奪還? 面接?
お姫様がさらわれた。助けてやってくれ。
その言葉を残し、隊長の仇は死んだ。
俺にはもう目標だとか今後の指針だとかそういうのは全くない。
だからこそ。だからこそこいつの頼みを本気で聞いてやろうと思った。
隊長を殺した奴とはいえ死に際の言葉だ。それ相応の対応をしてやらねば浮かばれないだろう。
そして俺は心に決めた。
お姫様を救い出して結婚してもらい、一生はハーレムな人生を送ってやろう。
「そうなればまず行動に起こさねばな……」
こいつの国へは正直行ったことがない。
だが噂は聞いている。産業や工業に関しての魔法が異様に発達しており、人々は裕福な家庭と貧困な家庭に大きく別れ、それぞれそこそこ暇そうに暮らしているっていう噂だ。
正直敵の国の噂だ。魔法が発達してるっていうのは本当そうだが暇そうにしてるっていうのは妬みだろう。
ここからは遠いかどうかわからない。
「ワンクネット・ストリート・スクレキト! シンラへの道を照らせ!」
呪文を唱えると魔法陣が浮かび上がり、俺の目には光り輝く一直線の道が映った。
ワンクネットで魔法陣を描き、ストリート・スクレキトでこの地の妖精に道を教えてくれと乞う。すると妖精が俺の心を読み取って願いを叶えてくれる。これが占い用の魔法だ。シンラへの道を照らせと言ったのは占い魔法が得意でないので願いを叶えてくれる妖精との意思疎通が難しい。そこで声に出す。そうすることで自身に暗示し、心の読み取りがスムーズに運ぶ。
俺が占い魔法が得意なら無詠唱ですることも可能なんだがどうも得体の知れない妖精に願うのは生理的に無理っつうか苦手だ。
しかし、できたのはできたのでまあ良しとしよう。
ちなみにその魔法が得意かどうかは魔法陣を描くかどうかです分かるぞ。
魔法陣はあくまで魔法の制御が苦手な奴が一時的に自身の魔力を高めて支配率を高めるために使うものだからな。上級者でも高度な魔法は安全のために魔法陣を使うこともある。
だいたいこんなもんだ。俺のこの世界での学んだことは。
俺はその光り輝く道に沿って歩いた。長かった。
妖精の魔力で光り輝く道を描くので妖精が離れると魔力の供給がストップする。
度々光が薄れていき何度も魔法を繰り返したものだ。
そうやってようやくシンラの国へとたどり着いた。
「おぉー! ここがシンラかぁ〜。かっけえ国だなあ」
シンラについて初めて自分の国……だった国が発展途上国だと思った。
魔法世界なんて初めてだったし、これが普通と思っていた。
どうやら違ったようだ。
俺の家は魔法で作られた大きな家。魔法で作られていてどんなに損傷してもすぐに魔工師の人が直してくれる。
ところがシンラはどうだ。ぶつかっても痛くもなく、壁が凹むだけの家。しかもすぐに再生する。
これぞ魔法だっと思わせる。確かに今までをよく振り返ればそうなのだ。
自分ならこう作るなあ〜とか、こうだったらもうちょっと楽なのにっていうことが結構頻繁に起こった。自分ではめんどくさくてやらなかったが。
ところがこの国は少し歩いただけでよく分かる。
「歩くだけでも」歩くたびに行く方向へ強く反発するので少し地面を踏みしめるだけでかなりの速さで歩くことができる。
周りの人はめちゃくちゃ薄着で露出が多い人や反対に分厚いコートを着ている人。様々な気候に合わせたはずの服を同じ場所、同じ時間に着ている。どれもオシャレな奴ばかりだ。
これはどう考えても魔法だ。体温調節する魔法もあるが人体に干渉するので割と高度な魔法だ。俺ですら得意魔法ではないのでいちいち詠唱してだいたい3分くらいの持続時間かなってくらいだ。つまりそんなに多くの人に使えるものではない。もしかしたら魔法の平均技術が高くて使えるってこともあるかもしれないがそんなことになったら俺のプライドが折れる。
ここは服の性能がいいっていうことにしておこう。後で聞いても服の性能ということだったが。よかった。聞くとき少し迷った。こいつ、俺よりも魔法がうまいんじゃねえかとビビったからな。
そして月日……は流れたかのように思えたくらい長く感じられたが二週間ばかりが過ぎた。野宿には慣れっこだったので別に問題はないが街へ入ると欲が湧いてくる。そう。食欲だ。最近、というか半年くらいお肉を食べていない。たまに野生のイノシシを食べたりもしたが品種改良されてあるきちんとした豚や牛の肉が食いたい。
一応お姫様を探していたがそれはもう国中で探しているのでそんじゃそこらの住人に聞いたって誰も知っている人はいない。やっと掴んだ情報でさえ実は2ヶ月前からいなくなってたんですぅっていうしょうもない情報だ。そして当然のように俺は飽きた。もともと飽きっぽい性格だ。少しの間森に住むっていう非現実的なことが起こっていたから結婚とかハーレムとかいう妄想を思い浮かべてしまったのだ。そして俺は2度目の決意をした。
就職しよう!
就職して給料がもらえればもう最高。お肉を食べてやるぜ。元から野宿なんで食費以外に費用はかからない。つまり結構食事にお金をかけられるということだ。
俺はその次の日から求人広告を集められるだけ集めて読んだ。
なんにせよ俺は他国の出。さらにはつい最近まで行方不明になっていた者だ。そんな奴が就職できるなんて……、俺のような技術なしのものでもできる仕事なんて……。
残念ながら戦闘関係しかなかった。ショックだ。
俺はもう人が死ぬのを見たくないと避けていた職業だったのに。
だがこれもお肉のため! 諦めて行くぜ! 俺!
「……ええ〜、次の方どうぞ。」
まっまずい。頭ん中真っ白! なんも考えらんねえ。
「はっ、はい! ええと、フロスです。ミナ国から来ました。最終学歴は高度ミナ立魔法学校です」
俺は最低限のことだけを言った。なぜならみんながそうしていたからだ。だって俺だけなんか違うこと言ってたら浮くじゃないか。だろ? みんなもそう共感してくれるな?
俺はそんな逃げ道ルートを頭の中で確保しながら審査員の人を見た。
「……5点」
審査員の人はそう呟いてドアの方を手で指した。
怖すぎる。これって首ってことじゃない?
だがそんなことは杞憂だった。審査してもらった人がたくさんいる。
俺はそんな人となるべくコミュニケーションをとっておこうとトライした。
「ど、どうでした審査」
「あぁ、なんか28点って言われました。ちょっと百点満点中だったらどうしようってヒヤヒヤしてますね。」
「…………………………」
「ど、どうしました? そんなに黙っていられると空気が痛いんですが」
「あ、ああすいません」
「何点だったんですか。」
「5点です」
「5点!!」
さっきまでうつむいて黙っていた人が急に俺の方を向いた。
そして勝ち誇ったような顔で俺を見つめて来た。ああ、5点はダメだったかぁ。心に槍が刺さるぜ。幸い俺の心は金でできているから平気だがな。
「5点は悲惨ですねえ。さっきみなさんの点数を聞いていましたがだいたい20点くらいが普通でしたよ。」
「はっはい!」
俺の心に今度はダイヤモンドの弾丸が貫通する。痛すぎる。ていうかなんでそういうこというかな君。
「あなたは?」
「ああ、僕ですか。この僕はあの有名なバルト公爵の孫ですよ。余裕の30点です」
勝ち誇った顔がうっとうしい。
俺はさりげなくその場を立ち去った。
トイレから帰ると、審査への案内の人が来たところだった。
どうやら二次試験は戦闘技術らしい。二次試験って言っても誰も落とされなかったが。
ここはもう俺の本場だ。
審査員にカカシみたいな人形をなんでもいいから殺せと言われたので瞬殺で灰にしてやった。もちろん詠唱も魔法陣もなしだ。審査員に危険だと怒る奴もいたがそいつは多分ヘタレだろう。俺から見て強そうなおじいさんはぼそりと言った。
「…………70点」
他の審査員は驚いていたが俺自身は驚かなかった。点数の価値を知らなかったんじゃない。俺の本気はこんなカカシなどでは出し切れないとおじいさんは分かっていたのだろう。俺を見てそっと笑みを漏らした。
「ありがとうございます!」
俺はおじいさんの技量に感謝を告げ、待合室へと向かった。
今度ばかりは血筋は関係なかったらしいな。さっきまでうっとうしかったあのボンボンが髪から萎れていて落ち込んでいる感丸出しだ。
二次試験では不合格者がでた。無論あのボンボンも不合格だ。清々しく気持ちがいい。この国に来て初めての心地よさだ。
そんなこんなで三次試験がやって来た。
とうとう守護試験。もともとこの職は依頼主を依頼された時間帯、守り続けるという内容の職務だ。民間人でも魔法は使えるため、民間人に紛れたテロ組織が多いらしい。そこで金儲けをするのでがこの職業だ。
つまり守護系の魔法は絶対に使えねばならない。だがその程度防衛隊に所属していた俺なら余裕だった。そのはずだった。
「私が今回の務める。他の審査員は大して魔法が上手くないので帰ってもらった」
他の審査員も一応強いなっと俺が実感できるほどの強さだった。だがこのおっさんは桁が違う。強すぎる。こいつが敵なら俺が依頼主を1分守りきれるかどうかというくらいの迫力もある。
このおっさんの目は猛獣を狩る目だ。つまり俺たちを死に物狂いで不合格の班を襲うってこったろう。
「いいか。よく聞け。面接内容は…………………」




