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うちの部だって負けてません


新入生歓迎会での剣道部の結果だけ言おう。成功……いや、大成功を収めた。順を追って説明したいと思う。


部活動紹介の初っ端は運動部の王道野球部。真面目で熱血そうな雰囲気がよく出ていた。好印象ではある。なにせ部員のほとんどが坊主だから。だが、仲間だとは思っていない。なぜなら坊主差別を受けていないからだ。


うちの学校には一定数坊主の奴がいる。その大半が野球部と剣道部なのだが、扱いに差違がありすぎるのである。俺の実体験した話だ。


「柏木は坊主だけど、野球部と剣道部どっちなの?あっ、目付き悪いから剣道部か」


え…………。いや、はい。剣道部ですけども。先生ー!そりゃ無いよー!


先生からの扱いも酷いが、更にその上を行くのが女子である。


例えば、たまたま女子と目が合ったとか。


野球部の場合

「〇〇くん。こっち見てどうしたの?あっ、お菓子食べる?」


剣道部っていうか俺の場合

女子:顔を背けて席を立ち、友達の所へ移動

女子:「ねぇ今さっき柏木に睨まれたんだけど」

友達1:「うわ何それ。うざっ」

友達2:「柏木ってさー不良っぽくない?」

友達3:「それな」

〜その後も続く〜


いや、おかしくね!?何で!?俺にも菓子くれよ!君達に何もしてないよね!?目が合っただけだし!睨んでないし!目が合っただけだし!


何この格差。よって野球部なんかとは仲間じゃない。そして言っておくが、こういう扱いを受けたのは俺だけじゃない。ざっと10人は超えていると思う。下手したらもうちょいいるかも。


はい。次に行きましょ。


ハンドボール部、テニス部等の球技系が続き、来ましたサッカー部。


相変わらずの人気……。顔が良いのが何人かいるからそりゃ女子からも人気ですよ。


代表のイケメン部長が、ちーょっと手を振っただけで色めき立つ体育館内。オカシイ。


「チッ。マジでムカつく」


有栖川が舌打ちしたのが聴こえて横に顔を向ければ、それはそれは嫌そーなお顔をしてらした。確か同じクラスだったけか?


「チャラ男うぜー」


普通に話す位の声で言うものだから正直焦った。ガヤガヤと五月蝿い体育館だが、流石に聴こえたんじゃね?だって騒いでいた女子の何人かがこっち見たんだもの。てか多分本人に聴こえたよ?


「サッカー部は真面目に取り組んでいますが、たまに何故かチャラ男とか言われちゃうんですよねー」


って、爽やかに笑って言ったからだ。えっ、ヤバくね?


俺の心配をよそに、本人は平気な顔して知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。流石だわ……。


有栖川の態度もヤバいが、我が剣道部の態度も大変宜しくない。


イケメン部長が仕返ししてきた瞬間に、有栖川の声が聴こえていた奴のほとんどが噴き出した。それだけには納まらず、こっそり中指立てた奴もいた。見ると飯田だった。女子怖い。


「ナイス有栖川」


そして望月の野郎は拍手贈ってるし。


まぁ散々言った俺だが、有栖川の言ったことには賛成の意見である。というわけで、親指を立ててグットサインをした。


イケメン部長の部活紹介が終わった後、サッカー部は簡単にリフティングなんかをして見せて、イケメン部長とは別のイケメンがユーモアを混ぜながら「初心者からマネージャーまで募集している」という旨を述べた。どうせ女子のマネージャー志望の子が殺到するんだろ。


受けの良さは言うまでもない。今に見てろ。受けの良さ一番は剣道部が貰うんだからな!


サッカー部の次は水泳部、柔道部ときて弓道部。ここは勧誘凄いから、スピーチに凄い力が入ってた。生徒の多くはもはや若干引いてた。


『次は剣道部の紹介です。お願いします』


司会のアナウンスが入り、あらかじめスタンバイしていた照明担当が、体育館内の電気を消す。因みに体育館の黒いカーテンは元々閉めていたため、中は暗転状態。まぁ多少の光はありますけどね。


「キャー!」


飯田の悲鳴が響き、スポットライトが当たる。綺麗な着物に身を包んだ姫君を無言で連れ去るのは望月。一方、倒れ伏すのは佐々木だ。


その後、姫の護衛の仲間が駆け付け事情を聞く。勿論台詞にはボケとツッコミを割り込ませた。


シリアス展開を見事にギャグ要素に変え、観客の最初の掴みは上々。ちゃんと笑いは取れてる。


いよいよ次は見せ場の殺陣(だて)に入る。護衛グループが敵側の俺達のアジトを発見し、乗り込んでくるシーンだ。真正面から正々堂々と表れたのを待ち受けるのは、門番二人組。光の剣を片手に仁王立ちするのは、俺と宮原だ。


「姫様を返してもらう!」


キリリとした面持ちで言い放つのは、当然護衛役で顔がまあ良い奴。


「それは聞けないなぁ!」


「テメェらボコボコにされたくなかったら、とっと帰りやがれ」


対して返す文言はもはやチンピラだ。いつもは伸ばしている背筋も、今回はダラケきっている。寄せた眉は八の字に。顎はクイクイと前に出す。


手にある剣のスイッチを入れる。カチッと軽い音がして赤い光を放つ。相棒は青だ。その際、光っているのが目立つように、舞台上を薄暗くしてくれている照明担当の優秀さに感動した。


ウサちゃんありがとう!ホントにお前は気が利く奴だよ!


心の中で叫んでおく。


スイッチ入れただけじゃカッコ悪いので、適当に振り回して二人でポーズをとっといた。よし、決まった。


「なら、力ずくで通るまで!」


掛け声と共に振り下ろされる竹刀を、練習通りに受け止める。動きも、場所も決められた通りに。勿論やられる演出も手抜き無しだ。


「うっ……。テメェら強いじゃねえか」


満身創痍といった体で言う。が、5人VS2人の数の優位がある側が勝ったところで強いのか。という冷静且つ現実的なツッコミはご遠慮いただこう。俺も言いたいの我慢してるから。


俺らは呻きながらボスへと報告をしに走る。ここで先にネタバレだ。ボスは倉田である。


とうとう姫救出組がボスの所までやって来た。救出組五人に対し、迎え撃つは坊主の群勢。簡単に勝てると思うなよ!なんたって今回は極悪人顔の有栖川がいるんだ!まぁお似合いだこと!!


数の多さで有利な我々は、早々に乗り込んだ五人を取り囲む。


「貴様等はここで成敗してく――――」


一人の口上を無視して上段から竹刀を振り下ろす有栖川。えっ段取りより早くない!?


「卑怯だぞ!」


焦った顔で叫ぶその表情は本気だ。だって本当は「成敗してくれる!」って言い終わってからだもん。そりゃ焦るよ。良く台詞を繋げたなー。


「卑怯~?私等はお姫様を攫った悪人だ。お前らの道理なんかが通用するかよ!」


パンパンと竹刀で肩を叩き悪人面を浮かべる。ほんっとに顔がゲスいけど大丈夫!?


「数ではこっちが勝ってるんだ。やっちまえ!」


号令と共に一勢に仕掛ける。だが勿論良いのは威勢だけ。なんせ俺達は所詮は悪役、やられ役である。ほとんどが倒され退場した所で皆さんお待ちかね!


「情けない。私も参戦します」


颯爽と現れたのは我ら剣道部のエース桜田 慧である。


慧が舞台に出た途端に上がる、女子の黄色い歓声たるや!この女子からの圧倒的支持率は何なの!?同性にモテるとはどれだけ彼女はイケメンなの!?いや、メンズではないけど……。くっそー!女子の皆さんは知らないと思うけどなぁ、慧はあれでも俺らと同類なんだぞー!


だがまぁいい。どうだサッカー部!うちの慧の人気さを見たか!うちの慧さんはなぁ、『攻撃は最大の防御』的なアタッカーなんだよ。さぁこの調子でどんどん攻めていこうぜ!サッカー部の人気なんか掻っ攫え!


「私が来たんです。何が何でも帰ってもらいますよ」


「そうだな。俺も見ているのだけはつまらん。混ぜてもらおう」


慧に引き続き倉田も前に出る。さて姫の護衛役たる彼等には、ここからが本当の見せ場で正念場だ。


人数が減って複雑な動きが無いからと言って、簡単になるかとしたらそうではない。


数が減ったので各々が大きく動ける。慧は身長が高い分空間を大きく使うし、エースアタッカーの名は伊達ではなく竹刀も身のこなしも早い。そしてボスの倉田。倉田の踏み込みは大きく深い。よってその竹刀は重い。


人間動けば疲れる。護衛役の彼等は最初に出てきてからずっと動きっぱなしだ。最後の最後にこの二人を相手にするのは少し同情する。これこそ正真正銘ボス・・だろう。


「頑張れー!」


段取り通りに護衛役は負けそうになる。そうなって上がったのは応援だった。その反応を見て俺は思わずガッツポーズ。宮原と有栖川はハイタッチ。


満身創痍ながらも見事にラスボス二体を倒し、姫は解放され大成功で我が剣道部の発表は幕を閉じた。


おまけだが、慧がやられそうになる度に上がる悲鳴がとてもやりづらかったとの事。そりゃそうだろうな。マジで人気過ぎん?


剣道部の発表が終わると文化部が始まり、無事に会は終了した。ついでだから、サッカー部のイケメン部長の横を通った時にドヤ顔してやった。そしたらニッコリ微笑まれた。こういうとこだよ!!俺等なんか相手にしてませんってか!?


「おい柏木。やめなさい恥ずかしい。うちのがすみませんね」


一人ムカムカしているところで望月に窘められた。発表前は、お前だって有栖川の暴言に賞賛贈ってたじゃん。何でよ。


「いや、大丈夫」


望月ににこやかに返して教室へと戻る奴は、どっからどう見てもイケメンだった。


「そうだよ柏木。喧嘩売るなら、もっと明ら様じゃないとダメだって」


機嫌良さそうにニコニコしながら、イケメンクンに向かって中指を立てる。名を有栖川という。後ろからニュっと出てきていきなり毒吐くのやめて貰えます?怖いから。色んな意味で怖いから!


「まぁまぁ落ち着けって。あそこでキレてたらこっちの印象悪いだろ」


望月の言うことは分かるけどよー。


「そうそう。彼奴ニコニコしてるからさ、キレてたら逆にあっちの票上がってたって」


ポンポン……いや、バシバシと肩叩かないでよ!痛い!痛いってちょっと!悲鳴をあげるも辞めてくれない。イジメかな?


まぁそんな感じで部長連中は勿論、剣道部員達はご機嫌で放課後の部活に参加した訳だ。


「何の御用ですか?」


そう、会は見事に成功を収めた。その報酬がサッカー部のファンからのクレームってどういこと!?




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