第02話 王子と王女
食事会に乗り込んでくるジークフリート殿下である。
国王はどうやら知らせていなかったようだ。
どうもおっさんと話をすることが目的であったように思える。
「なぜ私を食事に誘ってくれなかったのですか!」
「なぜ誘わないといかぬのだ?」
「な!?」
「ふむ、ケイタよ。すまぬがもう少し話に付き合ってくれぬか?」
食事会も終わったので、おっさんが了承すると場所を会議室に変えるようだ。
おっさんらも一緒に会議室に移動をする。
側近の騎士にロヒティンス近衛騎士団長を呼ぶように指示をする国王である。
会議室につき、席に座ってほどなくするとロヒティンス近衛騎士団長がやってくるのだ。
すると側近の騎士に出ていくように指示をする国王である。
10人ほどいた側近の騎士は会議室の外に出ていくのだ。
(ふむふむ、話を聞かせる人を減らしたかったようだな)
国王、マデロス宰相、ロヒティンス近衛騎士団長、おっさん、イリーナ、ロキ、セリム、パメラ、ソドンの9人だけが会議室にいるのだ。
席に着くと国王がソドンに話しかけるのだ。
「それで、ソドンよ。これからどうするのだ?」
「はい、ガルシオ獣王国に戻り、現獣王とけじめをつけたいと考えております」
「ふむ」
顔をしかめる国王である。
当然である。
このまま行くと獣王国でまた内乱が発生するかもしれない。
それがもしヴィルスセン王国からやってきたとなれば、王国は獣王国との戦争に発展するかもしれないのだ。
内乱が終わり1年、その後1年近くダンジョンに通っていたパメラだ。
獣王国からしてみれば2年近く王国が匿っていたと思われていても仕方がないのだ。
王国が獣王国に内乱を目的に、匿っていた王女を差し向けた形になるのである。
(国王としては難しい状況であるんだろうな)
「獣王都にいくのだな?ぼ、僕も行くぞ!パルメリアートを1人で行かせるわけにはいかない!」
だんだん語気が強くなるジークフリート殿下である。
獣王都にいくということは、パメラの敵地にいくということだ。
当然かなりの確率で死ぬということであるのだ。
命よりもパメラを取るようだ。
「な!ジークフリート殿下様、これはわたくしめの問題にてございます」
慌てて止めようとするパメラ。
「違うぞ!我ジークフリート=フォン=ヴィルスセンとそなたパルメリアート=ヴァン=ガルシオは婚約関係にある!死ぬも生きるも一緒だ!!パルメリアートの問題は余の問題だ!」
婚約関係と聞いて驚愕するおっさんらである。
絶句するパメラである。
そして、目をつぶり覚悟を決めて告白するのだ。
「ジークフリート殿下様、何か勘違いをされております」
「な、何を勘違いしているというのだ!」
「私はウガルダンジョン都市から来たパメラにてございます。ウガルダンジョン都市でケイタ子爵様に奴隷として買われたパメラです」
「ど、どれい?」
「はい、ですのでどなたと勘違いされているのか存じませんが、汚れ多き雌猫にてございます。ジークフリート殿下がお声をかけるのもはばかられる野良猫にてございます」
「そうか」
理解してくれたようだと目をつぶりこれで良かった。
後悔はないと自分に言い聞かせるパメラである。
パメラにとって奴隷であることを告白することはとても重かったのだ。
「はい、誤解が解けて何よりです。このような場所は相応しくありませんので、そろそろ失礼させていただきたく存じます」
「ん?なぜだ?ゼルメア候の館に戻るの?王城に泊まっていくといいよ。パルメリアート」
「え?」
「そうか、よかった。パルメリアートはそれを気にしていたのだね。奴隷がどうかしたのか?奴隷になろうと、顔が焼けただれようと余は関係ないよ?」
先ほどのそうかはパメラの中の縛っているものが何なのか分かった言葉であったようだ。
「な、なぜだ!?なぜ分かってくれぬ!余は獣王国で死ぬ身だ!余のことなど忘れるべき存在であるのになぜなのだ!」
「良かった。昔のパルメリアートに戻ってくれたね」
「ジークよ」
ここまで2人で会話をさせていた国王が会話に入るようだ。
「はい、父上」
「ガルシオ獣王国へは行ってはならぬ」
「なぜですか?」
「王国の王子が獣王国の王女を連れて、獣王国へ乗り込めば2国は戦争になるからだ。分かるな」
「そうですか。では、私は本日をもって王子を辞めます。それなら問題ありませんよね?」
(これがアロルド様の推すジークフリート殿下か。愛に生きる感じなのか)
「ふむ」
動揺を抑えて威厳深く王子の言葉に返事をした国王である。
しかし、めまいを覚え、目の前が真っ白になっていっていくようだ。
マデロス宰相と頑張ってウガル家の問題を解決したのだ。
今後の王国のために、祖父と孫の納得のいく方法でわだかまりを解くために奮起したのだ。
そして始まる獣王国の兄妹喧嘩である。
それに全力で首を突っ込もうとする我が息子であるのだ。
「ソドン」
そして、おっさんがさらに会話に参加する。
「ぬ?なんであるか?」
「そもそも。けじめって何ですか?決闘のようなものですか」
「まあ、そんなものであるな。獣人は戦いで物事をよく解決するであるからな」
(獣人は脳筋と)
「殺し合いですか?」
「敗れた者にそれ以上に何かをするのは恥であるな」
「分かりました」
「ケイタよ。どうするのだ?余とともに獣王国にいってくれるのか」
「いいえ、ジークフリート殿下。方法はまだ決めていませんが、パメラとともに私達でいきますので、王城で帰りをお待ちください」
(そもそも、新婚旅行もかねて行く予定であるしな)
「な!?」
「私達がパメラを見つけ、このような状況を作りました。なので、私達で獣王国に行きます」
イリーナもロキも頷くようだ。
ウガルダンジョンを攻略した我らでは役不足かという顔をするのだ。
その雰囲気に一瞬言葉が詰まるジークフリート殿下である。
「わ、わかった。すぐに戻ってくるのだぞ」
何とか話をまとめようとするおっさんである。
パメラを王国に帰還させることを条件にけじめをつけさせる方法を考えるのだ。
その後、伯爵になったセリムも獣王国に行ってよいという許可を国王に取るおっさんである。
ウガルダンジョン都市にはウガル元伯爵もいるので、領は問題なく回るだろうという判断のようだ。
当然セリムには王都での仕事もないのだ。
まもなく18歳になるセリムも領主を継ぐには若いため、おっさんとともに見聞を広げてほしいと国王は思っていたようだ。
なお、パメラとソドンは貴族の館であるゼルメア侯爵の館から、王城に部屋を貸し与えられ、客人という形でガルシオ獣王国に行くまでの間、住むことになった。
王命によりジークフリート殿下はパメラの部屋のある一角は立ち入り禁止とのことである。
・・・・・・・・・
ここはトトカナ村の奥のウェミナ大森林。
さらに奥のウェミナ大連山。
そしてさらに奥に広がる帝国側のウェミナ大森林。
さらに奥のウェミナ大森林近くに設置された駐屯場のようである。
仮設で作られたが、土壁と石材を使いしっかりとした作りであるようだ。
広さも十分にあり野球のドーム数個分の大きな駐屯場のようである。
1人の将軍らしい格好をした男が配下からの報告を受けているようだ。
報告を受ける将軍を幹部らしい騎士達が両壁際に並んでいる。
報告を受けている将軍の側には、フェステルの街、おっさんの作った城壁の宿場町、トトカナ村、おっさんの作った冒険者のための要塞の範囲で作られた簡易模型が置かれている。
「して、ウェミナ大森林に作られた村の状況はどのようになっている?」
「報告します。ウェミナ大森林のふもとにあるトトカナ村の入植は進んでおり、既に1000人を超えております。また、敵国前線基地と思われる施設で活動する冒険者も2000人を超えている状況であります」
「ふむ、前回の報告から既に倍近くなっているな」
「は、フェステルの街も既に1万人以上の人員の流入があると諜報員からの情報を受けております。いまだに領主及び各ギルドはトトカナ村への入植希望の者を募っており、今後も敵国前線基地は今の倍以上に増えると考えられます!」
「バルドア将軍閣下、帝国はやはり軍は派遣しないということでしょうか?」
報告を受けていると別の幹部らしき、騎士が報告を受ける将軍に声をかけるのだ。
「残念だが正式な通達があったぞ。派遣はないとのことだ。本来であれば3万から5万の軍が今頃帝国全土から集められる予定であったのだがな」
「工作部隊が失敗さえしなければこのような結果にならなかったものを」
「いや、おそらく成功したのに失敗したからだろうな。魔導士ケイタに帝都も警戒しての判断ではないのか」
1年前のオーガの大群によるフェステル領の壊滅作戦は、オーガの集めるところまで成功した旨、バルドア将軍も報告を受けたのだ。
しかし、その後の追加の連絡は一向に来なかったのだ。
王国と帝国の間のウェミナ大森林及びウェミナ大連山はAランクのモンスターも出てくるため、諜報員を向かわせても、移動中に死ぬことも多いのだ。
最初連絡が途絶えた時、諜報員の死亡と考えた。
当然である。
3000体のオーガの誘導に成功をしたのだ。
その後何が起こるかは、誰でも分かるのだ。
しかし、新たな諜報員を送ったところ、3000体ものオーガ軍を数百人かそこらの騎士隊によって殲滅したとの情報が入ってきたのだ。
その中心にいたのがおっさんであるのだ。
作戦の失敗も含めた情報を帝都に送ったところ、先発部隊であるバルドア将軍の軍隊はそのまま待機を命じられ、1年が経過するのだ。
「しかし、たった1人の魔導士に帝国が怯える必要はないのだ!あれこれ細かい内容まで、1人の魔導士の素性について諜報活動を命じておって!趣味など調べてどうしようというのだ!!しかも既にフェステルの街を離れているというではないか」
将軍の側近の幹部たちが1年も待機させられ憤りを感じているようだ。
「たしか、今はウガルの街だったか。そこで活動をしていると聞いているな」
「それでは、これ以上ここに待機してもしょうがないではないか。今年こそガルシオ獣王国を落とせるかもしれぬのに。ここでは戦果を上げられぬ!」
ここに1年間も待機させられたのは、作戦に失敗した部隊の罰でもあるようだ。
「まあ、獣王国は落とせまいて。王国と違って屈強な戦士も多いからな」
帝国は広大なのだ。
西の国を帝国と接しているのは王国だけではないのである。
聖教国も獣王国も接しているのだ。
王国、聖教国、獣王国を合わせた国土より広い帝国であるのだ。
ウェルナ大連山はガルシオ獣王国まで届いていないため、帝国とガルシオ獣王国は直接国境がつながっているのである。
毎年、帝国と獣王国は国境線で戦争が起こっているのだ。
「将軍はこのような場所で満足なのですか?」
「そうではないて。今我らがやるべきことをやろうではないか。トトカナ村の状況を帝国に報告を続けるのだ」
「「「は!」」」
おっさんの知らないところで新たな火種が生れようとしているのかもしれないのであった。