春休みが終わった
春。入学式。綺麗に晴れた空を見上げれば、散った桜の花弁が舞っていて、如何にも高校の入学式と謂った体だ。――――聞き慣れた騒音以外は。
「華ー!今年は違くなった!」
耳にガンガンと響く興奮した声で抱き付いてきた友人に、圧倒されて後退る。因みに彼女が言った『今年は』だが、それは勿論私達が新入生でないが為の台詞だ。
「本当に?何組?」
「私は2組で慧と一緒だけど、アンタは1組だった」
昨年は私、華と慧、抱き付いてきた明日香が同じクラスで、見事に意気投合して仲良し女子3人組だったのだ。けれど残念なことに、今年は私だけ別のクラスになってしまった。
「そういえば慧ちゃんは?まだ来てないの?」
入学式当日の朝、クラス替えの表を見るために多くの生徒が集まる中で、友人京の姿が見えない。高身長の彼女は人混みの中でもかなり目立つ。
「あいつは朝練だって。何組になったかはメールしといた」
呆れた様に言う明日香ちゃんは、しっかり者が板に付いていて頼りになる。それにしても入学式の日から朝練とは。ハード過ぎではないだろうか。
「明日香、華。おはよう」
聞き慣れた騒音。――――黄色い歓声。朝から騒々しい原因である二人が登場し、爽やかに挨拶をされたのでこちらも返す。
「おはよう。朝っぱらからアンタ等のせいで五月蝿いんだけど。さっさと教室行ってくれない?」
私の時とは明らかに違う雑な対応に、二人の内の片方が反応した。
「お前になんか用は無いから。俺達は華を迎えに来たの」
「黙りなチビ助」
「お前の方がチ「慧よりチビじゃん」
ああ、始まってしまった。
ギャーギャーと騒ぐチビ助こと、山川 夏樹君は綺麗な顔立ちをしているのに身長は高くない。その事は彼のコンプレックスでもある。
「あれを止められるのは瀬戸内君だけです。お願いします」
「あらヤダ、奥さん。あんなの、止められるわけないじゃないの」
「ねぇ、何処から突っ込めば良いかな?何で私、奥さんなの?何でオネェ口調、アーンド仕草なの?自分も主婦の奥様気取ってみたの?それであれだよね。止めるの無理って、面倒だから無理って意味だよね」
「ははっ」
瀬戸内 大輔君よ。確かに君のオネェの奥様の演技は上手かった。そして今の保護者面もナイスだ。
「因みに聞くけどさ、今は何のつもり?」
「母親。友達同士の喧嘩は見守るスタンス」
「そりゃ無いぜ演劇部」
苦笑いしか出てこない。これはもう、自分が止めるしかない。――――――とは思いません。瀬戸内君に便乗して傍観しよう。うん。そうしよう。
「華ちゃんは俺達二人と一緒だから。今年もよろしく」
「あっ、うん。よろしく」
これはマズいな。イケメン'Sの中に女子一人は、とても良くない構図だ。早々に女友達をGETしなくては。じゃないとボッチになる。
「そろそろ行こう?明日香ちゃんも山川君もいい加減にして。一緒に行けば良いでしょ」
と言ったのだが駄目だ。進級して既に心が折れそうです。何故かって。私以外の三人の見た目が良過ぎるからだよ。男子二人は先述の通り。明日香ちゃんは美人な上にスタイル良くて、何かお洒落。そして私は冴えない地味子。周りからの声が耳に痛い。まぁ慣れたけど!
移動後、結局は教室には入らず廊下で、他愛もない会話を楽しむ。大分時間を消費した頃になって、時計を見ればそろそろ席に着く時刻だ。
未だに来ない慧ちゃんが心配になってきた。予鈴が鳴って、いよいよ遅刻かと思われた頃、バタバタと忙しい足音が近付いて来る。
「華、明日香!ナツとセッちゃんもおはよう」
足音の正体は待ち人の慧だった。遅刻ギリギリの時間帯で、果たして朝練はそこまでしてやらなきゃならないものだろうか。
「おはようじゃないわよ。ギリギリまで何してたの」
若干苛ついた口調の明日香ちゃんに、慧ちゃんは吊り気味の目をキョトンとさせ、「ん?」と眉を上げる。
「クラス表を見てた。自分の名前が中々見つからなくて苦労した」
「だから!そうならないように、私がメールしとしいたでしょ!」
「ごめん。見てなかった」
………………。絶句。
サラリと言ってのけた慧ちゃんに、私も明日香ちゃんも脱力してしまった。
甘かった。相手は慧ちゃんなのだ。メールなんて気付く筈ない。というより、まず携帯をチェックしない。携帯ばっか弄ってる、今時の女子高生とは大違いだな。
慧ちゃんは背が超高くて勉強も出来て、剣道も強くて凄く美人で涼しい表情をしているから、ザ・cool beautyなのだが如何せん、超が付く程アホなのだ。真面目な表情でよく馬鹿をやったりする。
「慧も来たことだし、教室入ろっか」
瀬戸内君の促しに従い、二人と三人に別れてそれぞれのクラスへ移動する。
…………しくじった。イケメン二人と一緒に入室したことで、一気に注目を集めることになってしまった。だが勘違いしないで欲しい。少女漫画にありがちな幼馴染でも、超仲良し三人組でもないから。あ、いや。仲は良いけど、正確には五人組だ。だからお願い。そんなギラギラした目で私を見ないで!
神様どうかお願いです。気が合わなくても構いません。性格の悪くない女の子の友達を私に下さい。