第16話 元従者と元侍女
真っ白なでかい鳥であるセピラスに乗ること2時間である。
おっさんが見つけた開拓地から王都までの480kmを飛んできたのであった。
王都のすぐ近くの林に降りるおっさんとセリムである。
(ふむ、時速240kmか。風がすごいんだろうけど、羽毛の中にいれば、そこまでではないな。飛竜だと、結構風がきついかもしれんな。仲間支援魔法をフルにかけたら耐えられるかな)
2時間の飛行の感想を王都に向かって歩きながら考えるおっさんである。
「それで、これからどうするんだ?」
「まずは、アヒム達と合流ですね。それから、買い出しでしょうかね」
セリムは開墾でイリーナの街を行ったり来たりする予定であると、母に伝えに行くとのことだ。
アヒム達と合流したら、王都のウガル邸に迎えに行くといって、セリムと別れて行動に移すのだ。
折角飛ばして飛んできても、王都までも、貴族街までも結構な距離なのでそこで時間をかけてしまうのである。
当然王都近くに降りた場所は貴族街寄りなのだが、どうしても数キロを歩くので、徒歩に時間をかけてしまうのだ。
昼前に、ゼルメア侯爵邸に着くと、王城でアヒム達は訓練中とのことで、馬車で王城に向かうおっさんである。
ようやくアヒム、イグニル、アリッサと合流するのだ。
「ここにいましたね」
「これはヤマダ子爵様、王都に戻られたのですね」
王都に残した配下の騎士には、自由行動を任せていたのだ。
自由と言われて訓練をしている3人であるのだ。
これは、1年かけて実戦による戦い方は、ダンジョンでずっと戦ってきた3人であるため分かっているのだ。
しかし、騎士としての戦い方を知らないため、その辺りの修練も兼ねているのだ。
騎士の相手はモンスターとは限らないし、他の騎士と共同で戦うことの方が多いのだ。
元々、従者と侍女で騎士としての訓練を行っていないのだ。
従者が騎士になることは、その働きによってあることなのだ。
貴族になる騎士は少ないが、従者から騎士になることは割とある王国なのだ。
しかし、良い働きを若い時にできるものは稀であるため、その年齢から騎士院に入って1から学ぶのは難しいのだ。
戦い方も作法も勉強中の3人である。
「はい、ちょっと手伝ってほしいことがあって戻ってきました」
それだけ聞いて、どうしてほしいか察する3人である。
「分かりました。今日は、ロキ様はいらっしゃらないのですか?」
一番の年長者のアヒムが代表して答える。
ロキと一緒かと尋ねてくるのだ。
「いえ、今は封土の開拓地で休んでいます」
「そうですか。すいません、少しご相談があります」
(お、久々の相談だ。アヒム達はロキに相談するから、あまり相談ないんだよね)
分かりましたと答えると、チェプトとメイもいるところで相談したいというアヒムである。
元従者と元侍女が全員いるところで相談したいとのことだ。
ゼルメア侯爵邸に戻るおっさんらである。
もう昼過ぎてしまったが、相談を先に聞くことにするのだ。
おっさんが借りた部屋の一室のソファーに全員を座らせるおっさんである。
メイド長のメイがお茶と軽い食事を全員に準備をする。
「それで、相談って何でしょうか?」
「それで、あの、私達を騎士に、そして貴族にしていただきありがとうございます」
貴族は準男爵からである。
全員一律で準男爵にしたおっさんである。
「いえいえ」
(準男爵にして結構経つけど改めてお礼か)
「それで、えっとすいません」
頭を下げられるおっさんである。
「はい?」
「私とイグニルをロキ様の下に付けていただけないでしょうか」
アヒムの話を聞くおっさんである。
話としては、おっさんによって5人は準男爵の貴族になったのだ。
そして、アヒム、イグニル、アリッサは騎士になったのである。
当然感謝している。
騎士の子供も騎士を継げるのは、嫡男がほとんどであるのだ。
それ以外は従者か、女性なら侍女である。
そして、従者にも見習いから従者長まで様々なのだ。
それらをすっとばして準男爵である。
感謝はしきれないのである。
アヒムが熱く語るのを聞くおっさんである。
イグニルら4人も横で聞いている。
しかし、準男爵になったため、おっさん直属の配下の貴族になったのだ。
準男爵になったときにおっさんの騎士になったのだ。
元々貴族にする予定でなくても、おっさんの配下になる予定であった。
しかし直属の予定ではなかったのだ。
従者として騎士のロキに仕える予定であったのだ。
ロキは男爵になったとはいえ、このままロキと横並びのおっさんの配下になるのは失礼であると考えているのだ。
「そういえば、ダンジョン通っていたころもロキが皆さんの面倒見ていましたね」
「はい、大変お世話になりました」
忠臣ロキは部下の面倒もよく見ていたのだ。
割と早い段階でうすうす従者達が騎士になることを予想したロキである。
2か月かそこらで50階層に到達したのだ。
騎士歴15年のロキが騎士の心得も指導していたのだ。
(ふむふむ、本社で勤務するより、お世話になった上司のいる支社で働きたいと)
サラリーマン脳で考えるおっさんである。
ゲーム脳以外の脳も持っているようだ。
御家的にはおっさんとロキのどちらに仕えるかは、直臣と陪臣くらい格が違うのだ。
格よりも筋を選んだようである。
元従者と元侍女で話し合って、チェプトは家宰、メイはメイド長である。
アリッサはイリーナの料理指導もある。
この3人はおっさんやイリーナの直属的な仕事をしているのだ。
アヒムとイグニルはお世話になったロキの元に仕えようとそういうことである。
「分かりました。気持ちも分かりました。後程返事をしますので、一旦預かります」
大事なことなので即答はしないおっさんである。
イリーナとも相談したいし、当のロキは現在武術大会に向けて訓練中である。
折を見てどうするか決める。
今はなるべく武術大会に集中させてあげたいとアヒム達に伝え了承を得るのである。
「それでは、せっかく全員集まっていますので、今後の話をします」
おっさんは与えられた封土の実地調査を行ったところ、領都にすべき土地を発見したこと。
発見したのは川である。
今後開墾しながら、パメラとロキをそこで訓練すること。
土地の開墾開拓などの手伝いにアヒム、イグニル、アリッサが必要なこと。
「え?私は?」
メイが呼ばれなかったことで、驚きそして暗い顔をする。
「いえ、現在むき出しの土地で開拓を行っておりモンスターが出てくるかもしれません」
危ないので、王都でできることをお願いする予定であるのだ。
「とても危険ということでしょうか?」
チェプトが尋ねてくる。
「まあ、危険もあるといったところでしょうか」
「私もヤマダ子爵様の領都のお手伝いがしたいです」
(ふむ。メイが自分で何かをしたいといったことないな)
ずっとメイは悔やんでいたのだ。
アリッサは自らダンジョン攻略を希望し、騎士になったのだ。
もしも、次に何か機会があれば、自分も手を挙げようと。
「分かりました。安全に配慮しますが、危険もありますので指示には従ってください」
チェプトも行きたいとのことなので、メイとともにおっさんの領都であるイリーナの街(開墾中)にいくことにしたのだ。
(うん?そうだな。安全に配慮しないといけないな)
「2人とも1年間私とダンジョン攻略に手伝っていただきありがとうございました」
「え?はい」
何の話だという顔をする皆である。
「安全の配慮するため、チェプトとメイを仲間にしたいと思います」
「え!?本当ですか!!」
メイが身を乗り出して喜ぶのだ。
アヒム、イグニル、アリッサとの距離感を感じていたようだ。
「もちろんです。仲間支援魔法を使えば、より安全になるかと思います」
タブレットを操作し、『仲間』機能の画面を開く。
『近くにいる人を仲間にする』をタップすると、
『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』
『チェプト=グラマンシュ』
『メイ=ブランカ』
(やはり名前が載るか。今回の仲間の条件は、俺と一緒に封土を開墾する仲間ってことだろう。ダンジョンを10人で攻略するという仲間の条件から、仲間の条件が変更されたな)
チェプトとメイをタブレットで仲間にするおっさんである。
「これで仲間になりましたね。って?え?」
「どうしましたか?」
アヒムが尋ねる。
「メイに魔力がありますね」
(これは完全な後方型だな。もう少しレベル上げないと、はっきりとはまだ分らんけど)
NAME:メイ=ブランカ
Lv:1
AGE:20
HP:25/25
MP:20/20
STR:4
VIT:4
DEX:5
INT:25
LUC:8
アクティブ:料理【2】
パッシブ:礼儀【1】
EXP:0
おっさんの分析では、この異世界は、魔力のある人間は100人に1人程度の割合なのだ。
それだけ、貴重であるのだ。
(ふむふむ、魔法も攻撃魔法と回復魔法があるからな。少しレベルを上げてから考えるか。チェプトはどんな感じかな)
NAME:チェプト=グラマンシュ
Lv:3
AGE:21
HP:46/46
MP:0/0
STR:28
VIT:19
DEX:34
INT:0
LUC:22
アクティブ:槍術【1】
パッシブ:礼儀【1】、算術【1】
EXP:38
「チェプトは、格闘家か斥候タイプですね。素早さの方が高いので恐らく斥候でしょうか」
「ほ、本当ですか」
「はい」
(攻撃力と素早さ高めのタイプか。この辺の耐久力のなさが、武術が嫌いになった要因かな。これは槍より短剣やナックルの方がいいかな。この辺は斥候か格闘家かレベルが上がって判断できるようになってから決めるか)
サラリーマン脳は休み、ゲーム脳が目覚めたようだ。
チェプトは士爵家に生まれたが、騎士より家宰を目指したのだ。
「では、これからセリムと合流し、買い出しに行きましょうか」
馬車には乗らないのだ。
このまま、買い出しが終わったら、そのままイリーナの街(開墾中)に行くのだ。
ゼルメア侯爵の執事に、事情を説明し、今後の活動を封土で行うと説明をする。
ヘマとアヒムの彼女は、ゼルメア侯爵邸にいてもいいとのことなので、王都に置いていくのだ。
さすがに一般人は危ないと判断したおっさんである。
もう少し開拓が進んでから、連れていくのだ。
セリムともウガル邸で合流し、街中に買い物に出かけるのだ。
「何から買うんだ?」
2時過ぎである。
少し遅めの食事を王都のレストランで行う。
作戦会議も兼ねてのことだ。
「とりあえず、食料、開墾に必要な道具、毛布あたりですね。明かりなどの魔道具はウガルダンジョン都市で使っていたものを先ほどゼルメア侯爵邸から回収しましたし」
腹ごしらえを済ませて、皆で移動する。
一番の荷物になるツルハシを鍛冶屋で買い物をするのだ。
身長並みに大きいものを3本ほど買うのだ。
2mまで四次元収納に入るので、ぎりぎりまで大きいものを買うのだ。
荷物をアヒム達に持たせて
次は食料である。
なるべく新鮮な肉を買いたいのだ。
重労働の開墾に訓練とタンパク質は必須なのだ。
メイやアリッサの助言を聞きながら100kgほど購入するおっさんである。
(四次元収納が時間経過するかも確認できるな。それにしてもこれだけで四次元収納はもう容量限界だな。重くないパンやあとは毛布は袋に入れて直接持っていくか)
食料に毛布も買ったら、2時間以上経過する。
夕方になる前に王都を後にするのだ。
ツルハシ、肉は王都を出たところで四次元収納にしまうのだ。
王都から少し離れたところで召喚獣を出すセリムである。
間もなく日が沈むのだ。
「結構遅くなっちゃいましたね。セピラスは鳥系ですが、夜目は大丈夫ですか?」
(鳥的に)
「うん?夜も飛べるって言っているぞ?」
「それなら安心しました。私はセピラスにメイとチェプトと乗りますね」
王都で買った縄を使い、メイとチェプトとおっさんをつなげるのだ。
落下防止である。
仲間支援魔法をフルに使っているから、アヒム、イグニル、アリッサは多分大丈夫という判断である。
2体の召喚獣がイリーナの街(開墾中)に向けて飛び立つのであった。