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おっさんが始める異世界雑記ブログ  作者: ハム男
第2章 ウガルダンジョン攻略編
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第67話 名誉

短剣を渡せたセリムである。

ウガル家を許せたことで何かスッキリした顔をしている。

ウガル伯爵は焦燥しきっていたが、謁見は最後まで見たいということなので、参列席に椅子を置き、座って参列することを許されたのだ。


「では、これより授爵と陞爵しょうしゃくの儀式を執り行う」


マデロス宰相が叙勲の準備をするよう配下達に指示をするのだ。

もともと時間がかかるのが分かっていたのか、マデロス宰相も慌てていないようだ。

セリムも伯爵になるので、儀式は一緒に行うのだ。


「な!?お待ちください!!」


参列していたゼルメア侯爵が、声を上げるのだ。


「む、どうしたのだ、ゼルメア大臣よ」


尋ねる国王である。


「も、もしかしてでございますが、いえ、まさかそのような」


「どうしたの言うのだ。はっきりというのだ!」


「いえ、今までの話からですが、もしかしてヤマダ男爵を子爵に、フェステル子爵を伯爵に、同じくセリム殿を伯爵にするということでございましょうか?」


(セリムに爵位抜かれちゃうのん。ぐぬぬ)


「う?もちろんそうだが、それがどうかしたのか?」


「いえ、褒美が漏れておりませぬか?」


「ゼルメア大臣よ、どういうことだ?分かるように申してみよ」


「はい、ヤマダ男爵と国王の宣誓では、1年以内に10人でダンジョン攻略をするという話は達成しました。そしてその約束通りの陞爵しょうしゃくでございます」


「それのどこが問題だというのか?余に約束を違えよと申すのか?」


「とんでもございません。しかし、この陞爵しょうしゃくの約束はダンジョンコアを持って帰るという話のみにてございます。マデロス宰相が先ほどおっしゃったとおりでございます。ダンジョンコア以外はおまけであるので、流すということでしょうか?」


王国を潤し、民を思い、他国との友好も図ったのだと話を付け足す。

特に王国のお金の動きを把握している財務大臣のゼルメア侯爵である。


「な!それは、そうは言っておらぬ。今回は約束の件について謁見を行っているのだ」


たまらず口を出すマデロス宰相である。


「よい、マデロス宰相よ。ゼルメア大臣の話も一理あるな。そうだな、余も正直目の前にあるダンジョンコアで目が曇っていたかもしれぬ。ダンジョンコア以外の功績でも十分な報いをせねばならぬことがあったな」


貴族達は褒美のおかわりをするようにいうゼルメア侯爵の話を反対しないようだ。

貴族たちは知っているのだ。

王家は30個を超える魔石に白金貨を送られたことを。

フェステル子爵は20個もの魔石を貰ったことを。

ゼルメア侯爵は、おっさんからオリハルコンの剣を第三王子に献上させたことを。

そして、配下の侍女にまでオリハルコンの武器を渡すのだ。

おっさんが仲良くすべき相手かだれが見ても分かるのだ。


「ありがとうございます」


礼を言うゼルメア侯爵である。


「なに、魔導士ケイタよ。すまなかったな、これだけの成果を王家は流すところであったぞ。何か欲しい褒美はあるか?」


「褒美でございますか」


「急な話故、あとでも良いのだ。あれば、王家に話を通してくれたら考えるぞ?」


「でしたら、1つお願いがあります」


(あとで、国王にお願いする予定だったの、ちょうどいいや。今言ってしまおう)


「うん?あるのか?申してみよ」


王族達が半腰の前のめりになる。

貴族達も聞き耳を立てる。

おっさんの願い、何を求めるか知りたい王侯貴族である。


「私は、貴族にしていただきましたが、ただの魔導士にてございます。名誉も誇りもないのです」


「何を言っておる?ダンジョンの攻略だ。万人に誇れる確かな功績ではないか?」


「確かにこの功績は疑ってはおりません。しかし、冒険者にとってはにてございます」


「うん?どういうことだ?」


「私の配下にはロキという騎士がいます。しかし、魔導士であり、冒険者である私には名誉を配下に与えることが出来ぬのです。騎士にとっての名誉は戦働きにてございます。決してダンジョン攻略ではありません」


自分の名前を言われ、ロキは顔を上げず何の話をするのだという顔をしている。

どういう話の流れなのか、注意深く聞くことにするロキであったのだ。


「うん?まあ分らんでもない話だな。どうしたらいいのだ?配下の騎士に勲章が欲しいとそういうことか?」


「勲章も素晴らしいのですが、今回は肩書をいただきとうございます」


「肩書とな?なんという肩書であるか?」


「はい、私の配下のロキに『王国最強の槍使い』の肩書をいただきとうございます」


「ほう、魔導士ケイタはいつも面白い話をするな。そなたの騎士を、国王として王国最強の槍使いであると認めよとそういうことであるな?」


「もちろんそうですが、しかし、王国には最強の騎士が既にいます」


皆の視線がロヒティンス近衛騎士団長に集まってくるのだ。


「たしかにそうだ。余の右腕であり、王国最強の騎士が既におるな。で、どうするのだ?」


ここまでくるとほぼ話が分かっているが、最後まで聞きたい国王である。


「ロヒティンス近衛騎士団長様は、確かに最強であります。しかし、見たらどうも剣を得意とする御様子。ロキの槍捌きにかなうものはおりません。ぜひ槍による試し合いをさせていただきたいです。もし勝てたなら、王国最強の槍使いの肩書をロキにお与えください」


さらに頭を下げお願いするおっさんである。

ロキは話を聞きながら、名誉が欲しいと冒険者ギルドで言ったことを思い出すのだ。

そして、気付くのだ。

今この場で褒美を聞かれ即答したおっさんである。

ずっと自分のためにどうすれば名誉を与えられるか考えてくれたことを想像するロキである。

絨毯には雫が1つまた1つと落ちていくのだ。


「ロキとやら。面を上げよ」


「は!」


「よき主をもったようだな。試し合いの件、もちろん受けるな?」


「は!」


「そして、ロヒティンスよ?どうするのだ?そなたも選んでよいのだぞ?」


「お戯れを、国王陛下。私は今この場でも構いません」


「そうだな、ではこの場でするとしよう」


おっさんの魔力、セリムの召喚の力を見た国王である。

正直なところ、剣や槍、弓ではどうなのかも見たいと思っていたのだ。


(え?庭先とか訓練場とかでやるんじゃないの?)


「ではそのように。おい!我が槍を持ってまいれ!!薬師も直ぐに動けるよう準備しておけ。ロキとやらが重傷を負うのでな」


「………」


ニヤリとしてロキを見るロヒティンス近衛騎士団長である。

ロキは何も言わないようだ。

ほどなくして、オリハルコンでできたロヒティンスの槍を配下が持ってくるのだ。


(試し合いなのに、お互いオリハルコンの槍でやり合うの?)


お互いオリハルコンの槍を持ち、完全武装のロキとロヒティンス近衛騎士団長である。


「すまぬな、ヤマダ男爵よ。儀式ゆえ剣を持っているが、我は槍も得手なのだ。今ならロキとやらが大怪我せずに済むぞ?」


「なにをおっしゃいますか。ロキ、殺してはダメですよ。殺さなければ私が近衛騎士団長を回復魔法で癒しますので」


「…必ずケイタ様に勝利を捧げます」


ロヒティンス近衛騎士団長にも周りの貴族達にも聞こえるように、ロキに言うおっさんである。

挑発に挑発で返すのである。

ざわざわし始める参列者達である。

後方に貴族達を下げさせ、広い空間を作る。

ダンジョンコアも破損する恐れがあるので、広間から出されるようだ。

おっさんら一行も後方に下がる。

当然、仲間支援魔法などかけてはいないのだ。

皆成り行きを見ているのだ。


「では、合図と判定は余がしよう」


国王が審判をするようだ。

広間の中央に立つロキとロヒティンス近衛騎士団長である。


「では、2人とも名乗るがよい」


「ロヒティンス=フォン=ハモン、王家の力確かにお見せする」


「ロキ=グライゼル、王国最強の槍使いの名いただきます」


オリハルコンの槍を持った2人が型を作り、動かなくなる。

戦いの姿勢はできたようだ。


「では、はじめよ」


「はあ!」


その一言で10m以上離れていた、ロヒティンスの槍がロキに届くのだ。

寸前でかわし、空を切るのだ。


「な、なんという槍捌きだ。2人とも槍先が消えて見えぬぞ」

「な、これがダンジョンを攻略した槍使いの力か」

「なんと、あの近衛騎士団長と互角ではないか!」


数十手に渡り交錯する2本の槍である。

耳鳴りがするほどの金属音が、槍がぶつかるときに何度も聞こえてくる。

静かに状況を見守る国王である。


立ち合いを始めて10分が過ぎる。


「どうした、ロキとやら、それでは私に勝てぬぞ?主に恥をかかせる気か!」


さらに挑発をするロヒティンス近衛騎士団長である。


(むむ、互角か、ややロヒティンス近衛騎士団長が優勢だったのか。いけると思ったのだけど。レベル的にロキの方が高いと思うのだがな)


「では必殺の一撃をお見せします。未熟故、命を奪う結果になったら申し訳ありません」


「ほう、面白いぞ!見せてみよ!!」


離れる2人である。

槍を肩の高さまで持ち上げ、地面と水平に突き出すロキである。

どうやら必殺の一撃は突きの一撃のようである。

必死にあの時の記憶を思い出すロキである。

ロキの槍先が小さく輝きだす。


(あれ、どこかで見たぞ?)


「はあああ!真・剛雷閃!!」


一気に距離をつめる。

必殺の突きの一撃を繰り出すロキである。

槍を両手でもち、槍の腹で受けるロヒティンス近衛騎士団長。

しかし、受けきれず吹き飛ばされる。


「ぐあああ」


壁まで吹き飛ばされるロヒティンス近衛騎士団長である。

衝撃で窓ガラスがいくつも割れ散乱するようだ。


「………」


ロキは追撃をしないようだ。


「馬鹿め、勝てたものを!何のこれしき、ん?」


槍が持てないことを気づくロヒティンス近衛騎士団長である。

どうやら一撃を受けたとき、両腕の骨が折れたようだ。

力が入らないようである。


「ふむ、これまでよ。勝者はロキ=グライゼルだ」


ロキは王とロヒティンス近衛騎士団長に頭を下げるようだ。


「やったな、やったぞ!」


セリムの緊張が取れたのか喜びだすようだ。


『あとで、話があるとロキとやらに伝えよ』


「いいじゃん。お前の必殺技使ったって」


『………』


しゃべる鎧はこれ以上何も言わないようだ。

おっさんの治癒魔法によりロヒティンス近衛騎士団長は全快する。

その様子を貴族たちが見ているのだ。

謁見の間を粗方整理し、また国王の前に並ぶおっさんら一行である。


「素晴らしい槍捌きであったな。そして、最後の一撃見事であった。そなたにも何か褒美を進ぜよう」


「いえ、素晴らしい名誉をいただきましたゆえ」


「ふむ、謙虚も美徳であるが、貰える褒美は貰った方が良いぞ」


「では、我が主に封土をお与えください」


「うぬ、お前達はあまり、自分の褒美をもらわぬな」


できれば、自分の褒美にしてほしいと毎度のように思う国王である。


「いえ、恐れながら私には槍を握り20年になりますが、夢がございます。その夢にはどうしても我が主の封土が必要なのです」


「ほう、その夢とやら聞かせてみよ」


「騎士団長になることでございます」


主に封土がなければ、騎士団を結成できないロキである。


「そうか、そうであったか。では、主の封土はそなたの褒美になるな。しかし、騎士団長になるには爵位も必要である。そなたの槍捌きまことに見事であった。その槍捌き、主への忠誠心は男爵に値する。男爵になり、夢を叶えるがよい」


封土の場所については、おって話をすると付け足す国王である。


「は、ありがたき幸せにてございます」


「マデロス宰相よ」


「は!」


「我ガニメアス=フォン=ヴィルスセンの名において、王都を含める全領都にロキ=フォン=グライゼル男爵を王国最強の槍使いである旨、掲示させるのだ。当然ウガルダンジョン攻略の功績も合わせてである」


「は!速やかに」



おっさんの、そしてロキの願いの話が一段落着いたのだ。

国王はマデロス宰相に合図を送る。


「では、これより授爵と陞爵しょうしゃくの儀式を執り行う」


こうして、フェステル子爵とセリムは伯爵となったのだ。

おっさんは子爵となったのだ。

ロキは男爵になったのであった。


老齢に鞭を打ったのか、国王は最後、うつらうつらしていた。

おっさんの爵位も無事あがり、長時間にわたる謁見が終わったのだ。

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