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おっさんが始める異世界雑記ブログ  作者: ハム男
第3章 ガルシオ獣王国武術大会編
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第43話 演出

2回戦の第7試合が終わったところで、運営担当者がおっさんのいる観覧席にやってくる。


「ヤマダ子爵様、そろそろ演出のご準備をお願いします。こちらですので、ご案内します」


余興の準備のために、おっさんを案内してくれるようだ。


(ふむ、第8試合は見せてくれないのね。イリーナに後で詳しく聞くか。ロキの対戦相手も、次の試合で決まるしな。今日も終わったらホテルで作戦会議だな)


武術大会が始まる前から、王都のホテルでは、作戦会議をしてきたおっさんらである。

主に大会での戦い方である。


ホテルはなかなか高級なようで、会議室を貸してくれるのだ。

夕食は会議室を使い、皆で食べ、そこで明日の対策を行ってきたのだ。

個室でないと話せないこともあるので、重宝しているおっさんである。


会議室では、スキルや装備、ステータスをフルに生かしたおっさん流の戦術を伝えてきたのだ。

おっさんはどれだけ泥臭い戦術でも勝てばいいというゲーム脳を持っている。

ロキにはロキの、パメラにはパメラの戦い方があるのだ。


一度も行ったことないダンジョンの攻略方法を1年近くかけて語ってきたおっさんの話だ。

皆抵抗なく耳に入ってくるのだ。


そして、スキルの開発だ。

鎧の騎士カフヴァンの話を元に必殺技スキルの可能性の考察を進めてきたおっさんである。

大会が進んできたので、槍技や拳技など、スキルを使用する闘士達の情報も参考にするのだ。

槍技Lv2や拳技Lv2など新しい必殺技がこの大会期間中に得られるか分からないので、これは過度に期待できない次点での対策だ。


(まだ、槍技Lv1でいくつの必殺技が使えるかも分からない状況だからな。今のところ、ロキもパメラも1つずつしかスキル使えないしな)


カフヴァンの剣技のレベルが不明なおっさんだ。

しかし、5つ以上のスキル使えるのだ。

剣技もおそらくスキルレベル5までなので、スキルレベルとスキルの数が合わないのだ。

条件は分らないが、同じ槍技Lv1でも複数のスキルを体得できると考えるのだ。


そんなことを考えながら、獣人の運営担当者に個室に案内される。

簡単な説明を受けるおっさんである。

武術大会2日目は遅滞もなく、そして、早すぎることもなく順調に進んだとのことだ。

4半刻(30分)程度の時間で演出してくれたらうれしいとのことだ。

おっさんの中で何をするか決めているので、まあそれくらいかと思うのだ。

説明が終わると、準備が整ったら呼ぶと言われて、1人にされる。


(ここは闘士達の待機室なのかな。ベッドもあるから、医療室も兼務しているのか?)


簡易な木製の寝心地の悪いベッドらしきものがある10畳ほどの部屋だ。

無機質な部屋を物色するおっさんである。

ホテルでもそうだが、部屋に入ればツボとタンスをチェックするのはおっさんの使命である。

その度にイリーナからは生暖かい目で見られているおっさんである。

薬草が見つかったことはない。


10分ほど経過する。

1人で物思いにふけるなんて久々だなと思うおっさんだ。


「ただの兄妹喧嘩じゃなかったんだな。思想や利権や立場も絡んでいたんだな。そりゃそうか、王子が1人で内乱なんてできないもんな」


ソドンから聞いた純血派について思い出すおっさんである。

うっかり現実世界の1k8畳の賃貸部屋と同じノリで声に出して独り言を言っていたなと反省する。


(けじめで獣王ぶん殴ったらまた内乱に戻ったりして)


ここにきて、自分らのしようとしていることに不安を覚える。

おっさんらのこれからの行動で獣王国のこれからの在り様に大きな影響を与えるかもしれないのだ。


(いやいや、パメラの思いを汲んであげないとな。仲間を大切にしてこそだな)


タブレットを開くおっさんである。


【武術大会けじめメモ(修正中)】


タブレットの『メモ』機能には、おっさんが、パメラのために武術大会で優勝した後どうやってけじめを取るか考えてきたメモが表示される。

天空都市イリーナにいたころから、どうやってけじめを取れば良いかおっさんなりに考えてきたのだ。


(そろそろ、皆と共有しないとな。異世界に来た主人公はすごいよな。自分の行動で国や世界が変わることに躊躇ないしな)


まだ仲間とは共有していないのだ。

自分の行動で獣王国の在り様が変わることにためらいがあるようだ。


(パメラがカロンを倒せたら、皆と共有しよう。仲間としてできることをしないとな)


さらに1時間経過する。

獣王国の王都に来てから、武術大会などを通じて知った情報を元にメモを完成させていく。


【武術大会けじめメモ(情報共有待ち)】


8試合目も激闘なのかと思っていたら、運営担当者が待機室に入ってくる。

ご案内しますとのことだ。


通路を通るおっさんだ。

ガタイがでかく、大きな武器を持った人でも通れるそれなりの大きさの通路だ。

通路の先から光りが差し込む。

頑丈な鉄格子の扉だ。

扉を開き、ざわざわする中、外に出る。


フードも外してほしいと言われるおっさん。

まあ、こんな距離があるならブサイクな顔もバレないかと思いフードを外す。


ここから先は1人で歩くように言われ数歩の階段から闘技台に上がって、まっすぐ中央を目指すおっさんだ。

17時過ぎの西日の指す中、闘技台の上を歩く。


(おお、闘技台から見た、観客席も新鮮だな!)


闘技台の上の臨場感に感動を覚えるおっさんでる。

ゆっくり中心に行くと、目の前に総司会ゴスティーニがいる。


『おおっと!本日は急遽、本戦2日目ですが、催しを行いたいと思います!!なんと王国の英雄であり、王国最強の魔導士がなんと、この獣王武術大会のために演出をしていただけることを快諾いただきました!!!』


(お、生ゴスティーニだ。獣王国の武術大会管理部門の副大臣らしいけど、全然貴族感がないな。たしか、俺と同じ子爵だっけ)


総司会ゴスティーニについてもソドンから詳しく聞いたおっさんだ。

芸能人にあったような気分になるおっさんだ。


『初めまして、ヤマダ子爵様!獣王魔法隊もぜひ魔導士ヤマダ様の魔法がみたいと観覧しております。王国の魔導の力、皆さんとても期待しております!』


「日々、熱い試合を観覧させていただいております。最高の試合にふさわしい演出ができるか分かりませんが、楽しんで帰っていただけたらと思います」


『おおっと、王国最強の魔導士は、ずいぶん謙虚なご様子です。大丈夫ですよ。つまらなければ、不評の声が上がるだけです!!』


「はは、不評の中、闘技台を後にしないようにしないといけませんね」


(ほう、ハードルを上げたね。出した唾は戻せないんだからね!)


【ブログネタメモ帳】

・武術大会で演出をしてみた ~生ゴスティーニ~


夕暮れ時で、西日がまぶしく感じるおっさんだ。


『それでは、演出をしていただきたいと思いますが、どのような演出でしょうか?』


「そうですね。とても熱い試合を見させていただいておりますが、明日に備え、気持ちにも目にも落ち着かせるような涼しい演出をしたいと思います」


『涼しい魔法を使われるということですね。氷魔法でしょうか!?』


「それは、見てからのお楽しみです。安全に配慮していますので、物足りないかもしれません」


『また、謙虚な言葉が飛び出てきました!観覧席の皆さん、つまらない魔法が飛び出ても決して不評の声を上げないでください。態度で示しても駄目ですよ!!』


笑い声が観覧席に広がる。

しっかり盛り上げる総司会ゴスティーニだ。


(まあ、楽しんでもらえているか。スキルも念のために取っておくか。失敗して大惨事は笑えないからな)


・魔力調整Lv2 1000ポイント

・魔力調整Lv3 10000ポイント

・氷魔法Lv2 100ポイント

・氷魔法Lv3 1000ポイント


演出に必要なスキルをASポイントで取得する。


そして、仲間支援魔法で知力を4倍にするのだ。

これで知力6000以上だ。


「では、始めます」


おっさんが両手を天に掲げる。


「ウォーターバレット」


唱えたのは水魔法Lv2である。


『え…?ふぁ!?』


驚きの声が上がる。

一瞬理解が出来ず、そのあと驚きの声を上げる総司会ゴスティーニである。

腰を抜かしてしまったようだ。


「「「なんだ、あれは!!!」」」


悲鳴のような声が響き渡る。


そこに現れたのは、水の塊だ。

ほぼ球形の水の塊である。


おっさんは、異世界に来た時、最初は1mに満たない30cmほどの水の塊しか出せなかった。

これは、魔法使いは皆とおる道らしい。

それからだんだん大きくなっていき1mを超えたあたりで一人前の魔法使いを名乗れるのだ。


王国主席宮廷魔術師はその倍の2mを超える水球を作ることができる。

獣王国の獣王魔法隊の隊長でも同じくらいだ。

INTでいうと300前後である。

この世界は魔法使いには厳しい世界でレベルが低く、INTが上がりにくいのだ。


この水魔法Lv1で作った水球はどこまで大きくなるかというと、INT3000で直径8mに達する。

しかしINT6000でも直径10mで止まる。

上限キャップがあって、水魔法Lv1では直径10mが限界なのだ。

直径10mにはINT5000で達すると分析しているおっさんだ。


同じくINT5000以降は水魔法Lv2の直径もこれ以上大きくならない。

水魔法Lv2の限界値は10mではなく、直径30mである。


へたれ込む総司会ゴスティーニである。

今おっさんの上空には直径30mの水の塊が浮いているのだ。

上空10mに作った水の塊だ。

この建物も10mなのだ。

闘技場の外からも見える巨大な水の塊だ。

外からは巨大な水のドームが出たように見えるのである。


当然、外には屋台など出店もたくさんあり、大騒ぎになる。



(おお、うまくいったな。少し待った方がいいかな)


総司会ゴスティーニを見るおっさんだ。

次の作業する前に何か言ってほしい顔をする。


『なんということでしょうか、いまだかつて見たことのない、こ、これは魔法なのでしょうか!!』


若干声が裏返っている。

しかし、プロ意識でへたりこんだままであるが、実況してくれるようだ。


さらに数分経過する。

観客席の悲鳴が、ざわつきに変わっていく。

だんだん落ち着いていくのが分かる。

総司会ゴスティーニも立ち上がりおっさんの元に寄ってくる。


「では、次の作業をします。少々熱くなりますが、驚かないでください」


『なんと、演出は続きがあるようです。なんと、冷やすといったのに熱くするようです!!』


「ファイアーボール」


(水蒸気爆発しないように、魔力調整で抑えてと)


『な、なんだ。これはどういうことでしょうか?水の壁が白くなっていきます。上空にある水の壁が真っ白になっていきます』


総司会ゴスティーニにはこれが水の塊ではなく、水の壁に見えるようだ。

観客席に比べて、水球との距離が近すぎるのだ。


水の塊の中に火を発生させ沸騰させるおっさんである。

1年以上、ダンジョンや天空都市イリーナで風呂を作ってきた、お湯づくりの腕は伊達ではない。


お湯を作る要領で水をさらに高温にし、沸騰させるおっさんだ。


『ふ、沸騰した湯気で大変なことになっております!!』


(まあ、サウナのようなものかな。火傷することはないだろう。観客席まで50m以上あるしな)


真っ白になって煮えたぎり、気化する水の塊だ。

凄い勢いで小さくなっていく。


『な、なんということでしょう。だんだん小さく、こ、これはどうやら水の塊のようですね。小さくなると丸い塊であることが分かってきます!自ら作った水の塊を沸騰させていくようです!!』


30分かけて演出してよいと言われたので、時間をかけて沸騰させる。

湯気は天に上って行く。

湯気が観客席を満たしていく。

ものすごい熱気だ。

天井が開いているのに、水の塊が大きすぎて、熱が逃げ切らないようだ。


水の塊を爆発させないように沸騰させること10数分。

とうとう、水の塊が全て蒸気となって天に上がっていったのだ。


『あれだけの水の塊を完全に沸騰させて消してしまいました。何という魔力でしょうか。す、素晴らしい演出です。し、しかし、全然涼しくありませんよ!!』


ものすごい熱気だ。

もう沸騰し終わっているが、30度くらいだった外気の温度が40度近くになっている。

特におっさんの側にいるゴスティーニはもろに蒸気を受けてしまっている。

直径50mの水の塊を沸騰させきったのだ。


「いえ、冷えるのかこれからです。そういえば、ゴスティーニさん」


『は、はいなんでしょう?』


「獣王国は大変暑いのですが、雪は見たことありますか?」


『ゆ、雪?すいませんが、話でしか聞いたことはありません』


「ありがとう、ございます。今からお見せしましょう」


『え?』


「アイスエイジ!」


おっさんが氷魔法Lv3を発動する。

レベル3なので範囲魔法である。

魔力調整で限界まで威力を落とした範囲魔法だ。


沸騰して上空に上がった水蒸気が氷の結晶に変わる。

闘技台の上空の数km先まで上空に上がった水蒸気を全て凍らせたのだ。


小さな氷の粒が雪の結晶となってゆっくり降ってくるのだ。

闘技台にも観客席にも広く降り注ぐのだ。


「ゆ、雪だ」

「獣王国に雪が降っているぞ!」

「こ、これが雪なのか…」


天から降り注ぐ小さな氷の結晶だ。

随分上空まで上がったのか絶えまなく降り続ける。

帝国や王国から来た使者や外交官は雪を見たことがあるので、獣王国で雪を見ることになるとはと驚きおののくのだ。

話でしか聞いたことない、初めて見る獣人がほとんどである。

他国に行く文化もないのだ。

無意識に両手を空に差し出して雪を受け止める。


日差しを一日中受けた観客席も闘技台も石でできているため、直射日光を浴びて50度近い温度になっている。

おっさんの作った雪は解けにくいのか少しずつ積もっていく。


夕暮れ時である。

西日が宙に舞い降りる雪に当たってキラキラと反射するのだ。

そんな中、闘技台に立つ両手を天に掲げた漆黒の魔導士である。


それはとても幻想的に、非現実的に見えたのだ。

総司会のゴスティーニも無言でこの状況を受け入れるようだ。


獣王国が、王国最強の魔導士の魔導の力を知った瞬間である。

こうして、本戦2日目の催しが全て終わったのだ。

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