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メイリン

店には休業の看板をかけて、それからの三日間は室内で、

残る二日間は早朝から戸外で描きに描きまくった。

スケッチブックを描いたし画質の悪い紙にも描いた。


夕方以降になると微妙に熱を帯びてくるおかみさんの瞳

とその眼差しに、本庄は吸い込まれるように描きまくった。


毎夜の激しい抱擁。本庄は昼ごろに台所の音で目が覚める。

ちゃんと食事の支度をして、はつらつとしたおかみさんが

いる。まばゆいばかりの芳香を放っている。


最後の二日は夜明け前から放生橋に立った。夜が白々と明け

てくる。朝霧の中に着物姿のおかみさんが浮かぶ。母の残

した衣類の中に日本の着物があったのだ。


船着場から放生橋を背景に激しいタッチのスケッチが続く。

「さむくはないか?」

「だいじょうぶよ」


早朝、散歩の老人が一人現れた。顔見知りらしい。

「メイリンか?」

「はあ、老王。元気?」


「お前こそ。病院は?もう大丈夫か?

元気そうで何よりじゃ。若返ったみたいじゃの」

「ありがとう。元気一杯よ」


老人はしばらく本庄のタッチを見つめて、

笑顔でうなづきながら去っていった。


橋を渡って運河へ向かう。柳の木と木船を背景に

おかみさんを描く。朝餉の煙が立ち昇る。

鶏の声、犬の鳴き声。烏や小鳥の声も聞こえる。


人の声も聞こえてきた。顔見知りのおばさんが通る。

「メイリン、元気なの?」

「元気よ。みなさんは?」

「ええ。みなげんき。まあ、綺麗!」


本庄の絵に眼を見張り笑顔で去っていく。

朝食は例のワンタン屋にした。いつもの

おばさんが二人を見つめて驚いた顔をする。


「メイリン、あなたのお友達?」

「そうよ、去年からの日本の友達」

皆、おかみさんの事をメイリンと呼ぶ。


メイリンは「私のおばよ」と本庄に紹介した。

おばさんはキッと本庄をにらみつけて、

「知ってるよ、ハンサムリーベンレンは」


そう言って笑いながらスケッチブックを奪った。

メイリンが笑って制止する。

「あいやー。メイリン。べっぴんさん!」


おばさんは「私は?」といって自分に指差して

本庄に尋ねる。本庄は顔を横に振って断る。

みんなの笑い声が店内に響き渡る。





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