ただいま魔導士ケイタとその仲間が闘技場に現れた謎のモンスターと交戦中です。無用に攻撃をして被害の拡大をしないようお願いします。冒険者の方は塀を囲み、観客をなるべくお守りするようお願いします!!』
(ゴスティーニが空気読んでくれて助かる。回復魔法Lv4は3より魔力消費激しいからな)
ソドンが盾になって、全体的なダメージを下げつつ、全体にかかる範囲回復魔法は魔力消費的にも、発動時間的にも助かるのだ。
長期戦を見越したおっさんである。
その時である。
1人の獣人が塀を乗り越え、闘技台に降りてくる。
棒立ちの冒険者を通り過ぎ、闘技台に上がるのだ。
「兄上の意識が戻らぬぞ!き、きさま!!」
パメラが親衛隊に獣王を任せて、闘技台に上がるのだ。
『パ、パルメリアート殿下』
総司会ゴスティーニが言葉を選ぶ。
パメラは獣王国最強の男ヴェルムも屠るのだ。
しかし、その立場は獣王国に最も必要な1人でもあるのである。
王位継承権を持った第一王女である。
『どうやら、魔導士ケイタたちの戦いに参戦するようです!』なんて、いつもの口調で実況できないのである。
言葉が詰まるゴスティーニとは裏腹に言葉を発するパメラだ。
「ビーストモード!」
パメラは知るのである。
なぜ、獣人ならだれでも知る金色の獣伝説の力が自らに宿ったのか。
ガルシオの血を引いているからなのか。
しかし何十代もガルシオの血を引く獣王達がいたが、伝承の力は得られていない。
たまたま自分に与えられたのか。
違うのだ。
今こそ、獣王国を滅ぼしかねない強敵を打ち滅ぼすためなのだと確信するのだ。
ネコ目の黄色の瞳はまっすぐ魔神ヴェルギノスを捉えている。
力強く発したその言葉ともに光に包まれていく。
「グルオオオオオオオ!!!」
四足歩行の獣と化したパメラが大きく雄たけびを上げたのだ。
ものすごい勢いで魔神ヴェルギノスに迫るのだ。
魔人の素早さを圧倒しているのか、魔神の4本の腕を避けて攻撃を加えていく。
『パルメリアート殿下が、金色の獣となってモンスターの討伐を行います!!』
無意識に総司会ゴスティーニが解説をする。
観客達が、魔神と戦う金色の獣となったパメラとの闘いを見つめるのだ。
そんな中、カフヴァンが叫ぶのである。
『セルム殿、魔力をよこすのだ。今こそ決着をつけるときぞ!!魔力は全て貰うでござる』
「う、うん。わかった」
魔力接続を行い、600以上残ったセルムの全ての魔力がカフヴァンに行くのだ。
ブンッ
セルムの魔力により、自らの魔石のように金色に輝くカフヴァンである。
闘技場に現れたもう1人の金色の鎧の騎士である。
さらに現実離れした状況を観客も冒険者達も見つめるのだ。
「ぬ、馬鹿な!!これほどの力を持つものが人間にいるはずがないぞ!!」
金色の獣の猛威を受け苦痛に顔をゆがませる魔神ヴェルギノスである。
魔神ヴェルギノスは受けるダメージが増えて苦痛に顔をゆがませるようになった。
それもそのはずである。
パメラの速度はおっさんの支援魔法でさらに4倍になったのだ。
パメラの力は11000に達し、素早さは30000になったのだ。
既に光り輝くカフヴァンをも上回るのだ。
(パメラのステータスが人外に足を踏み入れている件について。やばい、見とれていてもしょうがないぞ。あと10分で攻め切らないと魔力も力も尽きて全滅するぞ。考えろ!おれ)
そんな中焦るおっさんである。
パメラの金色の獣も、カフヴァンの魔力接続も10分かそこらしか持たないのである。
カフヴァンについてもそうだ。
時間は有限でそんなに長く力を上げる効果はないのだ。
魔神ヴェルギノスは2体の輝く鎧と獣の出現によって防戦一方になったのだ。
既に魔神の力を2体の鎧と獣の力が凌駕してしまったようだ。
しかし、10分かそこらの間に倒し切らなければ、全滅するのはおっさんらなのである。
敵の体力が分からない以上このまま確実に倒し切る必要があるのだ。
(えっと、魔神に効きそうな魔法はえっと?悪魔っぽいから、もしかすると神聖魔法か?)
「カフヴァン!必殺技を使って魔神を吹き飛ばしてください!!」
『ぬ、あい分かったでござる。天地斬り!!』
「がはっ!」
金色に輝くカフヴァンが剣激を発生させる。
吹き飛ばされる魔神ヴェルギノスである。
ダメージを受けながら吹き飛ばされる。
(よしよし、これでソドン達から距離を取ったぞ。魔力も回復させるぞ)
おっさんはタブレットを使用し、検索神の加護(大)でもらった特典の画面を開くのだ。
検索神サイトの『大』アイコンをクリックする。
・レベル1アップ【上限10】 PV1000000ポイント
『近くに7名いることが確認できました。誰が特典を取得しますか?』
・ケイタ=フォン=ヤマダ
・イリーナ=ヤマダ
・ロキ=フォン=グライゼル
・コルネ
・セリム=フォン=ウガル
・パルメリアート=ヴァン=ガルシオ
・ソドン=ヴァン=ファルマン』
(ふぁ!?特典を貰えるのって俺だけじゃないの!?って驚いている場合ではない)
スキルを仲間に与えることはできないのだ。
驚きながらもおっさんを選び特典を貰う。
レベルが39から40に上がり、体力と魔力が全快するのだ。
「神聖魔法を放ち援護します。私の神聖魔法を避けつつ攻撃をしてください!!」
『分かったでござる!』
『ガルルル』
パメラとカフヴァンが返事をする。
「シャイニングレイ!」
4つの光の塊がおっさんの周りに発生する。
強く輝いたと思ったら、まっすぐ真っ白な光線となって魔神ヴェルギノスを打ち抜くのだ。
「ぐはっ」
過去にないほどのダメージを受ける魔神である。
(うほ、効果あるぞ。発動に8秒もかかるけどこれ以上に短縮できないから、このまま打ちまくるぞ)
もっとも遠く100mほど離れたところから4つの白い光の光線を何度も放つおっさんである。
数十m離れたところからカフヴァンがスキルを使い飛ぶ斬撃を放ち続ける。
そして、30000に達したパメラがおっさんとカフヴァンの攻撃をかわしながら魔神を前足でボコボコに殴るのである。
遠距離、中距離、近距離の陣形ができた1人と2体である。
既に魔神の回復速度をはるかに上回るのだ。
攻撃もパメラの速さが早すぎて空を切る。
「ぐあああああっ!!!!」
ぎりぎり肉体の原形を保った状態で、断末魔を叫ぶように倒れる魔神ヴェルギノスである。
もう立つこともできないようだ。
紫の煙が体中から出ている。
こんなはずではとつぶやいているが、もう誰の耳にも届かない。
魔神が倒れたのと同時に歓声が鳴り響くのだ。
一部始終を見ていた観客達である。
観客達も、冒険者達もこの新たに生まれた伝承になる戦いの証人達であるのだ。
『なんということでしょうか!恐ろしいモンスターが現れましたが、パルメリアート殿下とその仲間達が、激戦の末倒してしまいました!!!』
総司会ゴスティーニも絶叫しながら、おっさんらの勝利を称えるのだ。
冒険者達からも観客達も拍手喝さいで喜ぶのだ。
観客達が身を乗り出すように歓声を上げている。
半分ほどに減った観客であるがそんなことを感じさせないほどの絶叫である。
(ふう、何が何だか分からないがあほみたいに強いモンスターだったな。うは!!!経験値5億以上入ったぞ!!元経験値10億超えか?紫の巨体の10倍くらいあるぞ)
タブレットを見て経験値の上昇を確認するおっさんである。
おっさんの仲間にも経験値が入ったようだ。
レベルが上がり魔力も気力も全快したおっさんの仲間達である。
獣王もヴェルムも意識を戻す。
レベルアップの効果で意識も完全に回復したのだ。
殴ったことで経験値配分の対象になったようである。
1億以上の経験値が入って両手を見てわなわなとしている。
そして現れるのだ。
それは観客席ではない。
おっさんらの視界に入るギリギリ上の位置である。
上空に浮いているそれは、おっさんらの勝利を祝福するかのように観客と一緒になって拍手をしている。
「さすがだね。検索神の使徒は既に魔神を倒せるまでに成長していたのか。うん、やってきてよかったよ」
それは、中性的な声であった。
宙に浮くその存在を知るものがおっさんの中に1人いる。
『上位魔神パルトロン…』
鎧の騎士カフヴァンが呟くのだ。
誰もがやっと終わったと思う中、最凶の存在が現れたのであった。