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矢がすり

その日の昼救急病院ではそのおばさんが

付き添いで待機していた。


メイリンの娘も上海から駆けつけてきた。

病室に入りかけるとそのおばさんは、


「しーっ、今昏睡中だから」

と言って紙包みを手渡しながら外に出た。


「お金の心配は要らないからお母さんを

しっかりと養生してやってね」


紙包みの中身を見て娘は、

「これは一体なに?」

「ハンサム日本人からの寄付よ。モデル料かな?

気兼ねなく全部使って」


「でも」

「おかあさん手術しても十分残る金額だからね。

最後まで面倒見てあげてね」


「手術?最後?」

「そう、手術しなきゃ手遅れだって。手術しても

この1年はとても、ということらしいよ。

詳しくは担当の医者に確認してね」


「わかりました。大叔母さん、ありがとう」

「じゃあね。気をしっかり」


ワンタン屋のおばさんは温かくも厳しい

眼差しを送って去っていった。


娘は唇を噛み締め、その後姿を見つめながら

覚悟を決めて病室へ入った。



帰りの黄海は少し荒れた。本庄はあまり動かずに

ゆっくりとスケッチを点検した。3冊の

スケッチブック。買い足した1冊は裸婦だ。


『これは止めとこう』

やはり黎明の放生橋上から描いた数枚と、

船着場から描いた数枚が逸品だ。


それは水郷『朱家角のひと』そのものだった。

運河の風情は捨てがたい。何とか10枚に絞込み、

あとは友人夫婦に選んでもらおうと決めた。


冬、昼は店番をして夜になると本庄はがむしゃらに

色彩を施した。最後の1枚に臨む頃には

梅から桜の季節に入っていた。


葉桜になる頃に本庄は10枚の絵を携えて友人の

画廊を訪ねた。事前に連絡してあったので

友人夫婦は笑顔で迎えてくれた。


本庄は10枚の水彩画の包みを開いた。

二人は次々とめくって1枚ずつをテーブルに

置いていく。友人の手が1枚に止まった。


「これは?」

奥さんが覗き込む。

「矢がすり」

「なんで?中国人やろ、この女の人」

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