第03話 訓練①
「ケイタ様も参加されるのですか?」
ロキが戸惑っているのだ。
引いているともいえるのだ。
おっさんは今、騎士の鎧を着ているのである。
「はい。私も参加していいとのことですので」
ここは王城側に作られた訓練場である。
近衛騎士の訓練の参加をお願いされたロキである。
おっさんも参加してみたのだ。
なお、イリーナ、コルネ、アヒム、イグニル、アリッサも参加するのだ。
パメラとソドンは参加しないし、訓練場にもいないのだ。
「なんで、俺も参加しないといけないんだよ!」
『そういうな、主殿、これも騎士の務めでござる』
「おれ、騎士じゃないぞ」
セリムもしゃべる鎧が参加してみたいということで参加しているのだ。
「今日はお集り、そして訓練への参加ありがとうございます」
指導官らしき騎士が名を名乗り、本日の日程について教えてくれるのだ。
なお、現在7時過ぎである。
(朝めっちゃはやいな)
走り込みから始まるようだ。
どうやら1時間ほど、騎士の鎧をきて訓練場の内周を走り続けるようである。
おっさんらは訓練を受ける騎士の後方からついて走るのだ。
おっさんは走りながら、ずっと思考が巡っているようである。
(もう土壁に頼るのはやめよう。まあ、元々ダンジョン攻略のために使っていただけだしな)
ダンジョンコアを手に入れた後からずっと考えてきたことを再度思うようだ。
オーガの大群、ダンジョンの攻略に役に立った土壁である。
しかし、一辺倒に土壁に頼った結果、ダンジョンコアの番人戦で仲間を危険にさらしたのだ。
(パッシブスキルは全て5にしたら、新たなスキルの獲得をしないとな。それにしてもセリムのスキルはずいぶん貴重だったようだな)
皆が手に入れているスキルも検証していたようだ。
・剣術Lv1 1ポイント
・槍術Lv1 1ポイント
・弓術Lv1 1ポイント
・格闘Lv1 1ポイント
・召喚術Lv1 100ポイント
・魔力接続Lv1 1000ポイント
(剣で検索したら2種類でてきたけど、『技』もあるんだね)
・剣技Lv1 100ポイント
・槍技Lv1 100ポイント
・弓技Lv1 100ポイント
・拳技Lv1 100ポイント
(術で動きを体得した先に、技に至るということかな。魔法使いならより高度な魔法をってことかな。収束魔法威力凄かったな)
・氷魔法Lv1 10ポイント
・雷魔法Lv1 10ポイント
・神聖魔法Lv1 100ポイント
・暗黒魔法Lv1 100ポイント
・収束魔法(仲間)Lv1 10000ポイント
考察していると、次は素振りのようである。
おっさんは剣の握り方から教わるようだ。
ここから武器によって訓練が変わるようである。
おっさん、イリーナ、セリムは剣の部隊。
ロキ、アヒム、イグニル、アリッサは槍の部隊。
コルネは訓練場の端にある弓の部隊にいくようである。
(訓練とはいえ、がっつりやるようだな)
「この訓練は毎日やっているのですか?」
「そうですね。交代で行っていますね。我々近衛騎士は国王陛下、王族の警護が主ですが全てが警護に参加するわけではありません。警護、訓練、休暇を取りながらですね」
20代半ばくらいだろうか、若い近衛騎士が訓練や近衛騎士の状況について教えてくれる。
(うほ、これは当たりかもしれぬ。何でも教えてくれるで)
【ブログネタメモ帳】
・近衛騎士団の訓練に参加してみた
指導を受けながら、素振りを行う。
しっかり型を教えてくれるようだ。
近衛騎士もダンジョンを攻略した英雄達ということもあり、皆訓練の参加に協力的なようだ。
聞いた話だと、王都を守る第一軍や王都周辺を守る第二軍とも合同で訓練することもあるとのことだ。
間の休憩も取りながら、午前中は素振りで終わるようである。
「ケイタ様、このような訓練に参加させていただきありがとうございます!」
アヒムからお礼を言われる。
王城の中にある兵達全般が利用する食堂で食事を取るのだ。
せっかくなので指導をしてくれた近衛騎士も呼んで皆で食事をするのである。
「いえいえ、貴重な機会です。教えてくれた方々にしっかりお礼を言わないといけませんね」
指導をしてくれた近衛騎士をねぎらいながら、午後の訓練をするようだ。
午後からはより実践的な訓練をするとのことだ。
「では、ヤマダ子爵様、私に打ち込んでください。できるだけ思いっきりお願いします」
午前中指導してくれた近衛騎士は午後も指導をしてくれる。
教えてくれた型どおり、おもいっきり打ち込むおっさんである。
「いきます、は!」
掛け声とともに、打ち込む。
「え、ぐはっ」
吹き飛ばされる若い近衛騎士である。
数m飛ばされたようだ。
剣に受けた衝撃に驚き立ち上がれないようだ。
「え?すいません」
おっさんの力は若い近衛騎士の力を凌駕しているようだ。
そして、それ以上のことが、近衛騎士との組手を行う、アヒム達にも起こっている。
アリッサの槍を受けきれず、体勢を維持できない近衛騎士を見て動揺が起きているのだ。
「すいません。若い指導官をつけてしまって。私がお相手をします」
40近いベテランの指導官が相手をしてくれるようだ。
今度はおっさんが撃ち込んでも受けきれるようである。
おっさんもベテラン指導官の攻撃を必死に剣で受けながら相手をしていくようである。
訓練場近くには人が数十人は乗れるような盛り土の高台があり、ロヒティンス近衛騎士団長が訓練の様子を見ている。
高台にやってくる50過ぎの女性が、配下と思われる者達を引き連れてやってくるのだ。
「これは、少し遅かったかい」
「いえ、午前は基礎訓練がほどんどですから、午後からで問題ないとお伝えした通りです」
「それは助かるよ。すまないね、冒険者ギルドの願いを聞いてくれて」
「いえ、王国としてもヤマダ子爵様とそのお仲間達との訓練は意味があるものですので」
敬語で話すロヒティンス近衛騎士団長である。
「ずいぶん、皆腕があるようだね」
「はい、ギルド本部長、イリーナ殿やロキ男爵はもちろん、その従者達も近衛騎士の部隊長クラスでないと相手にならないようです」
そうである。
今回の訓練は国王からの願いであったが、皆の力が見たいという冒険者ギルドの要望にもこたえた形であるのだ。
訓練を見つめるロヒティンス近衛騎士団長とギルド本部長である。
「「「おおお!!!」」」
すると、試験場の端で驚愕の声が広がる。
弓の訓練を行っている場所である。
コルネが遠的を行っている。
地面に木の棒で刺した先にある30cm四方の的である。
遠的の中で一番距離の長い400mの距離の的を支える木の棒を射抜いているようだ。
魔導弓ではなく、ダンジョンで出た別の弓を使っている。
根本を失った的が宙を舞う。
的の動きを読んでいたかのように、2本目の矢が寸分たがわず浮いた的の中心を射抜くコルネである。
ただ狙っても訓練にならないと思ったコルネがアレンジを加えて訓練をしているのだ。
驚愕の目で見る近衛弓隊である。
当然である。
この半分の距離で同じ事をしろと言われてもできる者は近衛弓隊には何人もいないのだ。
「これはすごいね。まだ若いようだけど、たしか名前はコルネといったね」
「そうです。魔導士ケイタの仲間の中での唯一の弓使いのようです」
なるほど、と言いながら訓練をするおっさんら一行の動きを観察するギルド本部長であった。
『ふむ、皆素晴らしい訓練でござるな』
「そ、そうなのか」
『うむ』
セリムの中で訓練の様子を見ていたしゃべる鎧が感想を漏らす。
いきなり声が聞こえて驚く近衛騎士たちである。
『われも訓練に参加したいぞ。出すのだ主殿よ』
「え?なんでだよ?そんなの駄目に決まっているだろ!」
セリムの独り言が大きくなってきたのでおっさんが気付いたようだ。
「どうしましたか?」
「ケイタ、しゃべる鎧が訓練に参加したいと言っているんだよ。何とか言ってくれよ」
「困りましたね。ちょっと指導官に聞いてみます」
何事だという顔の指導官である。
相談すると、判断できないのでと、高台にいくようだ。
ほどなくして、戻ってくる
暴れないのであれば、構わないという。
「ま、まじかよ。暴れるなよ、しゃべる鎧」
『暴れないでござるよ』
「じゃあ、召喚!」
しゃべる鎧が召喚される。
いつものごとく3mほど浮いて召喚されるため、試験会場に地響きがなる。
どよめきが起こる試験会場である。
身の丈3mのフルプレートが現れたのだ。
「これがセリムさんの召喚獣かい、なんかすごいのが出てきたね」
「はい、おそらくAランクのモンスターと思いますが」
「なるほど、指導官が相手をするようだね」
しゃべる鎧の動きを見学するロヒティンス近衛騎士団長とギルド本部長である。
オリハルコンの剣では、相手の剣をへし折って危ないと思ったのか、模擬の剣に持ち替えて相手をするようだ。
必死に剣を振るう指導官と剣先で受け続け、たまに剣を振るうしゃべる鎧であった。
30分も立たないうちに指導官が膝をつく。
どうやら、疲労が足にきてふらふらのようである。
『ふむ、素晴らしい動きであった。精進すると良いぞ』
「あ、ありがとうございます」
動きのアドバイスをしながらの1時間弱の訓練を行う。
両手を地につけてお礼を言う指導官である。
足が疲労で震えて立てないようである。
『ふむ、次はロキを呼ぶのだ』
「なんだよ、まだお前の技を使ったこと根に持っているのかよ」
『根になど持っておらぬよ。半端に使われている故、完全な形にするだけでござるよ』
そうかよといってロキを呼びに行くセリムである。
「ずいぶん強い鎧のようだね」
「はい、あいつはかなりベテランの指導官でしたが、相手をするのが手いっぱいのようでした」
「これが、セリムさんの力かい。すごいね。次はロキさんが相手をするようだよ」
「はい、そのようですねって」
「ん?あれ、これはなんだい?全力でロキが槍を振るっているようだけど?」
「そ、そうですね。しかも全然相手になっていませんね。なんか手ほどきしているように見えますね。なんでしょう、この動く鎧は」
どよめきが起こる訓練場である。
ロヒティンス近衛騎士団長もロキと戦った時と同じ動きだと感じているようだ。
そこには、つい先日王国最強の槍使いの肩書を得たロキと、全力のロキを揉むしゃべる鎧がいたのだ。
「ずああああ!!!」
『足がお留守になっているでござるよ。ほれ、どうしたであるか』
「ぐふ」
撫でるように振るうしゃべる鎧の剣を受けきれず吹き飛ばされるロキである。
足が震えながらも立ち上がるのだ。
さっきの指導官より、きつめに戦うしゃべる鎧である。
ロキと戦う前に一度セリムに頼んで召喚し直したしゃべる鎧である。
そのあともう1セットと2時間弱に渡ってロキを揉むしゃべる鎧である。
最後のあたりは型も何もなく、がむしゃらに槍を振るうロキであったのだ。
(そういえば、セリムは仲間にしたときから力のパッシブスキルをもっていたな)
おっさんはしゃべる鎧に揉まれるロキを見ながら、パッシブスキルについて仮説を立てていたのだ。
(おそらく、経験値の入る状況では、アクティブスキルである槍術や召喚術のスキルレベルが上がりやすいんだろうな。訓練のように経験値の入らない環境なら力のパッシブスキルが育ちやすいと。ロキに新たなスキルが生えるかもしれないな)
ダンジョンを攻略するとき、1年近くかけたのに、おっさんの仲間に力や素早さのスキルが得られなかったことを思い出すのである。
そして、セリムは仲間にした時から力Lv1がついており、ダンジョン攻略しても力Lv2にならなかったのだ。
『ふむ、今日はこれまででござるよ。続きは明日でござるよ』
「は、はい。ありがとうございます」
礼を言うロキは足が痙攣し、立てないようだ。
「なんだい、あの鎧は。ロキさんは王国最強の槍使いではないのかい?召喚士ってこれほどのものだったなんて聞いていないよ。私にはあの鎧がAランクのモンスターには見えないよ」
「そ、そうですね。これも国王陛下に報告が必要ですね」
高台で驚愕する2人だ。
セリムの知らないところで、また1つセリムの株が上がっていくようであった。