第62話 ダンジョンコア
しゃべる鎧の必殺の一撃により、アレクを倒したのだ。
最後は人間の姿を取り戻したアレクは、セリムに短剣とその思いを託して消えていったのだ。
無言になる一行である。
『ふむ、我もここまでのようだな。ではまたでござる』
無言の時を動かすかのようにしゃべる鎧が、話し出し泡となって消えるようだ。
「うん、ありがと」
『うむ、主殿よ、強くなるでござるぞ』
そこまで言うと完全に消えたのであった。
ズウウウン
広間に入っていた入口と反対側から何かが開く音が聞こえる。
「別のところに行く通路が開いたようであるな。どうやらダンジョンコアはこの先にあるようであるな」
「………そうですね」
「ぬ、どうしたのだ?ケイタ殿?」
「ん?どうしたんだよ?」
ソドンとセリムがおっさんの様子を心配する。
「いえ、騎士達の全てが消えたわけではないようです。遺品が落ちていますね」
「ぬ、ほ、本当であるな」
おっさんら一行が周りを見渡す。
ボロボロになった剣や何かのプレートなどが無数に散らばっているのだ。
「すいませんが、これらを回収してから、今開いたところに行きませんか?50年間ダンジョンコアを望んだ騎士の遺品と共にダンジョンコアが見たいです」
皆を見渡すおっさんである。
おっさんは遺品の方がダンジョンコアより優先すべきとそういっているのだ。
「そうだな。ケイタだな」
おっさんらしいおっさんだと納得するイリーナである。
「では、私が台車を取ってきます。中の食料は置いてきますね」
アヒムが動き出すようだ。
「俺も台車に行くよ。召喚獣の指示できるし。召喚!!!」
『グルルルル』
15mもするAランクの狼を召喚する。
「アヒムも乗って」
恐る恐る狼に乗るアヒムである。
(最後までセリムに助けられたな)
巨大な狼にアヒムとセリムが乗って台車を取りに行くようだ。
残ったものは遺品をかき集める。
どうやら生前一番思いが強かったものが残ったのかなと思うおっさんである。
中にはぼろぼろの羊皮紙の冊子のようなものも見つかる。
ダンジョン攻略の記録のようだ。
(さすがに今はつらくて見ることができないな)
冊子の中身を見ることなく遺品を一か所に集めていく。
片道2時間かけた道のりも1時間かそこらで帰ってくる。
狼の腰あたりに台車を紐で縛って引かせているようだ。
台車に遺品を載せていくおっさんらである。
詰め終わったようだ。
「ありがとうございます。ダンジョンコアを見に行きましょう」
アヒムが引っ張ろうとするので、イグニルが交代しようとする。
(セリムは魔力大丈夫かな?もう80もないな、って)
戦闘でもっとも魔力が減ったセリムの魔力を確認するおっさんである。
「え?」
「ん?どうしました?」
ロキがおっさんの声に反応する。
「いえ、セリムのスキルが1つ増えていますね」
「ほ、本当か?」
「はい、魔力接続レベル1というものが1つ増えています。自分の意思で使えるスキルのようですね」
(自分の意思で使えるアクティブスキルの上に成長の要素がまだあると。セリムの成長が止まらないな)
しゃべる鎧と魔力接続を行った結果、魔力接続のスキルを体得したセリムであった。
2時間ほど前進すると、先ほど開いた出口があるようだ。
出口は5m四方の大きさで、通路になっているようだ。
薄暗い通路を進むとその先に光り輝いているのが見えてくる。
(スロープにはなっていないな。同じ階にあるのかな)
5mほどの幅の通路を進むと、小部屋が見えてくる。
部屋は白く輝いているようだ。
「ダンジョンコアですね」
「「「おおお!!」」」
50m四方の小部屋がある。
魔道具的な台座があり、その上に横にやや長い、8面体でひし形の白く光輝くダンジョンコアが1mほどの高さに浮いていたのだ。
気泡のようなものがコアの中でブクブクと発生している。
(おおお!!!かなりまぶしいな。現実世界の蛍光灯並みの明るさだ)
それは50m四方の小部屋を明るくするのに十分な光を発していたのだ。
ダンジョン攻略の日々を思い出し、感無量のおっさんら一行である。
何人も涙ぐんでいるようだ。
(結構長かったな)
【ブログネタメモ帳】
・ダンジョンコアを手に入れてみた
(ああ、そうか、気が進まないが、これも間にいれて、ブログとして投稿しないと話は完結しないな)
【ブログネタメモ帳】
・ダンジョンコアの番人
感傷に浸った一行であるが、さらに近づいていく。
「泡がありますね、ってあれ?」
「どうしたであるか」
「これは白い文字のようですね」
ダンジョンコアの下から白い文字が発生し、泡のように上に上昇しているようだ。
ダンジョンコアの中で上昇した白い文字はある程度のところで消えていっているのだ。
ひらがなのように見えるおっさんである。
「本当であるな。これは浮いているが、動かして大丈夫であるのか?」
「まあ、王家も持って来いって言ってたので、動かしても大丈夫かと思います。皆でもち上げましょう」
おっさん、ロキ、イリーナ、アヒムでひし形の8面体の四隅を持って持ち上げてみる。
中々の重量である。
ソドンは大きな両手盾2つ持っているので持てないのだ。
「仲間支援魔法で力を上昇させてますから、持てなくもないですね」
浮かせている台座から外すと、中の白い文字の泡が消える。
おっさんも力が上昇していて、いまいちわからないが、1トン近い重さのようだ。
(なんだ、どういう仕組みかわからんけど、泡が消えたな。でも輝きはそのままだぞ)
台座から動かしてもその輝きは消えないようだ。
高さ2m横3mほどのダンジョンコアを持って移動するおっさんら一行である。
持つ人を交代させながら、4時間かけてダンジョンコアをワープゲートまで持っていく。
「もう少しで帰れますが、もう深夜のようですね。明日にでも冒険者ギルドに報告しましょう。ウガル家にも報告しないといけませんね」
「な、なんで俺を見るんだよ」
セリムにも念を押すおっさんである。
「そうであるな。街を治める貴族には報告が必要であろう」
「もう深夜か。そんなこというとお腹すいてきたな」
「そうですね。まもなくダンジョンを抜けるのでせっかくなので拠点で皆と食事をしましょう。拠点で待っている仲間にも早く報告したいですしね」
「そ、そうだな。早く俺の活躍を報告しないといけないな!」
セリムはセリム母に自慢するため、食事を我慢するようだ。
深夜10時過ぎである。
ワープゲートを抜けると、まだざわざわしている声がする。
(あれ、慰霊祭ってまだやってるんだっけ?)
慰霊祭は日本でも夜にやることが多いのだ。
灯篭流しなどである。
夕方から行われた慰霊祭の1日目である。
3日間で延人数20万を超える慰霊祭なのだ。
ぼちぼち帰る人の方が増える時間帯だ。
ワープゲートをくぐり、ダンジョンコアと遺品を積んだ台車がダンジョン出口の横穴からでるおっさんら一行である。
狭い2km四方にまだ1万人以上いるようだ。
かなりの人ごみである。
ダンジョンコアを担ぐおっさんたち。
かがり火は焚かれているが、それ以上の光が広間を照らすようだ。
出てすぐのところにいた、霊を弔いに来ていた街の人と目が合う一行である。
腰を抜かした街の人は何か言いたいようだ。
驚きが大きすぎて声が出ないようである。
必死に絞りだし、大声で叫ぶのだ。
「ダ、ダ、ダダ、ダンジョンコアだあああああああ」
光り輝く大きな何かを持った何かに視線が集まる中、大きな声でダンジョンコアであると叫ばれたようだ。
すぐにパニックになってしまうと思ったおっさんであるが、どうやらそうではなかったようだ。
おっさんらがダンジョンコアの挑戦に先日ダンジョンに入ったことは、少なくともこの慰霊祭に参加している人たちは全員知っているのだ。
そして、挑戦日翌日の夜遅く、持って出てきた『光り輝く大きな何か』である。
ダンジョンコアであることも容易に想像がつくのだ。
騒ぎは大きくならないようである。
どうやら遺族たちや参加者にとって感動や感謝の方が大きかったようである。
小さくありがとうと言って座り込んでしまうもの。
泣き出して、家族と抱き合うもの。
50年前の大切な人を、目をつぶり思い出すもの。
それでも、感動が一蹴して喜びが大きくなっていく街の人達である。
「セリム様がダンジョンコアを持ってきてくれたぞおおおおおおおお!!!」
「たった10人でこんなことが、奇跡だ、これは奇跡だ!」
「俺たちも王国の歴史に立ち会えたんだ!!!」
街の兵たちが聞きつけて、おっさんらを囲み始める。
パニックになって、おっさんらに駆け寄ってこないためである。
そんな中、代官リトメルがやってくる。
どうやら慰霊祭の主催者として、夜遅くまで、ダンジョン広場にいるようだ。
他にもおっさんがウガル家の館での食事会で見かけた、ウガル家の人達がいる。
ウガル伯爵はいないようだ。
「な、何の騒ぎですか!」
「これは、リトメル代官」
「こ、これはダンジョンコア…。す、素晴らしい。この目で見る日がこようとは。さすがヤマダ男爵様、そして素晴らしい仲間達のお力でございます」
(今回は俺が見えていたようだな)
「はい、ちょうどよかったです。たしかにダンジョンコアを手に入れることが出来ました。これは、ウガル家に渡すものですか?王家に直接持っていくものですか?」
「な!そんなとんでもない。そのような名誉をいただくわけにはまいりません。」
(ふむ、やはり自分らで持っていくのか)
王都にはダンジョンコアを守るため、騎士団は派遣させていただくことを追加で話す代官リトメルである。
どうやらおっさんら一行だけで持っていくわけではないようだ。
「では、どうしましょう?この慰霊祭の間だけでも、ダンジョンコアを壇上にでも展示しておきますか?」
「さ、さすが、ヤマダ男爵様、素晴らしいお気遣いです。ありがとうございます。あ、あのできればなのですが…」
「はい、なんでしょう?」
「この広場にはまだ大勢の人達がいます。ぜひ壇上で掲げて皆に見せていただきませんか」
「はい、それくらいなら」
「そ、それとあれこれお願いして大変失礼なのですが…」
「なんでしょう?私にできることであるなら何でも言ってください」
(ずいぶん、腰が低いな。相変わらずだけど)
「あ、あの、できればお顔を出していただき、慰霊祭に来ている皆さんに一言いただければ…」
(え?できないぞ、そんなこと。その願いはかなえられぬ。神の力を超えるのだ)
「も、申し訳ありまぜぬ。実は魔法打ちずぎで声が枯れてじまっで、またの機会に、ゴホッゴホ」
急にガラガラ声で話し始めるおっさんである。
「そ、そんな、小さな声でもいいので、一言お願いします。慰霊に来た方々に何卒…」
土下座する勢いの代官リトメルである。
(どういう展開だよ!こ、こんな蛍光灯並みに光輝くダンジョンコアで俺のブサイクな顔が今以上に引き立つわ!つうか何がダンジョンコア光らせてるんだよ。電源のスイッチとかねえのか?)
予想外の最悪の展開になったと思って焦るおっさんである。
輝きを止めようと、なめまわすようにダンジョンコアを見だす。
突起がなくツルツルの光り輝くダンジョンコアである。
どうやら輝きは止ることはできないようだ。
「うむ、構わないぞ!」
イリーナが代わりに返事をする。
「おお!イリーナが一言を言ってくれるので…」
(やさしい、イリーナは俺の嫁…)
「なわけないだろう、ふざけたこと言ってないで、さっさと壇上にいくぞ。セリムすまんがケイタのフードをはがしてくれ」
「分かった」
(どうやらクランメンバーに仲間はいなかったようだ。慈悲はない)
セリムにフードをはがされるおっさんである。
体育会系のイリーナはリーダーであるおっさんが代表として一言いって当然とのことだ。
観念して、皆で担いで壇上にいくようだ。
(ぐ、近くで見ると結構な高さだな)
ダンジョンの入り口前に作られた2m近い高さの檀上である。
遠くまで人が見えるようになっているようだ。
何が起きるのかと皆の視線を一身に受けるおっさんである。
おっさんを先頭に
両サイドにイリーナとロキ。
後ろはソドンである。
仲間支援魔法により頭の高さまで持ち上げる。
代官リトメルに促されるように、他の一行もダンジョンコアと仲間達が隠れないように、全員壇上に上がる。
広場の人達は、どこかで見た光景だと思う人たちが大勢いるようだ。
「英雄たちが壇上にダンジョンコアを持って上がってくるぞ」
「何かどこかで見たぞ?そうだ劇場だ!」
「これはまるで劇場の最後の光景だ」
おっさんの英雄記の劇を見た人たちも多いようだ。
最後にダンジョンコアを壇上で担いで見せる劇の光景を思い出しているようだ。
しかし、作り物の劇ではない現実が、劇の記憶を塗り替えていくようだ。
ダンジョンの真っ暗な入口を背景に、光り輝くダンジョンコア。
戦いから戻ってきたばかりの勇壮な10人の英雄たち。
おっさん顔を食い入るように見る街の人達である。
皆、壇上に上がった英雄達が、何を言うか待っているようである。
そしてざわついたダンジョン広場に静寂が生れるのだ。
(仕方ない。言うしかないか)
おっさんは覚悟を決め、丹田に力をこめ、大声で叫ぶのだ。
「ダンジョンコアとったどおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
広場にいる人たちによる街全体に広がるほどの歓声で、おっさんの一言に応えたのであった。
ウガルダンジョンができて350年。
この日、ウガルダンジョンがおっさんらによって攻略された日となったのだ。