いろいろあった晩のこと
―――お疲れでしょうから、今晩はこの家をお使いください。
ジイさんはまだ事態を飲み込めない二人を置いたまま、立ち上がった
そして、去り際に振り替えると
―――お二人はご夫婦でしょうか?
と特大の爆弾を残して去っていった。
慌てた、レンが後を追い、誤解を解いたのはほんの数秒後のこと。
「疲れた・・・。」
誤解を解き、戻ってきたレンはソファーにすわり、肘掛にもたれるとそう言った。
「なんか急にいろいろあったね。」
そばにやってきたイトがコーヒーカップを差し出す。
部屋にあったから頂いた。毒見はしたよ。と笑うイト。
中身はレン好みに仕上げたカフェモカで、少し気持ちが落ち着くのを感じた。
そう言えば、とレンが口を開く。
「ジイさん、あんたが男の子ってわかってたわ。」
何を当たり前なことを、とイトは目くじらを立てるが、レンの知る限り、初顔合わせでイトとレンの性別を取り違えなかったのは、お互いの家族くらいのものだ。
「何者なのかな」
不満そうな顔をしながらコーヒーを飲むイトに問いかける。
「お城の執事さん、とか?」
「それで爺=ジイさん?」
安直すぎでしょ。とレンがクツクツと肩を揺らして笑うが、長くは続かなかった。
現状を考えると不安しかないのだ。
レンが体を起こすと、空いたスペースには自然にイトが腰を下ろす。
「なんか色々あって疲れたね」
幼馴染の不安を少しでも消せるよう、勤めて明るくイトが言う。
「確かに疲れた。」
このまま寝れると肩にもたれて笑うレンに、イトは困ったように眉根をひそめた。
―――この幼馴染は、緊張感が無さ過ぎる。
以前から、自分に対しては非常に無防備だが、男子の多い学部に進学してから、ますますひどくなった。
男扱いされない自分に悲しみを覚える。このじゃれあいも子供のころから変わらないも問題だ。
ソファーに沈みこもうとする幼馴染を支え2階に上がる。
寝室がいくつかあるのは、確認済みだ。
階段途中で軽く寝息を立て始めた幼馴染を苦労して支え、どうにか一室のベッドに寝かせる。
無防備な寝顔に一瞬、いたずら心がわきあがるが、首を振って頭を冷やす。
おやすみ、と声をかけ部屋を出て行ったイトの気苦労を、寝ながら尻を掻き始めたレンは知る由もなかった。