かっこつけていい時と悪いとき。
ーーくっ!
あいつ、50m以内に入った悪意を持った奴を全て叩き落とすとか言ってなかったか?
俺だってそんなに覚えているわけじゃねえがそれらしきことを言っていたはずだ。
「おい、お前の目的はなんだ」
おそらく暗殺だとは思うが、この面子に挑むとは到底思えない。何か企みを持っていると考えるのが妥当だろう。
「当然! 社長様の暗殺だな! お前には関係ない。邪魔をするな!」
そうか、こいつ、依頼のこと知らないのか。そういえばこいつ、ミルの権限でクビにされとったな。
まぁいい。その手に乗ってやったほうがこちらとしてもやりやすいだろう。
俺は はいどうぞ と言わんばかりに社長への道を開ける。
すでに防御魔法は完璧だ。不覚はないはずだ。
「ありがとよ! ーー俺が殺すのはお前だけどな!」
社長の前に立ち、刃物を大きく振りながらこちらを振り向く。
どうやら俺が目当てだったようだ。知っていたが。
「やめとけよ。お前じゃ俺を倒せねぇ。雑魚が……粋がんな」
振り向きざまに俺の頭を狙って刀を振るうが遅い。
普段から刀を触っていない証拠だろう。魔法じゃ俺にダメージを与えにくいと考えたのはなかなかのもんだが、俺だってその辺の対策はできている。
刀の切るという機能を無効化し、そのまま刀をひねってカイルの体を捻じ曲げ、押し倒す。
なんか犯人を捕まえた女刑事みたいな格好だな。
「ふん、なかなかやるじゃないか」
「……起きてたのか」
起きた瞬間に叩こうとしたがさらりといなされる。
ミルはその短髪を抑えながらカイルを見る。
「無様だな」
「……余計なお世話だ」
カイルが動いたところをもう一度 て首を捻って痛めつける。
「ぐっ!」
「くくくく、フロス、おめぇやるじゃねぇか。そろそろSの血が騒いできたんじゃなのか?」
ミルが生意気に上から見下ろしながら笑う。
「それよかさ、お前悪意を持ったものをぶちのめすんじゃなかったのか?」
「無駄な労働はしないたちでな」
ミルがフッと笑って上からさらに言葉を重ねる。
「お前なら勝てると信じてやっておったんだぞ?」
「……ったく」
それから数日間、敵の襲来はなかった。
俺たちが護衛依頼を忘れかけたころだった。
ついに敵の襲来はあった。
「おい、狙うのは社長! 俺らの名誉にかけてころすぞ!」
何と真っ向勝負を挑んできたのだ。
もちろん俺たちは姿を隠して社長の近辺にいたわけだが、ああも入り口から大人数で攻めてこられるとどうも判断が鈍りそうだ。
俺は集団戦は特にしたことがなかった。
俺たちの国は少人数での戦闘が基本とされていた。大人数で戦争に挑むと、王の護衛の数が減り、斬滅される恐れがあったからだ。
そのため、少数先鋭の傭兵団に俺はいた。不思議なことに俺たちにはそれがちょうどよかった。誰にも命令はされたくない、そんな輩でしかなかったからな。
だが今はそれが違う。大きな組織に位置し、誰がどのように指揮するかを明確にしなければならなかった。
俺はとっさに社長に声を飛ばす。
「心配いらんよ。お前さんにはミルが付いておる。それにここは大統領の護衛でも引き受けるほどの会社だぞ? こんな輩にはそうそう負けることはないさ」
確かに社長の言った通り、窓の外を見ると、社員の結界魔術と放出魔術によってまだ軍団は敷地にも入れていない様子だった。それに敷地内にはあらゆる罠が仕掛けてある。そう簡単には屋敷内にさえはいれないことだろう。
そう思っていた所だった。
「おやおや、裏切り者でもいましたか……これまた一大事ですな」
秘書の爺さんが慌てずにのんびりという。気楽なもんだな。
そとでは敷地内の爆弾が破裂しまくっている。その上煙幕も兼ねているようだ。なんとそのすきをついて軍団は一気に攻めてきた。
「俺が行こうか?」
「……そうだな。お前はここにいても最早何もできないことだろう。いってこい」
ここにいちゃだめだ。俺の魔術ではそんなに生かせない。ここは傭兵団の時の一騎当千の力を生かすほうが得策だな。
俺はひたすら入り口のほうへと走る。
「きたぞ!」
「おまえか……あの時の技、使えるか?」
邪道のことばが一瞬理解できなかった。
「了解!」
何をするかは思いついてはいなかったがかっこつけていった。さあ、何をしようか。




